(賃上げを求めるマクドナルドなどファストフード労働者のスト “I’m worth more”・・・言いたいところはわかります。 一方、経営サイドからは“デモに参加しているのはほとんど「比較的少ない」労働組合のメンバーであり「全国労働組合グループが工作したキャンペーンを抗議デモと呼んでいる」”との批判も。 “flickr”より By John Orvis http://www.flickr.com/photos/55964567@N04/11227334035/in/photolist-i782fK-i6VYXk-i6Wz6i)
【11月雇用統計の予想外の改善で、量的緩和の早期縮小論議も】
アメリカ経済の話と言えば、先日世界中が大騒ぎした債務不履行(デフォルト)につながる債務上限引上げの問題、政府機関一部閉鎖をもたらした暫定予算の問題、その背景にある議会の与野党対立による機能不全・・・という諸問題があり、現在はとりあえずの一時しのぎ状態にすぎず、年明けには再燃が強く懸念されています。
その話は今回はさておき、アメリカ景気の話。
なんだかんだ言っても、アメリカ経済の動向は、日本を含めた世界経済の動きに大きく影響します。
6日に発表された11月雇用統計は市場の予想を大きく上回る良い数字でした。
これを受けて、これまで米連邦準備制度理事会(FRB)が続けてきた量的緩和策が縮小される時期が早まるのではないかとの観測が出ています。
****米国:量的緩和、早期縮小観測が再燃 就業者数大幅増で****
11月米雇用統計(6日発表)が好内容となり、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)による早期の量的緩和縮小観測が再び台頭した。11月は就業者数が大幅に増えた上、失業率も5年ぶりの水準に低下。
「雇用回復は鮮明で、FRBは月内にも緩和縮小を決める」(投資会社)との声が出ている。
一方で「雇用の回復力を判断するには材料不足」(米証券)との見方も根強く、FRBが今月17、18日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)の行方が注目される。
11月雇用統計は、景気動向を反映する非農業部門就業者数が前月比20万3000人増と、市場予想(18万人増)を大きく上回った。失業率も7・0%と前月から0・3ポイント低下。就業者数は9〜11月の月平均で約19万3000人増と、失業率を安定的に引き下げるのに必要とされる20万人に近い水準となった。
FRBのバーナンキ議長は今年6月、経済・雇用の持続的な回復を前提に、米国債など月850億ドルの資産を購入する量的緩和策の縮小に年内にも着手する姿勢を打ち出した。
5日発表の今年7〜9月期の米実質国内総生産(GDP)改定値も前期比・年率で3・6%増と1年半ぶりの高い伸びとなり、市場では「早期の緩和縮小に向けた根拠が示された」(米調査会社)と、12月や来年1月のFOMCでの縮小開始説が台頭した。
ただ、失業率低下は、10月の米連邦政府機関再開に伴う特殊要因も影響。感謝祭商戦の不振が伝えられるなど個人消費にも先行き不透明感が漂う。このため、市場では緩和縮小開始は早くて来年3月との見方も根強い。
物価上昇率がFRB目標の2%を大幅に下回っていることや、次期FRB議長に指名されたイエレン氏が11月の議会証言で量的緩和縮小を慎重に判断する姿勢を強調したこともこの見方を後押ししている。
ただ、FOMCメンバーには早期の緩和縮小論者も複数おり、今月の会合で激論が交わされそうだ。【12月8日 毎日】
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“量的緩和”とは、アメリカの中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)が国債や証券などを買い入れることで、世の中のお金の量を増やすための政策です。
従来の金融緩和政策では、「金利」を調整する方法(景気回復のためには金利を下げる)が重視されてきました。
しかし、金利がほぼゼロに近い状態にまで下がってしまっている場合には、これ以上金利を下げることはできませので、「金利」ではなく「資金量」に着目した政策が行われるようになっています。
アメリカの量的緩和策は2008年から実施されています。
