(2011年5月に訪米した際のネタニヤフ首相とオバマ大統領 このときはオバマ大統領が前日の演説でパレスチナ和平交渉の出発点として提唱した「占領開始前の1967年の境界線」について、ネタニヤフ首相は「(イスラエルは)戻ることはできない」と、明確に拒絶しました。 写真は“flickr”より By Prime Minister of Israel https://www.flickr.com/photos/israelipm/5745528308/in/photolist-9KHkoU-97MKNp-9L7QqS-9KEx8r-9KExfX-9KHk5u-9KHk1s-9KEx52-9KHkbh-ac4d5y-cEMEKN-pu2kXy-9KExiF-9KHkAh-9KExkX-bAMkae-dj4Yh1-875Fg8-8JwSMS-oVvQKG-ggHJhC-dNaxAq-dgCcrq-bnSuTC-o4qbDY-deRoWh-qKZue7-8xz2s7-9KAYdC-9L7Qk1-anhcY1-9L53gH-6p4SdX-dhTBR6-ofLUQE-e4WEYU-ggHY1F-8hHQmX-57k8pw-apWysg-8xsDka-e4DTcR-82QutR-nM2sow-qNeP61-dB3JjQ-9eUZQD-8mRRs5-pEvzSD-biWak4)
【イラン核協議「前進はしたが、まだ多くの課題がある」】
イラン核問題に関する欧米など主要6カ国とイランの協議については、週間前の2月20日ブログ「イラン核開発問題 22日ジュネーブでアメリカ・イランが直接協議 3月末までに成果は?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150220 で取り上げたばかりですが、“「いくつか進展があったが、最終合意にはまだ遠い」”(イラン・ザリフ外相)という状況です。
****<イラン核協議>枠組み合意へ…3月2日再開確認し終了****
イラン核問題を巡り、ジュネーブで行われた欧米など主要6カ国とイランの協議は23日、3月2日の再開を確認して終了した。米国務省が明らかにした。
イランと米国が中心となった今回の協議について両国は一定の進展を示す一方で、主要課題では依然隔たりがあるとしている。
イランのザリフ外相は「有益で建設的だった。6カ国の代表者と熱心に協議し、特に米国とは3日間行った。いくつか進展があったが、最終合意にはまだ遠い」と語った。
一方、米政府高官は「前進はしたが、まだ多くの課題がある。難しい課題を(この協議で)はっきりさせた。解決に向け作業できる」と話した。
イランと6カ国は、3月末までの枠組み合意、6月末までの最終合意を目指す。(後略)【2月24日 毎日】
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【ネタニヤフ訪米・議会演説 「外交儀礼に反している」】
イラン、アメリカ双方が国内保守強硬派を抱えて妥協が困難なこと、国際的にはイランを敵視するイスラエルがイラン核開発継続につながる合意に強く反発していることは、前回ブログでも触れました。
同様に前回ブログで取り上げた、イスラエルのネタニヤフ首相によるオバマ大統領を頭越しにした、野党共和党の招待による訪米・議会演説が3月3日に現実のものとなりそうです。
保守強硬派のネタニヤフ首相とアメリカ・共和党が連携する形でオバマ大統領の進めるイランとの協議に圧力をかけるものですが、かねてよりそりが合わないオバマ大統領とネタニヤフ首相の関係が更に険悪なものになりそうです。
当然ながら、大統領・ホワイトハウスはネタニヤフ首相の“外交儀礼に反する行動”を激しく批判しています。
****ライス米補佐官、異例のイスラエル首脳への非難****
ライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)は24日放映の米PBSテレビのインタビューで、イスラエルのネタニヤフ首相が3月3日、オバマ政権に無断で米連邦議会での演説を予定していることについて、両国関係を「破壊する」と非難した。
議会演説は、野党・共和党のベイナー下院議長が要請し、ネタニヤフ氏はオバマ政権と事前調整を行わないまま受け入れた。オバマ政権は「外交儀礼に反している」と不快感を示していた。米高官がイスラエル首脳への強い非難を公言するのは異例だ。
