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【6月1日 AFP】
【「中国と友好関係を築きたい」】
その型破りな言動によって圧倒的な国民的人気でフィリピンの新大統領に決まったドゥテルテ氏に関する拭いきれない疑問については、5月13日ブログ「フィリピン 超法規的「処刑」疑惑はそんなに軽いことか?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160513で取り上げました。
ドゥテルテ氏の中国への対応については、5月13日ブログでも少し触れたように、「南シナ海の人工島に水上バイクで乗り込んでフィリピンの国旗を立てる」といった勇ましい民族主義的発言の一方で、中国との対話を重視するとも語っており、これまで中国の南シナ海進出に対して厳しく対峙してきたアキノ政権とは異なる姿勢も見せています。
****当選見通しのドゥテルテ氏 中国と直接対話も****
・・・・ドゥテルテ氏は、南シナ海を巡る問題で中国との関係改善に取り組む姿勢を強調していて、9日夜の記者会見では、領有権は譲れないとする一方「多国間で問題の解決に取り組むが、事態が前に進まなければ中国と直接話し合う」と述べ、中国がインフラ整備などで経済支援を行えば領有権争いを棚上げする考えを示しました。
現職のアキノ大統領は、同盟国アメリカや日本などとの関係を強化して中国に対抗してきましたが、専門家の間では、ドゥテルテ氏が現政権の路線を転換するような外交方針を取れば南シナ海問題の行方に影響を与えるという見方も出ています。【5月10日 NHK】
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そうしたドゥテルテ氏の中国への「対話姿勢」が明らかになりつつあります。
****南沙諸島の領有権争う中国とフィリピン、歩み寄りか―仲裁裁定控え****
2016年5月31日、中国とフィリピンが領有権をめぐって争っている南シナ海・南沙諸島について、中国・習近平国家主席とフィリピンのドゥテルテ次期大統領が協議する可能性が高まっている。
ドゥテルテ次期大統領は5月15日の記者会見で、「中国と友好関係を築きたい」と述べ、領有権問題をめぐり悪化した中国との関係を修復したい意向を表明した。
中国外交部によると、習主席も30日、ドゥテルテ氏に対し、次期大統領就任の正式決定を祝うメッセージを送るとともに、両国の長い友好関係に言及。「双方が2国間関係を健全で発展的な路線に戻すために懸命に取り組むことを望む」と伝えた。
ドゥテルテ氏の前任のアキノ大統領は、南沙諸島の領有権問題について仲裁裁判所に仲裁手続きを進めており、フィリピンと中国の関係が悪化した。
フィリピンは「南シナ海における中国が利用している様々な海洋地形物は排他的経済水域と大陸棚を有する島ではなく、国連海洋法条約第121条3項に規定される「岩」であり、低潮高地や恒常的に海面下にあるものだ」と主張。
中国の「最近の大規模な埋め立て工事はこれらの海洋地形物の元の性質と性格を合法的に変更しうるものではない」と提訴している。
ドゥテルテ氏は「交渉の船が静かな海にあり、圧力的な風が吹かないなら、私は中国と2国間で協議することを決めるだろう」と述べ、中国と対話する考えを示した。同氏は最大の貿易投資相手国である中国との良好な関係を重視する考えを大統領選で表明している。
中国は、南シナ海の多くのエリアを囲む「九段線」は中国の歴史的な権利であると主張。国連海洋法条約は298条で当該国の宣言による適用の除外を定めていると指摘、中国は2006年8月25日にこの宣言をしているので仲裁裁定に応じる義務はないとしている。
仲裁裁判所は政治的に配慮する傾向にあり、一方に極端に加担するような判決は出ないとみられるものの、フィリピン寄りの判決となる可能性が大きい。中国はこれを無視すれば、国際社会で外交・司法面での圧力にさらされるため、対話による解決の道を探ることになったとみられる。【6月1日 Record China】
