孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「幽霊国家」中央アフリカ  フランスが国連安保理の承認を得て介入

2013-12-07 22:25:23 | アフリカ

(首都バンギの空港を守るフランス軍兵士 10月10日 “flickr”より By World Aymies http://www.flickr.com/photos/46146685@N04/11227659645/in/photolist-i79G3H)

【「幽霊国家」】
文字通りアフリカの中央部に位置する「中央アフリカ」

隣国コンゴやスーダン同様に、この国も内戦の混乱にあることは、11月8日ブログ「コンゴ:反政府武装勢力M23が降伏 中央アフリカ:忘れられた人道危機」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131108)で取り上げました。

また、旧宗主国フランスが介入姿勢を強めていることは、10月21日ブログ「中央アフリカの混乱拡大 フランスは介入姿勢を強める」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131021)でも取り上げました。

 
****幽霊国家」が崩壊? 中央アフリカの異常事態****
既に無秩序状態にある国で虐殺が拡大 新たなテロの巣窟化に国連も警鐘を鳴らすが

アフリカ大陸のど真ん中にある内陸国で、今また殺戮とレイプの連鎖による深刻な人道危機が起きている。

多くの宗教が混在する中央アフリカ共和国で、少数派のイスラム系武装勢力が貧しい子供たちに武器を持たせ、「聖戦」の先頭に立たせようとしている。このままだと新たなジェノサイド(大虐殺)が起き、国そのものが空中分解しかねない。

旧宗主国フランスは既に、首都バンギに治安維持の名目で400人の兵を駐留させており、さらに1000人規模の増派を準備している。事態を重く見た国連も現地に展開する平和維持部隊の強化を検討中だ。
アフリカ連合からも既に中央アフリカ国際支援任務(MISCA)として2500人の兵士が送り込まれ、来年には3600人にまで増やすという。

中央アフリカは、人呼んで「幽霊国家」。1960年の独立以来、相次ぐ動乱の歴史をたどり、残虐な独裁者や無能な政府が続き、いまだ国家としての体を成していないからだ。

今回の紛争は、北部でイスラム教徒主導の反政府勢カセレカが武装蜂起した昨年12月に始まった。
中央アフリカの人目の半分以上はキリスト教徒で占められ、イスラム教徒は全体の15%程度にすぎないが、セレカは今年3月にバンギを制圧しキリスト教徒のボジゼ大統領を失脚させた。9月にセレカの中心的指導者ミシェルージョトディアが暫定大統領に就任。1年半の移行期間を経て、15年までには総選挙を実施すると宣言した。

しかしジョトディアが自らの地位の正統性を確保するためにセレカの武装解除を打ち出すと、政権奪取に貢献した戦士の多くが猛反発し、国内各地で暴れるようになった。ジョトディア自身、もはや傍若無人な武装集団の行動をコントロールできないと認めている。

国民10人に1人が避難民
国連のヤンーエリアソン副事務総長は先週、この国は「私たちの目の前で全面的な混沌状態」に陥りつつあり、「大規模な残虐行為」が起きていると警鐘を鳴らした。

「国民は想像を絶する苦難を耐え忍んでいる」と、エリアソンは現地調査団の報告を踏まえて語った。「少年兵の増加や性的暴行の拡大。各地で略奪や違法な検問、恐喝、逮捕、監禁、拷問、処刑が報告されている」
調査報告書には、セレカに対抗するために組織されたキリスト教徒の自警団による蛮行もいくつか記録されている。

セレカ系の武装集団はキリスト教徒の村々を襲撃して女性をレイプし、子供や男性を殺害し、殴打して縛ったまま川へ投げ込んだりしている。
住宅や商店は火を放たれ、商品などが略奪されている。役所の建物内部も荒らされ、書類が燃やされている。
国連によれば、既に人目の10%近くに相当する推定40万人が国内避難民となっている。

特に荒れているのは北西部だ。首都から北へ300キロほどのボサンゴアにあるカトリック教会の周囲には、3万人以上のキリスト教徒が避難している。
そして町の反対側にあるイスラム教の学校の前にもイスラム教徒数百人が身を寄せている。このままだと無差別の殺戮が始まりかねない。「地域社会間の調和が恐怖に取って代わられた」と、エリアソンは言う。

統治と治安の空白に国外のテロ組織が付け込んで勢力を伸ばす恐れもある。既にウガンダの凶暴な武装集団「神の抵抗軍(LRA)」が拠点を築いたとされ、ナイジェリアやスーダン、マリのイスラム過激派も国境を越えようとしていると、フランスや国連は指摘している。【12月10日号 Newsweek日本版】
******************

「破綻国家」「失敗国家」「崩壊国家」という言葉はときおり目にしますが、中央アフリカの場合、そもそも独立以来国家の体をなしたことがないということで「幽霊国家」・・・ということのようです。
たまたまこういう国に生まれあわせた人々は不幸です。

