
(スーダンの南北間で、境界線上の産油地帯として激しい争いの場となっているアビエイ地区 食糧援助を受ける難民女性 “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/3546065851/)
【多様性に満ちた国】
アフリカ・スーダンの南北問題について、日本外務省ホームページ「スーダン~多様性に満ちた国」には以下のように記されています。
****南北スーダン内戦と和平プロセス******
1899年から英国とエジプトの共同統治下に置かれていたスーダンでは,北部と南部を分断する植民地政策(南北間の交流禁止)がとられていた経緯などから,南北の住民は1つの国として統治されることに大きな違和感を感じていました。
このため,1956年にスーダンが国家として独立を果たす一歩手前の段階で,北部(政府)と分離・独立を求める南部の間で内戦が勃発しました。1972年に南部に自治権を認める「アジスアベバ合意」によって一度は停戦に至ったものの,10年余りのうちに内戦は再燃し,最終的には2005年の南北包括和平合意(CPA)の締結まで,「アフリカ最長の内戦」を経験することになりました。南北内戦による死者は約200万人,難民・避難民は約400万人とも言われ,内戦の激しさを物語っています。
現在は,CPAに基づき,南部自治政府が発足しているほか,南部の宗教的自由(イスラム法の不適用),南部スーダンで産出される石油収入を南北間で原則均等配分することなどが定められています。
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2005年の南北包括和平合意(CPA)では、南部の分離独立に関する住民投票を行うこととされており、その住民投票は来年1月に予定されています。
【サイやキリン、パイナップル】
****中心都市はサイの形に? スーダン南部、構想発表*****
主要都市の輪郭をサイやキリン、パイナップルの形に―。スーダン南部自治政府はこのほど、南部10州の州都を数十年かけて、各州の旗に描かれた動物や果物の形にする都市づくり構想を発表した。AP通信などが伝えた。担当者は「人々を引きつけるには独創性が必要」と意気込むが、貧困などに苦しむ住民らからは「水や健康問題などの基本的なことから取り組むべきだ」との声も上がっている。【8月31日 共同】
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“都市の輪郭をサイ”にと言われてもピンときませんが、4本の足の形に居住区が伸び、お腹のあたりに市のセンターがあって、全体として都市計画図がサイの形になる・・・といった具合です。
サイ、キリン、パイナップルの形をした都市計画図というのはユニークというか、笑える構想ですが、これは南部独立を前提にした話でしょう。
【不透明な住民投票スケジュール】
その南部独立を問う住民投票については、一昨年12月、独立認定基準について北部側が折れる形で、「投票率60%、賛成51%」という条件が南北双方が参加する議会で承認されました。
ダルフール紛争での戦争犯罪や人道に対する罪でICCからの逮捕状も出ているバシル大統領が圧勝して再選された今年4月の大統領選挙では、野党の一部は不正な選挙としてボイコッ卜しました。
しかし南部が基盤の最大野党スーダン人民解放運動(SPLM)は候補者を取り下げ抗議の意思は示しましたが、全面ボイコットは行いませんでした。これはバシル氏との関係を維持した方が、来年1月の住民投票を行うためにプラスになるとの判断があったと見られています。
しかしその後は、来年1月と差し迫っているにも関わらず、具体的な実施案については何も聞きません。本当に実施されるのでしょうか?
