孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  襲撃事件以降、高まる社会的緊張 「追い風」を受ける右翼政党・国民戦線

2015-02-11 22:09:43 | 欧州情勢

(襲撃事件後の1月11日のマリーヌ・ルペン党首(中央女性) “flickr”より By Vincent Jarousseau https://www.flickr.com/photos/jarousseau/16077745038/in/photolist-qw8JgC-quThxV-quS62x-quKEhA-qMiZm2-quJPzU-qMiLjk-qM9rCM-quJDsE-qM9q44-quJCLE-qtGjDZ-quTavD-qMiNJF-qMiSGv-quS216-quKAuW-quT8pp-qMeBpb-pQwGWk-qK2aAs-qK1XFL-qMeHsy-qM9EXn-qM9tVT-qK214b-quJKeu-quKzu9-pQiPUL-pQwJ5n-quJFfh-qM9wbe-dYGvcx-qFq4T5-qrHt28-qJ5HBg-qwH1u2-qDhjcR-qA99uS-qLfDjR-qPuZ1k-qK9VKs-r3S4w8-qC4wAq-qSncz5-qLpvEw-pLPqgB-qFeyt3-qAr4VZ-qHE7NB)

【「私たちは、ただ皆と平和に暮らしたいだけだ。しかしこの事件で状況が悪化しようとしている」】
「自由・平等・博愛」を基本理念とするフランスでは風刺紙シャルリーエブド襲撃事件以降、民族・宗教の違いによる社会的緊張が高まっています。

****過激派の烙印恐れる仏イスラム教徒 ****
フランス・パリ郊外では、北アフリカ系の多くの移民が失業と貧困の中で暮らしている。若い労働者が、地域のパーティーの開催を知らせるポスターの前を暗い表情で通り過ぎていく。

姓や年齢を明かさずにインタビューに応じたモハメドさんは、仏風刺週刊紙「シャルリー・エブド」がイスラム過激派に襲撃されたことにより、町でたむろする若者たちの将来が暗くなる可能性があると訴える。

「私たちは、ただ皆と平和に暮らしたいだけだ。しかしこの事件で状況が悪化しようとしている。友人たちも、まるで自分が事件と関係があるかのような目で見られることがあると話している」と述べた。

 ◆欧州最多の500万人
フランスでは事件後、モスクが相次いで襲撃され、イスラム教徒は身をひそめるようにして暮らしている。

イスラム教指導者たちは、シャルリー・エブドの襲撃事件に対する他のフランス市民の抗議活動を刺激しないよう、イスラム教徒たちに慎重かつ冷静な姿勢を保つことを呼びかけている。また、ベールで顔を隠している女性は1人で外を出歩かないようにと促している。

労働者階級が多く住むパリ郊外のセーヌ・サン・ドニを拠点とするイスラム協会連合(UAM93)の広報担当者、ムハメド・ヘニチェ氏は「パニックが広がっている。イスラム教徒の中に、『次に来るのは何だ?』と自問する人が増えている」と述べた。

極右政党国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は以前から、フランスの抱える悩みの多くは移民がもたらしているとの見解を示してきた。しかし現在はイスラム過激派に強硬な措置を取るよう主張を激化させており、イスラム教徒が感じる脅威は強まっている。

モハメドさんの近所に住む主婦のレイラ・ジェロウアニさん(55)は「フランスの人々が動揺するのは当然だ。彼らは私たちを侮辱し、私たちは彼らを侮辱する。それは仕方がない。だが互いに殺し合うところまでいくべきではない」と述べた。

全国民に占める割合で比較すると、フランスのイスラムコミュニティーの規模は欧州最大で、約500万人である。20世紀にフランス領だった北アフリカからの移民の子や孫の世代が増えつつあり、同国のイスラムコミュニティーは拡大を続けている。

パリ郊外のル・ブラン・メニルは移民が多く住む地域で、モハメドさんの職場もそこにある。パリのダウンタウンからわずか10マイル(約16.1キロメートル)しか離れていないが、豊かで華やかなパリとはまったく違う世界である。

失業率は20%で、全国平均の2倍に達する。住宅の38%が公営住宅で、住民の半数が所得税非課税の低所得者である。

モハメドさんが働く殺風景な低層の建物は、近隣の家庭に数少ない楽しみを提供する場所の一つである。翌日は地域のパーティーだった。モハメドさんも参加し、子供たちのために空気で膨らませる城を作ったり、親たちにリフレッシュの場を提供したりして、自身も日頃の憂鬱を忘れて過ごすつもりだという。

