孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  総選挙へ向かう政権・与党 野党対応は未定

2013-12-12 23:09:26 | 東南アジア

(バンコクで開かれた記者会見で、感情的な表情を見せるインラック首相=2013年12月10日、AP 【12月10日 毎日】)

総選挙へ動く政権・与党 野党はボイコットの可能性も
各紙で報じられているように、タクシン派・インラック政権と野党・民主党のステープ元副首相が率いる反タクシン派反政府デモの終わりのない対立が続いているなかで、タクシン元首相の妹でもあるインラック首相は反政府デモが要求する首相辞任及び選挙によらない「人民議会」設置を拒否し、議会の解散・総選挙によって改めて民意を問う決定を下しています。

****首相府前に25万人=最大の反政府デモに―来年2月に総選挙・タイ****
タイの反タクシン元首相派は9日、首都バンコクで予告通り大規模な反政府デモを開催、デモ隊が首相府前に集結した。警察はデモの規模について推計約25万人としており、一連のデモでは最大となった。デモは平和的に行われ、大きな混乱は伝えられていない。

デモを主導する野党・民主党のステープ元副首相は首相府前で演説し、「インラック首相は辞任すべきだ」と述べ、反タクシン派が設置を唱える「人民議会」への権力移譲を改めて要求。

首相が発表した下院解散・総選挙に関しても、まず「人民議会」が選挙制度改革などを行ってから総選挙を実施する必要があると強調した。

ステープ氏はまた、「われわれは40日間にわたって反政府集会を行ってきた。さらに5~10日延ばすことはできる」と述べ、反政府デモを続行する考えを示した。ステープ氏は9日のデモを「最後の闘い」と位置付けていた。

一方、政府報道官によると、プミポン国王は下院解散の勅令に署名した。総選挙は来年2月2日に実施される。【12月9日 時事】 
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与党側はすでに総選挙に向けた候補者選びに入っているようですが、バンコクなど都市部中間層や南部を支持基盤とする野党側は、総選挙をしても北部・東北部の農村部貧困層に強い地盤を誇る与党側に勝てない・・・という事情もあって、総選挙ボイコットの可能性も報じられています。

12月4日ブログ「タイ 反政府派と政権側の攻防、国王誕生日で一時休戦」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131204)でも触れたように、「教育水準の低い東北人が選挙の度にタクシン派に買収されている」というのがバンコクなどの野党支持者の言い分ですが、だからと言って選挙を否定して、軍の介入や選挙によらない「人民議会」設置を求めるというのは、やや筋が違うように思われます。

かつて金権政治を批判された田中元首相が、東京中心のメディアなどの批判にもかかわらず、選挙においては新潟で大量の得票を獲得する、そのことへの東京の苛立ち・・・・というのにも似た感があります。
ただ、それでも新潟には選挙を行う資格がない・・・という表立った議論がありませんでしたが。

****タイ与党、選挙へ候補者選び…野党ボイコットも****
反政府デモが続くタイで、インラック首相が所属する与党・タイ貢献党は11日、2月2日に実施予定の下院(定数500)総選挙に向けて、候補者選びを本格化させた。

一方、野党・民主党は総選挙について沈黙を貫いており、ボイコットする可能性がある。

タイ貢献党は11日の会合で、比例代表や小選挙区の候補者選びについて協議し、今後、正式な候補者を決定する。インラック氏を次期首相候補とする方向で調整している。

民主党は16、17日の会合で新執行部を選出する予定で、同党報道担当者は本紙の取材に、「新執行部が選挙への対応を協議する」と述べるにとどめた。

民主党は2006年、当時のタクシン首相が解散・総選挙に踏み切った際、首相の退陣を求めて総選挙をボイコットした。タクシン派が勝利する結果となったが、プミポン国王が「民主主義ではない」と批判し、選挙は憲法裁判所により「無効」と判断された。【12月11日 読売】
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【「これ以上、何が出来るというのですか」】
そうした情勢で、個人的に一番気をひかれたのは“インラック首相、涙の訴え”という話です。
美い女性の涙に弱い・・・と言えば、確かにその類かもしれませんが。