4月の南部自治政府大統領選挙にSPLMの現職サルバ・キール氏が約93%で当選したことからも、もし住民投票が実施されれば、分離独立の民意が出されることが予想されています。
****スーダン:南北の境界画定が暗礁に 住民投票に「延期案」*****
来年1月に予定されるスーダン南部の分離独立を問う住民投票で「延期案」が浮上している。北部のスーダン統一政府と南部自治政府の設けた委員会が南北間の境界線画定などで暗礁に乗り上げているためだ。
南部自治政府を主導する「スーダン人民解放運動」(SPLM)は「境界線画定の有無にかかわらず住民投票は実施される」とする一方、北部の政権与党「国民会議党」(NCP)側は「境界線が画定するまで住民投票は延期」と主張。14日には「委員会は両政府に技術的な問題を理由に延期を求めた」と公式に発表した。
来年1月には同時に、内戦の激戦地で南北の境界線上にあるアビエイ地区住民が、北部、南部のどちらに帰属するかを決定する投票も実施予定だ。同地区は産油地帯として知られ、これまでも南北間で利権配分を巡る議論が続いてきた。石油資源を巡る南北間の駆け引きも画定を難しくしている。【8月22日 毎日】
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例によって石油を巡る利権争いの様相です。
****相次ぐ誘拐で最悪の人道危機再び*****
スーダンがまたもや、人道問題で国際社会の注目を集めている。
5月にダルフール地方で起きた政府軍と反政府武装勢力の戦闘では、約600人が死亡。これは08年に国連の平和維持軍が派遣されて以来、最大の犠牲者数だ。8月末には同国の航空会社で働くロシア人2人が誘拐された。その約3ヵ月前には人道支援活動をしていたアメリカ人女性が拘束されていた。
相次ぐ外国人誘拐には、国際刑事裁判所(ICC)が昨年バシル大統領に戦争犯罪と人道に対する罪で逮捕状を発行したことが関係している。バシルは「ICCに情報提供した」という理由で13の大手支援団体に国外追放を命じた。これで既に最悪の状態にあった人道危機はさらに悪化し、残った活動家たちは危険にさらされている。
一方、05年の南北包括和平合意に従って、キリスト教系住民の多い南部とイスラム系住民の多い北部の分離に向けた取り組みが進められている。だが来年1月に南部独立を問う国民投票を控えながら正確な境界線や原油収入の分配法などについては何も合意が達成されていない。
隣国ウガンダの武装勢力「神の抵抗軍(LRA)」が国境付近で活動を活発化させているのも懸念材料だ。子供を拉致して少年兵に仕立てることで知られるLRAが、スーダン南部の村から子供たちを連れ去っていると、CNNは報じている。
また首都ハルツームではここ数年、アルカイダを支持する内容の落書きも出現している。かつてウサマ・ビンラディンが暮らしていたスーダンが、再びイスラム過激派テロリストの温床になりつつあるのではと疑う声も上がっている。
南部独立を問う国民投票が近づくにつれ、情勢はさらに不安定化していく可能性が高い。そもそも投票自体、予定どおりに実施されるか怪しいところだ。【9月15日号 Newsweek】
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【「北部と南部は良い隣人になるだろう」・・・】
バシル大統領は2月19日、南北間の内戦終結5周年を記念する式典に出席し、来年1月に予定されている南部の分離独立を問う住民投票について、「住民が選択した場合にはスーダン政府は南部の独立を承認する」「(与党)国民会議は統一の方が望ましいとの立場だが、住民投票で分離独立の結果が出た場合はそれを配慮し、支持する。北部と南部は良い隣人になるだろう」と発言しています。
また、式典に同席した、南部スーダンの大統領を務めるサルバ・キール・マヤルディ スーダン第1副大統領は、住民投票の結果のいかんに関わらず、平和を維持することが重要だと強調し、「結果がどうであれ北部と南部は政治的・経済的な相互関係を維持していく」と述べ、南部が独立した場合でも、南部スーダンの収入の98%を占める石油は、精製と輸出のために北部へ供給すると語っています。
なお、北部の収入源の約60%は石油から来ているとされています。【1月20日 AFPより】
「バシル氏にとって重要なのは北部で権力を維持することだ。南部には有力な油田があるが、パイプラインなど石油の輸出用設備はすべて北部にある。仮に油田すべてが南部のものになっても使用料などが入る。南部の石油権益をすべて失うことにはならない」( ハルツーム大 アブディン教授)といった意見もあります。
ただ、素人考えでは、あのICCからの逮捕状も出ているバシル大統領が、独立派が勝利することが確実な住民投票をすんなりと実施し、その結果を素直に認めるとはなかなか思えないのですが・・・・。