
(首都ジュバの国連施設に身を寄せる親子(2013年 ロイター/Goran Tomasevic)http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9BI09420131219)
【南スーダン:「水もないが一歩も出られない。出れば殺される」】
2011年7月にスーダンから分離独立して2年半、南スーダンの混乱が拡大しています。
日本の陸上自衛隊も参加している国連PKOの現地混乱への関与の仕方については、12月19日ブログ「南スーダン 首都で武力衝突 紛争拡大時のPKOの対応は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131219)でも取り上げました。
その後、現実に国連PKO施設への襲撃、PKO兵士の犠牲も発生しています。
****南スーダンの国連施設襲撃、PKO要員ら殺害****
国連は20日、政情不安が続く南スーダンの東部ジョングレイ州アコボで19日に国連施設が襲撃され、国連平和維持活動(PKO)要員のインド兵2人と、施設に避難していた住民少なくとも11人が死亡したと発表した。
南スーダンでは、政府軍とマシャール前副大統領派との戦闘が拡大し、同州は18日に前副大統領派に制圧されていた。
国連南スーダン派遣団(UNMISS)によると、襲撃したのは、前副大統領の出身部族のロウ・ヌエル族とみられる約2000人の若者。銃などで武装し、施設に避難したディンカ族の住民約30人を狙った可能性がある。
ディンカ族はキール大統領の出身部族だ。
施設はPKOのインド兵43人が警備していたが、武装集団は施設から武器や弾薬などを奪った。【12月21日 読売】
*****************
アメリカ国民の救援に向かった米軍CV22オスプレイ3機も狙撃され、米兵の負傷者も出ています。
****南スーダン:米軍機狙撃され 米兵4人が負傷****
政府軍と武装集団の戦闘が続くアフリカ南スーダンの東部ジョングレイ州で21日、米国民の救出支援活動のため州都ボルに向かっていたとみられる米軍機が狙撃され、AFP通信などによると、米兵4人が負傷した。
米軍機はボルの飛行場に着陸する直前に地上から狙撃され、燃料タンクに穴が開いた。急きょ隣国ウガンダに行き先を変更した。負傷兵はC−130輸送機でケニアのナイロビの病院に搬送された。【12月21日 毎日】
****************
日本の陸自宿営地付近は比較的落ち着いているようで、現在は活動を自粛しているようです。
****南スーダンPKO、陸自は宿営地外の活動は自粛****
国連平和維持活動(PKO)の一環として南スーダンに派遣されている陸上自衛隊員約400人は、戦闘開始以降、首都・ジュバの国連敷地内にある宿営地内にとどまり、道路整備などの活動を自粛している。
防衛省幹部は21日、「宿営地付近では大規模な銃撃戦は起きていない」と述べた。政府は、首相官邸の危機管理センターに「情報連絡室」を設置し、情報収集を続けており、「国連を含め、現地の各国と情報共有しながら対応する」(小野寺防衛相)方針だ。
陸自の派遣部隊は交代時期で、任務を終えた陸自第5施設団(福岡県)約180人のうち、現地に残っていた約50人が21日、ジュバからチャーター機で福岡空港に帰国した。
南スーダンPKOでの自衛隊の活動は昨年1月に始まり、比較的治安が良いとされるジュバで道路や滑走路などの整備をしてきた。来年10月末まで活動を行う予定になっている。【12月21日 読売】
******************
“陸上自衛隊の宿営地付近では、避難民の間で風邪の症状が広がり、隊員が医療支援や給水支援を行っている”【12月21日 読売】とも報じられています。
混乱は当初のキール大統領とマシャール前副大統領の争いという枠を超えて、それぞれの出身部族であるキール大統領のディンカ族とマシャール前副大統領のヌエル族の間の部族抗争の様相を呈し、部族が異なるという理由だけでの殺戮・暴力が横行しています。
****民族対立、渦巻く憎悪 南スーダン、戦闘・略奪続く*****
反乱軍が各地で蜂起し、内戦の危機にある南スーダンで、民族同士の憎悪が渦巻いている。反乱軍側は政府との対話を拒否しており、収拾のめどは立っていない。