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【アメリカからの自立を一段と図る姿勢】
このところ、中国・習近平国家主席とフィリピンのドゥテルテ次期大統領は、上記記事にもあるように相互に“ラブコール”を交わしています。
更に、ドゥテルテ氏はアメリカとの関係見直しにつながるような内容にも言及しています。
****フィリピンは米国に依存せず=ドゥテルテ次期大統領****
フィリピンのドゥテルテ次期大統領は31日、長年の同盟国である米国に依存することはないと述べ、中国や南シナ海をめぐる問題への対応で米国からの自立を一段と図る姿勢を示した。
ドゥテルテ氏は南シナ海をめぐる問題の解決に向け、領有権を主張する国々だけでなく、米国や日本、オーストラリアを含めた多国間協議を支持している。
また、中国に対しては、国際法の下で沿岸国に認められた200カイリの排他的経済水域(EEZ)を尊重するよう求めた。
中国との二国間協議を求めるのかとの記者団の質問には、「われわれが独自の進路を決めるということを皆に知ってもらいたい」と説明。「米国に依存することはない。フィリピン人以外の人々を満足させようとはしない」と述べた。
一方、ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は記者会見でドゥテルテ氏のコメントについて、南シナ海での領有権を主張する国々による二国間協議は米国にとって「何ら問題はない」との姿勢を示した。(後略)【6月1日 ロイター】
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【国内の鉄道建設に中国の支援を求める可能性 鉄道事業と南シナ海問題は別問題だとは言いつつも・・・・】
また、ドゥテルテ氏は国内の鉄道建設に中国の支援を求める可能性も明らかにしています。
****フィリピン鉄道建設に中国が参加?現地の声「日本の方が優れている」****
2016年5月31日、環球時報によると、フィリピンの次期大統領に就任するロドリゴ・ドゥテルテ氏が国内の鉄道建設に中国の支援を求める可能性を明らかにした。
ドゥテルテ氏は28日、長年にわたって不便さが指摘されてきた交通問題について「危機的状況」と述べ、解決に向けた策として鉄道建設を挙げた。
マニラを起点にヌエヴァ・ヴィスカヤ州などに向かう3路線とミンダナオ島を貫く路線を整備する計画で、同氏は「我々には資金がない。鉄道事業には他国の参入が必要だ」と説明。
「他国とは中国を指すのか」との質問に対し、「もしかしたら中国かもしれない」と答えた。
ただ、これと同時に鉄道事業と南シナ海問題とを切り離して考えることを強調、「中国がフィリピンの鉄道建設に携わったとしても、フィリピンがスカボロー礁を放棄することを意味しない」とした。
この報道に関し、フィリピンのネットユーザーからは「フィリピンと中国が海上で衝突した場合、中国は我々の鉄道事業を台無しにする可能性がある」と中国の参加に懸念を示す声が上がっており、中には「日本の鉄道技術の方が優れている」と日本との協力を求める意見も見られた。
中国の専門家は「中国がフィリピンのインフラ建設に参入する場合のライバルは日本と韓国」と指摘し、フィリピン南部の鉄道建設を韓国が支援している点や、日本がフィリピンにとって最大の貿易パートナーとなっている点を紹介した。【6月1日 Record China】
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【更に、トランプ米大統領になれば、アジアは中国に任せるということにも】
もとより、南シナ海の問題については、何も仲裁裁判所の仲裁をもとに中国との対決姿勢を強めるだけが解決策ではありません。どうせ中国は不利な裁定が出ても無視するだけでしょうし、その姿勢を一層頑なにすることも考えられます。
ある程度中国の面子の立つ形で、話し合いでことを進めるというのもひとつの見識ではありますが、問題はその中身です。
