孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト暫定政権 強権的姿勢を強める アメリカは軍事支援で苦慮

2013-12-02 22:59:51 | 北アフリカ

(12月1日 カイロ・タハリール広場 軍主導の暫定政府に抗議する学生ら “flickr”より By Abayomi Azikiwe http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/11166188374/in/photolist-i1HCMd-i18j6K-hZWgV5-hZW981-hZWe1Y-hZkLXc-hZksuE-i11GeN-hZkYuG-i11LnA-i12iWM-i11wzM-hZm6iu-hZk9ni-hZm4N4-i12voK-i1Snt8-i22AZR-i23Py4-i23847-i22VXQ-i1SN6N)

政権側はデモに歯止めをかけ、秩序回復を図りたい考え
国民の要請に応えるという形で行われた軍による事実上のクーデターで成立したエジプト暫定政権は、イスラム穏健派のムスリム同胞団を基盤とするモルシ前大統領支持派による激しい抵抗に対し、非常事態令のもとで、令状なしでの捜査など強権的な手法で同胞団メンバーら数千人を逮捕するなど、力で封じ込める対応を行ってきています。

こうした軍・暫定政権の強い姿勢によって、クーデターを主導したシーシー国防相兼第1副首相や軍への批判を許さない空気が社会に広がり、ムスリム同胞団の動員力は大きく低下し、デモなどの大規模な抗議行動は難しくなっています。
11月14日には、非常事態令と夜間外出禁止令が3カ月ぶりに解除されています。

一方で、暫定政権のこうした強権的姿勢は、モルシ前政権を批判していた民主化勢力の反発を招くところともなっていますが、強権姿勢を強める暫定政府はモルシ前首相支持派だけでなく、民主化勢力の批判行動も抑え込む「デモ規制法」を発令し、秩序の維持を最優先させています。

****エジプトでデモ規制法成立、違反者には禁錮5年も****
エジプトのアドリ・マンスール暫定大統領は24日、国家の治安を脅かすとみなされる場合には抗議デモを禁止する権限を治安当局に与えるデモ規制法案に署名し、同法は成立した。

大統領府報道官によると、新法ではデモ主催者に対し、デモを実施する3日前までにデモ会場の最寄りの警察署に「文書による届け出」を義務付けている。この届け出には、主催者の詳細やデモの目的、掲げるスローガンなどを明記しなければならないという。

また、デモ参加中に覆面で顔を隠す、武器を携行するなどの行為を禁止し、違反者には最長5年の禁錮刑を科すと定めている。

エジプト軍当局は、7月にイスラム組織出身のムハンマド・モルシ前大統領を解任した判断について、約1年続いた政治の混乱に対するエジプト国民の大規模な抗議行動に応えたものだとして正当化している。

エジプトの人権団体は法案について「全ての平和的な集会を犯罪行為とみなす」もので、抗議デモを強制的に解散させる「自由裁量権」を治安当局に与えるとして非難していた。【11月25日 AFP】
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石破茂・自民党幹事長が“テロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われる”とする絶叫戦術が逮捕の対象となるのかは知りません。

“エジプトの裁判所は先月、北部アレクサンドリアで抗議デモに参加していた女性14人に対し、禁錮11年1か月の判決を言い渡しました。14人は、ムスリム同胞団を支持する10代から20代の若者で、法廷では鉄格子の中に収容され、エジプトの国営通信によりますと、武装してデモに参加し治安部隊に暴力をふるった罪などが認定されたということです。”【11月29日 NHK】

「デモ規制法」では最長5年の禁錮刑とのことで、上記の“禁錮11年1か月”との関係はよくわかりません。
「デモ規制法」以前の10月のデモの際の逮捕であり、別の法根拠に基づくものでしょうか。いずれにしても、抗議デモを抑え込もうとするところで根っこは同じに見えます。

****エジプト、デモ規制法 権威主義傾向、強まる 民主化勢力抑制へ先手****
クーデター後の政情不安が続くエジプトの暫定政権が「デモ規制法」を発布し、権威主義的な傾向を強めている。
失脚したモルシー前大統領の支持派や、軍の政治関与を批判する民主化勢力を押さえ込む狙いがある。

エジプトでは2011年のムバラク政権崩壊後、あらゆる勢力がデモを影響力拡大の手段としてきており、デモ規制で存在感が低下しかねないとの危機感が各勢力に広がっている。
規制法は11月下旬に施行され、デモ日時や場所を当局に事前申告し、許可を得るよう義務付けた。

エジプトでは民衆デモをきっかけとした11年の政変後、政治や物価高への不満、公務員による上層部の罷免や賃上げ要求など、街頭行動を通じて、あらゆる問題で主張を通そうとする風潮が広がった。

今年7月のクーデター以降では、モルシー政権の母体だったイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が抗議活動を続けており、最近でも同胞団と暫定政権の後ろ盾となる軍の双方に批判的な民主化勢力が、デモで存在感を強めつつある。

