【6月13日 AFP】
【頻発するテロ テロ対策を指揮した警察幹部の妻も】
経済成長に向かって動き出したイスラム教国・バングラデシュで、イスラム過激派による世俗主義的なブロガーや出版関係者、宗教的少数派のヒンズー教徒やキリスト教徒などへの暴力事件が頻発していることは、これまでも取り上げてきました。
2016年4月23日ブログ“バングラデシュ 止まないイスラム過激主義者によるテロ事件”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160423
2015年11月28日ブログ“バングラデシュで頻発するテロ 社会不満から過激思想へ 貧困と疎外がもたらす「テロの温床」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151128
その後も4月25日、首都ダッカで同性愛者の権利活動家2人が刃物で襲われ殺害されています。
****バングラ同性愛活動家2人殺害、「イスラム過激派」の男逮捕****
バングラデシュの首都ダッカで同性愛者の権利活動家2人が刃物で襲われ殺害された事件で、警察当局は15日、イスラム過激派とみられる容疑者の男(37)を逮捕したと明らかにした。
殺害されたのは、同国のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)誌の編集長ズルハズ・マンナン氏と、同誌の発行委員の一人だったマハブブ・トノイ氏。2人は先月、ダッカのアパートで、なたや銃を持った6人の男に襲われた。
警察は14日、世俗派や無神論者ブロガーらの一連の殺害に関与したとされる地元イスラム過激派組織の構成員とみられるシャリフル・イスラム・シハブ容疑者を逮捕した。
ダッカ警察の報道官はAFPの取材に対し、ズルハズ・マンナン氏の殺害に関連して同容疑者を逮捕したと明らかにし、「彼はイスラム過激派『アンサルラ・バングラ・チーム(ABT)』の構成員だ」と述べ、2人の殺害はABT指導部の命令によるものと付け加えた。(中略)
「インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)」が、2人は同国で「同性愛を推進」していたとして殺害の犯行声明を出したが、警察当局は、殺害の手口に地元イスラム過激派の顕著な特徴があったと述べた。【5月16日 AFP】
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また、戦争犯罪により死刑を言い渡されていイスラム政党党首の死刑執行が5月10日に行われたことで、更に緊張が高まることも懸念されていました。
****バングラデシュ、イスラム政党党首の死刑執行 緊張激化の恐れ****
バングラデシュで10日、同国最大のイスラム政党「イスラム協会(JI)」党首で、戦争犯罪により死刑を言い渡されていたモティウル・ラーマン・ニザミ死刑囚(73)の刑が執行された。当局が発表した。イスラム教徒が多数を占める同国で、緊張が高まる恐れがある。
ニザミ死刑囚は首都ダッカにある刑務所で絞首刑に処された。1971年、パキスタンからの独立戦争時の残虐行為で死刑を言い渡されていた。
同国ではこのところ、世俗主義・リベラル派の活動家や少数宗教の信者らがイスラム過激派とみられる人物に殺害される事件が相次いでいるが、今回の死刑執行により、新たな暴力行為の波に見舞われるのではという懸念が生じている。
2013年、JI幹部が戦争犯罪で有罪判決を受けた際にも、過去数十年間で最悪規模の暴力行為が発生。イスラム主義者らと警察との衝突などにより約500人が死亡し、数千人が逮捕された。
同年12月以降に戦争犯罪に問われ死刑に処された野党指導者は、ニザミ死刑囚で5人目(JIでは4人目)となったが、中でも同死刑囚は最高位。これら被告の裁判については、世界中から批判が集まっている。【5月11日 AFP】
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“世界中から批判が集まっている”という話はよく知りません。
こうした社会的緊張が高まるなかで、イスラム過激派摘発で著名な警察幹部の妻が殺害される事件も起きています。
****警察幹部の妻が惨殺、テロ対策への報復か バングラデシュ****
バングラデシュ南部の沿岸都市チッタゴンの地元警察は6日までに、テロ対策の実績で知られる警察幹部の妻が、何者かに襲撃されて殺害されたと明らかにした。(中略)
ミトゥさんの夫、バブル・アクテル氏は、非合法組織「ジャマトゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)」摘発の実績で知られる警察幹部で、この職務に関連して脅迫を受けていた。
警察は今回の殺人について、アクテル氏の職務に関連した計画的な犯行とみて調べている。ただ、関連を裏付ける証拠は見つかっていないという。
