孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  反政府デモの「選挙の否定」に透ける“危うさ”

2013-12-23 21:47:48 | 東南アジア

(12月22日 バンコク 「インラックは出ていけ!我々は民主主義に反対しているのではない。ただ、不正・汚職選挙を容認できないだけだ!」とのことですが・・・ “flickr”より By Thana Thaweeskulc http://www.flickr.com/photos/32782357@N03/11513013556/in/photolist-ixncPJ-ixnrrd-ixnD6c-ixnu2S-ixnQTc-ixnmmU-ixnz6S-ixo9C8-ixngpQ-ixmJS6-ixnKDV-ixmFwt-ixnQha-ixmLwN-ixnPeu-ixnSQu-ivzhgr)

【「人民クーデターを呼び掛ける」】
タイを二分するタクシン元首相を支持する勢力と、これに反対する反タクシン派の対立は、これまでも何回か取り上げてきたように、タクシン元首相の妹であるインラック首相が海外逃亡生活中の兄タクシン氏の帰国に道を開く恩赦法を成立させようとしたことで泥沼化しています。

インラック首相は恩赦法をあきらめ、また、反政府運動への譲歩として議会の解散総選挙を行って民意を問うことを決定していますが、ステープ元副首相が率いる反政府デモは総選挙では問題は解決しないとして、首相の辞任および選挙によらない“良き人々”による「人民議会」設置を求めて抗議活動を継続しています。

****首相辞任求め大規模デモ=反タクシン派、首都に30万人―タイ****
反政府運動を展開するタイの反タクシン元首相派は22日、首都バンコクで大規模なデモを行った。来年2月に予定通り総選挙を実施する構えのインラック首相に対し、総選挙を延期して政治改革を先行すべきだと訴える反タクシン派は動員力を誇示することで首相に辞任への圧力をかける狙いがある。

反タクシン派は民主記念塔前など従来の3カ所の拠点に加え、新たに15カ所に拠点を設けるなどして抗議行動を展開。地元メディアが政府当局者の話として伝えたところでは、デモ参加者は少なくとも約31万人に達し、約25万人(警察推計)を集めた9日のデモを上回り、一連のデモでは最大となった。

デモ隊の一部はバンコク郊外のインラック首相の自宅前で抗議活動を行い、警官隊と小競り合いも起きたが、負傷者はいなかった。首相は不在だった。

デモを主導するステープ元副首相は22日夜の演説で、政府当局者が現体制のために働き続けるなら「人民クーデターを呼び掛ける」と述べ、「タクシン体制」打倒への決意を改めて表明。総選挙を阻止するため、23日から始まる立候補受け付けの会場付近で抗議行動を行う方針を示した。

汚職事件で有罪判決を受け国外逃亡中のタクシン氏の帰国に道を開く恩赦法案をめぐる対立をきっかけに、反タクシン派による抗議行動が本格化してから約1カ月。インラック首相は事態打開のため下院解散に踏み切り、来年2月2日に総選挙を行うことが決まった。

これに対しステープ氏ら反タクシン派は首相の辞任をあくまで要求。同時に、暫定議会として各職業団体の代表らから成る「人民議会」を設置し、1年半程度をかけて政治改革を実現した後に総選挙を行うよう主張している。【12月22日 時事】
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反政府デモ参加者を支持基盤とする最大野党・民主党は、このまま選挙に参加しても支持者の理解をえられず惨敗が予想されることもあって、総選挙のボイコットを決定しています。

****タイ野党、選挙不参加へ 政治的緊張、常態化の恐れ****
タイで続く政治危機で、最大野党の民主党は21日、来年2月2日投開票の総選挙を党としてボイコットすることを決めた。選挙に向けて収束が期待された混乱はさらに深まり、政治危機が常態化する恐れがある。タイ政治は最悪に近いシナリオを進んでいる。

同党はこの日午後、特別会議をバンコクの党本部で開き、ボイコットを決定。会議後の会見で党首のアピシット前首相は「現政権が民主主義をゆがめ、人びとは政党政治や選挙への信頼を失った」と理由を語った。ただ、選挙を妨害する考えはないとした。

今回の政治危機を呼んだ反政府デモは民主党の主導で始まったもので、参加者の中核には同党支持基盤のバンコクやタイ南部の支持者がいる。だが、党として選挙参加を決めても支持者が離反してデモを継続する可能性が高い。このため、約160人の元下院議員のうち70人以上が参加しない意向を党に伝えていた。

民主党の総選挙ボイコットは、2006年に続き2回目。1946年結党の同党はタイ最古の政党で、ボイコットは政党としての責任の放棄だという批判も強くあることから、党幹部らは直前まで「議会制民主主義の原則は堅持する」と話していた。

しかしアピシット執行部は、足元で元議員の集団離反が起きるなかで現状を追認せざるを得ないと判断した模様だ。

 ■首相、日程変えぬ構え
インラック首相はこの日午後のテレビ演説で、選挙を予定通り実施し、新政府のもとに設置する「国家改革評議会」で2年以内に長期的な政治改革案を策定すると発表した。
選挙の延期を求めていた民主党を拒絶するメッセージで、民主党のボイコット最終決定に影響を与えた可能性がある。

だが、ステープ元副首相が率いる反政府派は選挙を妨害する構えを見せ、22日にはバンコクで大規模なデモ行進を計画。再び緊張が高まる可能性がある。

民主党がデモを制御できなくなったのはなぜか。デモが1カ月半余り続く中でステープ氏の要求がエスカレートし、党がそれに引きずられる形に陥ったためだ。
同氏は、選挙ではなく任命による「人民議会」への政権移譲という非民主的な主張を繰り返し、反タクシン元首相感情を刺激しながら民主党支持者を「選挙の否定」へとあおり立てた。その支持者の意向を、政党として無視できなくなったとみられる。

