
(国連PKO管理下にある南スーダン避難民 12月17日 “flickr”より By Diario El Carabobeño http://www.flickr.com/photos/52324566@N05/11423688245/in/photolist-iptowa-iptvuQ-iptwbY-iptvsW-iptwWA-ipuhxx-iqyDMe-ijA4jD-ip441J-ifvdF6-iqPZ99-ifH5d1-ihpCTM)
【400~500人が死亡、1万5千~2万人が避難民】
アフリカ・南スーダンで、政権側が“クーデター”と批判する武力衝突が起きており、すでに500人規模の死者が出ています。
スーダンから分離独立した「南スーダン」には、当初から油田地域が絡む国境問題など、スーダンとの緊張関係がありました。
北のスーダンとの関係に関しては、2012年4月にはスーダン・バシル大統領が「南スーダン国民を同国与党のスーダン人民解放運動(SPLM)から解放する」と演説して、南スーダン政府の打倒を明確にしたこともありますが、2013年4月には同バシル大統領が南スーダンを訪問して南スーダン・キール大統領と会談し、閉鎖されていた国境再開で合意しています。
ただ、その直後の5月27日には、スーダン・バシル大統領が「南スーダンが(スーダン国内の)反政府勢力の支援をするなら、石油パイプラインを永久に封鎖する」と述べ、スーダン国内を通過する南側の石油輸出を今後止める可能性に言及するなど、一進一退の状況です。
今回、武力衝突が起きているのは、直接的にはそうしたスーダンとの間ではなく、南スーダン内部の民族対立が絡む問題です。(民族対立が表面化する背景には、スーダンとの関係が停滞して経済振興が進まないということがありますが)
****南スーダン 500人死亡か 首都武力衝突 深まる政情不安****
来年1月で独立から2年半を迎えるアフリカ・南スーダンが政情不安に陥っている。
現地からの報道によると、首都ジュバでは15日夜以降、キール大統領率いるスーダン人民解放軍(SPLA)主流派と7月に解任されたマシャール前副大統領を支持する兵士らの間で武力衝突が断続的に発生した。
■米英、大使館員に退避指示
国連当局者は、17日に行われた南スーダン情勢に関する安全保障理事会の緊急会合で、400~500人が死亡、約800人が負傷したとの情報があると報告した。国連外交筋によると、1万5千~2万人が避難民となっている恐れがあるという。
キール氏は16日のテレビ演説でマシャール氏を「破滅の預言者」と呼び、衝突は同氏がクーデターを企てたためだと非難、政府はジュバに夜間外出禁止令を出した。一方、マシャール氏は「クーデターではない」と主張しているという。
こうした中、米英両政府はジュバの各大使館で緊急業務に就いていない職員に同国からの退避を指示した。
ジュバには国連平和維持活動(PKO)で派遣されている陸上自衛隊員約350人のほか、約110人の日本人が滞在しているが、日本人が被害にあったとの情報はない。
南スーダンは2011年7月、20年以上にわたったスーダン内戦の和平合意に基づく住民投票によりスーダンから分離独立。SPLA主流派のディンカ人であるキール氏が大統領に、ヌエル人のマシャール氏が副大統領に就任し、権力の均衡を図ってきた。
しかし、キール氏は今年7月、マシャール氏を解任。これに対してマシャール氏は大統領の座に野心を示すなど、両者の対立がさらに強まった。
SPLAや、その上部組織の与党「スーダン人民解放運動」(SPLM)には、独自の言語や文化を持つ数十の黒人系民族が参加しているとされる。
南スーダンには油田が集中しており、独立当初は原油収入への期待は大きかった。だが、原油輸出ルートにあたるスーダンとの関係が一向に改善せず、経済は低迷したままだ。
南北スーダン問題に詳しいエジプト人研究者は、統治基盤が脆弱(ぜいじゃく)な南スーダンは「建国の大義とキール氏の指導力でかろうじてまとまっていただけだ」と指摘。今後も民族間の権力闘争はくすぶり続けるとの見方を示している。【12月19日 産経】
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キール大統領はクーデター未遂は鎮圧したと発表していますが、首都ジュバで始まった戦闘が北方の都市ボルに拡大しているとも報じられており、このまま収まるのかどうかは定かではありません。
****南スーダンの騒乱悪化、反政府勢力が首都近郊のボル町制圧****
アフリカ南部の南スーダンで深刻化しているクーデタ疑惑に伴う軍部隊同士の武力衝突で、同国陸軍の報道担当者は19日、首都ジュバ近くのボル町が反政府武装勢力に制圧されたと発表した。
同町では戦闘が続き、激しい砲撃にさらされているという。ボル町の町長は、反政府武装勢力が町を陥落させたことを認めた。(中略)
同国のキール大統領は戦闘発生後、クーデター未遂は鎮圧したとも発表。今回の騒乱は、今年7月のマシャル元副大統領解任を含む内閣刷新に反発する元副大統領支持の兵士らによる武装蜂起が原因と主張していた。
南スーダン外務省は18日、政府軍部隊の作戦で治安は回復したとし、ジュバ国際空港の運航業務も回復したと強調。
しかし、国連は国内の政治危機は終息していないと疑問視している。武装衝突後、住民1万5000人から2万人が国連の施設敷地に避難したと主張している。
南スーダンのジョン・コング・ニュオン国防相は、これまでの軍事衝突で最大で10万人の住民らが自宅を捨て避難したと述べた。
南スーダン内の政情悪化を受け、各国は自国民救出のため航空機派遣の動きを加速している。英国外務省報道官はジュバからの退去を19日に望む英国民を退避させるため航空機1機が同国に向かっていると発表していた。【12月19日 CNN】