イスラム系武装組織“セレカ”のリーダーで、8月に大統領就任式を挙行したジョトディア氏(上記記事では9月)は“セレカ”の解散を表明していますが、混乱に拍車をかけ、無秩序状態が拡大しているようです。

首都バンギでは5日、宗教対立に起因するとみられる戦闘で120人以上が死亡しています。

************
バンギで取材しているAFP記者らが、首都内のあるモスク(イスラム礼拝所)に集められた遺体を数えたところ、その数は54人に上った。また周辺の路上にも25人の遺体が並べられているのが見つかり、そのうちの多くが殴られたり斬りつけられたりして死亡していたという。

この事件を受けて、仏軍はすでに同国入りしていた部隊のうち250人を首都中心部に配置。またミシェル・ジョトディア暫定政府大統領は夜間外出禁止令を出した。(後略)【12月6日 AFP】
*************

これまで夜間外出禁止令が出ていなかったということは、首都での戦闘はあまりなかったということでしょうか。

オランド大統領「状況は切迫しており、行動を決意した」】
この事態に、旧宗主国フランスは11月26日、中央アフリカに1000人規模の仏軍を増派する方針を明らかにしました。すでに首都バンギに駐留する仏軍410人と合流し、周辺国が展開する平和維持活動部隊を支援する方針です。

10月21日ブログでも取り上げたように、(当然のことですが)あくまでも国益との関連で介入を判断するフランスは、マリのイスラム過激派南進に素早く反応して積極介入したときと比べると、中央アフリカには慎重姿勢でのぞんできました。

***********
(3月末からの混乱拡大で300人規模の増派を行い、首都空港を確保しているものの)任務は現地在住の自国民1200人の安全確保に限定。内政不介入の姿勢で暫定政権への支持も表明していない。

仏が慎重姿勢である理由は▽1月に軍事介入した西アフリカのマリより周辺地域の仏権益が少ない▽イスラム教徒人口が少なくイスラム過激派の温床となる可能性が低い−−などだ。【4月11日 毎日】
***********

しかしながら、混乱の拡大で影響力を有する旧宗主国としてもはやこのまま放置できない・・・ということと、Newsweek記事にもあるように“統治と治安の空白に国外のテロ組織が付け込んで勢力を伸ばす恐れ”を無視できなくなったということでしょう。
また、国内経済対策の不調でかつてないほどの低支持率にあえぐオランド政権には、こうした国外での“活躍”しか国民へのアピール手段がないのかも。

フランスは、自国だけの判断による介入ではなく、国連安保理決議の枠組みでAU部隊を支援する形を求めています。

****中央アフリカ共和国:安保理、仏軍介入を承認*****
イスラム教徒とキリスト教徒の宗教間暴力で治安が急速に悪化している中央アフリカ共和国情勢を巡り、国連安全保障理事会は5日、アフリカ連合(AU)主体の部隊の展開と、フランス軍の介入を承認する決議案を全会一致で採択した。

旧宗主国のフランスのオランド大統領は国連決議を受けた5日夜の演説で「状況は切迫しており、行動を決意した」と述べ、本格的に軍事介入する意向を表明した。現在、仏人保護目的で600人規模の仏軍が駐留しているが、数日以内に1200人に倍増する。

決議は国連憲章7章(平和への脅威)に基づき、AU部隊が市民保護などの任務にあたることを決定。周辺国で組織する2500人規模の部隊を3600人規模にまで増強する。派遣期間は1年。仏軍はAU部隊を支援するため「必要なあらゆる手段」を取ることが許される。中央アフリカへの武器禁輸措置も導入された。【12月6日 毎日】
*****************

イギリスもフランスを支援する体制をとっていますが、直接の関与はしない方針のようです。

****フランス軍が軍事介入を開始、無政府状態の中央アフリカ*****
大統領追放後に無政府状態が続くアフリカ中部、中央アフリカ共和国の情勢で旧宗主国フランスは6日、反政府武装勢力掃討のための軍事作戦を首都バンギで開始したと発表した。
アフリカ連合(AU)軍と仏による軍事介入は5日、国連安全保障理事会が決議で承認した。中央アフリカへの武器禁輸も承認された。

ルドリアン仏国防相は6日朝、仏ラジオ局で軍事介入の開始を発表。バンギなどに在住するフランス人の安全確保、首都の空港警備などを主要目的とする作戦を遂行すると述べた。バンギ市内の見回りにも着手した。
作戦に当たる仏軍部隊への増派は数百人規模になる見通し。

英国のヘイグ外相は6日、英軍機が仏軍装備品を中央アフリカに輸送する支援業務を担うと述べた。
AU軍も既に到着したが、人権団体は仏軍と合わせ、国内の政情混乱を正常化させるには十分な兵力ではないと指摘した。

バンギでは国連決議が可決される直前の数時間、大統領宮近くなどで激しい銃撃戦が発生。援助団体「国境なき医師団」によると、首都で2日間続いた戦闘で病院に運ばれた遺体は6日午後時点で92体に増えたと証言した。