ライス氏は「イスラエルと米国の関係は常に党派の垣根を越えていた。政治が入り込むことはなかった」と強調し、今回のネタニヤフ氏の動きは「党派的だ」と批判した。【2月26日 読売】
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「外交儀礼に反している」と言うか、“喧嘩を売っている”とも言えるようなネタニヤフ首相の行動には驚かされます。
【ケリー国務長官 イラク侵攻を引き合いに、ネタニヤフ首相批判】
ケリー国務長官はネタニヤフ首相の頑ななイラン核開発問題に関する判断を強く批判しています。
****<イラン核交渉>米国務長官、イスラエル首相を批判****
米国のケリー国務長官は25日、下院外交委員会で証言し、イランとの核交渉に否定的なネタニヤフ・イスラエル首相について、「正しくない判断をしている可能性がある」と批判した。
ネタニヤフ氏は野党・共和党の招きで3月3日に米議会で同様の主張を演説する見込みだが、ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も両国関係にとって「破壊的」な行為だと異例の強い調子で非難。
緊密だった米イスラエル関係のさらなる悪化が表面化している。
◇否定的姿勢「正しくない」
国連安保理の5常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国とイランによる核交渉について、ネタニヤフ氏は25日、米国などがイランの核兵器保有阻止の目的を「あきらめたようだ」と述べるなど、批判を強めている。
米欧側はイランの核能力を制限する代わりに、対イラン制裁を一部緩和。交渉は3月末までの枠組み合意を目指し、山場にさしかかっている。
ケリー氏は外交委員会で、ネタニヤフ氏がイランとの最終的な包括合意に極めて否定的なことについて尋ねられ、「正しくない判断」と指摘。
ネタニヤフ氏が2003年にブッシュ前米政権のイラク侵攻を支持したが、「イラク脅威論」の根拠だった大量破壊兵器が見つからなかったことにも間接的に触れ、同氏の判断に強い疑問を示した。
ネタニヤフ氏の米議会演説は、共和党のベイナー下院議長がホワイトハウスや国務省の頭越しに招待して決まった。共和党内にはイランへの制裁強化など強硬論が根強く、交渉優先のオバマ政権と厳しく対立している。
このため、ライス氏は24日、米PBSテレビで「(議会演説は)党派主義が反映されたもので、不幸なだけでなく、(両国の)関係に破壊的だ」と指弾した。
オバマ政権は、13年11月の暫定合意をイランが順守していると強調し、最終合意に向け交渉を継続している。だが、イラン反体制派は24日、テヘラン近郊の「地下秘密施設」とされる衛星写真などを公表、「核兵器開発目的」でウラン濃縮用遠心分離機の研究開発が行われていると主張している。【2月26日 毎日】
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ブッシュ前米政権のイラク侵攻に関するネタニヤフ首相のミスリードを持ち出すあたりは、大統領側は本気で怒っているようです。
【アメリカとイスラエルの強固な結びつき】
アメリカは、これまで国際的に批判されがちなイスラエルの後ろ盾となってきました。
パレスチナ自治政府が進めている国際刑事裁判所(ICC)への加盟・イスラエルのガザ空爆や入植活動提訴についても、アメリカはイスラエルを支持して、パレスチナ自治政府に反対してきました。
****<国際刑事裁判所>イスラエル・ハマスの戦闘を予備的捜査****
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)は16日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルによる昨年夏の戦闘などについて、戦争犯罪に関する予備的捜査を開始したと発表した。
ベンスダ主任検察官は「期限を設けず、独立した立場で調べる」と述べた。予備的捜査で犯罪の疑いが出れば、裁判所の許可を得て本格捜査を開始する。
◇起訴には困難も
国際的批判のあったイスラエルのガザ地区への空爆や、ハマスの対イスラエル攻撃が国際刑事法廷で初めて裁かれる可能性が出てきた。
