孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エイズ  治療薬の進歩、感染拡大に一定の歯止め、されど・・・

2013-12-15 22:32:53 | 疾病・保健衛生

(12月1日 「世界エイズデー」に巨大な赤リボンが掲げられたアメリカ・ホワイトハウス “flickr”より By Ted Eytan http://www.flickr.com/photos/22526649@N03/11161282593/in/photolist-i1husM-i1gtNV-i1gC5z-i1gyL1-i1gRX3-i1grdK-i2upDm-i2uqdY-i2u9cP-i2uugq-hRh7y3-hV6kds-ggYkas-hr7Ew3-hwWAKm-ha9RoY-gPs1HT-i6kALf-h4f7Jx-hGjbrc-hGkjec-hGjC6E-hGjtmp-hGjqSM-hGkFrx-hGkCGK-hGjPKb-hGjHYS-hGkhQ1-hGjhQp-hGjALA-hGjEmS-hGjgJr-hGjzwm-hGjaEc-hGk2mf-hGjsin-hGkfPY-hGjuop-hGkrMi-hGjnup-hGjqdR-hGktHx-hGjuCH-hGjk3a-hGktUp-hGjRQd-hGk83W-hGkyte-hGkwup-hGjTdJ)

【「死の宣告」から「慢性の感染症」へ
先月、エイズ検査目的だったと疑われる献血者からの輸血が、感染初期だったためスクリーニングをすり抜けて、他の患者にエイズに感染するという事件があり話題となりました。

ただ、こうした話題を除くと、日本でのエイズに対する関心は、感染者があまり多くないこともあって、ひところに比べるとあまり高くないように思われます。

しかし、世界的に見ると、エイズは未だ人類にとっての大きな脅威であり、昨年の死者数は160万人にのぼります。
また、世界では今でも約3430万人の感染者がおり、新規の感染者数も毎年約250万人いると言われています。
なお、日本では毎年1500人前後の新規感染者が報告されています。

もっとも、治療薬の進歩によって、かつては「死の宣告」にも等しかったHIV(エイズウイルス)感染は、今では服薬によってコントロールできる「慢性の感染症」と呼べるまでに状況は改善しています。

****死の宣告ではなくなったHIV***** 
12月1日は25回目の「世界エイズデー」。今年はエイズ治療研究の分野で画期的な成果が報告された年だった。
かつては死を宣告されたも同然だったエイズウイルス(HIV)感染者も、今ではほぼ普通の生活を営めるようになり、治癒に向けた展望も見え始めている。

エイズ・HIV研究を巡っては、今年3月、HIVに感染した子どもが実質的に治癒したという症例が報告され、7月には成人の感染者2人が幹細胞移植を受けてHIVの痕跡が消え、抗HIV薬による治療を中止したという発表があった。

エイズ研究機関amfARのケビン・ロバート・フロスト代表は「世界で3500万人の感染者に応用できる治療法の確立のためにまだやるべきことはたくさんある。だがエイズの治癒に向けた現実的な展望は見え始めている」と指摘する。

HIVが発見された1981年当時、HIV感染の診断は、死の宣告に等しかった。
ジャスティン・ゴフォースさんは92年、看護学を学んでいた26歳の時に陽性と診断された。当時まだ治療の選択肢はほとんどなく、感染者は米食品医薬品局(FDA)が87年に抗HIV・エイズ薬として初めて承認したAZTを処方されていた。

だがこの薬には命にかかわりかねない深刻な副作用があった。
「私はとても具合が悪く、ただ黙って泣き続けた。看護師が私をなぐさめようと、『あなたはまだ感染しただけだから、死ぬまでには6~8年ある』というような言葉をかけてくれたけれど、あまりなぐさめにはならなかった。でも当時はそれしか言いようがなかった」。ゴフォースさんはそう振り返る。

だが今では研究が進んで治療法も進歩した。ワシントンの医療機関の専門医レイ・マーティンズ医師は、「感染者であっても通常の寿命をまっとうでき、非感染者と同じような生活ができる公算が大きい」と指摘する。

