孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン・ミンダナオ島  1月の“交戦”で、新自治政府発足に向けた法案審議がストップ

2015-02-25 22:39:19 | 東南アジア

(交戦で死亡した44名の警官の葬儀で、並ぶ棺を背にしたアキノ大統領 http://www.interaksyon.com/article/104087/mel-sta-maria--the-mamasapano-incident-discordant-gestures-everywhere )

14年3月和平合意 任期中の新自治政府発足を目指すアキノ大統領
40年以上にわたって続いているフィリピン南部ミンダナオ島のイスラム系住民の反政府闘争(十数万人が死亡、200万人以上が避難)したについては、これまでも何回か取り上げてきましたが、改めて確認すると、前回取り上げたのが2014年1月27日ブログ「フィリピン・ミンダナオ島  最終的な和平協定に向けて前進」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140127)で、1年以上前になるようです。

表題のように、長年の紛争に一応の区切りをつける和平協議が進み、昨年3月にはフィリピン政府とイスラム反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)が包括和平合意文書に調印し、新自治政府発足に向け動き出しました。

“今後は合意内容を条文化した「自治基本法」を制定し、編入の是非を問う住民投票で管轄地域を確定させる予定。和平実現に積極的なアキノ大統領が任期を終える16年内の新自治政府発足を目指す。しかし、一部の武装勢力は1月以降、MILF主導の和平に反発し、政府軍と衝突。利権を巡る政治家らの妨害も懸念されている。”【2014年3月27日】

この問題には日本も仲介に取り組んできました。
“日本は06年から停戦監視団に専門家を派遣しているほか、11年8月にはアキノ大統領とMILF議長との極秘会談を成田空港近くのホテルで実現させ、和平の足がかりに貢献している。”【2月25日 朝日】

包括和平合意文書調印の後は、紛争で遅れていたミンダナオ島復興に向けた動きなども報じられていました。

****武器を置いてソバを育てる ミンダナオ島****
フィリピンでは、政府軍とイスラム武装組織との紛争が続いてきた南部・ミンダナオ島で日本人が現地のイスラムの人たちの生活を支援しようと日本のソバを栽培する取り組みが本格化しています。

この取り組みは、ミンダナオに住む日本人、天野洋一さん(71)と住川武禧さん(71)が日本の食品加工会社の支援を得て7年前から始めたもので、現地の人たちと協力してソバの実を栽培しています。(後略)【2014年5月24日 NHK】
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****ミンダナオ島、電力不足 需給逼迫、3カ月で損失54億円****
フィリピン南部のミンダナオ島で電力不足が深刻化し、経済に悪影響を及ぼしている。

ミンダナオ開発庁によると、2月後半から5月中旬までの約3カ月で電力不足が原因とみられる消費減や機械故障などによる損失額は23億ペソ(約54億円)に達したもようだ。同島は電力需給が逼迫(ひっぱく)した地域として知られる。現地紙マニラ・ブレティンなどが報じた。(中略)

地元紙ミンダナオ・エグザミナーによると、こうした(和平合意の)流れを受けて同島への投資も資源関連を中心に増加している。

ムスリム・ミンダナオ自治区の投資委員会の発表では、1~3月の投資流入額は16億2000万ペソとなり、昨年の年間流入額14億6000万ペソをすでに上回った。

今後、紛争で遅れた経済発展を遂げていくには電力の安定供給が欠かせない。同島ではアヤラ・グループやアルカンタラ・グループなど地場財閥系の電力会社が大型の発電所建設に乗り出しているほか、日本からも三菱商事などが発電事業に参加している。【2014年6月4日 SankeiBiz】
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また、昨年6月には「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」のムラド議長が来日して、今後の抱負を語っています。

****MILF・ムラド議長「自治政府作る法律、年内に」 比ミンダナオ和平****
・・・・ムラド氏はイスラム教徒が主体の自治政府づくりのための基本法案の年内成立を求めた。

自治政府の姿についてムラド氏は「自前の警察をつくり、天然資源の富は優先的に分配してもらい、財政的にも自立する」と説明。基本法案はすでに政府に提出したとして「7月に国会審議を始めて年内に成立してほしい」と話した。日本政府の支援も訴えた。(後略)【2014年6月23日 朝日】
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警察の特殊部隊とMILFが交戦、警官49人が死亡
和平実現に積極的なアキノ大統領のもとで、ようやくミンダナオ島にも和平が定着するのか・・・とも思われていたのですが、今年1月の事件でにわかに事態は不透明になっています。