****タイ:インラック首相 抗議停止、涙で訴え****
タイで反タクシン元首相派の反政府デモが続くなか、タクシン氏の妹のインラック首相は10日、記者会見で「同じタイ人なのになぜ私たち(タクシン氏一族)を追い出そうとするのか」と涙ながらに訴えた。

タクシン氏は汚職罪で有罪判決を受け海外逃亡中だが、反タクシン派はインラック政権を「タクシン氏のかいらい」と批判。首相は解散・総選挙に踏み切ったが、デモ隊は「タクシン体制根絶」を訴え、政権移譲を求めている。

首相は「私はできる限りの譲歩をした」と語り、デモ隊に抗議運動をやめ、総選挙に参加するよう訴えた。【12月10日 毎日】
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“首相は「私たちにも感情というものがあります。私たちはタイ人です。母国にいるのがなぜいけないのですか」「私は(下院解散など)引き下がれるだけ引き下がった。これ以上、何が出来るというのですか」などと涙声でまくしたてた。”【12月10日 読売】とも。

かねてより、緊迫した情勢への政府の対応を述べるインラック首相の様子をTVニュースで観ていると、タイ語独特の鼻にかかったような発音もあって、状況に切実さに反して甘ったるい感じがする・・・と少し笑える感がありましたが、涙目で訴えられると・・・・。

インラック首相が涙ながらに語るというのは、大洪水のときの対応など、これが初めてではなく、そのたびに反対派からは「政治家としての資質に欠ける」との批判が出ています。
ただ、大方の反応はどうでしょうか・・・。

勢いを失いつつある反政府抗議デモ
一方の反政府デモの方については、暴走気味に突っ走るステープ元副首相などは別にして、一般の参加者の中にはそれほどの切実感もないという側面もあるよです

****金もらってデモ、投票はタクシン派にというタイ****
タイの反政府デモは10日も首相府周辺などで約6500人(警察発表)が座り込みを続け、インラック首相の即時退陣を叫んだ。下院は9日解散し、来年2月2日の総選挙実施が決まったが、収束のメドは立っていない。

タイではこれまでもクーデターやデモが繰り返され、政権が移り変わってきた。だがデモを支える人々の動機は、政治への不満だけではなさそうだ。

バンコクのスラム地区クロントイで昼間からビールを飲む労働者の脇に、与党タイ貢献党の看板が立つ。「ここの地区はみんなタクシン(元首相)派だけど、反政府デモにも参加している」。バイクタクシー運転手のニットさん(48)が語る。

デモに参加すれば反政府派から500バーツ(約1600円)、バイクの後ろに誰かを乗せて参加すれば700バーツ(約2200円)がもらえるのだという。だが選挙では「貧乏人に優しいから」と、タクシン派に投票すると明かす。チェンマイ大学のポール・チェンバス研究員(政治学)は「金目当てのデモ参加者が多いのも事実だ」と指摘する。【12月11日 読売】
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****タイ:コンサートや屋台…反政府デモ、緊張感なく****
タイの反タクシン元首相派によるデモ隊は、10日も首相府周辺で座り込みを続け、インラック首相の即時退陣を求めた。デモ隊を率いるステープ元副首相の演説には、約1万人が集結。

ステープ氏は「インラック首相を反逆容疑で告発する」などと気勢を上げ、デモ継続を訴えた。ただ、現場に一歩入ると、緊張の続く政治状況とは違い、デモ隊向けのコンサートや屋台があり、お祭りにも似たムードが漂っていた。「現政権は正統性を失った。国民に権力を戻すべきだ!」。ステージでの男性の絶叫に観客が応じる。だが、ステージでは直前までロック歌手が熱唱、観客は楽しそうに踊っていた。現場に「政権打倒」の緊張感はない。(後略)【12月11日 毎日】
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こうしたなか、ステープ元副首相らは首相府に侵入し、介入を期待する軍幹部への面会を求めています。