薬の服用は1日に1錠だけで済む選択肢もあり、副作用もほとんどなくなった。大部分の感染者にとってHIVは、糖尿病や心臓病といった慢性疾患のような存在になりつつある。

ゴフォースさんは感染が確認されてから21年がたち、47歳になった今も健康で生活している。
1日に5回、40錠あまりの薬を飲んで「恐ろしい」副作用に見舞われていたかつてとは対照的に、今は1日に2回、5錠を服用するだけで、「事実上、副作用はほとんどない」という。

この7年半前からあまりはワシントンの医療機関に看護師として勤務。患者たちに自分の体験を伝え、HIV感染者であっても普通の生活を営めると伝えている。「夢を追い、仕事や家庭を持ち、人生でやりたことは何でもできる。それが今の私たちだ」

感染者の啓発誌のため1994年に発効された雑誌POZは、世界エイズデーを前に毎年11月、エイズとの戦いに功績のあった感染者100人を選んでいる。ゴフォースさんは今年、その1人に選ばれた。【12月2日 CNN】
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今では1日1錠の服薬ですむようになっています。(先進国患者の場合ですが)

“スタリビルド配合剤という日本で今年導入された合剤は、初めて抗ウイルス剤を服用する感染者であれば、本当に1錠で済む。それでウイルスの増殖を抑えられる。それによって30年前は感染したら「半年から3年で死に至る」と言われていたのが、薬を飲み続けることで感染後40年から50年近くも生活できるまでになった。”【11月26日 堀田 佳男氏 日経ビジネス】

【“治癒例”のその後
上記【CNN】にある“治癒例”に関しては、早期治療による子供の“治癒”の方は、今も良好な状態に保たれているようです。

****HIVから治癒した子ども、「偶然ではない」 米研究****
生後すぐにヒト免疫不全ウイルス(HIV)の治療を受けた少女が、HIV感染から治癒したとみられるとの報告が、23日の米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル」に掲載された。
3歳になった現在、少女にHIV感染の兆候はみられないという。

報告書では、誕生翌日にHIVの陽性反応を示したDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)の検査結果にも触れており、本当は感染していなかったのではとの一部専門家から挙がっていた意見への回答が試みられている。

少女には抗レトロウイルス薬が生後18か月まで投与された。その後の経過を1年半にわたって見守ったが、HIV感染の兆候が再び検出されることはなかった。

「われわれの発見は、症状がみられない現状が単なる偶然ではなく、積極的な初期治療が寄与している可能性が高いことを示している」「最大の問いはもちろん『HIVが治癒したのかどうか』だ。現時点での最善の答えは『おそらく』だ」と、報告書は述べている。

一方で研究チームは、今後長期にわたる追跡調査が必要と指摘。この少女の事例が将来のより綿密な研究につながるような理論的根拠を示しているとはいえ、少女に「特有」な事例である可能性もあると警告した。

担当した医療チームは、治療の成功の要因は早期介入にあったと考えている。2014年には、米政府支援の下でより大規模な試験が開始される予定だ。【10月28日 AFP】
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しかし、骨髄移植による“治癒”の方は、再び陽性反応が出ています。

****治癒期待されたHIV感染者2人、再び陽性に****
後天性免疫不全症候群(エイズ、AIDS)を発症させるヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染し、骨髄移植後にHIV陰性に転じていた男性2人が再び陽性になっていたことが、米研究者らの発表で6日までに明らかになった。

専門家らはこの結果について「残念」だと語る一方、HIVの潜伏を解明する上で重要な手がかりを新たに提供するものだとしている。(中略)

(報告を行った)ハインリック氏はAFPに対し、「患者のHIVが検出可能な水準に戻ったのは残念だが、科学的な意義は大きい」と述べ、「この研究でHIVの病原巣が、従来承知されていたよりも深い場所にあり、持続性があることが分かった」と強調した。

また、同氏は「2人は治療を再開し、現時点の健康状態は良い」とコメントし、本人たちの意向を踏まえて、2人の身元はメディアに公表しないと付け加えた。【12月8日 AFP】
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“治癒”に至るまでには、まだまだ多くの研究を要するようです。