****フィリピン警官49人死亡、ミンダナオ島でイスラム勢力と衝突****
フィリピン南部ミンダナオ島で、警察の特殊部隊と反政府イスラム系武装勢力の衝突が発生し、警官49人が死亡した。

同島を拠点とする反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」とフィリピン政府が、40年以上にわたった紛争の末、昨年3月に調印に至った和平合意が試されている。

約11時間に及ぶ衝突が発生したのは、ミンダナオ島のMILFが支配するマギンダナオ州のママサパノ。25日午前3時(日本時間同日午前4時)ごろ 、停戦合意で定められているMILFとの調整なしで警官隊がママサパノに進入し、銃撃戦となった。

26日に急きょマギンダナオ入りしたフィリピン国家警察庁のレオナルド・エスピナ長官は声明を発表し、警察の特殊部隊は最近フィリピン南部で起きた爆発事件の背後にいるとされる「重要度の高い標的」を追跡していたと説明した。

一方、MILF側の和平交渉責任者、モハグハ・イクバル氏は、警察が追っていた人物のうち1人は、東南アジアのイスラム地下組織ジェマ・イスラミア(JI)のメンバーで米国が500万ドル(約6億円)の懸賞金をかけている「マルワン」ことズルキフリ・ビン・イール(容疑者だったと語っている。

また追跡されていたもう1人は、フィリピンの反政府イスラム武装勢力「バンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)」のバシット・ウスマン司令官だったとみられている。

イクバル氏は、今回の衝突は和平プロセスの上で「大きな問題となるだろう」と述べたが、同氏、政府高官ともに停戦は保たれていると強調した。【1月26日 AFP】
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事件の経緯、犠牲者については以下のようにも報じられています。

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事件が起きたのは1月25日未明。

警察の特殊部隊はイスラム系国際テロ組織「ジェマー・イスラミア」のマレーシア人幹部を捕まえるため、MILFが支配する平原に入った。

停戦合意中の相手地域に入る際は事前通告が鉄則だが、警察は「重要度が高い任務は例外」と通告を避けた。

暗闇でMILFのゲリラ部隊と遭遇して戦闘を開始。犠牲者は少なくとも警察44人、MILF18人、市民5人の計67人に及んだ。【2月25日 朝日】
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事前通告がなかったことによる偶発的な衝突のようですが、“警察44人、MILF18人、市民5人の計67人”という犠牲者の数は非常に多いものになっています。

なぜ事前通告をしなかったのか、ここまで犠牲者が拡大するまでに途中で停止できなかったのか・・・不思議に思えるところもあります。

現地在住の方のブログなどを拝見すると、当然のように居酒屋談義的に“陰謀論”も語られてはいるようです。

停戦合意を壊してMILFを劣勢に追い込みたいその他の反政府勢力が仕組んだ罠とするもの。
イスラムへの猜疑心を高め、来るべきイスラムとの戦争を正当化するためアメリカが仕組んだ罠とするもの。
合意をひっくり返してイスラム勢力へ対決姿勢へ転換しようとするフィリピン政府が仕組んだとするもの。
次期大統領選挙を控えて、アキノ大統領から後継者指名を受けているロハス内相(警察を管轄)の失点を演出しようした罠とするもの。等々・・・。
【フィリピン南溟通信 http://dadesigna.blog.fc2.com/blog-entry-483.html より】

まあ、いずれも居酒屋談義の域を出ないということは、逆に言えば、真相はやはり偶発的な衝突だった・・・ということでしょうか。

交戦による審議中断で、任期中の新自治政府発足は「もはや不可能」】
ただ、事件の影響は深刻です。

****ミンダナオ和平 不透明に フィリピン、武力衝突で法案審議停止 ****
フィリピン政府と南部ミンダナオ島のイスラム系武装勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」が合意した和平の実現が微妙な情勢になってきた。