QE1(キューイーワン)は、サブプライム・ローン問題から波及した金融危機に対応するため、2008年11月~2010年6月に実施された量的緩和政策の第1弾で、1兆7250億ドルが供給されました。QE2(キューイーツー)は、米国の景気回復ペースの鈍化を受けて、2010年11月~2011年6月に実施された量的緩和政策の第2弾で、6000億ドルが供給されました。
現在行われているQE3(キューイースリー)は、労働市場(雇用)を刺激して景気を回復させるため、2012年9月に導入された量的緩和策の第3弾です。
市場から住宅ローン担保証券(MBS)を追加的に買い取って、大量の資金を供給しています。【有馬秀次氏「金融用語辞典」http://www.findai.com/yogo001/0054y01.html より】
市場には、量的緩和策が縮小されると金回りが悪化し、景気回復の足を引っ張ることになるのでは・・・との警戒感が強く存在します。
そのため早期縮小につながるような予想外の景気回復が発表されると、市場は逆に下げるのでは・・・とも見られていました。
しかし、実際のところは11月雇用統計発表を受けて、ニューヨークのダウは200ドル近い上げ幅を記録、合わせてドルが買われるという結果とななっています。
市場の動きと言うのはなかなかわからないものです。
【“時代遅れになったスキルしか持たない労働者は労働市場から追放されている”】
ただ、最近の失業率の改善については、職探しを諦めてしまった人が増えたことで、見かけ上の数字が低く出ているのでは・・・との指摘もあります。
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・・・・もっとも、すべての面で米国経済がバラ色というわけではもちろんない。米国の生産年齢人口は移民が増大していることもあり、毎月増加している。だが労働人口は逆に減少し、非労働人口は増えてきている。これは職探しを諦めてしまった人が増えたことを示唆している。彼等は失業率の母数にはカウントされないので、見かけ上の失業率を低くする効果があるわけだ。
つまり、米国経済はリーマンショックを境にその構造を大きく変えてきており、時代遅れになったスキルしか持たない労働者は労働市場から追放されているのである。これを米国経済のダイナミズムとして肯定的に捉えるか、格差拡大の元凶であるとして否定的に捉えるかは、経済のあり方に関する価値観で大きく変わってくるだろう。
【11月12日 ニュースの教科書】
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“時代遅れになったスキルしか持たない労働者は労働市場から追放されている”という表現は残酷な響きがありますが、アメリカでも日本でも現実の問題です。
まさに上記指摘のように、経済構造の前進を促すダイナミズムと捉えるか、経済格差拡大をもたらす元凶ととらえるかで、対応が全く異なってきます。
労働市場から追放された“時代遅れになったスキルしか持たない労働者”は、失業保険給付もやがて打ち切られることになります。
****米緊急失業保険延長なければ24万人の雇用喪失の恐れ-米政府****
オバマ政権は今月28日に期限切れを迎える緊急失業保険制度の延長問題について、失効すれば来年最大で24万人の雇用が失われる可能性があると警告し、延長を主張する議会民主党を後押しした。
米大統領経済諮問委員会(CEA)と労働省がまとめた報告書によれば、2008年の導入以来繰り返し延長されてきた緊急失業保険制度が失効した場合、130万人が直ちに給付を打ち切られると推定される。来年中にはさらに360万人が給付を受けられなくなる見込みだ。
報告は現在の7.3%の失業率 に言及し、「これほど失業率が高い中で議会が制度を失効させた例はない」と指摘した。
報告はまた、失業給付が打ち切られた場合、求職者の収入は減り、消費が押し下げられると説明。この結果需要が縮小し、最大24万人の雇用が失われる恐れがあると分析した。
オバマ大統領は議会に対し、年末の休会前に制度延長を承認するよう求めている。しかし下院共和党は、米経済が第2次大戦後最悪のリセッション(景気後退)を脱して4年余りが経過する中で、延長に慎重な姿勢を示している。
【12月6日 Bloomberg.co.jp】
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オバマ大統領は、失業保険給付打ち切りは消費を押し下げ、景気を悪化させると、給付延長を求めています。