民主党が選挙をボイコットするとどうなるのか。
選挙が実施されれば、与党・タイ貢献党の大勝は確実だ。だが、選挙期間中・選挙後を通して反政府デモは続く。選挙妨害への懸念のほか、多数の棄権者が出れば結果の正当性を疑問視する声も出そうだ。

選挙後に発足する新政府は、初日から政権打倒を叫ぶデモへの対応を迫られる。政府としての仕事はまともにできず、経済や外交にも影響が出るのは避けられない。
バンコクの日本外交筋は「政策的な話ができない状態がすでに起きている」と話す。日系企業への影響も出てきそうだ。【12月22日 朝日】
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最大野党の総選挙ボイコットで、タイ政治の混迷・漂流はますます深刻化します。
ステープ元副首相の「選挙の否定」という“暴走”に引きずられる形で民主党もボイコットに踏み切った訳ですが、アメリカのティーパーティーの過激な要求に引きずられるて強硬路線に走った共和党にも似たような感じがあります。

政党にとって、「選挙の否定」は自殺行為にもつながりかねない最後の手段です。
選挙の公正さが著しく侵害されているような場合ならともかく、このままでは勝てないから、選挙を認めると支持者の意向と離反するから・・・という理由での選挙ボイコットは容認しがたいものがあります。

【「民主主義の根幹は選挙のはずだ」】
そもそも、ステープ元副首相らの求める“各職業団体の代表らから成る「人民議会」を設置”の要求の背景には、選挙を行っても、北部・東北部農民層や都市貧困層から支持されるタクシン派には勝てないということがあります。

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・・・ステープ氏はインラック首相退陣後に暫定政府を設立し、選挙制度を改革したうえで総選挙を実施すべきだと訴えている。

デモに参加した弁護士、ハッサリン・ラッドルーさん(52)夫妻は「タクシン派はばらまき政策や選挙買収で票を集め、このまま総選挙をしても意味がない」と指摘。農村部や貧困層の多くはタクシン派を支持するが、「政権がいかに問題だらけか正しい情報を得ていないからだ」と主張した。

総選挙を巡っては、反タクシン派の最大野党・民主党もボイコットを決めデモ隊と同調するが、背景には連敗中の総選挙を避けつつ、政権打倒を果たしたいとの打算が透ける。

東北部ウドンタニ県のタクシン派グループメンバー、ジャンピー・ポーティサンさん(54)は「それぞれに主張があり、自分たちが正しいと思うが、私たちの知る限り、民主主義の根幹は選挙のはずだ」と話した。【12月22日 毎日】
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選挙を否定する考え方は、“教育水準の低い東北人”がカネで買収されている、あるいは彼らには正しい判断ができない・・・というものであり、やはり非民主的な“蔑視”と言わざるを得ません。

タクシン以前の政治を支えたエリート層・既得権益層や、タクシン流のばらまき政治の対象外となっている都市中間層には我慢できないことでしょうが、以前は政治的に大きな力を持ちえなかった多くの農民層・都市貧困層がその1票を行使して自分たちの利益になると判断した政治の実現を目指すようになったというのは民主主義の表れであると言うべきでしょう。

“教育水準の低い東北人”の選挙権を制約するような方向での政治改革というのは、民主主義の根幹を揺るがすものです。
もし、議会内に選挙によらない指定枠みたいなものを設けるというのであれば、それこそ先ず選挙によって民意を問うべきものです。

また、テープ元副首相ら反政府デモを行う人々の間には、選挙で選ばれた政党以外の存在、つまりは軍部や国王ですが、そうした政党以外の介入による政治対立解消を期待する意向があります。

実際にこれまでタイの政治史においては、しばしば軍部や国王の介入・仲介によって混乱を解消するという手法がとられてきました。
しかし、そのことが、政党間の妥協で物事を決められないタイ政治の現状を温存してきたとも言えます。

確かに政党政治・議会制民主主義がいつも正しい結果を導く保証はありません。
往々にして人気取り的なポピュリズムに動かされたり、過激な思想に扇動される危険も多々あります。

しかし、政党政治・議会制民主主義以外のものに“力”を求めることは、国民の意思を無視した最悪の強権支配を生むことがあります。選挙に基づく民主主義というのは、そうした最悪の結果を避けるための保険のようなものでしょう。

そうした選挙に基づく民主主義が機能するためには、選挙の敗者は勝者による政権運営を受け入れ、勝者の政権は敗者の声に一定に配慮する・・・ということしかありません。

ボイコットを決めた民主党・アピシット前首相は選挙を妨害する考えはないとしていますが、反政府デモは妨害の行動に出ています。

****立候補届け出を妨害=反タクシン派―タイ総選挙****
インラック首相の辞任や来年2月に予定される総選挙の延期などを要求するタイの反タクシン元首相派デモ隊は23日、首都バンコクにある総選挙の立候補受け付け会場を包囲し、立候補の届け出を妨害した。

下院選の比例代表立候補受け付け初日のこの日、会場の「タイ日スポーツスタジアム」周辺には数千人のデモ隊が集まり、出入り口を封鎖。与党タイ貢献党など9党の代表者は封鎖をかいくぐって会場入りし手続きしたが、他の25党は会場に入れなかった。

会場入りできなかった各党代表者らは近くの警察署を訪れ、この事態について申し立てた。デモ隊はこの警察署も取り囲み抗議行動を続けた。【12月23日 時事】 
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仮に選挙が行われて、タクシン派が圧勝しても、反政府勢力は「選挙は認めない」として街頭行動を続けるのでしょう。
いったいいつになったら出口がみつかるのか・・・・。
コメント (1)
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