****デモ隊がタイ首相府に乱入 軍幹部との面会を要求****
タイのインラック政権打倒を訴える反政府デモ隊の一部が12日、首都バンコクの首相府敷地内に一時乱入した。デモ隊が目指している政治改革について説明するため、タナサック最高司令官ら軍幹部との面会を要求している。

敷地内は警官隊が警備しており、衝突は起きていない。デモ隊は撤収を始めたとの報道もある。インラック首相は11日からバンコクを離れており、首相府にはいない。

デモを主導するステープ元副首相は12日午後8時(日本時間同10時)までに、議会に代わる「人民評議会」の設置など独自の政治改革の詳細を決めると宣言。軍や警察、経済界の支持を取り付けるために面会を求めていた。

陸軍筋によると、軍幹部はステープ氏の要求に対し、面会を拒否する構えを見せていた。【12月12日 msn産経】
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ネット情報によれば、三軍司令官はステープ元副首相らとの会談を拒絶し、陸軍司令官は「軍はどちらにも加担しない」と発言しているそうです。【12月12日 Thailand News より】
ステープ元副首相らの動きに巻き込まれたくないという当然の反応でしょう。
力で国民の声を封じ込めることへの国内外の監視が厳しい現在、敢えて軍が前面に乗り出しても批判の矢面に立つだけです。

【12月12日 Thailand News 】(http://thailandnews1.blogspot.jp/)に、同日で並べられていた写真・情報には、“モップ・ルンガムナンの各(反政府抗議)集会場で残ったのは3,400人 ”“チェンマイ空港で待ち受けた5,000人の支持者から歓迎を受けるインラック首相 ”というものがありました。

インラック首相はバンコクの混乱を避けるように地盤のタイ北部チェンマイに向かったようですが、その歓迎者が5000人に対し、バンコクの反政府抗議集会場に3400人・・・・流れは政権側にあるように見えます。

また、野党のアピシット前首相が正式に殺人罪で起訴されています。

****タイ、アピシット前首相を殺人罪で正式起訴 3年前のデモ弾圧で****
タイ検察は12日、アピシット・ウェチャチワ前首相を2010年の治安部隊による反政府デモ弾圧に関連した殺人罪で正式に起訴した。検察当局がAFPに明らかにした。

アピシット政権下の2010年に、「赤シャツ隊」と呼ばれるタクシン・シナワット元首相の支持者らを中心にバンコクで行われた抗議デモで、治安部隊は実弾を用いてこれを鎮圧。90人以上が死亡、1900人近くが負傷した。

タイ検察は、アピシット前首相とステープ・トゥアックスバン前副首相が治安部隊に出した指示が殺人や殺人未遂を招いたと主張している。

これに対し、アピシット前首相は無実を主張。起訴は政治的動機に基づくものだと反論している。【12月12日 AFP】
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国王誕生日に国王からの踏み込んだ発言はなく、軍も介入の意向を見せていないとなると、政権側のペースで総選挙へ・・・という流れですが、前出記事もあるように野党がボイコットした場合、憲法裁判所により「無効」と判断される可能性は残っているようです。

特に、既得権益層でもある司法内部には、これまでもタクシン派政党を解散に追い込んだように、反タクシン派勢力が強いということもあります。

ただ、そうなるとタイ民主主義はいよいよ出口を失い漂流することになります。


【追加】
****14日、軍首脳と会談=反タクシン派指導者―タイ****
タイで続く反政府デモを主導する反タクシン元首相派のステープ元副首相は12日、軍首脳らと14日に会談すると発表した。今回の政治対立でこれまで中立的な姿勢を取ってきた軍が会談でどのような対応を示すか注目される。【12月12日 時事】
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