新規感染者数は減少を続けている
冒頭にエイズによる昨年の死者数が160万人という数字をあげましたが、この数字自体は、ピーク時2005年の230万人、2011年の180万人から減少してきており、全体としては感染拡大に歯止めがかかっています。

****12年のHIV新規感染者、01年比で33%減少 国連****
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の新規感染者数が2001年と比べて3分の1減少し、特に子どもの新規感染者は半減したと、国連(UN)が23日、発表した。

2012年にHIVに新たに感染した人の数は全世界で230万人で、2001年と比べて約33%減少した。また、新たにHIVに感染した子どもの数は26万人で、2009年と比べると3分の1以上少なく、2001年からは52%減少した。

国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長は「HIVの年間新規感染者数は減少を続けている。特に、新たにHIVに感染した子どもの数が急激に減少している」と述べた。

UNAIDSはHIVに感染した妊婦から胎児への感染を防ぐ抗レトロウイルス薬の配布が成果を上げたと評価。今後2年間で子どもの新たな感染を90%まで減少させることができる可能性も出てきたという。

UNAIDSの年次報告書によると、抗レトロウイルス薬により2009~2012年に67万人の子どもの新規感染が防止された。特に、世界の子どものHIV感染者330万人のうち90%が集中するサハラ以南のアフリカでの成果が目覚ましかったという。

さらに、2012年にエイズに関連して死亡した人は160万人で、2005年の230万人、2011年の180万人から減少している。【9月23日 AFP】
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こうした状況改善の柱は感染者の多い中低所得国における治療薬の普及です。

****エイズ治療薬、970万人に普及=中低所得国で対策効果―WHO****
世界保健機関(WHO)は30日、中低所得国でのエイズウイルス(HIV)対策に関する報告書を発表、HIV増殖を抑える抗レトロウイルス薬(ARV)治療を受けた患者数が2012年末時点で970万人と、11年末から160万人増えたと明らかにした。治療薬の普及により、治療を受けた患者の年間増加数はこれまでで最大となった。

地域別の患者数では、アフリカが750万人超と最多。治療を受けた患者数全体が増える傾向にある一方で、薬物注射をする人や男性同性愛者など特定グループへの普及は遅れているという。【6月30日 時事】 
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【“医療の問題”であると同時に、すぐれて“経済問題”“貧困問題”でもある
しかし、厳しい現実が存在します。
性交渉による感染を防ぐためにはコンドームの使用が有効ですが、そうした知識の広まりが十分でないことに加え、コンドームを買うこともできない“貧困”の問題があります。

****コンドーム買うなら生活の足しにする現実****
サブサハラ・アフリカの各国政府がどれほどHIV/エイズ対策に資金を投入しても、解決へまだまだ時間がかかることは確実だ。なぜか。

その答えは、(タンザニアの)Manzese地区のエデュテイメント(エデュケーションとエンターテイメントを合わせた造語)の見物に来ていた地元住民の言葉に現れていた。

「この(コンドーム使用促進を進める)イベントは少なくとも7年前からやっている。この街の様子も集まる住民の身なりも、まったく変わらない。HIV陽性の奴らもこの地域は多いはずだ。
大人は毎日食べることに精一杯でHIVについて子どもに教育する余裕など無い。そもそも、コンドーム1パック(3つ入り)が200タンザニアシリング(約11円程度)で、そんなカネがあったら生活費に消えることがほとんどだろう」

つまり、HIV/エイズ問題の根底には貧困問題があり、それが教育の欠如につながり、問題解決を遠のかせているということなのだ。
Manzese地区などの貧しい地域の住民は、1日1.25米ドル(約2000タンザニアシリング)で暮らす家族がほとんどだ。コンドーム1パックは、1日の生活コストの10%程度ということになる。

タンザニアは、サブサハラ・アフリカの国々のなかでも比較的順調にHIV/エイズ対策が進んでいると言われている。世界基金などから投下される巨額の資金は、さまざまなHIV/エイズ対策プログラムに使われ、構築されたシステムも回っている。だが、問題の解決はまだまだ先だ。