これに対し共和党などは、給付を延長することは、失業前と同じような職種、自分の希望にあった職種しか探そうとしない失業者のわがまま、自助努力の不足を助長するものだと反論しています。
資本主義経済のダイナミズムを重視するか、個人の生活を重視するかという問題でもあります。
【「仕事がないよりはましだが、貧困層から抜け出すことはできないだろう」】
仕事には従事しているが、生活に十分な賃金が得られていないという貧困労働者の問題もあります。
日本でも、非正規雇用の拡大などに伴ってワーキングプアが問題視されてきていますが、アメリカでも、多くの先進国でも同様傾向が見られます。
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景気回復で生まれた雇用の大半は、ファストフードの食品加工やレジ係、小売店の販売員など、時給が約13.5ドル以下の低賃金労働だが、米雇用統計の試算では、2010~20年の10年間で最も成長が見込まれる職業30種の大半が、こうした仕事である。
年収にすると、ファストフードの接客や食品加工などの外食産業(10年時点での中央値が1万7950ドル)、レジ係(同1万8500ドル)、清掃作業員(同2万2210ドル)、ウエートレス・ウエーター(同1万8330ドル)など、3万ドルに満たないものが多い。【2月21日 肥田美佐子氏 WSJ】
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アメリカ貧困層は2012年統計で15%と横ばいとのことですが、ロイター通信では“アメリカ統計局は、「政府の貧困撲滅計画は、この国の貧困者の数を昨年(2012年)から減らすことができておらず、その数は、人口の16%、5000万人に及ぶ」と強調”とも報じられているようです。
****米国の貧困層、全人口の15%で横ばい?最貧困層は増加****
米政府の定める貧困ラインを下回る、貧困層の割合は2012年の統計で横ばいとなった。景気後退(リセッション)中やその後の増加傾向が一服している。
ただ貧困層の大半は、ここ数年に比べ貧困の度合いがさらに厳しくなっていることも明らかになった。
国勢調査局の人口動態調査によると、全人口の約15%が貧困ラインを下回った。貧困ラインの定義は四人家族の年収が2万3492ドルとされている。それでもリセッションに陥る前の2007年の12.5%を依然として大きく上回っている。
また、12年の統計によると、年収が公式貧困ラインの半分またはそれ以下の「最貧困層」は、全人口の6.6%にあたる2040万人となった。00年の4.5%から悪化した。最貧困層はこの40年で増え続け、1975年の3.7%から2倍近くになっている。
貧困層のうちの44%が最貧困層と考えられ、リセッション前の42%から上昇し、1975年の統計開始以降、最悪の水準に近づいた。
多くのエコノミストは、60年代に開発された政府の貧困尺度には欠点があり、社会福祉などの手当が考慮されていないと指摘する。失業保険の受け取り分は含まれているが、給付付き勤労所得税額控除(EITC)やフードスタンプ(補助的栄養支援プログラム)は含まれない。
フードスタンプが所得として考慮される場合、400万人が貧困層から脱出できる。連邦政府統計はまた、各州で異なる生活費なども考慮していない。
エコノミストは、最貧困層の増加の理由として、1990年台の福祉改革以降進んだ、子どものいる、極めて所得の低い家族向けの現金給付削減や、景気の減速、07年~09年のリセッション以降続いている失業率の高止まりなどを挙げる。
ミシガン大学社会福祉大学院のルーク・シェファー助教授は「最貧困層の人々は、雇用市場で競争性が最も低く、一つの職に対して多くの求職者が集まる場合、入り込むのが難しい」と述べた。
ニューヨークのラッセル・セージ財団のシェルドン・ダンジャー理事長は、米国が貧困層の割合を低下させるには力強い経済成長を持続させる必要があると述べた。
米経済は遅々としたペースながらも拡大し、多くの貧困者も職を得られているが、得られた職は小売りなど給与も安く、十分な勤務時間も認められていないことが多い。
理事長は「仕事がないよりはましだが、貧困層から抜け出すことはできないだろう」と語った。(後略)【10月16日 WSJ】
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最近話題になっているのは、ファストフードチェーンの従業員たちの賃金引上げ要求です。