「大半の人々は平穏に毎日を過ごそうとしている。問題を起こすのはごく一部の人たちだ。誰もかれも同じような目で見られるのは非常に残念なことだ」と述べた。

 ◆反移民本や政党人気
ヘニチェ氏によると、フランスでは昨年10月に仏ジャーナリストのエリック・ゼムール氏が、イスラムコミュニティーの成長が火種になって内戦に至る可能性があるとし、移民を強制送還せよと発言した。

それ以降、イスラム教徒に対する圧力が強まっている。移民が同国の主権を脅かしていると論じたゼムール氏の最新の著書は、50万部近くを売り上げている。

またシャルリー・エブドの襲撃事件は、仏作家のミシェル・ウエルベック氏が、フランスでイスラムの影響が強まることへの懸念を表現した小説の発売日と同じ日に発生した。

この小説の筋書きは、2022年にフランスにイスラム教徒の大統領が誕生し、その保守的な宗教観をフランスの社会に広めようとするというものだ。

国民戦線のルペン党首は、移民への反感の高まりを追い風にして、今やフランスで最も人気の高い政治家の一人である。

1月8日には、同国で1981年に廃止された死刑制度の復活を求める国民投票の実施を求めた。またオランド大統領に対し、イスラム原理主義者への対抗策としてもっと強硬な手段を認めるべきだと訴えた。

UAM93のヘニチェ氏によると、同氏が担当する区域において、イスラム教徒が狙われる出来事の頻度が増し、女性たちが侮辱されたりベールを取られたりする事例も発生しているという。同氏の担当区域にはル・ブラン・メニルも含まれる。

イスラム系ニュースサイトのサフィアニュースのジャーナリスト、アナン・ベン・ローマ氏はリベラシオン紙の取材に「今発生している状況が下地となって、フランスがますます悪意のある考えを受容しやすい社会になってしまうかもしれない。人々が過度に単純化した答えに飛びつくことを恐れている」と述べた。(ブルームバーグ Angeline Benoit、Maher Chmaytelli)【2月6日 SankeiBiz】
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息をひそめるのはイスラム社会だけではなく、襲撃に怯えるユダヤ社会も同様です。
フランスで暮らすことをあきらめてイスラエルへの移住するユダヤ人も増加しています。

****ユダヤ社会の動揺続く=やまぬ襲撃、イスラエル移住も―連続テロ事件1カ月・仏****
ユダヤ人を含む17人が犠牲となったフランス連続テロ事件を受けて、仏国内のユダヤ社会の動揺が続いている。

ユダヤ人に対する差別的な言動や関連施設を狙った襲撃が事件後も後を絶たず、イスラエルなどへの移住を検討する人が急増。オランド大統領は「フランスはユダヤ人の故郷だ」と警備などの面で支援に全力を挙げているが、沈静化には時間がかかりそうだ。

事件は7日で発生から1カ月。風刺紙シャルリエブド襲撃の2日後には実行犯の1人とされるアメディ・クリバリ容疑者=死亡時(32)=がパリ東部のユダヤ食品店に立てこもり、人質のユダヤ人4人が殺害された。

2月に入ってからも事件は続き、南仏ニースでは3日、ユダヤ集会所を警備中の兵士2人が男に刃物で襲われ、軽傷を負う事件も起きている。

フランスのユダヤ人口は、イスラエルと米国に次ぐ世界3位の約50万人。しかし、近年ではパレスチナ情勢の緊迫などを受け、イスラム系住民を中心に「反ユダヤ」の機運が台頭。ユダヤ人を狙った犯罪も相次いだことから、2014年にフランスからイスラエルに移住したユダヤ人は7000人超と前年から倍増、過去最高を記録した。

イスラエルへの移住支援を手掛ける「ユダヤ機関」仏事務局の担当者は「説明会への参加申し込みは事件後に10倍超に急増した」と語り、今後も仏退去の動きは加速すると予想した。

他国への脱出を検討するパリのユダヤ人、サラさん(25)は仏紙ラクロワに「事態が悪化すれば国外に追放される。就職する前に離れたい」と心情を明かしている。【2月6日 時事】 
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【「地域的、社会的、民族的なアパルトヘイト(人種隔離政策)が存在している」】
一方で、宗教・民族の違いによる緊張関係を乗り越えて、国民融和を求める動きもあります。

****<仏テロ1カ月>移民との融和論活発 テロ対策強化の一方で****
仏週刊紙「シャルリーエブド」襲撃事件から7日で1カ月。イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画掲載を発端とする一連の事件を受け、フランスではテロ対策の強化が図られる一方、事件の背景となった移民社会への差別問題やイスラム教のあり方が改めて議論されている。

