孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  閣僚親族らを汚職容疑で逮捕 イスラム穏健派内部での確執 エルドアン体制にほころび

2013-12-24 23:19:23 | 中東情勢

(若き日のエルドアン首相(左)とギュレン師(右)この頃は両者は協調関係にありました。 【2012年02月24日付 Radikal紙】 http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20120225_073740.html

【「その手をへし折ってやる」】
イスラム穏健主義を掲げるエルドアン首相が強固な統治体制を築くトルコにあって、エルドアン政権閣僚の親族らによる汚職事件に対する警察摘発が大々的に行われています。

エルドアン首相は、この警察による摘発を政敵による政権への攻撃ととらえ、「その手をへし折ってやる」と怒りをあらわにしています。

****汚職疑惑に揺れるトルコ・エルドアン政権、与党と警察が対立****
政府閣僚の間に広がる汚職疑惑に揺れるトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン首相は22日、疑惑を利用して政権を攻撃するなら「その手をへし折ってやる」と述べ、政敵に真っ向から対決する姿勢を示した。

エルドアン首相は黒海地方のギレスンで、公正発展党(AKP)支持者らを前に「誰もが身の程を知ることになる」「わが国に危害を及ぼし、扇動し陥れようと企む者たちは誰であれ、その手をへし折ってやる」などと述べた。

一方、イスタンブールでは同日、内閣総辞職を求める数千人規模の反政府デモ隊が機動隊と衝突した。デモの主な目的は巨大都市開発プロジェクトへの反対だが、靴箱を掲げて閣僚の汚職に怒りを表す参加者もいた。

■汚職捜査に警察幹部更迭で対抗
トルコの政界は今、大規模な汚職捜査をめぐり、警察や司法当局などの中枢に強い影響力を持つ有力なイスラム教聖職者、フェトフッラー・ギュレン師と、与党・公正発展党(AKP)との確執が表面化している。

汚職捜査で起訴された24人の中には、エルドアン内閣のムアメル・ギュレル内相の息子とザフェル・チャーラヤン経済相の息子、国有ハルク銀行の頭取が含まれている。

報道によれば警察は、ハルク銀行のスレイマン・アスラン頭取の自宅で、靴箱に隠された450万ドル(約4億6000万円)相当の現金を押収したという。

これに対しエルドアン首相は、大規模な汚職捜査は3月の地方選挙を控えた政権に対する中傷工作だと批判。
イスタンブール市警トップなど数十人の警察幹部を令状なしに捜査を行ったとして更迭した。地元メディアは22日、さらに25人の警察幹部が解任されたと伝えている。【12月23日 AFP】
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ギュレン運動と与党AKP 協調から確執へ
警察が3閣僚の息子や著名財界人ら少なくとも37人を拘束したのは17日のことですが、このときの第1報を聞いて、イスラム主義を強めているとの批判があるエルドアン首相に対する警察内の世俗主義勢力の挑戦だろうか・・・と思いました。

エルドアン首相はかねてより、軍部や司法に根強い世俗主義勢力に対し、“エルゲネコン事件”(8月16日ブログ「軍に排除されたエジプト・モルシ政権  軍部をも抑え込むトルコ・エルドアン政権」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130816)などでその牙を抜き、与党AKPによる支配体制を固めてきました。

そうしたなかにあって、警察に残る世俗主義勢力の挑戦か・・・と思ったのですが、上記【AFP】にもあるように、いわゆる世俗主義勢力ではなく、同じイスラム穏健主義を掲げるフェトフッラー・ギュレン師が代表する「ギュレン運動」と首相・与党AKPとの対立抗争のようです。

フェトフッラー・ギュレン師は、米ペンシルベニア州に拠点を置くトルコの有力イスラム教指導者で、“アタテュルク以来の国家方針である世俗主義とイスラームが矛盾しないことを訴える比較的穏健な立場をとる。彼の支持者達は「ギュレン集団(運動)」「フェトフッラー派」などと呼ばれている。ギュレンは寛容の精神を掲げており、テロを非難し[3] 、バチカン市国やいくつかのユダヤ人団体との対話など宗教間の対話をサポートしている [4]。ギュレン集団はテレビ局や有力紙『ザマン』紙なども保有している。”【ウィキペディア】とのことです。

穏健なイスラム主義と言う点ではエルドアン首相率いる与党AKPと同じ立場で、実際、従来はAKPと「ギュレン運動」は世俗主義に対抗す形で協力関係にありました。

両者の関係については、“ギュレン運動とAKPの双方は西側に対し、自分たちが「過度にイスラム主義的である」と見られないよう努力している。このため、双方は互いに距離を置く道を公に採り始め、また、そうした亀裂を利用して、一方が他方より一層プラグマティックであるように見せようとしている。”【「ユーリの部屋」 2010年10月11日“トルコのギュレン運動”http://d.hatena.ne.jp/itunalily/20101011】とも指摘されています。

エルドアン首相の強引な政治手法やイスラム化を強行する姿勢を強めるにつれ、両者の関係に亀裂が生じています。
AKP・エルドアン首相と「ギュレン運動」の共通の敵であった軍・司法の世俗主義勢力が後退するなかで、両者とも相手の存在が疎ましくおもえるようになったともとれます。

「ギュレン運動」は、AKPのなかでもエルドアン首相より穏健なギュル現大統領に接近していると指摘されています。
ギュル大統領は来年夏に任期満了で、エルドアン首相が大統領、ギュル大統領が首相を目指すとの報道があります。

