孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  “紅海ー死海パイプライン”プロジェクト  “終わってはいない”中東和平交渉

2013-12-21 23:02:07 | パレスチナ

(地図中央の縦に長い湖が死海、そこから南に下るとエジプトとアラビア半島にはさまれる紅海にいたります。
イスラエルもヨルダンも紅海に接しているのは、湾の一番奥の僅かばかりのエリアですが、ヨルダン領の紅海沿岸の都市が“アカバ”、あの“アラビアのロレンス”がラクダで攻撃をしかけたオスマン・トルコの要塞があったところです。
中央の死海からヨルダン・パレスチナ自治区(地図では斜め線のエリア)の境界をなすヨルダン川を北へ遡ると、ガリラヤ湖(別名:ティベリアス湖)、その北東部に位置するイスラエルが占領するシリア領ゴラン高原(地図の上の端)に至ります。

前向きな一歩
下記は、もう10日以上前のニュースです。

****紅海から死海にパイプライン=水位低下防止、水供給で協力****
イスラエル、ヨルダン、パレスチナ自治政府は9日、米ワシントンの世界銀行本部で、紅海と死海を結ぶパイプライン設置を含む水資源の分配計画に署名した。水位低下が続き、干上がる恐れのある死海に塩水を注入するのに加え、水不足に悩まされている3者が、水供給での協力を通じて信頼醸成を図る狙いもある。

パイプラインは全長180キロで、ヨルダン領に設置される。完成には3年かかる見通しで、3億~4億ドル(約309億~412億円)の建設費は世銀からの融資などで賄う。【12月10日 時事】
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宿敵同士のイスラエルとパレスチナ自治政府、更にはヨルダンまで加わっての共同プロジェクトということで、“中東外交に絡む明るい話が浮上しても、にわかには信じ難いもの。だがこのニュースは前向きな一歩と言ってよさそうだ。”【12月24日 Newsweek日本版】との評価もあります。

上記【Newsweek日本版】によれば、“紅海の海水をヨルダン南部の施設で淡水化し”“ヨルダンとイスラエルはこの施設から真水を安定的に入手し、パレスチナはイスラエルから格安で水を購人できる計画”とのことで、その際に排出される塩水を死海に注入することで、死海の水位低下も食い止める・・・という計画です。

水不足に悩まされている3者にとっては“水は血より濃い”といったところでしょうか。
もともと、30年以上前からある話ですが、実現に向けては疑問もあるようです。

****死海が消滅危機で紅海とパイプライン「中東和平」になる****
毎年水位が1mづつ低下
塩分濃度が高く、人が浮くことで有名な死海が、近年著しい水位低下によって消滅の危機にあります。
毎年1m程度水位が下がっており、5年前に水際に造成した建築物が、今や10m以上先まで水辺が遠のきました。

主な原因として、流入する河川から農業や水道のため取水し、流入量が大幅に減少していることや、隣接する工場群が死海から大量に取水していることが挙げられます。

30年越しに対策実現
30年以上前から大作の議論が続けられてきましたが、西側のイスラエル、さらにパレスチナ暫定政府管轄の土地も隣接、東側にはヨルダンと複雑にまたがる湖となっており、政治的宗教的背景も絡んで、なかなか有効な手立てを打てませんでした。

ところが、ついにイスラエルとヨルダン、パレスチナ暫定自治政府が対策に合意しました。
200kmほど離れた紅海からパイプラインを引いて淡水化させ、それを死海に流入するという方法です。

イスラエルとしてはヨルダンとの共同プロジェクトを成功させ、不安定な国際的ポジションから「新しい中東」に脱出ができると考えました。
一方のヨルダンは、水力発電所や淡水化工場の建設で、多くの利益を生むと考えた訳です。
残ったパレスチナは条件付きで賛成に回り、長年の夢が現実になりました。

環境保護者からは反対の声も
ただ、この大規模かつ最先端の世界的な共同プロジェクトですが、一部の環境専門家からは疑問視する声もあります。

生態系への懸念、水質が違うため石膏に化学変化してしまい死海が石膏に覆われてしまうという懸念、パイプラインの安全性などです。

もともと塩分濃度が高い地盤のため、地面空洞化が発生し、3,000箇所も陥没や崩落が発生している地域の上、近年では地震が頻発している影響が大です。

当初はこのプロジェクトには最大17兆円もの費用がかかることも及び腰の原因になっていました。

費用負担についての報道はありませんが、せっかく手を携えた一大プロジェクトなので成功を願わずにはいられません。【12月10日 ニュースわいわいトレンド情報館】
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費用について、冒頭【12月10日 時事】では3億~4億ドル、上記記事では最大17兆円と、まったく数字が異なりますが、よくわかりません。

【“不安定な国際的ポジションから「新しい中東」に脱出”?】
この“紅海-死海パイプライン”計画については、5年以上前にも取り上げたことがあります。
(2008年9月9日ブログ“パレスチナ 「平和の渓谷」“死海-紅海運河”プロジェクト”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080909

このときは“運河”ということでしたが、その後の調査で“パイプライン”に変わったのでしょうか?