射殺された容疑者3人が恵まれない移民集住地域の出身で、「表現の自由」など西洋的価値観を認めない偏狭なイスラム過激主義者だったためだ。

 ◇首相「人種隔離」自戒
「地域的、社会的、民族的なアパルトヘイト(人種隔離政策)が存在している」。バルス仏首相は1月20日の記者会見で、一連の事件の背景を刺激的な表現で指摘した。

週刊紙本社を襲ったクアシ容疑者兄弟とユダヤ教徒向けスーパーに立てこもったクリバリ容疑者が、旧植民地アルジェリアやマリからの移民2世で、移民集住地域の出身だったからだ。

パリ北郊の移民集住地域では2005年、社会的差別に基づく高失業率や失望感から暴動が起きている。バルス氏は「誰が05年を覚えているのか」と歴代政権の無策を自戒した。

「郊外の未来」の著者、パリ第8大サンドニ校のミシェル・ココレフ教授(55)は「郊外の(移民)集住地域に対する(これまでの)公共政策は無力だった」と指摘。「大半が白人の政治家に希望を託せず、社会や政治からの疎外感を持っている。住民の声をまとめて政治に届け、市民意識を育てる地域グループの支援が必要だ」と訴える。

一方、事件後も「言論の自由は守られるべきだ」との世論に大きな変化はない。2週間後に行われたIPSOS社の世論調査では、5割以上が「言論の自由は守られるべきで、同種(ムハンマド)の風刺画の発行に賛成」と答え、約4割は「個人的には同種の風刺画の発行に賛成しないが、言論の自由、出版の自由は守られるべきだ」と回答した。「同種の風刺画の発行に反対」は1割未満だった。

西洋的価値観を暴力的に否定するイスラム過激主義を前に、イスラム教指導者の中からも自省の声が上がっている。

仏東部ボルドー郊外のイスラム教指導者、マフムード・ドゥア氏(47)は「外国出身のイスラム教指導者はフランス語が話せるだけでは不十分。文化や歴史を理解する必要がある」と語る。

同国のイスラム教指導者の大半が北アフリカの旧植民地出身者のため、「表現の自由」を尊重する仏文化との融合が進まないとの指摘だ。「仏文化や歴史に合わせた教義をイスラム教の神学者たちが定義すべきだ」と訴える。

大学で講義も行う別の指導者タアール・マーディ氏(51)も「来仏する外国人の指導者は母国から資金援助を受けているため、フランスになじまない自国流を押し付ける傾向がある」と指摘。

イスラム過激派について「コーランの大半を占める慈悲や愛、平和についての節を無視し、正当防衛の戦争などに言及した数節だけをとらえて曲解している」と批判している。

一連の事件では、容疑者同士が服役中の刑務所で知り合い、過激化した経緯があるため、バルス氏は1月21日、刑務所で教えを説くイスラム教指導者の雇用費などの予算を倍増すると発表した。【2月6日 毎日】
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17年には、「ルペン」という名の大統領が誕生する可能性も
政治的に見ると、事件後、空前の低支持率に喘いでいたオランド大統領の支持率が回復しています。

事件解決から約1週間後の1月16,17の両日に行われた世論調査では、昨年12月の19%から40%へ、21ポイントの急上昇したそうです。

調査担当者は、“事件を発生から3日で終結させた一連の対応や、40カ国以上の首脳を含む370万人が参加した反テロ大行進の企画などが高く評価された”【1月19日 時事】と分析しています。

国民の結束を呼び掛けたバルス首相の支持率も、17ポイント上昇し61%となったそうです。

もっとも、持続可能かどうかは、今後の経済運営次第と見られています。
非常時の支持率回復は2013年1月、フランス軍のマリ軍事介入時にもみられました。

オランド大統領への支持回復もあって、8日にフランス東部であった議会の補欠選挙で、与党・社会党の候補が国民戦線候補を振り切って勝利しました。オランド大統領就任後では、補選における社会党の初めての勝利だそうです。

“与党・社会党の候補が前評判を覆して勝利した”【2月11日 日経】・・・・事前予想では国民戦線候補が勝利すると見られていたのでしょうか。

その点では、社会党が踏ん張ったということでしょうが、一方で国民戦線候補がほぼ半数の票を獲得していることには驚かされます。

****落選の右翼FN、半数に迫る得票 仏下院補選****
仏東部ドゥー県で8日、国民議会(下院)補選の決選投票があった。与党・社会党が無効票などをのぞいて51・4%の得票で議席を守る一方、右翼・国民戦線(FN)の得票は48・6%に達した。1月の連続テロの後、初の国政選挙で、移民規制の強化などを訴えるFNが勢いを見せつけた。

社会党のフレデリック・バルビエ氏(54)は1日の第1回投票で2位だったが、中道右派の一部が支持に回って逆転した。FNのソフィー・モンテル氏(45)は議席には届かなかったものの、首位だった第1回投票(得票率32・6%)から15ポイント超上積みした。【2月10日 朝日】
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風刺紙シャルリーエブド襲撃事件で支持を回復したオランド大統領ですが、強まる反イスラム・移民排斥の風潮によって、オランド大統領以上にマリーヌ・ルペン党首率いる右翼政党・国民戦線への追い風が強まっています。

すでに、昨年9月のフィガロ紙の世論調査では、ルペン氏の支持率は現職のオランド大統領を15ポイント上回っていました。

マリーヌ・ルペン氏は、父親から引き継いだ“極右政党”のイメージからの脱却を行ってきました。

“ルペンにとっての課題は、国民戦線のあまりに過激なイメージを和らげることだ。そこでルペンと党幹部たちは、「毒抜き」を行い、人種差別と反ユダヤ主義の党から脱皮し、強力なナショナリズムとバラまき経済政策を掲げる政党に転換しようとしてきた。”【1月16日 Newsweek】

しかし、移民・イスラムへの厳しい姿勢は堅持しています。

“イスラムの脅威に早くから警告を発していたルペンに先見の明があったと考える国民も多いだろう。
ほかの政治指導者が追悼を呼び掛けたり、テロの背後にある憎悪を非難したりしているとき、ルペンはテロをフランスに対する宣戦布告と呼んだ。テロ翌日には、死刑制度の復活を問う国民投票を実施すべきだとも述べている。”【同上】

国民戦線は、昨年の欧州議会選で約25%の支持を得て、2大政党を抑えて国内第1党となっています。

オランド大統領の高支持率もどこまで持つか怪しいものですし、過去の人とも思われたサルコジ前大統領が復活した右派・国民運動連合(UMP)は内紛を抱えています。

おそらく、3月の地方選挙では、国民戦線が大躍進するでしょう。
問題は、2017年の大統領選挙です。

昨年来、国民戦線の支持拡大は指摘されてきたところで、2017年の大統領選挙では上位2者に残り、決選投票に進む可能性が取り上げられていました。
ただ、さすがに決選投票となると、反“極右”感情から、過半数を獲得するのは難しいだろう・・・という見方でした。

“フランスでも多くの研究者が以下の想定で一致する。2017年大統領選でルペン党首は決選に残り、22年には大統領選を制するかもしれない”【1月27日 朝日】

ただ、仏東部ドゥー県で8日に行われた国民議会(下院)補選結果をみると、すでに2017年で手が届くところまできているのかも・・・という感もあります。

“そして17年には、「ルペン」という名の大統領が誕生するという、かつてはとうてい想像できなかったことが現実になるのだろうか。”【1月16日 Newsweek】

****インタビュー)フランス社会の混迷 マリーヌ・ルペンさん****
「テロの原因を考えると、悲しくなります。イスラム原理主義が我が国に浸透していると、私たちはずっと以前から警告してきましたから。彼らは、一部の地域を占拠し、犯罪組織とつながりを持ち、世俗社会を尊重しません。自由なフランスの理念に対し、全体主義の立場から宣戦を布告しているのです」

「テロは手段に過ぎません。テロを生み出す理念こそが問題なのです。原理主義はイスラムのがん細胞。摘出しないと健康な細胞まで侵し、どんどん増殖する。フランス社会を分裂させ、自分たちだけの社会を内部に形成しようとする。そうなれば、政教分離の原則は崩壊するでしょう。政治は長年、この現実に目をつぶってきました」

「テロ直後に生まれた国民の一体感を強調するあまり、事件を招いた責任を忘れてはいけない。テロはなぜ起きたのか、私たちは何をすべきなのか、開かれた議論をしなければなりません」

「まず(欧州統合で廃止された)国境管理を復活させ、移民の流入を止め、刑罰の緩みをただすべきです。『原理主義を社会から孤立させよ』などと言う人がいますが、その前に(罪を犯した)彼らを逮捕し、処罰し、収容するための刑務所を増設しなければなりません」【1月27日 朝日より】
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マリーヌ・ルペン氏は「毒抜き」を行ってきました。しかし、人種差別につながる体質というか、「遺伝子」は残っています。より正確に言えば、体質・遺伝子は左右を問わず誰しも持っているのでしょうが、それを表に出して憚らない政治姿勢・・・と言うべきでしょうか。
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