****米ファストフード従業員、100都市で賃上げスト****
全米で5日、ファストフードチェーンの従業員たちが「生活可能なレベル」まで賃金を引き上げるよう求めて全日ストライキを決行し、ハンバーガー大手マクドナルドやドーナツ大手ダンキン・ドーナツを始め各チェーン店舗に影響が出た。
ストライキはニューヨークやピッツバーグ、チャールストンなどを含む全米100都市で計画された。
米ファストフード大手の賃金は連邦最低賃金の時給7.25ドル(約740円)が一般的だが、従業員らはこれでは生活が成り立たないとして、時給15ドル(約1500円)への引き上げを要求している。
従業員たちは今回の全日ストに先立って、昨年末と今年8月にも賃金引き上げを求める抗議デモを実施している。【12月6日 AFP】
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オバマ大統領は、現行の米連邦法定最低賃金7.25ドル(約680円)を9ドル(約844円)にすべきだと主張していますが、当然ながら経営者・保守派は反対しています。
*****最低賃金が先進国最下位の米国で賃上げ論争―時給9ドル構想で****
・・・・最低賃金が上がれば、企業はコスト上昇を恐れて採用を手控え、雇用が悪化し、経済回復が遅れる――。これが財界や保守派の主張だが、そもそも米国の最低賃金は、そんなに高いのか。答えはノーだ。
経済協力開発機構(OECD)の統計を見ると、先進国のなかで群を抜いて低い。2番目に安い日本(11年、9.16ドル)を大きく下回っている。トップのオーストラリアは、米ドル換算で15.75ドルという羽振りの良さだ。欧州勢も、ルクセンブルクが14.21ドル、フランス12.55ドル、アイルランド12.03ドル、オランダ11.38ドルという高さである。
米国では、日本と違い、基本的に交通費が支給されない。また、低賃金労働者のなかには、福利厚生を受けていない人も多い。
来年からオバマケア(医療保険制度改革)が完全施行されるが、すでに外食産業や小売り業界には、従業員への医療保険提供義務(週30時間以上の「フルタイム」に適用)を避けるべく、労働時間削減の動きなどが出ていると報じられている。こうした個人の負担を考えると、米国の最低賃金は、かなり低いと言わざるをえない。(後略)【2月21日 肥田美佐子氏 WSJ】
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反対派の主張には、賃金を引き上げると、機械化などの合理化が進み、雇用が失われる結果になる・・・という主張もあるようです。
【物価が上がって賃金がそのままだったら安倍内閣、日本は終わる】
さて、日本では安倍政権がアベノミクスの成否にかかわると、経済界に異例の賃金引き上げを要請しています。
****「賃金上がらなかったら我々は失敗」 甘利経済再生相****
■甘利明経済再生相
(消費増税で)物価が上がって、賃金がいつまでたっても上がりません、となったら経済は完全に失速します。
安倍総理があそこまで(経済対策を)やったのは、物価が上がって賃金がそのままだったら安倍内閣はいずれ終わるからだ。
安倍内閣が終わるだけだったらそれでいい。だけど、それから先の内閣は消費税にさわれなくなり、日本は終わる。
「だからここは慎重にやるんだ」ということで、あんな手順を踏んだんです。だから、賃金が上がってこなかったら、我々は失敗ですよ。来年の4月から消費税は上がりますから、物価は確実に上がります。あんまり遅れないで(賃金を)上げてもらいたい。
来年の春闘はすごく大事なんです。政労使の会議で、トヨタ(自動車)にしても日立(製作所)にしても経団連にしても、かなり踏み込んだ、いままでと違う発言をしました。
それをてこにして、「企業収益が上がっているのに賃金を上げない、下請け代金を上げないのは恥ずかしい企業だ」という環境を正直つくりたいんです。(テレビ朝日のBS番組で)【10月19日 朝日】
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「本当は(賃上げを)明記したくない、だが賃上げを明記しないと安倍政権がもたない」(経団連の宮原耕治副会長)とも。
トヨタや日立はともかく、問題は非正規雇用や中小企業の底上げが伴うか・・・という点にあります。