孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国による防空識別圏設定問題 中国側対応に“軌道修正”“トーンダウン”も

2013-12-03 23:30:42 | 中国

(12月3日 バイデン米副大統領(左)と握手を交わす安倍首相【共同通信デジタル】)

中国が東シナ海に設定した防空識別圏の問題については山ほどの記事がありますが、私のような素人には、そもそも“防空識別圏とは何か?領空とどう違うのか?”ということから始まって、“今回の中国の行動の何が問題なのか?”わかりにくい点が多々あります。

下記の高口康太氏の解説は、そのあたりについてわかりやすく説明されていると思いますので、全文を転載します。

****国際的慣例とは違う、異常な“中国式防空識別圏”、ルール作りの大ポカは中国自身のマイナスに****
■国際的慣例とは違う、異常な“中国式防空識別圏”、ルール作りの大ポカが中国自身の首を絞めることに■
2013年11月23日、中国が東シナ海に防空識別圏を策定したと発表。日米が強く抗議するなど、新たな緊張の火種となっている。

もっとも防空識別圏とは各国が勝手に制定していいもので、他国の防空識別圏や領空と重複しても特に問題はない。
ではなぜこれほどの火種となったのか。その根本には中国の防空識別圏が他国のそれとは異なる、異常な規定を持っているからにほかならない。

■防空識別圏とはなにか?
そもそも防空識別圏とはなにか?
多くのメディアが解説記事を出しているが、元航空自衛官・数多久遠氏による解説記事、「中国による尖閣上空への防空識別圏設定の意味と対策」 がわかりやすい。

ポイントをまとめると、
・防空識別圏自体はなんらかの権利を主張するものではない。
・自国の領空に進入する可能性がありそうな航空機を識別する範囲でしかない。
・徹頭徹尾、自国防衛のためのものなので勝手に制定してもいいし、他国と重複していても構わない。陸地で国境を接している国の場合、相手国の領空に防空識別圏がはみ出すことも普通。
・防空識別圏に不明機が入った場合、領空を侵犯しそうな問題のある航空機なのかを考え、無線で連絡したり、あるいは戦闘機をスクランブルさせて確認、警告する「こともある」。
・ただし防空識別圏に入ったこと自体はとがめ立てすることはできない。
というもの。

■中国が防空識別圏を設定するのは自由
となると、中国が防空識別圏を策定するのはどうぞご自由にという話になるし、むしろ今までも公表してなかっただけであったんでしょ?ないならびっくりですわということになろう。

最大の懸念は、尖閣諸島上空で日中の戦闘機が対峙、なんらかの偶発的衝突が起きるという可能性だろう。
船の場合と違い、戦闘機同士のにらみ合いではリスクははるかに大きなものとなりそうだ。

ただしこれも究極的には防空識別圏とは関係ない。中国側の主張では尖閣諸島は彼らの領土。その上空を飛ぶことは当然の権利という話になる。
防空識別圏を策定、公開しようがしまいが、中国のロジックではいつでも巡視飛行が可能だし、その領空に日本機が進入すれば中国機も出動することになる。
つまり戦闘機同士の対峙と防空識別圏にも根本的には関係はないということになってしまう。

■異常な中国式防空識別圏
ならば、今回の防空識別圏策定は特に騒ぎ立てるような必要性はないのだろうか。
それは違う。中国政府はは国際慣例に従って策定したと繰り返し表明しているが、実は中国の防空識別圏は上述してきたような「普通」のそれとは異なるものだからだ。

23日に発表された「中華人民共和国東シナ海防空識別圏航空機識別規則公告」がそのことを明示している。

まず第一条からして「中華人民共和国に東シナ海防空識別圏を飛行する航空機は必ずこのルールを守らなければならない」と、他国の航空機に義務を負わせている。以下、フライトプラン提出、無線通信ができるような状態にしておくこと、そして何より中国側の指示に必ず従うこといずれも義務としている。

従わなければ、「中国武装力量は防御的緊急処置対応をとる」と明記している。

繰り返しになるが、本来、防空識別圏とは自国防衛のため勝手に策定するもので、他国の航空機になにかの義務を負わせることはできない。
他国でもフライトプランを提出しているケースもあるが、それはあくまでお願いに過ぎない。

その意味で義務を強要する中国の防空識別圏は通常とは異なる異質のもの。米国がそんな必要はないと一蹴したのもむべなるかな、だ。

■中国式防空識別圏から通常の防空識別圏へ、静かな路線変更
なぜ、こんな異例なルールにしてしまったのかは定かではないが、やはり中国国防部の勘違いがあることは否めない。
そして、その勘違いは日米をはじめ各国が強く抗議する口実となっただけではない。中国国内の世論の対応に苦慮する困った状態を引き起こしている。

