(習近平主席の倹約令を無視するかのように高価なファッションをまとっていると中国メディアに取り上げられた李鵬元首相の娘で「電力業界の女王」李小琳氏 【2013年4月8日 DW news.com】
上下が3万元(当時レートで約45万円)を超えとるとのことですが、電力業界の「姉御」ならそのくらいは・・・という感もあります。もっとも、最近はさすがにブランド物を控えているそうです。)
【権力維持装置「国安」に挑む習近平政権】
中国・習近平主席の反腐敗・綱紀粛正運動については、2月9日ブログ「中国 綱紀粛正で権力基盤を強める習近平政権、思想引き締めも 経済改革には強固な抵抗も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150209)でも取り上げました。
既に檻に入れた「虎」の一匹、軍部の大物、徐才厚(前党中央軍事委副主席)については、昨年秋の党中央委員会総会、通称「四中全会」で党籍剥奪、起訴処分了承に持ち込んでいますが、始まった裁判は、本人の前立腺がんの症状が重いとの医師の診断が出て無期延期となっています。
もう一匹の「虎」、周永康・前党中央政治局常務委員については、まだ影響力を失ったとは言い切れないのか、四中全会で処分を決定できず、その一カ月後になって党中央政治局の決議で党籍剥奪が決まっています。
周永康は江沢民派の大物であるだけでなく、「政法系」と呼ばれる権力集団のボスでもあります。
その権力集団の中核をなす国家安全部(通称「国安」)との権力闘争も始まっていると報じられています。
“政法系とは、党中央政法委員会書記を頂点とする検察、司法、公安、国安、武装警察などの権力集団だ。そのなかでも盗聴、尾行、おとり捜査などの手段で要人の個人情報を集める国安部は、闇権力の中心を占める存在だ。”
“中国の国家安全部は通称「国安」と呼ばれる。共産党独裁を舞台裏で支える情報機関、秘密警察だ。その国安の現職副部長が二人、相次いで共産党中央紀律検査委員会に連行されたという情報が流れている。習近平政権が、権力の維持装置である国安と対決状態に入ったのだから異常事態だ。なにが始まるのか。”【選択 2月号】
前回ブログでは、“習氏は党総書記に就いた直後から思い切った「反腐敗」を展開して抵抗勢力を抑え込み、2年余りで政権の足場を固めた。各分野の改革を推し進めるため、人事を通してさらに指導力を強めていく構えだ。”【2月4日 朝日】という見方を紹介しましたが、なかなか既得権益集団の抵抗も根強く、反腐敗運動という名の権力闘争がしばらく続くとの指摘もあります。
****「習近平vs情報機関」暗闘の深層****
「反腐敗」は危険水域に突入
・・・・一月下旬、習近平は党中央政治局会議を開き、その席上、全国人民代表大会常務委員会(議会)、国務院(政府)、最高法院、最高検察院、党中央軍事委員会などに年度事業報告をさせた。
党中央の指導権を見せつけたのだ。そういう場面を見せなければならないほど、習近平政権に対する抵抗が根強いからだろう。中国は今年も反腐敗運動で荒れる。【選択 2月号】
*****************
【江沢民元主席の息子に追及の手が及ぶ可能性も】
メディアでは最近、総書記退任から2年近くも軍事委員会主任にとどまり、胡錦濤時代も強い影響力を保持した江沢民元首席の息子である江綿恒氏の名前が挙がっています。
****中国の腐敗追及、「江沢民ファミリー」も視野か・・・関係する会社にメス、研究所トップの座は「退任」させられる****
中国共産党中央紀律委員会監察部が、大手通信会社の中国聯合通信(中国聯通、チャイナ・ユニコム)高級幹部に多くの不正があると発表したことで、同社と関係が深い江沢民元国家主席の息子である江綿恒氏に追及の手が及ぶ可能性があるとの見方が出てきた。
中国共産党中央紀律委員会監察部は5日、2014年末に実施した中国聯通に対する調査結果を発表した。同社では、高級幹部が地位を利用して、金銭や異性を提供した下請け業者などに便宜を図る行為があったとした。親族や出身地の企業に便宜を図ったケースもあったという。
中国聯通は2008年に中国網通と合併した。中国網通の設立は1999年で、江沢民元国家主席の息子である江綿恒氏が深くかかわり、設立後も影響力を行使しつづけた。合併後は江綿恒氏が中国聯通の“事実上の支配者”だったとの見方がある。中国聯通は世界第3位の携帯電話キャリアとされる。(中略)
中国共産党は2014年12月末、中国聯通幹部だった張智江と宗新華氏の調査を開始したことを明らかにした。その後、両者ともに「重大な規則違反と犯罪の疑い」があるとして、司法機関が立件の方向で作業を始めたと発表していた。