一方、政権側はデモに歯止めをかけ、秩序回復を図りたい考えとみられる。

政権側は規制法の導入を機に民主化勢力への圧迫も強めている。
検察は11月25日、規制法に抗議するデモを違法に組織したとして、反ムバラクのデモで大きな役割を果たした民主化グループ「4月6日運動」の創設者アハマド・マーヘル氏らの逮捕を命令。
マーヘル氏は11月30日、当局に出頭したが、反発するデモ隊と治安部隊の衝突が起きた。

平和的なデモでも当局の判断だけで、参加者が大量に逮捕される懸念もあり、「重大な人権侵害につながる恐れがある」(人権団体関係者)との指摘も強い。

また、暫定政権の支持勢力には、選挙基盤が弱く、デモへの参加でかろうじて存在感を示してきた政党も多い。規制法が暫定政権側の政党をさらに弱体化させる可能性もあり、各党の指導者も反対を表明し始めている。【12月2日 産経】
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上記記事が指摘するように、“街頭行動を通じて、あらゆる問題で主張を通そうとする風潮”が社会の混乱を招いてきた側面も確かにあります。
強権支配で抑圧されていた民衆の不満が民主主義が未成熟な状況で噴出し、これが政権側の強硬姿勢を招き、政治行動全般の自由を狭めていくという悪いパターンにも見えます。

カイロでは、「デモ規制法」などの暫定政権の強権姿勢に反発する学生らのデモが行われています。

****反軍政、また1万人 カイロ、デモ規制法を批判****
エジプトの首都カイロのタハリール広場で1日、学生たちが、軍主導の暫定政府に抗議するデモを行った。
暫定政府が先月導入した「デモ規制法」などに反発したもので、1万人以上が集まったとみられる。
治安部隊は催涙弾を使って解散させた。死傷者が出たとの情報はない。

デモには、7月のクーデターで排除されたムルシ前大統領を支持する「ムスリム同胞団」派と、世俗・リベラル派の双方が合流したとみられる。

学生グループの広報担当者は、衛星放送アルジャジーラの電話取材に「ここが(ムバラク政権を倒した)革命の聖地だから集まった」と答えた。

カイロ中心部では11月27日にも、軍政打倒を訴える世俗・リベラル派の若者による1万人規模のデモがあった。【12月2日 朝日】
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暫定政権の強権姿勢は「デモ規制法」だけでなく、憲法改正作業にも及んでいるようです。

****改正憲法の草案策定=軍強権発動に懸念―エジプト****
エジプト暫定政権の政権移行ロードマップ(行程表)に基づき、憲法改正作業を進めていた50人委員会は1日、草案をまとめた。軍に強い権限を認めており、治安維持を名目とした強権発動への懸念が高まっている。

草案は近くマンスール大統領に提出され、大統領は国民投票に付す。投票は来年1月に行われる公算が大きい。【12月2日 時事】 
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足元を見透かされたアメリカ?】
こうした暫定政権の強権姿勢をいさめる立場にあり、それが可能な影響力を有していると思われるのが、エジプトに巨額の軍事支援を行ってきている“人権と民主主義の守護者”アメリカです。

ただ、アメリカもエジプトとの関係が悪化して、中東全体への影響力が低下するのは避けたいとの思惑があり、エジプト暫定政権への対応はためらいがちなところがあります。

アメリカ国内法は、民主的政権が軍事クーデターで打倒された場合の援助凍結を定めているため、オバマ政権は暴力を強く非難しながらも、7月3日にモルシ前大統領が軍によって追放された事態を「クーデター」とは認定せず、エジプトへの年間約13~15億ドルの援助を続ける姿勢をとっていました。

“米国はエジプトを中東政策の「要石」と位置付け、軍事作戦を続けているアフガニスタンを除けば、イスラエルに次ぐ巨額の軍事支援を供与してきた。軍事・民生の総援助額は計700億ドル(約7兆円)に達し、87年からは毎年13億ドル(約1300億円)の軍事援助を事実上の「定額」として供与している。”【8月16日 毎日】

こうした姿勢には当初からアメリカ国内でも批判がありましたが、モルシ前大統領派による抗議行動の強制排除などで多数の死傷者が出る状況で批判が高まり、8月15日のオバマ大統領声明では「エジプト暫定政府の行動を検証し、必要に応じてさらなる措置を取る」と軍事援助停止も考慮する発言となっています。

暫定政府・軍とモルシ前大統領派の衝突はその後も続き、10月6日には少なくとも50人が死亡する事態を受けて、10月9日、エジプトへの軍事支援の一部停止を発表しています。

****エジプト:米 F16戦闘機など軍事支援停止 資金援助も****
米政府は9日、政治的混迷が続くエジプトへの軍事支援を広範囲に停止すると発表した。
戦闘機、戦車など大型装備供与や、2億6000万ドル(約253億円)の資金援助も停止する。
人道・民生支援は継続する方針だが、衝突が続き民主政府樹立への道筋が描けない現状に懸念を強めている表れといえる。