26日昼(北京時間)、米軍の爆撃機B-52、2機がフライトプランなしに中国の防空識別圏を飛行した。上述のとおり、米軍機に中国領空侵犯の意志はないため、米軍に事前通告の必要性もなければ、中国がアクションを起こす必要性もない。通常の防空識別圏の解釈であれば、そういうことになろう。

ところが中国式防空識別圏のルールでみれば、米軍機は義務を怠ったことになる。一部の中国ネットユーザーは「撃墜してしまえ」などの脊髄反射書き込みをネットに残しているが、それも中国式防空識別圏としては当然の話なのだ。
おそらくはこうしたネットの盛り上がりに対応して中国国防部は27日、B-52飛行に関する臨時の記者会見を開いた。そこで「米軍機飛行の全過程を監視し、すみやかに識別し機種も判明していた」と発表している。

本来は防空識別圏に進入されようとも発表する必要はないのだが、通常の防空識別圏としてやるべき仕事はちゃんとやっていたというアピールだ。

ただし中国式防空識別圏としての義務は果たしていないように思われるのだが。
大々的に発表したルールは中国軍の手足を縛るものとなり、「ちゃんと仕事をしているのか」とネットユーザーが突き上げる口実を与えてしまった。

23日のルール発表後、中国側は義務を意味する言葉を使用しなくなっている。代わりに多用されているのが「各関係者は積極的に協力し、ともに飛行の安全を守って欲しい」という言葉。中国式防空識別圏から通常の防空識別圏へと軌道修正を図っているようにも読める。【11月28日 高口康太氏 KINBRICKS NOW http://kinbricksnow.com/archives/51879719.html
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本来、防空識別圏とは各国が自衛的観点から勝手に設定しているもので、重複していたり、相手国領空にはみ出していたりすることは普通にあるもののようです。

国際的慣例に従った“まともな”防空識別圏の設定なら、日本にとって好ましい話ではないにせよ、中国の言うように、自分は44年も前から勝手に設定しておいて、中国が設定するのに文句を言うのは筋違いだ・・・という話になります。

また、高口氏も指摘しているように、尖閣諸島上空での緊張云々は、互いが自国領土としている以上、根本的には防空識別圏があろうがなかろうが存在する問題です。

今回の中国による防空識別圏設定の問題は、中国側の“義務付け”に従わない場合は「中国武装力量は防御的緊急処置対応をとる」といった、“まともでない”点があるところです。

どうも中国側もそのあたりの認識が不十分だったのではないか・・・というのが、上記の高口康太氏を含めて大方が指摘しているところです。

ただ、いかに国際情勢に疎いとしても、国防を決定する立場にある者がそのあたりの理解が不十分だった、あるいは勘違いしたというのは考えにくいようにも思えますが・・・。

****中国主席が4カ月前決断=防空圏「戦略的争い」―香港誌****
香港誌・亜洲週刊の最新号は中国中央軍事委員会に近い消息筋の話として、東シナ海の防空識別圏設定は4カ月前に習近平国家主席(中央軍事委主席)が決断したと伝えた。

同誌によると、東シナ海の防空識別圏設定はかなり前から人民解放軍が提案していたが、共産党指導部は取り上げていなかった。習主席はこの決断に関連して、東シナ海をめぐる日中関係は「資源の争いから戦略的争いに変化した」との見解を示したという。

また、この消息筋は東シナ海の防空圏に関して、中国艦艇が外洋に出る際に通過する宮古海峡をにらんだものだと指摘した。【11月30日 時事】
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****防空圏設定1週間 世界が非難 中国迷走****
 ■無通告の進入に抗議せず/トーンダウン「平和維持」/米の反発は「誤算」分析も
中国が東シナ海に防空識別圏を設定したと発表してから30日で1週間を迎えた。

地域の現状を一方的に変えようとする中国のやり方に対し、周辺国などは強く反発した。日米韓は中国に通告せず、圏内に航空機を進入させたが、中国軍はほとんど対応しておらず、“調整不足”だった可能性もある。

国際社会の厳しい反応に対して中国外務省は声明のトーンを微妙に変えるなどしており、迷走しているようにもみえる。

防空圏の設定を発表した直後、中国当局は周辺国に対し有無を言わせない強硬姿勢を示した。各国に対し、圏内に入る航空機の飛行計画の事前提出を要求したほか、不審機に対し「中国軍が防衛的な緊急措置を講じる」という“恫喝(どうかつ)”とも受け取れる表現を使った。

