孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  ムガベ大統領の「盟友」中国批判 その背景にある通貨問題

2016-06-15 23:06:08 | アフリカ

【5月6日 AFP】

【「中国人が来たことで貨幣危機が深刻化している」】
今日のニュースの中で、「そういう話もあるの?」と驚いたのは、アフリカ・ジンバブエのムガベ大統領の中国批判でした。

****ジンバブエ大統領「中国人が来て貨幣危機が深刻化****
2016年6月13日、環球時報(電子版)によると、ジンバブエのムガベ大統領はこのほど、「中国人が来たことで貨幣危機が深刻化している」と非難した。

ムガベ大統領はこのほど出席した国際会議で、ジンバブエが「中国からビジネスマンが金を稼ぎに来て、稼いだ金は本国へ送金している」と指摘。

ジンバブエで現金が不足しているにもかかわらず、銀行にはなすすべがないと語った。さらに、「中国人がジンバブエの女性や子供を虐待している」とも主張。「出稼ぎに来る中国人は自分の妻を連れて来るべきだ」とも述べた。

これに対し、ジンバブエの地元メディアは「自らの政策失敗を棚に上げている。指導者がすべき言論か」と批判した。

ムガベ大統領は国際社会や国内の反対を無視し、長期にわたって独裁政権を維持。人々は「暴君」と大統領を呼び、一貫して論議の的となっている。【6月15日 Record China】
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ムガベ大統領の発言には、中国との関係と、もうひとつ、ジンバブエの経済状態という二つの問題が絡んでいます。

欧米の経済制裁 中国との関係強化
先ず中国との関係について。

中国はアフリカでの支援や投資などによりアフリカ諸国から支持され大きな影響力を持っているのは周知のところです。(近年の大規模な支援・投資だけでなく、毛沢東時代からのアフリカ重視政策の結果でもあります)

欧米からは、ジンバブエ経済を破綻させたにもかかわらず、野党を弾圧して権力を維持してきた「独裁者」として“ならず者”扱いされているジンバブエ・ムガベ大統領とも良好な関係を保っている・・・・と言われてきました。

****中国の孔子平和賞にジンバブエ大統領、創設者が理由語る****
中国版「ノーベル平和賞」を目指している「孔子平和賞」の今年の受賞者に、ジンバブエのロバート・ムガベ大統領が選ばれた。(中略)
 
孔子平和賞を運営しているのは「中国国際和平研究センター」というほぼ無名の組織。同組織を創設したシャオ・ダモ氏がAFPの取材に応じ、ムガベ大統領の選出理由について、世界平和への「卓越した貢献」が評価されたと語った。(中略)

■受賞理由「ジンバブエの政治・経済の秩序築いた」
9月の受賞者発表の際、委員会はムガベ大統領の受賞理由として「ジンバブエの国民のため、同国の政治と経済の秩序構築に尽力した」ことや、ムガベ大統領が「汎アフリカ主義とアフリカの独立性を強く支援」してきたことを挙げた。
 
人権団体やジンバブエの野党政治家は、ムガベ大統領政権のもとでジンバブエ経済の崩壊や厳しい弾圧が行われたと非難しているものの、孔子賞の主催者らはこれらの意見を一蹴した。
 
シャオ氏は、ムガベ大統領には「ジンバブエを安定化する能力」があるだけでなく、アフリカ連合の議長として「アフリカの平和を推進する」ことができると語る。
「社会不安はごく普通のこと。米国も建国時は非常に混迷していた。ジンバブエは30年前に建国したばかりだ」
 
一方、野党・ジンバブエ人民民主党のゴーデン・モヨ幹事長は、地元ニュースウェブサイトで孔子平和賞を「狂気」と非難。「(主催者は)平和の使者のふりをする殺人者を表彰したことを恥じて首をつるべきだ」と批判した。(後略)【2015年10月23日 AFP】
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「孔子平和賞」なるものは殆どブラック・ユーモア的な存在で、毎年西側メディアでは嘲笑の対象ともなるものですが、同賞がムガベ大統領に与えられたと言うこと自体は、中国とジンバブエの繋がりを示すものと言えます。

ムガベ大統領の評価については今回は触れませんが、経済を破壊した独裁者という欧米の評価に、個人的にも基本的には同意しますが、ジンバブエにしても南アフリカにしても、独立やアパルトヘイト廃止にもかかわらず、社会・経済の大きな部分をなお白人資本が握っていることに対し黒人貧困層には強い不満があり、この白人支配体制を強引に、ときに暴力的に改革しようとしたムガベ大統領に対しては現地において少なくない支持があるという側面もあることを付け加えておきます。

ジンバブエは、2015年1月よりアフリカ連合(AU)議長国(任期1年)を務めたということもあってか、昨年末には中国・習近平主席が訪問して関係強化を図っています。

****中国主席、独裁ジンバブエ訪問=アフリカで影響力拡大図る****
・・・・習主席はムガベ大統領との会談で、投資拡大や経済支援を表明する見通し。経済力を背景に、混乱するジンバブエ経済の立て直しに貢献することで、影響力の拡大を図る。
 
中国主席のジンバブエ訪問は1996年の江沢民氏以来。中国にとって、ムガベ大統領は白人支配に対する独立闘争時から支援してきた「古い友人」だが、同大統領は欧米からは「独裁者」と非難され、ジンバブエは経済制裁下にある。
 
中国も一定の距離を置いてきたが、習政権に入ってからは経済を中心とした関係を強化しており、2013年には中国からジンバブエへの直接投資がアフリカ諸国で最大となった。

指導者レベルの関係強化を通じて、ジンバブエの鉱物資源などをめぐる取引で優位な立場を確保したいとの思惑もある。【2015年12月1日 時事】
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こうした中国とジンバブエの結びつきに対し、ジンバブエ国内の野党勢力からは批判もあがっていました。

*****中国人を追い出せ!」、中国の盟友ジンバブエの野党議員が発言****
2016年5月18日、中国は近年アフリカでの支援や投資などによりアフリカ諸国から支持され大きな影響力を持っている。南部のジンバブエとも良好な関係を保っているが、ジンバブエ野党議員が反中的な発言をしているとして話題となっている。環球時報(電子版)が伝えた。

報道によると、30年間にわたりジンバブエと中国は貿易パートナーであり盟友関係にある。2015年には、ジンバブエのたばこ輸出量の過半数が中国向けで、同年ジンバブエは法定通貨に中国の人民元を採用するなど関係は深まっている。

両国の関係が良好な中、ジンバブエの野党・人民民主党(ZPDP)に所属する議員・Willias Madzimure氏はこのほど、「ジンバブエから中国人を追い出せ」と自国民に呼びかける発言を行った。(後略)【5月19日 Record China】
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中国の進出、影響力拡大が現地でいろいろな摩擦を引き起こしていることは多々報じられています。

軍事政権時代に強い影響力を持ったミャンマーでも銅山開発やダム建設で住民トラブルが問題となりました。
5月30日には、やはり中国との関係が強いパキスタン南部にある同国最大の都市・カラチで爆弾による襲撃事件が発生し、中国人エンジニア1人と現地人2人が負傷する事件が起きています。

こうしたトラブル・事件は、中国の進出で、その存在感が増していることの裏返しでもあります。

2008年のハイパー・インフレ―ションは克服したものの、経済は通貨不足から再び悪化
そうしたなかにあって、ムガベ大統領自身が中国を批判するというのは、非常に意外な感がしました。
何が背景にあるのかは知りませんが、ムガベ大統領も言っているようにジンバブエの通貨問題が大きな要因でしょう。

ジンバブエから真っ先に連想するのは、2008年前後の天文学的な数字にもなった記録的なハイパー・インフレ―ションですが、“2009年1月29日、ジンバブエ政府は完全に信用を失ったジンバブエ・ドルに代えてアメリカ合衆国ドル南アフリカランド、ユーロ、英ポンド、ボツワナ・プラの国内流通を公式に認め、公務員の給与も米ドルで支払うことにし、この5通貨を法定通貨とした。これにより同国のハイパーインフレは終息を見せ、ジンバブエ政府によれば同年3月の物価は同1月比0.8%減となった。”【ウィキペディア】とのことです。

