(2014年の経済成長率が7.4%と24年ぶりの低水準となった中国経済ですが、1月21日のダボス会議で李克強首相は、中国経済のハードランディングを回避するとともに、長期的な中・高速の成長ペースを確実に達成することを重視すると表明しました。
また、金融システム全体を脅かすようなリスクを生じさせず、「適切」なペースの拡大を確保するため成長の質を改善することを目指すとも。
ただ、そのためには中国経済の体質改善が必要ですが・・・・。
写真は【1月22日 立場新聞】https://thestandnews.com/china/%E6%9D%8E%E5%85%8B%E5%BC%B7-%E4%B8%AD%E5%9C%8B%E7%B6%93%E6%BF%9F%E4%B8%8D%E6%9C%83%E7%A1%AC%E8%91%97%E9%99%B8/)
【「反腐敗」を展開して抵抗勢力を抑え込み、2年余りで政権の足場を固めた】
中国・習近平政権指導部が推し進める“新常態”を目指す、腐敗一掃・綱紀粛正、経済改革などの政治・経済・文化を巻き込んだ改革運動については、1月19日“中国 習近平政権が目指す新時代「新常態」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150119でも取り上げました。
習近平政権が強力に改革に取り組んでいる背景には、腐敗・汚職や経済格差などに関する国民の批判・不満の高まりで共産党一党支配の基盤が崩れつつあるという危機感があるように思われます。
腐敗・汚職を調査するのは党中央規律検査委員会ですが、その調査は自白強要など過酷なことで知られ、いったん調査されると無罪となることはほとんどなく、将来を絶望して自殺を図るケースが増えているようです。
****幹部50人以上が「不審死」=「反腐敗」で自殺続出―中国****
中国共産党が今年に入り、地方の党組織や国有企業などに対し、習近平党総書記(国家主席)が就任した2012年11月以降、自殺など不自然な状況で死亡した幹部を調査して報告するよう求めていたことが分かった。
背景には、習指導部が「反腐敗闘争」を展開する中、自殺者が相次いでいることがある。中国ニュースサイト・財新網は29日、不自然な死を遂げた幹部らは50人以上に達したと伝えた。(後略)【1月29日 時事】
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自殺者が相次ぐのは、習指導部が進める「反腐敗闘争」の結果でしょうが、党として不審死の調査報告を求める趣旨はよくわかりません。
言うまでもなく、中国における改革運動は、それに抗する勢力との政治的権力闘争と密接不可分の関係にもあります。
特に、党指導部にとっては軍を把握することが重要になります。
****軍の最高指導者は習近平主席・・・解放軍報が1面で強調、軍内部に「分派」か****
中国・中央軍事委員会機関紙の解放軍報は28日付の1面で、「工作制度はさらに1歩、真に厳しくせねばならない」との見出しの記事を掲載した。
同記事は、軍の指導者が中央軍事委員会主席、すなわち習近平主席と改めて強調した。
中国では「常識」である制度を強調したことは、軍内部に指導体制に抵抗する勢力がある可能性を示唆するものと言ってよい。(中略))
解放軍報の記事が「腐敗問題」に直接触れていないことも注目に値する。軍内部に腐敗や利権問題とは別に、習近平体制に批判的な勢力が存在する可能性がある。(後略)【1月29日 Searchina】
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****習主席、軍掌握へ本腰 福建省時代の人脈、中枢に登用****
中国の軍の要職に、習近平(シーチンピン)国家主席に近い人物が相次いで起用されている。
習氏自身が軍を掌握して、内部に根強い抵抗がある機構改革を進め、米軍に対抗できる能力を備える狙いがあるとみられる。
人事を通じた習政権の基盤固めは、党中央や地方でも進む。(中略)
胡錦濤前国家主席は党総書記就任から4年後、江沢民元国家主席を後ろ盾に上海市で権勢を誇った陳良宇・同市党委書記を汚職の疑いで解任し、「ようやく内政、外交で独自色を出すようになった」(外交筋)。
一方、習氏は党総書記に就いた直後から思い切った「反腐敗」を展開して抵抗勢力を抑え込み、2年余りで政権の足場を固めた。各分野の改革を推し進めるため、人事を通してさらに指導力を強めていく構えだ。(後略)【2月4日 朝日】
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【大学管理を強化、新たな思想引き締め】
権力闘争であろうが、“腐敗一掃・綱紀粛正”自体は中国社会にとって結構な話にも思われますが、同時に展開される思想的引き締めは、話ができる民主的な隣人を期待する立場からは懸念されるところです。
****中国教育相、大学から「欧米の価値観」を排除****
中国の袁貴仁教育相が、「欧米の価値観」を掲げる大学教科書を禁止することを約束した。中国国営新華社通信が29日夜、伝えた。
習近平国家主席のもとでの新たな思想引き締めとみられる。
新華社通信によると、袁教育相は「欧米の価値観を掲げる教科書を教室に持ち込ませてはならない」と語った。