ヨルダン、イスラエル、パレスチナ自治政府は06年12月、実現可能性に関し予備的な検討始めることで合意していましたが、域内の緊張が高まったため頓挫、08年5月にようやく調査が開始されました。

いずれにしても、前回ブログで取り上げたように、イスラエルの水源となっているガリラヤ湖をめぐるイスラエル・シリアの対立、ヨルダン川の水利用をめぐるイスラエル・パレスチナの対立・・・など、この地域において“水”の問題は極めて重要な意味があります。

今回プロジェクトでそうした水を巡る緊張が少しでも和らぐのであれば、意味合いは小さくありません。
また、イスラエルが“不安定な国際的ポジションから「新しい中東」に脱出”を本気で考えているなら、中東情勢は劇的に改善するとも思いますが・・・・。

アッバス議長「われわれは約束した。丸9か月をかけた後、適切な決断を下す」】
その中東情勢の方は、このところあまり大きな動きがありません。
アメリカ・ケリー国務長官の懸命の仲介もあって、9か月の期間限定ですが、7月に約3年ぶりに交渉が再開されたにもかかわらず、イスラエルの入植計画発表などで、交渉の機運は低下しています。

ただ、まったく終わってしまった訳でもないようです。

****中東和平交渉:米国務長官、安保問題で提案****
中東を訪問中のケリー米国務長官は5日、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長と相次いで会談し、中東和平を仲介する米国として、交渉課題の一つである安全保障問題に関して提案したことを明らかにした。

関係者によると、今年7月に約3年ぶりに再開した和平交渉で、米国側が重要課題について具体案を提示したのは初めて。

ケリー長官がネタニヤフ首相との会談後の記者会見で明らかにした。
長官は「安全保障上の課題について、いくつかの考えを提示した」と述べたが、詳細は語らなかった。

また、アッバス議長との会談後の会見では、安全保障に関し、国家の樹立を目指すパレスチナ側が「主権の問題」、イスラエル側が「深刻なセキュリティーの問題」をそれぞれ抱え、交渉が難航しているとの見方を示した。

ヨルダン川西岸パレスチナ自治区には現在、イスラエル軍が駐留し、将来パレスチナ国家が樹立された後も、安全保障上の必要性から駐留継続を求めている。これに対しパレスチナ側は、国家の主権を侵害するものとして反対し、意見の隔たりが大きい。

地元メディアによると、ケリー長官の提案に対し、双方とも難色を示している模様という。【12月6日 毎日】
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****中東和平交渉:パレスチナ担当者「枠組み合意目標*****
7月に再開した中東和平交渉に関し、パレスチナ側を代表するパレスチナ解放機構のエラカト交渉局長は18日、来年4月末までに主要な課題で「枠組み合意」を目指していると明らかにした。AP通信などが伝えた。

パレスチナ側が「枠組み合意」を目標とする方針を明確にしたのは初めてで、来年5月以降も交渉が継続される可能性が高まった。イスラエル側の意向が注目される。【12月19日 毎日】
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なんとか交渉は継続してはいるようです。

****パレスチナのアッバス議長、「9か月かけ和平交渉に臨む****
パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は17日、中東和平問題について、現実に何が起ころうとも、米政府と合意した通り9か月間をかけてイスラエルとの和平交渉を続けていくと語った。(中略)

インタビューのなかでアッバス議長は、イスラエルによる入植地での住宅建設を遺憾としながらも、「われわれは約束した。丸9か月をかけた後、適切な決断を下す」と述べ、米国が仲介する和平交渉を遂行するとの意志を改めて示した。(後略)【11月18日 AFP】
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この会見においてアッバス議長は、アラファト前議長の放射性物質による毒殺の問題について、「裁判が行われないかぎりイスラエルを責めることはできない」と述べ、証拠なしにイスラエルを非難することはできないとの慎重な考えを示しています。
このあたりも、イスラエルとの交渉を継続させたい意向の表れでしょうか。

あとは、イスラエルが“不安定な国際的ポジションから「新しい中東」に脱出”を本気で考えてくれれば・・・というところですが・・・・。
コメント (1)
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