孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国の人権問題をただすことは“偏見に満ちた傲慢”か? 天安門事件から27年

2016-06-03 22:01:25 | 中国

(27年前、戦車に踏みつぶされた民主化運動 写真は【2011年9月29日 大紀元】)

【「根拠のない非難は拒否する」「自分の胸に聞いて」】
王毅中国外相が、中国の人権問題を云々する外国人記者に対し、「中国の憲法に人権保護が書かれている」などと激昂したとのことです。

****中国外相、カナダ人記者に激高=人権提起は「根拠なき非難****
カナダを訪問中の王毅中国外相が1日、中国の人権状況を問題視したカナダ人記者に怒りをあらわにして反論する一幕があった。王外相は「中国の人権状況を最も分かっているのは中国人だ。根拠のない非難は拒否する」と強い口調でまくしたてた。
 

カナダのCBC放送(電子版)などによると、王外相が激高したのはカナダのディオン外相との共同記者会見。カナダ人記者が、人権問題や南シナ海をめぐる懸念がある中、なぜ両国関係を強化するのか尋ねた。
 
質問はディオン外相に向けたものだったが、王外相は記者をにらみつけ、「中国に対する偏見に満ち、傲慢(ごうまん)だ」「中国の憲法に人権保護が書かれていることを知っているのか」などと主張した。【6月2日 時事】
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大体において、ひとは“痛い所”を突かれると冷静さを失い怒りを爆発させるものです。
この話には続きがあります。

****中国外相が「人権問題」で激高、外交部「自分の胸に聞いて****
2016年6月2日、中国外交部の華春瑩(ホア・チュンイン)報道官は同日の定例記者会見で、「王毅(ワン・イー)外相がカナダ人記者の人権問題に関する質問に激高した」と伝えられたことについてコメントした。(中略)

この出来事に関連して、記者から「メディアの中国に関する報道は不公平だと思いますか?」と聞かれた華報道官は、「メディアの人間として、自分の胸に聞いてほしい。あなたたちが中国の、特に人権問題に焦点を当てる時、あなたたちは果たして公平なのか、客観的なのか、公正に中国を認識しているのか。中国の現在の状況と情報を全面的に正しく読者に伝えているのか。真実の中国の話を述べているのか。われわれはより多くの世界各国のメディアの友人たちが中国で生活し、仕事をすることを歓迎する。彼らの目や心で現在の中国の発展、変化、進歩を感じてほしい」と述べた。【6月3日 Record China】
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さすがに報道官ともなると雄弁です。
“公平なのか、客観的なのか、自分の胸に聞いてほしい”という言葉は、尊重すべきものです。

ただ、中国共産党・政府にも、“中国の憲法に定める人権保護が守られているのか自分の胸に聞いてほしい”というのが外部の人間の感じるところです。

もっとも、中国においては党の考えに反するものは“社会に対する害悪”であり、「人権保護」なるものも、党の考えに反しない限りにおいてという条件がつくのは至極当然のことなのでしょう。
基本的な認識が異なりますので、同じ「人権」という言葉を使っていても議論はかみ合いません。

【「人権」で攻めるアメリカに、中国は『和平演変』を警戒
王毅中国外相の苛立ちの背景には、アメリカ・オバマ政権が常々中国の人権状況を問題視していることへの不満があると思われます。

****米中の攻防、人権巡り激化****
ワシントンで開かれた核保安サミットの会場内で、3月31日にあった米中首脳会談。冒頭、オバマ大統領は厳しい表情のまま、あいさつも早々に、用意した原稿を読み上げた。

「我々は人権問題を非常に気にかけている」
オバマ氏は両国間の意見の「著しい相違」として、サイバー問題と南シナ海などの海洋問題に先駆けて人権を挙げ、正面に座る習近平(シーチンピン)国家主席に迫った。
 
これに対し習氏は「それぞれの国情を尊重すべきだ」と反論。同席した鄭沢光・外務次官は会談後、朝日新聞の取材に対し「米側は会談のたびに人権を取り上げるが、我が国の態度は一貫している」と強調し、激しい応酬があったことをうかがわせた。
 
習指導部が人権活動家らの取り締まりを強めていることに、米政府は懸念を深めている。両国の攻防は、習氏が前回訪米した昨年9月から、すでに始まっていた。
 
昨年秋、習氏がワシントンに入る前日の9月23日。ライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)はホワイトハウスで中国の人権や環境問題に携わる民間団体や活動家らとテーブルを囲んでいた。会合は非公開。出席した関係者によると、ライス氏は冒頭、ある質問を投げかけた。
 