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【「PKO5原則」による日本のPKO】
政治対立が暴力的な武力行使に直結しがちで、また、武装勢力による一般住民に対する暴力が頻繁に起きるアフリカ社会の問題のひとつの表れと言えます。
今回はその問題はさておき、日本との関係、あるいはPKOのあり方の話です。
上記【産経】にもあるように、日本は南スーダンに国連平和維持活動(PKO)として陸上自衛隊員約350人を派遣して、スーダン国境地帯などに比べれば治安が安定していると言われていた首都ジュバで道路・側溝・用地整備や施設建設などの活動にあたっています。
日本の場合、PKO派遣にあたっては「PKO5原則」によるものとされています。
すなわち、(1)紛争当事者間で停戦合意が成立していること、(2)当該地域の属する国を含む紛争当事者がPKOおよび日本の参加に同意していること、(3)中立的立場を厳守すること、(4)上記の基本方針のいずれかが満たされない場合には部隊を撤収できること、(5)武器の使用は要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること、の5項目です。
戦闘は陸上自衛隊の駐屯地に近い場所でも発生したとのことで、戦闘発生後は、駐屯地外での活動を一時停止しています。【12月19日 朝日より】
今回の武力衝突が更に激しくなれば、「PKO5原則」の前提が崩れ、派遣隊員の安全が確保できないということで撤収することも検討されるでしょう。
“派遣隊員の安全”という観点、また、日本が無関係な異国の紛争に巻き込まれないようにするという観点からは当然のことでしょうが、仮に、現地住民が戦闘行為に巻き込まれて多大な犠牲を強いられている、民族対立に根差した住民間の殺戮が発生している、そうした危険から逃れるために住民がPKO派遣部隊に助けを求めてくる・・・というような状況になったとき、派遣隊員の安全のため、また、無関係な紛争に巻き込まれたくないので撤収する・・・ということで済むのか・・・疑問もあります。
極端なケースで言えば、フツ系住民によるツチ系住民の殺戮で50~100万人が死亡したとされる1994年の「ルワンダの大虐殺」を放置したベルギー部隊、旧ユーゴスラビア連邦下のボスニアで1995年、イスラム教徒の成人男性や少年約8000人が殺害された「スレブレニツァの虐殺」を見守るしかなかったオランダ部隊・・・などの事例があります。
南スーダンに派遣されている陸自部隊は“要員の生命等の防護のために必要な最小限”な武器として、5.56mm機関銃MINIMI(計5丁)、89式小銃(計297丁)、9mm拳銃(計84丁)を保有しています。そのほか、軽装甲機動車もあるようです。【2013年10月 防衛省 「UNMISSにおける自衛隊の活動について」より】
武器に関しては何もわかりませんが、正規軍レベルを相手にするようなものでないことはわかります。
しかし、住民同士の殺戮、民兵の襲撃といったレベルであればそれなりの使い道もあるのかも。
日本の陸自が駐屯するジュバには、日本の他、バングラデシュの工兵中隊、カンボジアの医療部隊・MP、そしてルワンダの歩兵・航空部隊が駐屯しています。
他国はともかく、ジェノサイドを経験したルワンダは、万一、かつて自国で起きたジェノサイドに似たような状況になれば、積極的に関与する可能性があります。
大虐殺の混乱当時にルワンダ愛国戦線(RPF)を率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているときじっと動かなかったUNAMIR(PKOである国連ルワンダ支援団)司令官ダレール将軍のことを「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と評しています。
【国連も変化「常に中立であることはあり得ない」】
上記のルワンダやスレブレニツァの問題もあって、国連のPKOに関する考え方も最近変化しています。
2011年4月、コートジボワールの混乱に関して、国連・潘基文(パン・ギムン)事務総長は安保理非公式協議において、「国連の平和維持活動は公平・公正の立場に立つが、常に中立であることはあり得ない」と強調し、「市民の保護」の観点から人権侵害をしていると見なした相手に対しては、直接的な軍事行動を取ることもあり得ると踏み込んでいます。
こうした流れを受けて、コンゴPKOにおいては、本格的な戦闘行為もできる「平和強制部隊」が派遣されており、実際に反政府軍との戦闘を行っています。
(参考:2月28日ブログ“国連の紛争対応について ルワンダ大使「涙の訴え」 コンゴPKOで「平和強制部隊」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130228)
もとより、今回の南スーダンの状況がそこまで悪化している訳でもありませんし、現在派遣されている陸自は“要員の生命等の防護のために必要な最小限”な武器しか携帯していませんので、“「市民の保護」の観点から人権侵害をしていると見なした相手に対しては、直接的な軍事行動を・・・”云々は想定していません。
ただ、今後のPKO活動参加にあたっては、こうした事態にどのように対応するのかという腹をくくった覚悟も必要になるのではないでしょうか。
日本周辺の領土問題など、日本の国家的利害を武力に訴える形で解決しようなどということは全く考えていませんが、世界中には暴力の脅威にさらされている住民が多数存在しており、国際社会はそうした住民を見捨てていいのか? どこか他の国が対応してくれ、日本は武力を伴う対応はできない・・・という論理が許されるのか? という問題です。