タンザニアのGDP成長率は7.2%(2011~2015年予測、IMF)。しかしこの急成長は、例えばHIV/エイズの問題という暗い影の部分を孕みながら進む、アンバランスで脆いものだということが透けて見える。

その一端が、冒頭のムトワラの例だろう。資源開発による経済発展という光が当たっているが、同時にHIV感染率が上昇という影の部分もはっきりと現れている。

貧困対策とHIV/エイズ対策は、いわば車の両輪なのだ。この二つが揃って行なわれて、初めて脆い成長は足腰の強い成長へと変わるのかもしれない。(後略)【6月14日 DIAMOND online】
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タンザニアはサブサハラ・アフリカ諸国のなかでも、積極的にHIV対策を進めている国のひとつです。

“キクウェテ大統領も積極的にHIV対策に取り組んでいる。2007年7月~12月には、HIV/エイズのテスティングキャンペーンを行ない、キクウェテ大統領自らが、夫人と共にメディアに登場し、テストを受ける様子を広く国民に示した。大統領はそれだけではなく、自らの側近や軍幹部にもテストを受けるように指示し、各担当組織でテスト受けた人数を報告させるという徹底ぶりだった。”【同上】

そのタンザニアにおいてさえ、上記のような厳しい現実があります。

コンドームも買えない“貧困”にあっては、どんなにすぐれた治療薬が開発されても、公的な支援なしには患者の手に届くことはありません。たとえ安価なジェネリック医薬品であったとしても。

エイズの問題は“医療の問題”であると同時に、すぐれて“経済問題”“貧困問題”でもあります。

治療薬の開発に製薬企業は膨大な時間と費用をかけていますので、その資金の回収のためにはどうしても製品は高価なものとなってしまいます。
そのため、貧しい国あってはより安価なコピー薬(ジェネリック医薬品)が必要とされますが、開発企業の“知的財産”特許権と衝突します。

開発企業の“知的財産”特許権を無視しては、そもそも研究開発が行われなくなってしまうという側面がありますので、バランスのとれた配慮が必要とされます。

日本を含む環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉は越年が確実となっていますが、争点のひとつが「知的財産」の問題です。

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難航分野の多くは、交渉を主導する米国が高いレベルの自由化を求め、新興国が難色を示す構図となっている。

「知的財産」では、ディズニーなど有力コンテンツを持つ米国が著作権保護期間の延長を主張。新興国を念頭にDVDなどの海賊版取り締まり強化も求めている。

さらに、国内製薬業界の意向も背景に米国は新薬の特許期間延長も目指すが、新興国は「安価な後発医薬品(ジェネリック)の開発・普及が遅れ、国民に受け入れられない」と猛反発している。(後略)【12月8日 毎日】
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アメリカ製薬業界は、オバマケアの動向、ということはオバマ政権の命運をも左右する強いロビー団体だそうですが、どういう形で決着するのでしょうか。

****米当局、新しいHIV治療薬「ドルテグラビル」を認可--開発途上国への導入時期に疑問残る****
米国食品医薬品局(FDA)が2013年8月13日、HIV治療の新薬である「ドルテグラビル」を認可した。これを受け、国境なき医師団(MSF)は、この有望な新薬が途上国で入手可能となる時期については疑問が残ると指摘している。

これまでの研究では、強力なインテグレーゼ阻害薬ドルテグラビルがHIVウイルス複製の阻害に極めて有効であり、副作用も少なく、耐性獲得も阻むことが報告されている。

同種の医薬品や、広く利用されている既存治療薬と比較しても多くの利点が認められ、今後ドルテグラビルが富裕国で第一選択薬に含まれる可能性は大きい。

しかし、この治療薬が開発途上国の人びとにも入手可能となるかは定かではない。
製造者であるヴィーブヘルスケア社(ViiV Healthcare: ファイザー、グラクソ・スミスクライン、シオノギ製薬による合弁会社)が、低価格での提供に対して積極的な姿勢を示していないからだ。(後略)【8月14日 msn産経】
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