「その法律の審議を我々が止めることはできるか」
会合は、中国政府が審議していた「海外NGO国内活動管理法」の意見聴取が目的だった。警察当局にNGOへの捜査権限を与え、国家分裂や政権転覆などを企てたと見なせば刑事責任を追及できる。
 
同法が施行されれば、中国内のNGOを支援できなくなる、といった懸念が出席者から相次いだ。ライス氏は「大変憂慮している」と述べ、中国側に施行しないように働きかけていく考えを示した。オバマ氏は翌24日にあった習氏との非公式の夕食会で、「懸念」を伝えたという。
 
しかし、中国は今年4月末に同法を成立させた。これに反発したオバマ政権は、「中国市民社会のあらゆるレベルの役割を強く支持する」との声明を出した。
 
オバマ政権が同法に反対する理由について、東アジア政治専門の米シンクタンク幹部は、政権内で対中政策に関わる当局者や専門家には、「中国に関与して発展を促せば民主化が進む」と考える「関与政策」派が多いことを挙げる。国内のNGOや人権活動家の取り締まりは、米国にとって「関与」の足がかりを失うことにもなる。

 ■習氏「戦争より『和平演変』警戒」
一方、中国当局が外国とのつながりや資金を警戒するのは、習氏が2014年に内部会議で出した指示が影響している、と対中政策に関わったことがある米政府元当局者は証言する。
 
「我々が真に警戒しなければならないのは、戦争よりも『和平演変』だ」
習氏の使った和平演変とは、武力以外の手段で体制を内部から崩壊させるという意味。貧富の格差や経済成長の鈍化などの問題を抱える習指導部は、米国による体制の変革を警戒している。

一方、全米民主主義基金(NED)関係者は「支援の目的は、中国の緩やかな民主化や少数民族の自治を促すためで、体制の崩壊や転覆ではない」と反論する。【5月18日 朝日】
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アメリカなどの関与を伴う『和平演変』を警戒するのは、ロシア・プーチン政権も同じです。
自国の体制・現状に自信があれば、そうしたことを警戒する必要もないようにも思えるのですが。『和平演変』への警戒は、自信のなさの裏返しでしょう。

【「政治犯」は胡錦濤時代の10倍
日本や欧米的な概念で言うところの中国「人権」状況は、一党独裁体制維持のために言論・思想弾圧を進める習近平政権において、これまでより悪化していることが指摘されています。

****習近平政権下で「政治犯」600人拘束 前政権の10倍・・・・「改革開放の時代」終焉か****
・・・・米国に本部を置く国際人権団体の統計では、12年まで10年間続いた胡錦濤政権下で投獄された政治犯や思想犯は66人。欧米や日本の常識ならおびただしい数といえる。しかし、習近平政権下では発足以降の3年余りで500〜600人を拘束、胡の時代の10倍に到達しそうな勢いだ。
 
胡錦濤時代の逮捕者は2010年度のノーベル平和賞受賞者、劉暁波のように、中国共産党の一党独裁体制を批判する活動家が多かった。しかし今は、李のような共産党政権を否定しない体制内の弁護士も弾圧の対象となっている。進学や就職を含む日常生活の妨害も露骨になってきた。
 
北京のある民主化活動家は、「当局の言うことを聞かないとひどい目に遭う、という見せしめのためにやっている」と指摘した。(中略)
 
「中華民族の偉大なる復興」といったナショナリズムをあおるスローガンを掲げる習政権は、大学などで思想教育の強化を推進している。昨年、政府の名義で全国の大学に送られた通達では、「マルクス主義の価値観を確立させ、敵対勢力の浸透を断固として阻止せよ」と強調されていた。
 
敵対勢力。この用語に知識人らは大きな衝撃を受けたという。ある大学教授は「外国人と接触したり、授業などで政府に厳しい意見を言ったりすれば、敵対勢力の一味にされてしまう可能性がある」と話した。
 
北京の改革派知識人によると、共産党の一党独裁体制を強化したい習指導部は、人権尊重や民主主義といった欧米で重視される価値観を一掃し、マルクス主義の下で思想統一を図りたいと考えている。そのため、投資目的以外の外国勢力の流入や国内での外国人との接触を、可能な限り絞る狙いがあると分析する。
 
北京の日本大使館の関係者は「中国の外交官たちはみな萎縮してしまい、仕事以外で私たちと全く接触しようとしない」と話した。
 
これに歩調を合わせるかのように、欧米のある外交官が次のように言った。「トウ小平が主導した改革開放の時代はいま、終わろうとしている。中国は外国人にとって、ますます住みにくい場所になるだろう」【5月17日 産経】
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上記記事にあっては、弾圧の嵐が中国全土で吹き荒れた「文化大革命」とのときと比較し、現在は弾圧される者への家族・同調者の支援が存在していることをあげて、“毛の時代と習の時代。締め付けの傾向に類似点はあっても、民衆の心情は様変わりしている。”とも指摘しています。

“民衆の心情は様変わりしている”と言えるかどうかは別として、「壁新聞」の文革時代と異なり、インターネットなど情報伝達手段が発達した現代にあっては、政権側の批判封じ込めはそうそう容易ではありません。

そのことへの苛立ちが、当局をして更に強硬な姿勢に向かわせるという悪循環にもなります。

未だタブーの天安門事件
「文化大革命」以降の最大の人権弾圧事件は、1989年の「天安門事件」でしょう。
27年前の6月4日、民主化を求めて天安門広場に集結した学生・市民に対し人民解放軍が無差別発砲、装甲車でひき殺すなどで多大な犠牲者が発生しました。

中国共産党の公式発表では、死者は319人とされていますが、実際には3000人も及んだのではないかとの指摘もあります。

「文化大革命」については、「党と国家、人民に深刻な災難をもたらした内乱」として公式に否定されていますが、「天安門事件」は小平、ひいてはその路線を継承するその後の政権の評価にも直結しますので、未だ「暴徒」による「動乱」と位置付けられており、事件に触れることはタブーとされています。

(「文化大革命」についても、習近平主席の進める大衆受けを狙った反腐敗運動、最近の個人崇拝の動きなどは文革と類似しているのでは・・・という指摘もあり、今年の当局側の文革に関する報道が注目されたり、中南海で展開されている権力闘争などいろいろありますが、そのあたりの話は今回はパスします)

****天安門事件から27年、「天安門の母」が再び軟禁状態に****
2016年5月30日、中国で1989年6月に学生らの民主化運動が当局に武力弾圧された天安門事件で子どもを亡くした親の会「天安門の母」の創設者の丁子霖(ディン・ズーリン)さん(79)が、6月1日から自宅で軟禁下に置かれることが分かった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

香港・明報によると、中国の女性ジャーナリストの高瑜(ガオ・ユー)氏がツイッターで明らかにした。

軟禁期間中は自宅の電話が使えなくなり、警察から提供された携帯電話も警察と120救急センターにしかつながらないという。

丁さんは昨年9月に夫の蒋培坤(ジアン・ペイクン)さんを亡くした。体調がすぐれないことから、今年は犠牲者の慰霊活動に参加しないと明らかにしている。【5月31日 Record China】
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こうした当局対応を見ると、「自分の胸に聞く」までもなく、どうしても中国の人権状況についてただしたくなります。もちろん、日本にも、欧米にも、深刻な人権問題は存在しますが、少なくともそれに関するオープンな議論は保証されています。

****天安門事件から27年、遺族会「天安門の母」が声明、遺族41人他界****
2016年6月2日、中国で1989年6月に学生らの民主化運動を当局が武力弾圧した天安門事件で子どもを亡くした親の会「天安門の母」はこのほど、同事件から27年となる4日を控え、米ニューヨークに本部を置く人権団体「中国人権(HRIC)」のホームページを通じ、事件の真相究明と犠牲者の名誉回復を求める公開書簡を発表した。英BBC(中国語電子版)が伝えた。

「天安門の母」代表の尤維潔(ヨウ・ウェイジエ)さんら計131人が署名した文書では、同会創設者の丁子霖(ディン・ズーリン)さんの夫である蒋培坤(ジアン・ペイクン)さんが昨年に9月に亡くなるなど、これまでに計41人の遺族が他界したと指摘。

その上で「災難に見舞われた遺族には息が詰まるような27年だった」「他界した遺族の最後の悔いは、正義の広がりを目撃できなかったことだ」とし、遺族による真相究明や賠償などの訴えに対し、政府は「何も起きなかったかのように」無視していると批判した。【6月2日 Record China】
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アメリカの人権団体を通してこうした遺族会の声明が出されたりすることについて、中国側は『和平演変』を狙った外国勢力の関与だとして警戒を強化することにもなります。

アメリカ側が人権問題を梃にして中国政府に揺さぶりをかけようとしているのは一面の事実ではあるでしょうが、重要なのは、外国勢力の関与云々ではなく、中国国内で行われている人権侵害の現状そのものです。
コメント (1)
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