上記【「ユーリの部屋」】によれば、AKPと「ギュレン運動」の確執が表面化したのは、エルドアン首相が2010年5月にイスラエルの封鎖を破るためガザ地区に向かう支援船団の出航を許可した決定に対し、「ギュレン運動」側が公然と反対した時だったと指摘されています。

****トルコ、大規模汚職が表面化 3閣僚の親族ら逮捕****
来年1月に訪日を控えたトルコのエルドアン首相の足元が揺らいでいる。政権を支える3閣僚の親族を巻き込んだ大規模な汚職事件が表面化したからだ。

背景には、イスラム色を強める政権と、それに反対するグループの対立があるとされる。来夏の大統領選に向けて混乱は長期化しそうだ。(中略)

捜査当局の動きに対し、管轄する内務省はイスタンブール、アンカラなどの警察署の主要幹部を次々に更迭。エルドアン氏は18日の会見で、捜査を「政治的な陰謀」と非難した。

背景には、エルドアン政権と、世俗主義とイスラム教は矛盾しないとする穏健な思想を持つ米国在住の宗教学者ギュレン氏を中心とする「ギュレン運動」との摩擦があるとされる。

検察や警察内部にはギュレン運動の支持者が多いと言われている。

ギュレン運動はこれまで、世俗主義の「守護者」を自任する軍に対抗するため、政権と共同歩調を取ってきた。
しかし最近は、公的機関でのスカーフの着用や酒類販売の規制強化など宗教色を強めつつある政権と距離を置き始めた。

5月末以降の大規模デモでみせた政権の強硬姿勢を、ギュレン運動側が批判したことも要因の一つと言われる。

来年には、春に地方選挙、夏にはエルドアン氏の出馬も確実と言われる大統領選挙がある。すでに混乱による信用不安から株価や通貨リラが下落した。両者のつばぜり合いが長引けば、政権が先導してきた好調な経済にも暗い影を落としかねない。(【12月23日 朝日】
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エルドアン首相:来年夏の大統領選前が正念場
ギュレン師は、ハイレベルな教育で知られる予備校やマスコミなどを経営する富裕層を中心に人脈が広く、世俗派との協力姿勢も見せていますが、エルドアン首政権は11月、“国内3600カ所以上に上る大学予備校を閉鎖する意向を表明。多くの予備校はギュレン運動の資金源となり、運動の支持者も生み出してきた。”【11月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】ということで、今回汚職事件が発覚する以前から両者の緊張関係が高まっていました。

****トルコ首相、支持層と亀裂で大統領選に暗雲 *****
国民投票による初の大統領選を来年に控えたトルコで、10年以上政権を維持してきたイスラム保守層の内部対立が表面化している。

エルドアン政権の発足以降、トルコを語ろうとすれば政界で無敵を誇る首相を語るのとほぼ同義だった。エルドアン首相は再出馬しない意向を表明し、初の民選大統領への就任を目指している。(中略)

首相とギュレン師の対立の火種はいくらでもある。
ギュレン派はエルドアン氏の強硬姿勢を非難。
これに対して、昨年ギュレン派が後押しする犯罪捜査でエルドアン政権の情報機関トップを容疑者として事情聴取しようとした際には、政権支持層は首相に対する挑戦だと反発した。
ギュレン派はエルドアン氏の反政府デモへの対応を過剰反応だと主張。双方とも相手側が権限を強めようとしすぎていると批判しあう。

エルドアン氏は今週、ギュレン派と緊張関係にあることを認めた。同氏は「ギュレン派はネガティブキャンペーンをやめるべきだ」と批判し、教育制度問題でギュレン運動に譲歩するわけにはいかないと強調した。
エルドアン氏が大統領選を控えて権力を誇示しているとの見方もある。首相に反発すれば、ギュレン師の権益にもリスクが及びかねないと警告しているというのだ。

■大統領選挙前が正念場
一方、ギュレン派の大半は穏健なギュル大統領が自ら首相に就き、エルドアン氏から一部の権限を奪取してほしいとの期待を隠そうともしない。

もっとも、ギュレン派との対立が続けば、エルドアン氏が大統領選の第1回投票で勝つのは難しくなり、大統領に就任できたとしても求心力が低下する。

これは由々しき事態だ。エルドアン氏には憲法を改正して大統領の権限を強めることに失敗しており、大統領として国を統治しようとするならば、名声や有権者の負託、ほとんど行使されていない大統領としての法的権限がよりどころになるからだ。

エルドアン氏はさらに絶大な影響力を発揮できる地位を目指しているが、つまずけば権力の支えを失う可能性もある。世論調査ではAKPの支持率は2011年の議会選で記録した50%とほぼ同じとはいえ、残る半数の国民は不満を強めつつある。

エルドアン氏はこれまでにも大きな試練を切り抜けてきたが、来年夏の大統領選前がまさに正念場となる。カギとなるのは首相がかつての盟友たちと手を握り、服従させることができるかだ。

これに失敗すれば、ギュレン派との対立はエルドアン氏の衰退の始まりの前兆となるかもしれない。【11月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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現職閣僚の親族らを逮捕するという「ギュレン派」の挑戦、「その手をへし折ってやる」というエルドアン首相の怒り・・・エルドアン首相が剛腕で「ギュレン派」をねじ伏せるのか・・・今後の推移はまだわかりません。

ただ、盤石にも見えたエルドアン首相の支配体制にも、今年5月のイスタンブール中心部の再開発を巡るデモが反政府・反エルドアン首相デモに発展した件、そして今回の同じイスラム穏健派内部の確執ということで、ほころびが見え始めているのも事実です。
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