日米政府が防空圏の設定について中国政府に抗議すると、中国の外務省は日米双方に対し「無責任な発言をやめるように」と逆に抗議した。

しかし、防空圏設定で中国を非難する声は、日米にとどまらず、オーストラリア、韓国、台湾、東南アジアや欧州にも広がったことを受け、中国に態度の軟化がみられた。

中国外務省の秦剛報道官は11月25日の定例会見で、防空圏に韓国が遺憾の意を表明したことについて「中韓は友好な近隣国であり、私たちは韓国側と対話を通じて地域の平和と安全を維持したい」と“弱気”とも取れる発言をし始めた。

さらに、26日から28日にかけて、米軍の爆撃機をはじめ、自衛隊機、韓国の軍用機も中国の防空圏に無通告で入ったが、中国軍は軍用機を緊急発進(スクランブル)させるなどの強制的な手段を取らなかった。中国外務省は各国に抗議すらしなかった。【12月1日 産経】
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中国がどういう思惑で設定したにせよ、いったん発表したものを各国から批判されたからと言って取り下げることは100%ありえません。

ただ、中国側の対応に“軌道修正”“トーンダウン”が見られるなら結構な話で、勇ましい非難合戦に終始するだけでなく、公式・非公式のルートを通じて中国側の対応を国際的慣例に沿う形にもっていくことが重要でしょう。

中国の設定した防空識別圏は認めないという立場の日本政府と共同歩調をとっていたと思われたアメリカが、29日、アメリカの民間機が中国の設定した防空識別圏を飛行する際、中国側に飛行計画などを事前通知することも容認する国務省の考えを示したことで、日本側に困惑があることも報じられています。

****日本、真意つかめず困惑 米の柔軟方針「寝耳に水****
日本政府にとって、米国務省が米民間航空機に示した解釈は「寝耳に水」だった。30日午後、ニュースを聞いた外務省幹部は「情報がなく、対応のとりようがない」と困惑した。

外務省は米側に照会。外務省が受けた回答は「米政府から民間航空会社に要請をした事実はない」だったという。首相官邸や外務省は「米国は中国の防空識別圏設定を認めていない」と強調。国土交通省は航空各社に飛行計画を出さないよう求める方針に変わりはない、とした。

中国の一方的な防空識別圏の設定について、日本政府は一貫して強気の姿勢をとってきた。当初、国内航空各社は、中国の航空当局の要請に従って飛行計画を出した。しかし、日本政府は、中国の設定した防空識別圏は認めない、という立場から、航空各社にも飛行計画の提出を中止するよう求めた。

さらに自衛隊機と海上保安庁の航空機を事前通告なしに中国の設定した防空識別圏を飛行させ、「中国の設定は認めない」という立場を鮮明にした。

その日本政府にとって、同じく強硬姿勢をとる米国は心強い仲間と映った。26日に米国が爆撃機を同空域に飛行させると、日本政府内に歓迎の声が上がった。

しかし、米政府が民間機では安全を優先したとすれば、日本とは対応で足並みが乱れる。外務省幹部は不安を漏らす。「米政府は、安全を求める民間航空会社と日本の両方の立場に配慮して、どちらとも取れる表現をしたのかもしれない」(後略)【12月1日 朝日】
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訪中に先立ってのバイデン米副大統領訪日は、こうした日米の対応を調整する意味もあって注目されました。

****中国防空圏、日米が緊密連携 首相と副大統領一致 ****
安倍晋三首相は3日、バイデン米副大統領との会談後の共同記者発表で、中国の防空識別圏設定について、中国の力による一方的な現状変更の試みを黙認せず、日米が緊密に連携して対応することで一致したことを明らかにした。

自衛隊と米軍の運用を含む日米の対応を一切変更せず、民間人の安全確保を脅かす行動は一切許容しないことで一致したとも説明した。

バイデン氏は「東シナ海における現状を一方的に変えようとする試みを米国は深く懸念している」と表明。訪中の際に中国指導部に懸念を伝える考えを示した。「日本と中国の危機管理メカニズム、コミュニケーションの効果的なチャンネルの必要性が示されている」と述べた。(後略)【12月3日 日経】
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バイデン米副大統領は、訪中の際に中国指導部に“懸念”を伝える考えを明らかにしてはいますが、“撤回を求める”とは明言していないようです。

現在の日中間の険悪な雰囲気、日本側にある対中不信感・警戒感を考えると非常に言いづらいところですが、中国の立場からすれば、国力の向上に伴って、それに見合った存在感を示したいという意向は自然な流れです。

それが恫喝的であったり、力で現状をひっくり返そうとするものであっては認められませんが、すべてを44年前と同じ状況に封じ込めようとし、いかなる現状変更も一切認めないというのでは、無用の緊張を生み出すだけのように思えます。

国際情勢の変化を踏まえたうえで、日中双方が国際的慣例に沿う形で関係を調整する現実的な対応をとることを期待します。

両国世論も冷静な対応が求められるところですが・・・。
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