孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  ファルージャ完全制圧で表面化する難民問題とスンニ派住民への対応 IS後のイラクは?

2016-06-26 22:55:29 | 中東情勢

【6月26日 AFP】

ファルージャ完全制圧も、緊急を要する難民対策
北海道・道東旅行中のため、気になった記事をリストアップするだけで。

イラク政府軍がシーア派民兵・イランの支援を受けて「イスラム国」(IS)から奪還作戦を行っていたファルージャは激しい市街戦の結果、政府軍が「完全制圧」するに至ったと報じられています。

****ファルージャを完全制圧=安定統治が課題―イラク****
イラクの対テロ部隊の報道官は26日、過激派組織「イスラム国」(IS)を中部ファルージャから撃退し、完全に制圧したと述べた。首都バグダッドに近いファルージャは2003年のイラク戦争以降、過激派の活動拠点となってきた。政府が今後、安定的に統治できるかがイラクの情勢改善に向けた大きな課題となる。
 
同部隊やイスラム教シーア派民兵などで構成される治安部隊は5月下旬にファルージャ奪還作戦を開始し、今月17日には行政庁舎がある中心部を奪還した。その後もISが一部地区で抵抗を続けていたが、イラクのメディアによると、同報道官は26日、「ファルージャでの戦いは終わった」と宣言した。【6月26日 時事】
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ファルージャの戦闘に伴う難民の新たな発生、名ばかりの「難民キャンプ」に水も食糧も不足する状態に投げ出された難民の境遇などについては、6月22日ブログ「増え続ける難民・避難民 その数は6530万人 “世界人口のうち、113人に1人”に」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160622で取り上げたばかりですが、緊急の支援を必要とする状況にあります。

****ファルージャから避難したイラク人、到着したキャンプもまた地獄****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)の圧政や食料不足に苦しむイラク中部ファルージャから、数千の家族が安全を求めて避難民キャンプへと避難した。だがそこでも、食べる物や寝る場所はなかった。

「避難したことを後悔していない。あそこに残っていたら今ごろ死んでいただろう。ここではなんとか生きている。だが、ここも地獄だ」とアイユーブ・ユセフさんは言う。
 
ユセフさんは妻と子供2人と共に、ISに対する政府の軍事作戦から逃れてきた​​。
 
この1か月、ファルージャの住民6万人以上が自宅からの退避を強いられ、先週には同市中心部から脱出しようとする市民が急増。この動きに、援助団体対応できていない。
 
ユセフさんの家族は、避難しようとしたキャンプからすでに満員だと何度も拒否された後、ハバニヤ湖沿岸に建設中のキャンプに行きついた。テントはまだ与えられておらず、家族と共に4夜、外で寝ている。

■「トイレがない」
 若い女性が激怒した。
「私たちはダーイシュ(Daesh、ISのアラビア語名の略称)の圧制を受けながら暮らさなければならなかった。そして今、また不当な扱いを受けている」と、彼女は名前を明かさず語った。

「ここに来て5日目だが、食べ物は何もないし、ボトル1本の水もない。このキャンプは、イラクの他の場所と全く同じだ。コネがなければ何も手に入らない」と不満を吐露。「ここには女性用のトイレがない。砂漠に行くしかない」。顔を覆うベールのニカブのスリットから見える彼女の目は怒りに燃えていた。
 
ハバニヤ湖沿岸のハルディヤにある、急速に拡大している別のキャンプには、非政府組織(NGO)「Preemptive Love Coalition」が基本的な食料品を届けた。最近避難してきたファルージャ住民の多くにとっては、初めて配布された食料だった。

「ファルージャでの最後の数日は、道に生えている草を食べていた」と、8人目の子供を妊娠しているハムデ・ベディさん(40)は明かした。
 
治安部隊は同市北部でISの戦闘員との戦いを続けているが、政府が今直面している最大の危機は人道的な危機だ。
 
最近避難した家族の多くに、男性の姿はない。ISのメンバーが避難する市民に紛れ込んでいる可能性があるため、男性たちは数日間、治安部隊に拘留され検査されるからだ。
 
ハムデさんの夫ヤセルさんは、4日間の拘留の末に釈放された。
「避難する途中、ダーイシュが仕掛けた路上爆弾が爆発して吹き飛ばされた家族を目の前で見た。食べ物も金もないが、今、ここにいる。あと少したら子供が生まれる」と彼は語った。【6月23日 AFP】
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懸念されるシーア派民兵によるスンニ派住民への暴力
上記記事にもあるように、ISメンバーが避難民に紛れて脱出することを防ぐため、避難民男性は拘束されて取り調べが行われています。

シーア派民兵が加担して行われるスンニ派住民の取り調べにおいて拷問や間違いなど、多くの問題が発生することは容易に想像できます。

****イラク軍、ファルージャ避難民2万人取り調べ 拷問の報告も****
イラク軍は25日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」からの奪回作戦を実施中のファルージャからIS戦闘員が一般市民に紛れ込んで逃亡することを防ぐため、約2万人の取り調べを進めていると明らかにした。
 
イラク軍のファルージャ奪還作戦の開始以来、数万人が首都バグダッドの西50キロにあるファルージャから避難していた。取り調べの際に治安部隊から殴られたり拷問を受けたりしたと主張する人々もいるという。
 