パレスチナは今月2日、ICCを規定するローマ条約への加盟を国連本部に申請。これに先立つ1日には、ICCの管轄権を受諾すると表明していた。パレスチナは4月に加盟する見込み。主任検察官は管轄権受諾を受け、予備的捜査の開始を決めた。
昨夏の戦闘は、自治区ヨルダン川西岸地区でユダヤ人少年3人が拉致、殺害されたことが直接的なきっかけ。ICCは少年が行方不明になった翌日の昨年6月13日以降の戦争犯罪、人道に対する罪、集団殺害などについて予備的捜査を行う。対象はイスラエルだけでなく、パレスチナにも及ぶとみられる。
ただ、イスラエルはICCに非加盟のため、イスラエルの責任者を起訴してもICCの権限は及ばない。また、ICCは加盟国の協力で捜査を行っているのが実情で、非加盟国を起訴するのは困難を伴う。
パレスチナのICC加盟を巡っては、これに反対するイスラエルが今月、代理徴収した税金のパレスチナへの送金凍結を決めたのに続き、米国務省もパレスチナ向け援助への影響を示唆するなど、国際的な圧力も強い。
昨夏の戦闘では、パレスチナ人2100人以上が死亡、約10万人が自宅を失った。イスラエル側は約70人が死亡している。【1月17日 毎日】
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「(両国の)関係に破壊的だ」とされる今回のネタニヤフ首相の訪米・議会演説によって、こうしたアメリカのイスラエル支持が変わるのか・・・と言えば、おそらく基本的には大きくは変わらないのでしょう。オバマ大統領とは更に関係が悪化するでしょうが。
ネタニヤフ首相の“喧嘩を売る”ような行動も、両国の強い結びつきがあっての話でしょう。
アメリカとイスラエルの結びつきの強さは、外部から見て分かりづらいものがあります。人口では、アメリカ社会におけるユダヤ人は、そんなに大きな数字ではありません。
そんなところから、“ユダヤ人支配”云々の話・陰謀論なども出てくるわけですが・・・。
アメリカの現実政治においてイスラエル支持の原動力になっているとされるのが、強力なユダヤ・ロビーであるとも言われています。
****ユダヤ・ロビー*****
米国には約530万人のユダヤ系市民がおり、活発な政治活動で知られる。その数は、米国の人口の2%以下に過ぎないが、その組織率と投票率の高さ、大統領選挙の際に重要なニューヨークやイリノイなどの州への人口の集中、マスコミ、大学など言論界での発言力の大きさなどの要因が合わさって、政治的に無視できない力を有している。
伝統的にユダヤ人の大半が民主党支持で、民主党の大統領には特にユダヤ人の影響力が強い。
しかし、近年になって共和党支持のユダヤ人も増えてきた。その諸組織は、ユダヤ・ロビーとして知られている。ユダヤ・ロビーは、その力をイスラエルのために行使してきた。 【知恵蔵2015】
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“ユダヤ人の大半が民主党支持”・・・・少なくともこれまではイスラエル支持という点では、民主党も共和党もなかったということでしょう。
なお、ユダヤ・ロビーのなかでも最大・最強組織が「アメリカ・イスラエル公共問題委員会 AIPAC、エイパック)」ですが、AIPACのイスラエル政府との関係については、“米国外の政府より資金の提供を受け、あるいはそのような政府の利益のために活動する組織には登録が義務付けられている。AIPACはこのFARAの登録を行っておらず、公式にはイスラエル政府から何の資金・指示も受けていないと主張しているが、かねてよりAIPACの立場に対しては疑問が呈されており・・・・”【ウィキペディア】とのことです。
アメリカ一般国民には、今回のネタニヤフ首相訪米には批判的な向きが多いようです。
****米とイスラエル 「対イラン」深まる亀裂****
・・・・招待したのは共和党のベイナー下院議長。欧米など六カ国とイランの核協議を推進するオバマ政権に批判的な「対イラン強硬派」だ。
残る任期が二年を切り、政治的なレガシー(遺産)づくりのため、キューバとの国交回復交渉の開始に続き、イランとの和解に照準を合わせるオバマ氏。イラン核協議では三月末までの枠組み合意、六月末までの包括合意を目指す。