当初は米ドルと南アランドが半々ぐらいで流通していましたが、最近は殆ど米ドルになっているようです。

信用を失った自国通貨と金融政策を放棄することで、ようやく経済は落ち着きを取り戻しましたが、そのことはジンバブエ経済にとって大きな足かせともなっています。

****ジンバブエ経済:価値のないお金***
新しい硬貨の導入が、どの通貨を使うべきかという議論を呼んでいる。

2008~09年にインフレ率が800億%に向けて高進した時、ジンバブエはジンバブエドルを捨てて米ドルを使うようになった。
 
以来、米国の硬貨を入手できない店主は、お釣りの代わりにペンや菓子、チューインガムを客に渡さなければならなかった。
 
だが、1カ月余り前、中央銀行がジンバブエ国内だけで使われる米セント建ての「ボンドコイン(注)」を発行し始めた。これが、ジンバブエには再び独自の通貨が必要なのかどうかという議論に火をつけた。

米ドルの採用で経済が落ち着いたが・・・
米ドルに切り替える利点は多かった。一夜にして、気まぐれな政府関係者に金銭的な規律が課された。インフレはぴたりと止まり、成長を押し上げ、マクロ経済の安定に対する幅広い期待が生まれた。

ひとたび正常な商取引が再開すると、輸入業者は取引コストの減少にあずかり、外国人投資家は為替レートのボラティリティーについて心配する必要がなくなった。
 
ところが今、主に失政のせいで経済が再び悪化しており、今回は現地通貨が存在しないことが経済の病を悪化させている。
 
信用できない統計のために、状況がどれほど悪いのか評価するのは難しい。政府関係者は今年の成長率が6%から下方修正されて、3%になると話している。野党議員のエディー・クロス氏は、昨年の国内総生産(GDP)が「少なくとも10%、もしかしたら14%減少し、2008年の崩壊時と同じ減少率になった」と主張している。
 
断片的な情報は、暗い先行きを示している。ある投資家は、ビールの販売が急減していると言う。首都ハラレの繁華街の商店主らは、不満だらけだ。「腐敗した役人が、我々が税金として払うお金を奪っていく」と、ある携帯電話業者は語る。
 
年間5億ドルに上る在外ジンバブエ人からの送金と、政府の赤字と外国からの援助の拡大によって、メルトダウンが阻止されている。

米国政府はジンバブエの特定の政府関係者および企業との商取引を全面的に禁止しているが、この国の医療費の4分の1を支払っている。

(注)債券に裏付けられている硬貨。1セント、5セント、10セント、25セント硬貨があり、それぞれ米国通貨の価値と連動している

ジンバブエ国民は自国政府からは、ごくわずかなものしか受け取っていない。医師、教師、警察官は頻繁に、未払い賃金を巡ってストを行っている。
 
鉱業が数年にわたって経済に拍車をかけてきたが、もうそうではない。外国人が所有する資産が部分的に接収された政府の現地化政策で、投資家は逃げていった。(中略)

ギリシャがうらやましい?
一方、ジンバブエは米ドルとともに米国の金融政策も採用した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げの話題は、ジンバブエ経済が必要としている政策とは反対だ。あるジンバブエのエコノミストは、「ドイツとの通貨同盟に、少なくとも最低限の協調と共感がある」ギリシャ人がうらやましいと語る。
 
では、通貨のドル化は覆されることがあるのか? 地元の人も外国人もよくそう問うが、その可能性は低そうだ。ジンバブエ人は、ジンバブエドルがあった頃の生活の惨めさを忘れていない。当時は店が空っぽで、ガソリンには配給制度が敷かれていた。
 
当局者が将来、以前よりうまく通貨を管理すると考える理由はほとんどない。国民の信頼がなければ、どんな政府も紙に価値を持たせることはできない。【英エコノミスト誌 2015年2月14日号】
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現在は、流通貨幣である米ドルが極度に不足し、経済が回らない状況にあるようです。
“米ドルは流通貨幣としてよりむしろ“安全資産”としての役割が大きくなっているようだ。そのため、国内で米ドルの現金が不足し、銀行やATMで人々が米ドルの現金引き出しのため列をなしているという。米ドル資金不足は米ドルの価値を高くし、ジンバブエの国内物価をデフレ状態にしている”【2016年06月01日 住友商事グローバルリサーチ経済部 片白 恵理子氏】

こうした状況が、冒頭のムガベ大統領の「稼いだ金は本国へ送金している」という中国批判になっていると思われます。
そこで、債券に裏付けられた米ドル相当の紙幣「ボンドノート」が発行されることになりました。

****外貨不足のジンバブエ、米ドル相当の紙幣を発行へ****
ジンバブエ政府は4日、国内での外貨不足対策として自国版米ドル紙幣(ボンドノート)の印刷と、預金引き出しの制限を計画していることを発表した。
 
ジンバブエは、国内経済の崩壊でインフレ率が最大で約2億3000万パーセントというハイパーインフレーションに陥ったことから、2009年に事実上、自国通貨を放棄、15年に正式に廃止し、米ドルや南アフリカ通貨ランドを採用した。
 
しかし国内に流通する紙幣が極度に不足していることから同国中央銀行のジョン・マングジュヤ(John Mangudya)総裁は4日、預金引き出し限度額を1日1000ドル(約11万円)または2万南アフリカランド(約14万円)とする抜本的対策を発表した。
 
さらにジンバブエ中央銀行は、米ドルと同等の価値を有する「ボンドノート」を発行すると明らかにした。新たな紙幣は、「現在は計画段階」だが、額面2ドル、5ドル、10ドル、20ドルの4種類で、代用貨幣と同様の役割を果たすものになるという。ただし自国通貨の再導入につながるものではないとマングジュヤ総裁は強調した。
 
しかし、一部の専門家らはこの対策を批判しており、首都ハラレでAFPの取材に応じたエコノミストのジョン・ロバートソン氏は「誰の利益にとっても悪影響で、ジンバブエ経済にとっても非常に危険だ。じきに別のインフレ問題となるだろう」とし、市民らはボンドノートでの給与受け取りを拒否するだろうと語った。
 
最高額100兆ドルの紙幣が登場したハイパーインフレを経験したジンバブエは2009年、12桁を切り下げるデノミネーションを実施している。【5月6日 AFP】
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「ボンドノート」供給量は限定的とされてはいますが、信用されていない「ボンドノート」の価値は公定レートとは異なって相当に割り引いて取引されることになるのではないでしょうか。

ジンバブエは上記の通過問題のほか、干ばつ被害も報じられています。

****ジンバブエ、干ばつで「災害事態」宣言****
ジンバブエのロバート・ムガベ(Robert Mugabe)大統領は5日、深刻な干ばつに見舞われた同国の地方部に「災害事態」を宣言した。同国では人口の26%が食糧不足に直面している。
 
エルニーニョ(El Nino)現象によって悪化した干ばつは、ジンバブエのみならず、南アフリカやザンビアにも影響を及ぼし、畜牛数万頭が死んだ他、ダムが枯渇し、作物が育たない事態となっている。(後略)【2月5日 AFP】
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一方で、国連開発計画(UNDP)の報告では、ジンバブエ社会・経済は顕著な改善をみせているとしています。

****ジンバブエの人間開発指数が大幅改善、経済制裁にも負けず****
ジンバブエがアフリカの優等生に?

過去6年間で、ジンバブエの人間開発指数が著しく向上した。国連開発計画(UNDP)によれば、ジンバブエは、保健、教育、所得、ジェンダー平等といった人間開発における重要な要素について、サブサハラアフリカ諸国を凌駕している。

ジンバブエは過去十数年にわたる経済制裁によって、420億ドルの歳入を失ったとされる。それにもかかわらず、今回の達成状況は注目に値する。

2010年から2014年にかけて、平均寿命は49.6歳から57.5歳。2000年から2015年にかけて、HIV感染率は28.4%から13.8%。

その他の指標も一様に改善を見せており、驚きとともに現地メディアが伝えている。【5月22日 The Povertist 】
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確かに“驚き”ですが、実態を反映した数字なのでしょうか?それとも通貨問題などの捉え方が一面的に過ぎるというなのでしょうか?

3月に 来日したジンバブエのムガベ大統領(92)は、2018年に予定される次期ジンバブエ大統領選(任期5年)について、「支持者たちが候補に推薦している」として、出馬する意向を表明したとのことです。

ムガベ大統領の評価はともかくとしても、「老害」であることは間違いないでしょう。
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