イラク統合作戦軍によると、拘束された約2万人のうち11605人は釈放されたが、2185人は証人の証言やその他の情報からなんらかの容疑をかけられており、現在は残る約7000人の取り調べが行われているという。
 
避難した一般市民が政府軍側にたどり着くと、10代の少年と成人男性は隔離され取り調べを受ける。数時間で釈放される場合もあるが、徹底的な尋問が行われることもあるという。
 
ファルージャからの避難民が滞在する収容所では今月中旬、行方不明になっている大勢の男性について尋ねようと、行方不明者の親族がイラク政府当局者に詰め寄った。
 
イランが支援するイスラム教シーア派戦闘員で構成され、ファルージャ奪還作戦に参加している民兵部隊「国民動員部隊」に拘束された男性は、4日間の拘束中に水も食べ物も与えられなかったと証言している。他の男性たちも、殴られたり、拷問を受けたりしたと話している。
 
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は今月、「イラク治安部隊が一般市民に対して繰り返している暴力の責任を明らかにするよう」イラク政府に呼びかけた。
 
HRWによると、ファルージャの北東にある町シジルの戦闘から逃げようとした少なくとも17人が警察や政府側部隊に処刑されたという確かな情報があるという。

また、ファルージャの北西にある町サクラウィヤでは、一般市民が刺殺されたり、車に引きずられて死亡したりした事例も報告されているという。
 
イラク首相府は先に、ハイダル・アバディ首相が虐待をした者は必ず訴追するという「厳しい命令」を出したと発表していた。

ISは2014年6月、バグダッドの北と西の広大な地域を制圧したが、その後イラク治安部隊が多くの地域を奪還。現在もISが支配下に置いている主要都市は1つだけになっている。【6月26日 AFP】
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アバディ首相は「虐待をした者は必ず訴追する」とのことですが、実態はそうはなっていないように見えます。

****イラク情勢(ファルージャ等)****
・・・・シーア派民兵の乱暴狼藉については、アンバール警察はそのメンバー1名がその行為について、許可なく一方的に話したとして、拘留することを命じた。

警察では、彼の発言は個人的なもので、警察としてのものではないとしている由。

他方そのシーア派民兵の司令官は、シーア派民兵がファルージャ解放戦に加わることをだれも止める権利はなく、民兵としてはイラクでのすべての戦闘に加わる、と語った由。(後略)【6月26日 野口雅昭氏 中東の窓】
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シーア派民兵のなかにはスンニ派住民はIS協力者だとの根深い疑念があります。

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・・・・シーア派教徒は、ファルージャの住民が同じスンニ派であるISへの協力者と見なしがちだ。民兵軍団の司令官の1人は「この町に愛国者は1人もいない。ガンを根絶する好機」と発言している。このため米国はイラク側に対し、住民の虐待をしないことを条件に空爆支援を行うと通告した。・・・・【5月31日 WEDGE】
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イラクにおけるシーア派の最高指導者でもシスタニ師は、極めてまっとうな発言をしているのですが・・・・

****シスタニ師の発言(イラクの正気と知性*****
イラクでは、ファルージャ等でのシーア派民兵によるスンニ派住民の虐殺が伝えられる等、宗派対立の醜いugly様相が拡大しているようにも思われますが、al arabiya net はシーア派の指導者シスタニ師が、イラク国民はシーア派もスンイ派もキリスト教徒もなく、昔からの同胞だとして、難民を助けるように呼びかけたと報じています。

イラクの正気を代表する発言でしょうが、同師がこのような発言をしなければならないほど、イラクの宗派主義は進行しているのかもしれません。

シスタニ師は、イラク国民に対して、モースル、ラマディ、ファルージャその他からの避難民に避難所、食料、資金を与えて援助するように呼びかけて、彼らがシーア派かスンイ派かそれ以外の宗派か質問などしてはいけないと諭した。

同師は、シーア派であれ、スンイ派であれ、キリスト教徒であれ、我々はイラクの住民で、数千年の間共に暮らしてきたのだと強調した。

彼はまた、ISが侵攻してきて、多くの都市を支配し、人々を殺し、腐敗した生活をしているときには、彼らと戦い、生地を守るのは聖なる義務であるが、それはイラクを守ることであって、同胞であるスンニ派と戦うことではないと諭した。

現在、我らがラマディやその他の地域で神聖な血を流して戦っているのは、侵入者のISを駆逐するためであって、征服するためではないとした。

さらに同師は、過去10年間の間、大規模なテロがあり、シーア派の聖地や多くの信者が殺されたりしたときでも、一度でもいいから、私の口から「相手はスンニ派であり、彼らを許すな」などという言葉を聞いたことはないはずだとも指摘した由。【6月14日 野口雅昭氏 中東の窓】
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IS後に表面化する更に困難な問題
アバディ首相やシスタニ師の呼びかけと、戦闘現場における現実は別物のようです。
こうした現実をみると、IS後のイラクはシーア派、スンニ派、クルドで3分割するしかないのでは・・・とも思えてしまいます。

もちろん、それはそれで新たな内戦と流血を招く危険があります。

ファルージャに続いてモスルも奪還・・・ということになると、IS掃討作戦より更に困難な「今後のイラクをどうするのか?」という問題に直面することになります。
コメント (2)
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