関係国の批判を無視して、一方的に自国の主張だけを押しとおし、力を背景に既成事実を積み重ねていくといった中国のやり方に実質的な歯止めがかかるなら、それも結構な話ですが、単に中国からの資金援助と見返りに批判のトーンを下げるということであれば・・・いかがなものでしょうか。
どうもドゥテルテ氏の話を聞いていると、そうした懸念も感じます。本人は鉄道事業と南シナ海問題は別問題だとは言っていますが・・・・。
理念とか協調とかには重きを置かず、力で物事の解決をはかるというのは、犯罪者への「超法規的処刑」で治安を回復したことを誇りとするドゥテルテ氏と中国は似通っており、おそらく話も合う関係なのでしょう。
中国批判の急先鋒であったフィリピンの姿勢転換は、日米にとっては、今後の南シナ海問題への対応における足場を失うことにもなります。
アメリカにしても、もしトランプ大統領ということになれば、ドゥテルテ氏同様に目先の実利重視ということになり、米中の経済関係について中国との話がつけばアメリカはアジアからは実質的に手を引き、アジアは中国に任せるといったことになるのかも。
【「悪いジャーナリストは死んで当然だ」】
ドゥテルテ氏の「悪い奴は殺せ」という姿勢は相変わらずのようです。
****ドゥテルテ次期比大統領、ジャーナリストは「死んで当然」****
2003年、フィリピン南部の都市ダバオのロドリゴ・ドゥテルテ市長を批判していた辛口のラジオコメンテーター、ジュン・パラが、バイクに乗った男たちに銃撃され、殺害された事件があった。
5月31日、今やフィリピンの次期大統領であるドゥテルテは、その件について尋ねられて言った。パラが殺されたのは「当然の報い」だと。
首都マニラでは先週、ベテランの事件記者であるアレックス・バルコバが家族の経営する時計修理店の前で銃撃されて殺された。犯人はまだわかっていない。
この事件を受け「どうやってジャーナリストを守るのか?」と記者会見で質問されたドゥテルテは、悪いジャーナリストは死んで当然だと言い放った。
「ただジャーナリストであるというだけで、暗殺を免れることはない。クソ野郎であればなおさらだ」とドゥテルテは言う。「パラはその良い例だ。彼の名声を貶めるつもりはないが、本当にクソ野郎だった」
フィリピンはジャーナリストにとって非常に危険な国だ。この30年間で少なくとも174人のジャーナリストが殺害された。特に2009年には、32人ものジャーナリストが一度に虐殺される事件があった。しかしドゥテルテは全く意に介さない。
「率直に言って、殺された奴らのほとんどは何かをやらかしたのだ。間違ったことをしなければ、殺されることはない」
ドゥテルテは大統領選の選挙期間中、犯罪撲滅を公約に掲げていた。何万人もの犯罪者たちを殺してやる、麻薬密売人やイスラム過激派との戦いでは「撃ち殺す」方針で臨む――そう約束していた。ドゥテルテによれば、3〜6カ月ですべての犯罪を撲滅できる見込みだ。
銃殺は弾がもったいない
「最初の絞首刑が終わって、その頭部が体から完全に離れるよりも前に、次の絞首刑の準備が始められているだろう」。これは5月初め、現在は廃止されている死刑制度について述べた時の発言だ。銃殺刑だと弾がもったいないので、絞首刑を復活させるという。
ドゥテルテは言った。「私の国を破壊するつもりなら、殺してやる。ぶっ殺す。妥協点はない。法律要件を満たすかぎり、逮捕から逃れよう、抵抗しよう......暴力で挑んでこようとする者に対して、私はこう命令する。『奴らを殺せ』」
6月30日、ドゥテルテは第16代大統領に就任する。【6月1日 Newsweek】
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地元記者団体は猛反発しており、フィリピンではかねて記者の殺害が横行しているだけに、ドゥテルテ氏の暴言は新たな殺害を誘発しかねないと警告しています。
個人的には、フィリピン民主主義も大変な人を大統領に選んだものだと憂慮していますが、ドゥテルテ新大統領の「悪いやつ、間違ったやつは殺してもいい」という方針のもとで治安も急速に改善し、めでたし、めでたしとなるのでしょうか?
そうした状況でもドゥテルテ批判は許されるのでしょうか?身の危険を感じるようなことはないのでしょうか?