国内騒乱による犠牲者総数は治安が悪い遠隔地もあり、把握されていない。国連は、総人口の約1割に当たる40万人以上が自宅などから避難を強いられていると報告した。

同国では独立以来、クーデターが多数発生、今年3月には結託したイスラム武装勢力が当時のボジゼ大統領の政権を打倒し、政情がさらに悪化した。キリスト教徒の自警組織などが武装勢力と衝突している。【12月7日 CNN】
****************

動かぬアメリカ 積極介入のフランス
一方、シリア・イランでも動かなかったアメリカは「アフリカはフランスにまかせた。頑張ってくれ!」といった感じで、アフリカでの介入を積極化させるフランスとは対照的です。

****仏軍の作戦を称賛=米****
米国務省のハーフ副報道官は6日声明を出し、フランス軍が中央アフリカで治安回復作戦に着手したことを「称賛する」と述べた。その上で、同国の治安悪化は「人道の危機と残虐行為の危険性を増す」として深い懸念を表明した。

声明はまた、フランスの強い指導力と仏軍による「アフリカ主導中央アフリカ国際支援団(MISCA)」の支援は、全ての関係当事者に暴力の停止を呼び掛ける強いメッセージになると強調した。【12月7日 時事】 
***************

本来は、アフリカ諸国で構成するアフリカ連合(AU)部隊がもっと早い段階で混乱を鎮めるべきところですが、十分に機能していないことは10月21日ブログでも取り上げたところです。

リビア、マリに続いて介入を決断したオランド大統領の思惑は別として、現地住民の安全を考えると「忘れられた人道危機」とならないよう、フランスの介入でとにかく今の混乱を落ち着かせてもらいたいものです。

早期決着のマリの情勢に変化も
ただ、フランスにとっては、早期決着ができれば“活躍”になりますが、長引くと“重荷”になります。
マリの介入は早期決着の成功例のように思われましたが、少し雲行きが怪しくなっています。

****なぜフランスはマリ駐留部隊を増強するのか****
フランスのバローベルカセム報道官は、西アフリカ・マリでラジオ局ラジオ・フランス・アンテルナシオナル(RFI)の記者2人が殺害された事件で、「テロ追放のため、仏部隊を強化することになる」と明らかにした。

これまでフランスは、現地の3000人規模の部隊を来年1月には1000人まで縮小する予定だったが、今回の事件によって事態は大きく変化し始めることとなった。

今年1月から軍事介入
今年1月、フランスは無政府状態に陥っているマリへの軍事介入を始めた。マリ暫定政府の要請に応える形で、北部地域を支配するイスラム武装勢力に対する空爆をおこない、この軍事介入にアフリカ連合(AU)や西アフリカ諸国経済共同体らは歓迎する姿勢を示していた。(中略)4月から5月にかけて作戦は概ね終了し、フランス軍は撤退を開始することとなっていた。

記者の殺害
ところがその後も武装勢力によるフランス軍への攻撃が続いており、軍は警戒を続けていた。そして今月2日、マリ北部の分離独立を主張する遊牧民トゥアレグ人組織幹部へのインタビューをおこなうためキダルへ入ったRFIの記者が殺害。過激派組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織」が6日に犯行声明を出し、フランス国民およびフランソワ・オランド大統領に対する最低限の報復であると述べた。

現在のところフランスは事件に関与した疑いで10数人の身柄を拘束しているが、逮捕者は出していない。
この事件を受けて、フランスのマリ戦略は転換を迫られることになる可能性があり、部隊の増強はこうした中で決定された。【11月10日 The New Classic】
***************

フランスは、仏記者殺害事件が起きたキダルに展開する200人の仏軍部隊に150人を追加派遣しましたが、ファビウス外相は、記者殺害で「仏軍の撤収計画全体が問題になるわけではない」としています。

もうひとつ、マリ情勢で気になる報道もあります。

****遊牧民組織が「戦争」宣言=政府軍発砲で死者と主張―マリ****
マリ北部の分離独立を掲げる遊牧民トゥアレグ人の武装組織「アザワド解放国民運動(MNLA)」は29日、抗議行動中のトゥアレグ人が殺害されたとして、政府軍に対する「戦争」を宣言した。マリは、議会選の決選投票を12月15日に控えているが、再び情勢が緊迫する恐れが出てきた。

AFP通信によると、マリ北部キダルで28日、リー首相の訪問を阻止するため、数百人のトゥアレグ人が空港を占拠。MNLAは、排除を試みた政府軍の発砲で1人が死亡、女性や子供を含む数人が負傷したと主張し、「これは(MNLAへの)宣戦布告だ。どこで政府軍兵士を見つけようが襲撃する」と宣言した。【11月30日 時事】 
***************

遊牧民トゥアレグ人組織とフランス軍はこれまで協力関係にあったと見られていますが、政府軍との関係が悪化するとマリは再び混乱します。
軍事介入は撤退が難しいのは、イラクやアフガニスタンが示すところです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする