【6月23日 AFP】
【サントス大統領「夢が実現しつつある」】
昨日の難民に関するブログでも触れたように、“国内避難民が多いのは、コロンビアの690万人、シリア(660万人)、イラク(440万人)、スーダン(320万人)、イエメン(250万人)、ナイジェリア(220万人)などとなっている”【6月20日 朝日】というように、南米・コロンビアはメディアによく取り上げられる内戦国以上に多くの国内避難民が発生している国です。
やや不思議な感もあるのですが、左翼ゲリラ及び右翼民兵組織、麻薬組織入り乱れての紛争の結果でもあります。
****コロンビア 世界第2位の国内難民を抱える国*****
コロンビアにおいては85年以降、政府対左翼ゲリラ、左翼ゲリラ対右翼民兵組織の抗争が国内各地で頻発していました。
さらに90年代初頭の大規模麻薬カルテルの消滅により、左翼ゲリラ及び右翼民兵組織が麻薬を資金源として勢力を拡大したため、紛争が激化した経緯があります。
このため各紛争地域で危険にさらされている農民を中心とした人々は避難を強いられ、周辺都市へと避難しました。紛争終結後も紛争への恐怖心が消えなかったこと及び、農地家屋を紛争によって失ったことから農村部に帰還しない場合が多いため、多くの国内避難民が発生したようです。(外務省資料より)
この結果、都市部での生活環境の悪化が進行し、貧困に苦しむ人々の中から“生きる手段”として、麻薬組織や武装組織に関与する者が生まれてくるという悪循環があります。【2008年4月21日ブログhttp://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080421より再録】
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左翼ゲリラ組織のうちで最大のものが、最盛期の2002年には構成員2万1000人を擁し国土の3分の1を実効支配した「コロンビア革命軍(FARC)」ですが、ウリベ前大統領の掃討作戦によってその勢力は7000人弱程度に弱まっています。
追い込まれ弱体化した「コロンビア革命軍(FARC)」とサントス大統領の間で、キューバのラウル・カストロ国家評議会議長を仲介役として、和平交渉が進められていることはこれまでも取り上げてきました。
2015年9月27日ブログ“南米コロンビア 左翼ゲリラ組織との和平交渉が「6カ月以内の和平実現」に向けて進展”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150927
2016年1月4日ブログ“中南米諸国の治安事情 「麻薬戦争」メキシコと、左翼ゲリラとの和平交渉が進むコロンビア”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160104
4年にも及んだ和平協議も、いよいよ最終段階を迎えたようです。
****コロンビア政府とFARCが停戦合意、半世紀に及ぶ内戦終結へ****
コロンビア政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」は22日、最終的な停戦に合意したと発表した。半世紀に及び密林を舞台に繰り広げられ、数十万人が犠牲となった中南米最長の内戦が終結へ向け最後の一歩を踏み出した。
両者による共同声明は「われわれは成功裏に、最終的な双方向の停戦と敵対関係の終結で合意に達した」と表明。FARC幹部のカルロス・ロサダ司令官は、マイクロブログのツイッターに「6月23日に内戦終結を宣言する」と投稿した。
コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領と、FARCのティモレオン・ヒメネス(通称ティモチェンコ)最高司令官が23日、停戦合意文書に署名する見通し。声明によると署名式には、潘基文(バン・キムン)国連事務総長や外国の首脳・高官も立ち会う。
サントス大統領は、ツイッターに「明日は素晴らしい日となる」「われわれはコロンビアの平和のため取り組んでおり、夢が実現しつつある」と書き込んだ。
1960年代の農村運動に端を発するコロンビア内戦では、数々の左翼ゲリラや右派民兵が出現し、麻薬組織も台頭。政府統計によれば、これまでに26万人が死亡、4万5000人が行方不明となっているほか、700万人近くが居住地を追われて避難せざるを得なくなっている。【6月23日 AFP】
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共同声明には停戦合意のほか、武器の放棄などの内容も盛り込まれており、その他の細部についても定められた実質を伴ったものになっています。
****コロンビア政府とFarcが停戦で合意*****
・・・・水曜日に発表されたコロンビア政府とFarcによる共同声明では、停戦と武装放棄のほかに和平プロセスに対する脅威となる準軍組織を母体とした犯罪組織から人権活動家・社会政治運動家を守ることでも合意がなされています。
今回の合意では停戦だけでなく停戦の監視のためのゲリラ部隊集結場所、武装放棄のタイムスケジュール化、戦闘員の安全保障も定義されており非常に重要な合意といえます。【6月23日 音の谷ラテンアメリカニュース】
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サントス大統領は来月20日の独立記念日までに最終的な和平合意を目指す考えを示しており、2012年から続けてきた和平協議がようやく結実する運びとなったことで、コロンビアで半世紀にわたり続いてきた内戦の終結に向けて大きく前進しました。
今年1月25日には国連安全保障理事会が、コロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)の要請を受け、非武装の国際停戦監視団を創設するための決議を日本を含む全会一致で採択、3月には、キューバ訪問中のケリー米国務長官が、コロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)双方の幹部と会談し、和平実現を強力に後押ししていく考えを伝える・・・と、国際社会がバックアップしてきた結果でもあります。
【少年兵解放、コカ畑の撤去も進む】
すでに、これまでの交鈔を踏まえた成果も出ています。
****南米最大のゲリラ組織が子ども戦闘員を解放へ****
南米最大の反政府ゲリラ組織が戦闘員などとして徴用していた15歳未満の子どもたちが、コロンビア政府との和平交渉で解放されることになり、政府は子どもたちの社会復帰を支援することにしています。
南米最大の反政府ゲリラ組織「FARC=コロンビア革命軍」は、1960年代からコロンビア政府と内戦を繰り広げ、22万人以上が犠牲になりました。近年、弱体化が進んだFARCは4年前から政府との和平交渉を進めていて、その舞台となっているキューバの首都ハバナで、15日に共同記者会見を開きました。
その中でFARCは、戦闘員などとして徴用していた15歳未満の子どもたちを解放することで合意したと発表しました。これに対し、政府の交渉団の代表は、子どもたちの社会復帰を目指して包括的なケアを提供する考えを示しました。
コロンビアのサントス大統領は「子どもたちを戦争から引き離すことでついに合意した。痛ましい歴史が終わり、平和と和解の新しい時代が始まる兆しだ」と述べ、和平協定の締結へ向けて詰めの交渉を急ぐ構えです。
ユニセフ=国連児童基金は、和平交渉のさなかにも1000人に上る子どもたちがFARCに徴用されたとみていて、政府は解放の対象を18歳未満にまで拡大する方向で交渉を続けています。【5月17日 NHK】
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****コロンビア政府とFarcが協力してコカ畑を撤去する コロンビア アンティオキア県****
コロンビア警察対麻薬責任者ホセ アンヘル メンドサ将軍は、コロンビア政府とFarcが協力しアンティオキア県ブリセニョ市で7月10日から手作業による違法作物の撤去作業を始めると述べています。(中略)
昨年コロンビア政府とFarcは武力紛争の段階的縮小で合意し、その一環としてブリセニョ市で昨年半ばにコロンビア政府とFarcによる人道的地雷撤去作業が実施されています。
コカ畑の撤去作業にはコロンビア政府・コロンビア革命軍(Frac)・国連薬物犯罪事務所(UNDOC)のメンバーが参加します。
また国際移住機関(OIM)と国連食糧農業機関(FAO)が支援する予定です。(後略)【6月21日 音の谷ラテンアメリカニュース】
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【殺人率が過去40年で最低へ】
左翼ゲリラ組織は最大組織「コロンビア革命軍」(FARC)の他にも存在しますが、第2の勢力を持つ「民族解放軍」(ELN)の間でも和平協議が開始されるとも報じられています。(現在の状況は未確認です)
****コロンビア、第2の左翼勢力と和平協議開始へ****
南米コロンビアの政府は3月30日、同国第2の勢力の左翼ゲリラ「民族解放軍」(ELN)との和平協議を正式に始めると発表した。
同国政府と中南米最大の左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)との和平協議も進んでおり、ELNとの新たな協議開始は、半世紀に及ぶ内戦終結に向けて大きな前進となる。
同国政府とELNは共同声明で、「すべての民主国家にとって平和は最大の財産だ」と強調した。協議では、ゲリラの武装解除や政治参加、内戦犠牲者への補償など6項目が議題となる。双方は2014年から予備協議を続けていた。【3月31日 読売】
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「コロンビア革命軍」(FARC)との合意成立は、「民族解放軍」(ELN)との協議を促進する方向に働くと推察されます。
5月末には、ELNが誘拐していたジャーナリスト3人を解放するとも発表されています。
ただ、6月にも、「人民解放軍」(EPL)の分派(残党)が4人の軍人・警察官を殺害する事件なども起きており、左翼ゲリラの活動が完全に鎮静化した訳ではないようです。
麻薬組織も未だ活動を止めていません。
****コロンビア、犯罪組織からコカイン8トン押収 過去最大****
南米コロンビアの警察当局は15日、同国の有力犯罪組織「クラン・ウスガ」からコカイン約8トンを押収したと発表した。国内での1回の薬物押収量としては過去最大という。(中略)
フアン・マヌエル・サントス大統領はツイッターで「コロンビア警察よ、おめでとう。トゥルボで行った作戦でわが国史上最大の量(の薬物)を押収できた」とたたえた。(中略)
クラン・ウスガは10年ほど前に政府が実施した右派の準軍事組織の武装解除後に台頭した犯罪組織で、トン単位のコカインをコロンビアから中米諸国や米国に密輸している。コロンビアはコカインの原料となる植物コカの主要生産国。【5月16日 AFP】
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そうであるにしても、今回合意は良い方向へ向けての大きな一歩です。
治安も改善の方向にあるようです。
****コロンビアの殺人率が過去40年で最低の25.9人に****
「コロンビアの殺人率(10万人当たり1年間に殺害される人数)が25.9人になりました。この数字は過去40年間で最も低いものです。」とフアン マヌエル サントス大統領は強調しています。
また大統領はここ1週間で65人、今年これまでに1653人の犯罪組織メンバーを殺害・逮捕もしくは投降していると明らかにしています。
対麻薬作戦では先週97か所、今年これまでに2670か所の麻薬工場が摘発されています。コロンビア治安当局は麻薬工場の摘発を進めるだけでなく、先週だけで5,5トン今年これまでに146,5トンのコカインを押収しています。【6月15日 音の谷ラテンアメリカニュース】
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日本の10万人あたりの殺人率は0.28人程度ですから、25.9人というはまだまだ大きな数字です。あの「麻薬戦争」のメキシコを超える数字でもありますが、2016年1月4日ブログでも紹介したように、ラテンアメリカ諸国がランキング上位に名前を連ねており、この地域の風土・文化も影響しているようです。
パレスチナ、シリア、ウクライナ、アフガニスタン・・・・いずれの地域でも和平協議が進まないなかにあって、地球の裏側ではありますが、コロンビアでの4年間に及ぶ和平協議の進展、半世紀にわたる紛争の終結に向けた動きというのは、やはり喜ばしいことです。