遺族を弔問した同国のカマル内相は記者団に対し、警察の士気をくじくための計画的犯行だったと断言。「武装集団による報復だった可能性がある」と語った。
警察は防犯カメラの映像を公開して逃げた襲撃犯の行方を追っている。
アクテル氏は米国や中国で訓練を受け、チッタゴンやコックスバザールでイスラム過激派に対する大規模なテロ掃討作戦を展開、その功績を認められて何度も表彰されていた。
昨年10月には、アクテル氏率いる掃討作戦で指導者が殺害された報復として、JMBが同氏を襲撃する事件が起きた。報道によると、アクテル氏はこの事件以来、家族の身を案じていたという。
アクテル氏は最近、首都ダッカの警察本部へ異動になっていた。
バングラデシュはイスラム教徒が大半を占め、ここ最近は、世俗派や少数派宗教の信者、同性愛活動家などを狙ったイスラム過激派の犯行とされる殺人事件が急増している。
米国の駐バングラデシュ大使によると、そうした事件は過去14カ月で少なくとも35件発生し、うち23件はイスラム過激派組織が犯行を認める声明を出した。
昨年9月には、イスラム過激派がバングラデシュ国外でも世俗派を襲撃すると予告。欧州や北米在住者の「殺害予告リスト」を公表していた。【6月6日 CNN】
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7日には、今度はヒンズー教僧侶が殺害されています。
****ヒンドゥー教僧侶殺害、ISISが犯行声明 バングラデシュ****
バングラデシュの警察によると、同国南西部ジェナイダ県の村で7日、ヒンドゥー教の僧侶(70)が刃物で殺害された。過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が犯行を認める声明を出した。
ISISは声明で「帝国の兵士たち」による犯行だと述べ、バングラデシュから多神教を追放するまで攻撃を続けると宣言した。(後略)【6月8日 CNN】
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自宅近くの稲田で見つかった遺体は、頭部が首からほぼ切断された状態だったそうです。
【大規模一斉検挙に踏み切った警察 テロとは別の危険性も】
警察幹部の妻が殺害された事件では“背後から3人の人物に襲撃されて地面に倒れ、8カ所を刺されて頭部を撃たれた。”【同上】とのことで、警察はバイクに3人以上乗ることを禁止する対応をとっています。
ちなみに、東南アジア諸国ではバイクの3人乗りや子供を含む4人乗りといった光景がよく見られます。
「バイク3人乗り禁止」がテロ対策で有効だろうか?と訝しくも思ったのですが、その後当局側は「過激派一斉検挙」に踏み切っています。
****バングラデシュ、相次ぐ少数派襲撃で過激派摘発 5000人超拘束****
宗教的少数派や世俗派、自由主義活動家らを標的とした襲撃・殺害事件が相次いでいるバングラデシュでイスラム過激派の一斉摘発が行われ、警察は13日までに武装組織の戦闘員を含む8000人以上の身柄を拘束した。
バングラデシュは国民の大多数をイスラム教徒が占めるが、ここ数週間、少数派を狙った殺人事件が続発している。シェイク・ハシナ首相は11日、「殺人者は一人残らず」捕まえると宣言した。
警察は10日、全土で過激派の拘束を目的とした摘発に乗り出し、11日には一般犯罪の指名手配犯を含む3000人超を逮捕。13日までに拘束された人数は8192人に上っている。
警察によれば、12日の逮捕者にはイスラム過激派の戦闘員48人が含まれており、大半は、非合法組織 「ジャマトゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ」(JMB)のメンバーだという。JMBは襲撃殺害事件の多くに関与したとされる地元過激派組織2グループのうちの一つ。
一連の襲撃についてはイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」系のグループや国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の南アジア支部が犯行声明を出しているが、バングラデシュ政府は自国内に国際イスラム過激派組織の戦闘員は存在しないとして、いずれの主張も否定している。【6月13日 AFP】
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警察幹部の妻を殺害したことが虎の尾を踏むことになったようにも思われます。
一日だけで一般犯罪の指名手配犯を含む3000人超を逮捕・・・・テロの方も“手あたり次第”という感じでしたが、警察側対応もそれに輪をかけて“手あたり次第”という感も。
こうなると、警察側の“不当拘束”、テロ対策の名を借りた政治的“邪魔者”の一斉検挙といった別の危険性も危惧されます。
実際、国内では野党などからそうした批判もあるようです。
バングラデシュの緊張状態はしばらく続きそうです。