また、「中国共産党の指導力を中傷する意見」や「社会主義を汚す」見解が大学の教室に持ち込まれるようなことは決してあってはならないと語ったという。
中国の大学は中国共産党が運営しており、大学では共産党支配に脅威を及ぼす恐れがあるとみなされた歴史などの話題は厳しく規制されている。中国共産党はしばしば、「複数政党による選挙」や「権力分立」などの考えを「欧米的」として非難してきた。
習氏が2012年に中国共産党総書記に就任して以来、中国は大学に対する管理を強化しており、中国共産党に批判的な数人の教授が解雇されたり投獄されたりしている。【1月30日 AFP】
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習近平政権指導部が目指すところは、あくまでも共産党一党支配の維持が大前提ですので、上記のような話にもなる訳ですが、共産党一党支配の枠組みを前提とする限り、今後の改革にもおのずと限界があるように思われます。
【李克強首相が進める簡政放権」 強い抵抗も】
そうした改革のなかで、経済部門を担うのが李克強首相で、政府権力の経済活動への介入を縮小する「簡政放権」を推進しています。
しかし、なかなか実効があがっていないようです。
****中国・李克強首相「政府の収支は今後すべて、予算に入れて公開せよ」、「日光こそ最良の防腐剤だ」****
中国の李克強首相は9日に行った中央政府の第3回廉政工作会議で、「政府(行政)の収支は今後すべて、予算に組み込み公開せよ」と述べた。
公共の資金は「納税者が苦労して得た金だ」と指摘し浪費が許されないと同時に、腐敗現象の撲滅には情報公開が必要として、「日光こそ最良の防腐剤だ」と述べた。中国新聞社が報じた。
李克強首相は、政府権力の経済活動への介入を縮小する「簡政放権」を推進している。
9日の会議では改めて「『簡政放権』は市場の潜在力を解き放す鍵であり、反腐敗の土台になる」と強調。政府には、権力を手放す「スリム化」と、腐敗現象を絶って「体力をつける」両方が求められていると述べた。
李首相が特に力を入れてきたのが、行政による許認可の撤廃だが、「形式上は撤廃しても、実質は残している」、「外見だけを変える」など、役人側が「手を変え品を変えて抵抗」する現象があると指摘。混乱している状況は「市場にとっての新たな障害物」として、「灰色地帯を必ず除去せねばならない」と述べた。
李首相は、政府が使う「公共の資金」について「すべて、納税者が苦労して得た金だ」と表現「1分1厘たりとも無駄遣いは許されない」として、「政府の収支は今後すべて、予算に組み込み公開せよ」と述べた。
予算化と公開については、「無駄遣いの防止」だけでなく、不正行為をしにくくなる効果もあると指摘。「日光こそ最良の防腐剤だ」と指摘し、公務について「決定から執行、管理、結果までを社会に向けて公開せよ。公共資金と権力は、探照灯と録画カメラのもとで動かしていかねばならない」と述べた。
李首相は「政府(行政)の許認可権は大幅に削減せねばならない。例外のない制度で権力の管理や制限を行わねばならない」とかねてからの主張を改めて強調。「法治」という“武器”で、権力の行使が許される限界を確定し、権力のリスト、責任範囲のリスト、(企業活動の)ネガティブリスト」などを確立せねばならない。これこそが、法治政府の樹立であり、清廉な政府への扉を開く『金の鍵』だ」述べた。
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◆解説◆
日本人にとって、李首相の「政府(行政)の収支は今後すべて、予算に組み込み公開せよ」との要求はかなり異様に思える。「そんなことも、やれていないのか」という驚きだ。
李克強首相は就任直後から、行政側の「権限手放し」で市場を活性化させることを追い求めてきた。起業しやすい環境づくりも、経済政策の重要な部分だ。その先には内需拡大という「大目的」があるとされる。
中国経済は投資と輸出に頼って成長してきたが、投資については効果を考えないケースが相次いで、地方政府の財政の不健全化という問題を招いた。
輸出については、2008年のリーマンショックで頼りすぎることのリスクを思い知らされた。国民の購買力を底上げし、購買を志向する社会を実現せねば、安定した経済成長も難しくなるとの危機感だ。
ただし、「公共支出の予算化」を首相が改めて「厳命」せざるを得ないなど、中国当局に極めて遅れた面があることは否定でき 【2月9日 Searchina】
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「そんなことも、やれていないのか」という話はともかく、李克強首相の主張するところは日本でも十分に理解できるものです。
また、許認可行政の改革は日本でも難しい問題ですから、まして「人治」の中国における共産党政権下では・・・という感もあります。
“李首相は(2014年)7月16日の国務院常務会議で、許認可の撤廃に抵抗する動きがあった場合には「絞め殺せ。叩きつぶせ」と激越な言葉を使って、決定を貫徹させることを求めたという。【2014年8月12日 Searchina】”という記事の記憶があるせいでしょうか、李克強首相の熱意・・・というよりは、いくら言っても動かない壁に対する焦りみたいなものも感じられます。