反乱軍と政府軍の激しい戦闘が起きた首都ジュバ郊外のニューサイト地区。市場と民家が密集する。
21日に訪れると、1千以上ある店の多くで略奪の跡があった。
政府軍のマジャック大佐は「住民は皆、逃げ出した」。数千ある民家の周辺には兵士以外、見渡す限り住民はほとんどいない。焼かれた家も目立つ。住民らしき男性の遺体が道端に放置され、無数のハエがたかり異臭を放っていた。
この地区で雑貨店を営むアコルさん(29)は「遺族が遺体を引き取りに来るのも怖いのだろう」と話した。アコルさんはこの日、意を決して店と住居の様子を見に来たが、すべて略奪された後だった。
戦闘があった15日夜、妻と幼い子供3人を抱えて脱出。反乱軍に甥(おい)が撃たれ死んだ。多くの住民が殺されたという。
■国連施設も被害
マシャル前副大統領が主導したとされる15日のクーデター未遂に端を発する混乱は、キール大統領のディンカ族とマシャル氏のヌエル族の間の民族紛争に形を変えつつある。
保護を求めて各地の国連施設に逃げ込む市民は3万5千~4万人に上る。19日には、東部にある国連施設まで襲撃され死者が出ており、極めて不安定な状況にある。
乱軍が制圧した中部ボルへ続く道は、政府軍が封鎖。
ボル在住で、国連の施設内に避難しているディンカ族のマルリさん(30)は、朝日新聞の電話取材に「施設が数千のヌエル族に囲まれ、水もないが一歩も出られない。出れば殺される。昨日と今日、町の家々がすべて焼かれたらしい」と語った。毎晩、銃声が聞こえるという。
■取材中にも暴力
約2万人の市民が流入しているとされるジュバの国連施設内でも、民族同士の憎悪が渦巻いていた。
取材に同行したディンカ族のダウさん(29)が、「ディンカか」と数十人のヌエル族の若者らに囲まれ、木の棒などで激しい暴行を受けた。
その間も加わる若者が増える。記者が持っていたダウさんの私物も奪われそうになった。近くにいたインドの国連部隊に助けを求めたが、見て見ぬふりだった。
記者たちは若者から自力で走って脱出した。
ダウさんは「復讐(ふくしゅう)が復讐を生んでいる。出身の民族だけの理由で、簡単に殺される。これが我々が背負う危険だ」と話した。(後略)【12月22日 朝日】
*******************
マシャール前副大統領を支持するグループとみられる武装勢力に制圧されているボルでは、“南スーダン情報放送省によれば、ボルでは21日朝から交戦が始まり、武装勢力によって市民が無差別に攻撃され、「遺体が町中に散乱している」状態という”【12月22日 毎日】とも。
現地報道によれば、政府の要請で介入したウガンダ軍が21日、ボルに空爆を開始したと報じていますが、BBCによればウガンダはこれを否定しているとか。
****南スーダン:ウガンダ軍派兵…南スーダン政府の要請受け****
ウガンダの政府系紙「ニュー・ビジョン」は20日、政府軍と武装勢力との戦闘が続く南スーダンに、ウガンダ軍が派兵されたと報じた。南スーダン政府の要請で首都ジュバに展開、治安維持などに当たるという。
ウガンダは南スーダンの現政権と太いパイプがあり、派兵が事実なら、全面的な内戦状態に陥るのを防ぐ狙いがあるとみられる。
一方、米国のオバマ大統領は19日、「南スーダンは危機の瀬戸際にある。戦いは即座にやめるべきだ」と述べ対話による早期事態収拾を呼び掛けた。また、米大使館の警備を増強するため18日に米兵約45人を現地に派遣したと明らかにした。
その支持勢力が政府軍と衝突中とされるマシャール前副大統領はキール大統領の辞任を要求。アフリカ連合(AU)派遣団が調停中だ。【12月20日 毎日】
********************
油田が集中するユニティ州の政府軍司令官が反政府側に寝返り、同州が反政府側の管理下に置かれたとの報道【12月22日 毎日】もあり、事態はまだ流動的です。
【ルワンダ:無教養が差別を助長したという反省から、義務教育を充実】
しかし、どうしてこんなにも殺戮が野火のごとく広まってしまうのか・・・暗澹たる気持ちになります。
***************
産油国でありながら貧しい南スーダンは2011年、北スーダンからの分離と新国家樹立の是非を問う国民投票で圧倒的支持を得て独立。しかし民族間対立や腐敗が後を絶たず、ここ数週間は政治的緊張が特に高まっていた。