1月の衝突で警察側の44人が死亡し、関連法案の国会審議が停止しているためだ。2016年に予定されているイスラム自治政府の樹立が頓挫することになれば、アジアでトップクラスの高成長に水を差しかねない。

「暴力の再発が懸念される」。フィリピン大統領府のコロマ報道官は10日、和平プロセスの停滞についてこう述べた。

同国政府とMILFは12年に和平の枠組みで合意し、16年にミンダナオ島内に自治政府を設立する準備を進めている。国会で「バンサモロ基本法案」が審議されていたが、衝突を受け停止した。

きっかけは1月25日に同島マギンダナオ州で起きた衝突だ。警察の特殊部隊がMILFの支配領域に入って戦闘が起き、警察の44人が死亡した。

フィリピンでは大統領再選が禁止。16年に誕生する次期大統領がミンダナオ和平を優先する保証はない。残り1年でMILFの武装解除が必要になる。2月末までに自治政府の根拠となる基本法を成立させなければならないが不透明になった。

仮に戦闘が再開されれば、同島への投資は減り、国内のほかの地域のイメージも悪化しそうだ。

ミンダナオ島の人口はフィリピン全体の2割にあたる約2千万人。開発が遅れたため賃金がマニラ首都圏などに比べておおむね低く、国内外の企業は新たな投資先として期待する。(後略)【2月24日 日経】
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****法案審議止まる****
(事件が起きたミンダナオ島中部ママサパノの)村人が懸念するのは、事件後、国会で和平合意の柱である「イスラム系住民による自治政府」を設置する基本法の審議が中断されてしまったことだ。

フィリピンは人口の約8割がカトリック教徒。イスラム系武装勢力に警官44人を殺された衝撃は大きく、国家警察の長官は解任され、大統領の辞任を求める声も高まっている。

国会ではイスラム系住民の自治権限を縮小する方向で法案を修正することや、廃案を求める声も出始めた。

和平合意は「アキノ大統領の任期(来年6月)までの自治政府設立」という内容だ。そのための基本法は手続き上、今年3月20日が成立の期限と言われていた。だが交戦による審議中断で「もはや不可能」(マルコス上院地方自治委員長)な情勢となった。

国内で高まるMILFへの不信感の背景には、最近、世界各地でISのテロ事件が相次いでいることもある。

ミンダナオ島の武装勢力とISとの関連は明らかではない。ただ、今回警察が追っていたのは02年のインドネシア・バリ島爆弾テロに関わり、「IS支持」を表明していたとされるジェマー・イスラミアの幹部。「武装勢力がかくまっていたのでは」と国民の不信を招いている。【2月25日 朝日】
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もともと、イスラム勢力との和平合意については、イスラム勢力内部でも和平協議の主導権を握るMILFへの反発は以前から強くあります。

1977年にモロ民族解放戦線(MNLF)から分派・独立した組織であるMILF自身が、MNLFが進めた和平協議に反発して武装闘争を続け、勢力を拡大してきた組織でもあります。

また、キリスト教徒勢力のなかにも、新自治政府発足で既得権益を失う勢力は和平に反対しており、こうした勢力の意向を受けるかたちで、アロヨ前大統領が進めていたMILFとの和平協議が年2008年の最高裁の違憲判決で頓挫したこともあります。

こうした反対勢力が多い中で進めてきた和平合意ですので、非常に壊れやすいものでもあります。

なお、MILFはアルカイダ勢力「ジェマ・イスラミア」との関係も従来から指摘されていましたが、現在の関係は知りません。

武装闘争方針を変えた現在は、いろいろと事情も変わっているとは思いますが、一方で、キリスト教徒主体のフィリピン社会に、IS拡大に伴って、イスラム勢力への警戒感が強くなっているであろうことは容易に想像できます。

今回交戦について、現地の方のブログには、“マニラの人を激昂させたのは、(警察部隊が)単に死んだということではなくて、殺された後、屍体が冒涜された、つまり顔が変形するくらい銃弾が撃ちこまれたり、切り刻まれたことである。”(http://tagalog.gengo21.com/?p=178)といった指摘もあります。

いずれにしてもアキノ大統領在任中の新自治政府発足は「もはや不可能」ということであれば、極めて残念です。
ようやくここまで持ってきたのに・・・。
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