これに対し、ネタニヤフ氏は自国の安全保障を脅かしかねないイランに接近するオバマ氏に強い不満を抱く。イスラエル総選挙が三月十七日に迫る中、議会演説はオバマ氏を揺さぶり、自国の保守層にアピールする狙いがあるとみられる。アーネスト氏は選挙に影響を与えかねないと苦言を呈している。
ネタニヤフ氏は演説で「イランの脅威」を強調する見通しで、オバマ政権の批判を展開する可能性もある。三月二日からはジュネーブでイラン核協議が再開する予定となっており、協議参加国の警戒感も高まっている。
ただ、米世論は両国の関係悪化を望んでおらず、米CNNテレビが今月十七日に行った世論調査では「政府に相談なしにネタニヤフ氏を招くべきではなかった」と、深まる亀裂を懸念する回答が63%に上った。【2月25日 東京】
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【イスラエル総選挙ではネタニヤフ首相勝利の予想 更に右寄り政権へ】
先述のように、ケリー国務長官はネタニヤフ首相の対イラン判断を批判していますが、イスラエル国内でもネタニヤフ首相の言動に対する疑問も出ています。
****イスラエル首相、モサドの見解と矛盾=イラン核問題で秘密文書―中東TV****
イスラエルのネタニヤフ首相が国連総会でイランの核の脅威を訴えた2012年、イスラエルの対外情報機関モサドが「イランは核兵器製造に必要な活動を現段階で行っていない」と分析した報告書を作成していたことが明らかになった。
中東の衛星テレビ局アルジャジーラが入手し、24日までに公表した。首相とモサドとの間でイランに対する脅威認識が異なっていたことを示している。
ネタニヤフ首相は3月3日、米議会で、イランと6カ国による核協議に関して演説する予定で、訪米を前に24日、「合意を阻止するために何でもするのが首相の責務だ」と説明した。
演説ではイランの核脅威を強調するとみられるが、その根拠も疑問視される可能性がある。【2月25日 時事】
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ケリー国務長官が、ブッシュ前米政権のイラク侵攻に関するネタニヤフ首相のミスリードを持ち出したのも、こうした話を踏まえてのことでしょう。
ただ、なんだかんだ言いつつも、イスラエル国内ではイランやパレスチナへの強硬な姿勢が国民受けするようで、3月17日に予定されているイスラエル総選挙では、ネタニヤフ首相率いる右派リクードが優勢と報じられています。
****ネタニヤフ首相、続投有力か=イスラエル総選挙まで1カ月****
3月17日投開票のイスラエル総選挙(一院制、定数120)まで1カ月。ネタニヤフ首相率いる右派リクードがリードしており、首相が右派勢力を中心に連立をまとめ、続投する公算が大きくなっている。中東和平交渉に消極的な「さらに右寄りの政権になる」との見方も広がっている。
世論調査によると、主な政党・会派の予測獲得議席数は、リクードが25、中道左派の労働党と中道「ハトヌア」による統一会派「シオニスト・キャンプ」(中道左派)が23、極右「ユダヤの家」が13、左派「アラブ統一会派」が12。
リクードが第1党になれば、連立の構成は(1)ユダヤの家や宗教政党との右派政権(2)シオニスト・キャンプとの大連立政権-のいずれかになると予想されている。安定した政権運営を考えれば「ネタニヤフ首相の望みは前者」というのが大方の見立てだ。
しかし、ヘブライ大のタミル・シェファー教授(政治学)は「右派新政権ができれば、イスラエルは国際的に一層孤立を深める」と懸念する。
首相は3月上旬に米議会でイラン核問題に関する演説を計画しているが、頭越しに話を進められたオバマ米政権とは険悪化。訪米取りやめを求める声もあるが「イラン問題が争点になれば、国民はリクードに投票する」(同教授)とみられ、「ミスター・セキュリティー」と呼ばれ、安全保障政策を評価される首相には追い風で意に介さない。
右派中心の新政権になれば、パレスチナとの和平交渉についても「連立政権内からの圧力がなくなり、再開を期待するのは難しい」(同教授)。今回の総選挙は、首相の権力基盤強化のために行う側面が強い。【2月17日 時事】
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ネタニヤフ首相の今回訪米も多分に国内総選挙を意識したものでしょう。
更に“右寄り”政権となれば、パレスチナやイランの問題での前進は当分期待できません。