中国共産党が「大物の腐敗摘発」でしばしば見られる「周辺人物の身柄を確保し、徹底的に取り調べて証拠を固め、いわば“堀を埋めた”状態にしてから、“本丸”を攻める」という手法との観測もある。(後略)【2月13日 Searchina】
******************
【「スイスリークス」で名前が挙がった李鵬元首相の娘】
“中国では、親などの権力を利用して高い地位を得た政治家の子が「太子党」と呼ばれる。習近平現主席も「太子党」のひとりだが、「太子党」は政治家よりも、むしろ財界に多い。江綿恒氏はその1人だ。他の代表例としては李鵬元首相の娘で、中国電力国際発展有限公司の会長を務める李小琳氏などがいる。”【2月13日 Searchina】
問題となっている江綿恒氏と並んで、財界「太子党」を代表する李鵬元首相の娘、李小琳氏についても海外から名前が挙がっています。
事の発端は「スイスリークス」と呼ばれている騒動です。
****HSBC秘密口座で世界に激震****
英金融大手HSBCが、顧客情報に関する秘匿性の高さで知られるスイスの銀行制度を利用し、超富裕層や武器商人などに秘密口座を提供して利益を得ていた・・・そんな驚きの事実が先日、明らかになった。
ワシントンを拠点とする国際調査報道ジャーナリスト連盟(ICIJ)が公表した機密文書、いわゆる「スイスリークス」によれば、不正が疑われる口座の残高は1200億ドル近くで、その大半は脱税によるものだった。
HSBCのプライベートバンキング部門は、個人の顧客を企業として登録するなど、国際税法の抜け穴をくぐり抜けるサービスを提供して超富裕層の顧客を獲得してきた。
脱税を幇助するため、未申告の「フラックロ座」を開設していた疑いも持たれている。顧客側も偽名の使用を銀行に指示するなど、資産隠しに積極的に関与していた。
88~07年の顧客名簿に載っている顔触れは、ティナ・ターナーやデビッド・ボウイといったアーティストから、企業の役員や国際的な指名手配犯、王族、政治家など10万人以上で、国籍は200力国以上に及ぶ。
武器の密売人、紛争鉱物や紛争ダイヤモンドのディーラーもいる。
公的資金を使い込んだ罪で有罪判決を受けたラシド元エジプト通産相は、3100万ドル相当の口座を管理していた。
情報をリークしたのは、HSBCの元従業員でコンピユーターシステムの専門家のエルペ・ファルチアニ。
08年にファルチアニから通報を受けたフランス当局はデータを各国に提供し、米国税庁など10力国以上の税務当局が捜査に乗り出している。
HSBCは12年にも、メキシコの麻薬カルテルなどの約20億げに上るマネーロンダリング(資金洗浄)に関与し、米司法省と和解している。
今回の件で同社は、「コンプライアンス(法令遵守)と資産査定の基準が著しく低かった」と認めたただし、個々の顧客についてはノーコメントを貫いている。【2月24日号 Newsweek日本版】
****************
情報リークは08年とかなり以前の出来事ですが、国際調査報道ジャーナリスト連盟(ICIJ)がファイルをフランスの新聞ルモンド経由で入手し、2015年、45社を超える世界中のメディアに提供したことで騒ぎが大きくなっています。
“日本国籍のパスポートを持つ顧客は296人、596の口座が見つかった。全口座の合計額は4億2000万ドル(約500億円)で全世界で68位。HSBCのスイス部門に口座を持っていた著名人63人のリストの中には、日本人の建築家の名前もあった。”【2月10日 The Huffington Post】とのことで、顧客リストには日本人も含まれています。
HSBCは各国の税務当局からの課税を逃れる手助けをしていた疑いがあると見られていますが、リストに名前が載っているからといって必ずしも不正行為に関与したとは限りません。
この「スイスリークス」のリストに名前が挙がっているのが、李鵬元首相の娘、李小琳氏です。
****スイスリークスの余波 中国元首相の娘にも****
国際調査報道ジャーナリスト連盟(ICIJ)が公開した機密文書「スイスリークス」によると、中国の李鵬元首相の娘・李小琳が英金融大手HSBCのスイスの秘密口座に248万ドル近くを預金していることが明らかになった。
中国ではこれまでにも、政財界の要人が本国での税務監査を逃れて国外の銀行口座に蓄財していると非難が集ま
っていた。
李は電力大手・中国電力国際発展の会長を務めているが、政財界の幹部がエネルギー企業や金融機関などでの高い地位を利用し、公益よりも個人の利益を優先して巨額の見返りを得ているとの批判もある。
スイスリークスによれば、李とその夫がHSBCの顧客になったのは01年。「5つの口座に06~07年で総額248万ドルの預金があった。口座名義はパナマで登記して12年に解体した会社のものだった」という。
李はこれについてコメントしていない。
折しも中国では習近平国家主席が、官僚の間にはびこる汚職を撲滅する運動を推し進めている。「電力界の女王」と呼ばれる李は自らの成功は一族の威光ではなく、自力でつかんだものだと豪語してきた。
ブランド物に目がない時期もあったが、習が政権を握り、汚職摘発に力を入れ始めてからは控えめなライフスタイルに切り替えたという。
それが偽りでないかどうかは、今後の調査で明らかになるかもしれない。【2月24日号 Newsweek日本版】
******************
記事にもあるように、李小琳氏はこれまで、その派手なファッションが話題になっていた女性でもあります。
****李鵬元首相の娘 習近平倹約令の最中55万円コート着用で物議****
中国の李鵬・元首相の娘で、中国電力大手、中国電力国際有限公司会長の李小琳氏が10月下旬の第11回中国婦人・女性全国代表大会に出席した際、イタリアの有名ブランド、ロベルト・カヴァリ製の高価なコートを着ていたことが物議を醸し出している。
李氏のコートの写真が報じられたことから、同社の製品カタログから4120ユーロ(約55万6200円)であることが突き止められた。折りから習近平指導部の「倹約令」が盛んに喧伝されていることから、ネット上で批判の声が高まっている。「中国実時報(電子版)」が報じた。
李氏はこれまでも政府機関主催の公的な会議に出席する際のファッションが極めて派手で豪華なものが多く、カメラマンの格好の撮影対象となっていた。毎年3月に開催される中国人民政治協商会議(政協)にミニスカート姿で出席し、顰蹙を買ったこともある。
このため、李氏は最近、習近平国家主席が提唱する節約令に呼応するように、自身が会長を務める中国電力国際が主催した午餐会では、余った料理をタッパーに入れて、持ち帰るなどするようになった。(後略)【2013年11月10日 NEWSポストセブ】
********************
2014年には海南省での不動産取引でも疑惑の目が向けられたことがあるようです。
(中国電力業界を牛耳る「赤い貴族」に汚職取締りが及ぶ? 「太子党ビジネス」カラクリ暴露 弓野正宏氏 2014年6月19日 THINKING LIVE シンキングライブ http://blog.goo.ne.jp/thinklive )
2013年10月には、スイスの大手保険会社「チューリッヒ保険」の中国参入に絡む贈収賄事件に関与していた疑いがある、と英紙テレグラフが伝えたこともあります。まあ、その類には事欠かないのでしょう。
【情報を取り上げるか否かは権力側の都合次第】
中国の電力業界で「姉御」と称される「電力業界の女王」であり、100億ドル近くの価値を有する中国電力国際有限公司を率いる李小琳氏にしては、248万ドルの秘密口座というのは“少額”な感もあります。
先述のように、リストに名前が載っているからといって必ずしも不正行為に関与したとは限りませんし、「虎叩き」の対象となるかどうかは、権力闘争との兼ね合いになります。
権力側に不都合な情報は無視されます。
****中国商務相、息子の雇用継続を条件に「JPモルガン」に便宜提供申し出か・・・中国メディアの報道は見当たらず****
中国の高虎城商務相(中央政府商務部部長)が副大臣を務めていた2008年、米金融大手JPモルガン・チェースに在籍していた息子の雇用継続を条件に、同社に便宜を図ることを申し出たとの疑惑について、中国メディアの報道が見当たらない状態が続いている。(後略)【2月13日 Searchina】
****************
以前、温家宝前首相に関し、指導部入りした後に一族が巨額の財産を蓄えているとニューヨーク・タイムズ報じて話題となったことがあります。
習近平氏の一族も、多額の資産を蓄積しているとも報じられていました。
しかし、中国側(胡錦濤政権)は「中国の評判を落とし、隠された意図がある」と反発しています。
また、“海外メディアに習近平の親族の資産情報などが流れるのは、周永康支持派の仕掛けた情報戦だといわれている”【選択 2月号】というように、情報リーク自体が権力闘争の一環として行われているとの見方もあります。
更に言えば、「スイスリークス」のような海外メディア由来の情報を取り上げることは、別な機会に自分たちの名前が挙がったときのことも考えると、あまりないようにも思えます。
高齢で健康状態があまり芳しくないような李鵬前首相ですが、電力関係に影響力を持つ李鵬前首相をこの際叩きたい、あるいは李小琳氏が目障りだ・・・という話があれば、また別ですが。
そもそもの話で言えば、周永康氏が石油閥を率いているとか、李鵬前首相が電力業に影響力を持っているとか・・・そういう利権構造が大前提になっていること自体が中国の大問題です。(日本にも利権構造は存在しますので、あまり上から目線の発言はできませんが)