オバマ政権当局者によると、供与を停止するのは、F16戦闘機、M1A1エイブラムス戦車、ハープーン対艦ミサイル、アパッチ攻撃ヘリコプター。ヘーゲル国防長官が9日、エジプト国防省に伝えた。「確固たる民政移行に関する進展」が見られるまで凍結する。ただ、テロ対策やシナイ半島の治安維持のための支援は続ける。

一方、教育や健康、民主化などの分野や民生支援は継続する。サキ国務省報道官は声明で「法の支配、基本的人権、自由で競争のある経済を土台とし、選挙で民主的に選ばれた文民政府」への早期移行に期待を示した。(後略)【10月10日 毎日】
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しかし、エジプト暫定政権は強気の姿勢を崩さず、ロシアと接近する姿勢を見せる形で、アメリカを牽制しています。

****エジプト:武器供給、食料確保、観光…ロシア接近図る****
エジプトとロシアが(11月)13、14日にカイロで初めて外務・防衛閣僚級協議(2プラス2)を開催する。
軍事援助の一時停止などの影響で米国との関係が冷え込むエジプトが、ロシアと急接近する構図だ。

エジプトは過去に旧ソ連から軍事支援を受けていた経緯もある。両国の関係強化が進めば、中東での米国の影響力が一段と低下する可能性もある。(中略)

エジプトは72年に当時のサダト大統領がソ連の軍事顧問団を追放するまで約20年間、ソ連の援助を受けていた。その後、米国と接近し、82年から巨額の軍事援助を受けるようになった。ソ連と疎遠になったが、近年ではロシアとの関係改善もみられる。

エジプトのシンクタンク「アハラム政治戦略研究所」のハッサン・アブタレブ氏は「暫定政権は米国との関係悪化は望んでいないが、武器供給先を多角化できれば、外交でも独自性を発揮しやすくなる。ロシアとはイスラム過激派の抑止という共通の目標もあり、関係を深化させる土壌がある」と指摘する。【11月13日 毎日】
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エジプト暫定政権の強気姿勢の背景には、ロシア以外に、もうひとつあるようです。

****イスラエルの猛抗議で米国のエジプト制裁骨抜きか****
7月にエジプトで起きた事実上のクーデターに対する制裁として米国が10月に発動した対エジプト軍事支援見直しが早くも骨抜きになりそうだ。

米国側はこれまでエジプト側に供治してきたM1A1エイブラムス戦車の部品をストップ。
これに対してエジプト軍はイスラエルに隣接するシナイ半島の警備で手を抜くようになった。

以前からイスラム武装勢力が流人していたこの地域での活動が活発化したため、イスラエルが米国に猛抗議する事態になった。
米国は国際社会の反発を受けないよう「支援再開の裏口を探している」(外交筋)という。

今回の制裁は年間十五億ドル(約一千五百億円)の対エジプト軍事支援の一部である約二億六千万ドル(約二百六十億円)分を凍結したに過ぎない。
しかも発動当初のオバマ政権の方針には「シナイ半島の治安維持、テロ対策に必要な措置は続ける」という一項目が盛り込まれていたはずだった。
 
米国の制裁発動に対し軍主導のエジプト暫定政権は形ばかりの反発をしてみせたが、相変わらず「ムスリム同胞団」への弾圧は継続している。

エジプト軍は「シナイ半島で揺さぶれば、イスラエルがすぐに音を上げる」と最初から米国の足元を見ていたようだ。【12月号 選択】
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エジプト暫定政権がそこまで強気かどうかは定かではありませんが、シナイ半島情勢を通じてイスラエルを動かすというのは、「なるほどね・・・そういうものか・・・」という感があります。

****米国務長官がエジプト訪問、「重要な関係」を強調****
米国のケリー国務長官は3日、エジプトを訪問し、同国との関係は「極めて重要」だと強調した。エジプトで今年7月にムルシ前大統領が追放された後、米閣僚が同国を公式訪問したのは初めて。

前大統領は暴力を扇動した罪で起訴され、現地時間4日に初出廷する。米政府は先月、軍主導のエジプト暫定政権が前大統領の支持母体「ムスリム同胞団」を弾圧したなどとして、同国への軍事支援の一部を凍結すると発表した。

ケリー長官はファハミ外相との会談後の記者会見で、「オバマ米大統領と米国民はエジプト国民の味方だ」と述べた。軍事支援の凍結は「制裁」ではなく、「非常に小さな問題だ」と説明。エジプトへの人道支援や軍によるテロ対策、シナイ半島治安維持への協力は継続すると強調した。【11月4日 CNN】
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「非常に小さな問題だ」・・・・暫定政権への強い姿勢は国際的・国内的に見せなければいけないが、さりとてエジプトとの関係悪化は望んでいないというアメリカの本音が見えます。

シリア化学兵器問題でも、イラン核開発問題でも、オバマ政権の弱腰・迷走する対応を批判する向きは多々ありますが、曖昧で及び腰であること自体は責められるべきことでもないと思います。物事はそれほど単純ではありませんから。
カウボーイ的・短絡的発想で、相手を力でねじ伏せようという強い姿勢がいいとも思いません。
要は、結果が出せるかどうかでしょう。
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