マシャール氏や、南スーダン建国の父故ジョン・ガラン元最高司令官のレベッカ・ガラン夫人を含む、同国与党内の反体制組織「スーダン人民解放運動(SPLM)」の中心人物らは、キール大統領を「独裁的」と公に批判していた。【12月17日 AFP】
****************
上記なような政情はありますが、独裁批判がどうして無差別殺戮の部族抗争になるのか・・・。
もちろん南スーダンだけの話ではありません。
ナイジェリアではイスラム武装勢力によるキリスト教徒や対立部族への攻撃が止みません。
シリアの内戦は言うまでもなく、イラクでもスンニ派とシーア派の宗派対立的な一般市民を狙ったテロが頻発しています。
およそ生物には自分と異なる種族への攻撃本能がインプットされていると言えばそれまでですが、民族・部族、宗教、宗派が異なることによる一般市民殺戮が世界各地で起きています。
かつて住民同士の殺戮、ジェノサイドを経験したルワンダでは、“無教養が差別を助長したという反省”から教育に力を入れ、小中学生にPCを配る政策を進めています。
****ルワンダ、未来託すPC 広がる「子どもに1人1台」****
未舗装の脇道に入ると、土造りの民家もまばらな農村が広がる。
東アフリカの人口約1千万人の小国、ルワンダ。首都キガリから車で約1時間半。カマバレ小中統合学校の古びた平屋建ての校舎が見えた。
■電気不通でも太陽光で発電
校舎の脇に真っ青なコンテナ。電気が通っていない地域なのに中は明るく、冷房もきいている。ノート型パソコン(PC)やプリンター、電子黒板もあった。
「インターネットも整備され、子供が見たこともない乗り物や動植物を教えられる」。バージニー・ムカガテテ校長は声を弾ませる。
韓国・サムスン電子が開発し、ルワンダ政府の要請を受けて無償提供したコンテナ教室の第1号だ。屋根の太陽光パネルで発電。PCは今は15台だけだが今後コンテナを増やし、1人1台の配備を目指すという。
同国政府が小中学生にPCを配る「1人1台」政策を打ち出したのは2008年。都市部では授業での活用も広がる。キガリ旧市街のギテガ小学校では児童1520人のうち、高学年804人に無料で配られた。
PCには計算問題や英語教材などが内蔵され、授業や宿題で使うという。
■大虐殺を反省、教育充実に力
この国では1994年、多数派部族が少数派を襲う民族大虐殺が起き、約100万人が犠牲になった。
無教養が差別を助長したという反省から、義務教育を充実させる必要に迫られた。
さらに人材育成に力を入れようと、政府は00年、金融や情報通信など知識集約型の経済への転換を目指す計画を作る。
カガメ大統領が目をつけたのが「1人1台」。米NPOが販売する子供用の格安品を知り、1台あたり200米ドル(約2万円)、計約4200万ドルを投じて5年間で20万台以上を配布。200校で無線LANやサーバーも整備した。
教育省のプロジェクトリーダー、ヌクビト・バクラムツァ氏は「PCがあれば教師や教材がなくても勉強できる。ルワンダはICT(情報通信技術)立国になる」。近く、同様の格安PCの生産を国内メーカーで始め、アフリカ各国に輸出する計画もある。
世界銀行のICT教育専門家ミシェル・トルカノ氏によると、PCやタブレット端末の「1人1台」は00年代後半から広まり、20カ国以上が着手。「急速に増えすぎて誰も全体を把握しきれない」のが実情だ。
「ICT活用力の育成、学力向上、産業育成など各国の思惑が企業側の利益と一致した。国民へのパフォーマンスになるので政治家の人気も高い」という。【12月22日 朝日】
******************
民族・部族、宗教、宗派が異なっても、その生命・権利は尊重しなければならない。その違いを超えて協力することができる。意見の違いでむやみに暴力をふるってはならない。汝、殺すなかれ・・・・そうした教育が行きわたれば、現在のような殺戮は影をひそめることでしょう。
しかし、多くの混乱の現場では、そうした教育を行う環境もなく、進める指導者もいません。
異教徒、対立部族民は殺して排除すべし・・・と、“汝、殺すなかれ”に共感しない勢力が多く存在します。
なんともやりきれない話です。