孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

国際刑事裁判所(ICC) アフリカ諸国に脱退の動き プーチン大統領、ドゥテルテ大統領の名前も

2016-10-23 22:32:20 | 国際情勢

(緑色:締約国、黄緑色:批准国、黄土色:署名国 【http://blog.goo.ne.jp/jnicc_org_tk_06/e/b293dbea1e99dfb3e2da3bde4be008a8】)

ICCはアフリカばかりを対象にしているとのアフリカ首脳の不満
政治指導者の戦争犯罪や人道に対する個人の罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)は、国際刑事裁判所ローマ規程(ローマ規程または、ICC規程)に基づき2003年3月11日、オランダのハーグに設置されましたが、外務省HPで下記のように説明されています。

****ICC(国際刑事裁判所)~注目されるその役割****
■ICCが扱うのは、個人が犯した国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪
ICCが扱う犯罪には国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪、すなわち「集団殺害犯罪」「人道に対する犯罪」「戦争犯罪」「侵略犯罪(未定義)」があります。

これらの罪を犯した個人を、国際法に基づいて訴追・処罰することにより、犯罪の撲滅と予防を目指し、世界の平和と安全に貢献することがICCの目的です。

ICCローマ規程は、それを実現するために裁判の仕組みなどを詳細に定めています。よく、国連の主要な司法機関であるICJ(International Court of Justice=国際司法裁判所)との違いが挙げられますが、ICCが個人の犯罪を扱うのに対し、ICJの当事者は「国家のみ」、つまり国家間の紛争を扱うという部分に、大きな違いがあります。

■役割は「補完」
ただし、ICCの役割は、あくまで各国の国内刑事司法制度を「補完するもの」。関係国が被疑者の捜査・訴追を行う能力や意思がない場合のみ、管轄権が認められます。

■管轄権が発生するケース
ICCに事態を付託できるのは、締約国又は国連安保理に限られますが、ICC検察官が自らの考えにより捜査を開始することもできます。ある事態が付託された場合、犯罪行為の実行地国又は被疑者の国籍国のどちらかが締約国ならば、ICCに管轄権が発生します。

また、実行地国と国籍国、両者ともICCに加盟していないときでも、どちらか一方がICCの管轄権を認めれば、これを行使することができます。このほかに、国連安保理が憲章第7章に基づいた決議で付託した場合は、ICCの管轄権が認められます。【外務省HP「わかる!国際情勢」】
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なお、上記説明にある「侵略犯罪」については、2010年の再検討会議で定義がなされています。

日本は2007年に加盟していますが、105ヵ国目の締約国ということで、批准には時間を要しました。

同盟国アメリカがICCに消極的であり、アメリカ絡みの事案がおきたときの対応への懸念、あるいは国内関連法の調整なども背景にあったのでは・・・・と推察されます。

アメリカはクリントン政権時代に一旦行った署名を、ブッシュ政権時代に“撤回”する異例の対応をとっています。
アメリカがICCに消極的なのは、自国軍将兵が戦闘区域での不法行為(主として非戦闘員の殺害など)により訴追される事を防ぐためと見られています。

なお、最近はアメリカもICCに協力的に変化しつつあるとも。【ウィキペディアより】

ただ、アメリカをはじめ、ロシア・中国も加盟しておらず、安保理常任理事国の加盟国は英仏のみです。
また、地域的には、欧州・アフリカ・中南米諸国の多くが加盟しているのに対し、アジアの加盟国が非常に少ないという偏りもあります。

犯罪行為の実行地国又は被疑者の国籍国が加盟していなくても、国連安保理が付託すればICCの管轄権が認められますが、その安保理常任理事国の多くがICCに未加盟の状況では、そうした方法も大きく制約されます。

その多くのが加盟しているアフリカには、ICCがアフリカばかりを対象としている・・・という不満があることが以前から指摘されています。

2005年にはウガンダなどで活動するジョゼフ・コニーらテロ組織神の抵抗軍幹部、2007年にはダルフール関連でスーダン政府関係者、2008年には同じくスーダンのバシル大統領、2011年には安保理決議に基づいてリビアのカダフィ大佐、、2011年にはコートジボワールのバグボ前大統領に逮捕状が出されています。

最近では6月に、2002年に中央アフリカ共和国に派遣した自身の部隊による「残虐非道な」レイプや虐殺行為により有罪とされたコンゴ(旧ザイール)のジャンピエール・ベンバ元副大統領に、禁錮18年の量刑が言い渡されています。

こうして並べると、確かにアフリカ関連ばかりです。
その最大理由は、紛争・内戦が絶えないアフリカで非人道的犯罪行為が横行しているという現実がもちろんありますが、非人道的犯罪行為・戦争犯罪はアフリカだけではないだろう・・・という不満がアフリカ首脳にはあるようです。

****国際刑事裁判所(ICC)を脱退するアフリカの戦犯たち*****
<政治指導者の戦争犯罪や人道に対する罪を裁くICCに訴追されたブルンジが世界で初めて脱退を可決。ヌクルンジザ大統領は暴動に乗じて国民を殺した罪を償なわずに逃げる構え。他の独裁的アフリカ諸国も後に続けば、ICCの権威は地に堕ちる> 

アフリカ中部ブルンジのピエール・ヌクルンジザ大統領は18日、国際社会の異端の道を突き進むべく新たな行動に打って出た。

ブルンジの国会は10月上旬、国際刑事裁判所(ICC)から脱退することを定めた法案を賛成多数で可決、18日にヌクルンジザが署名し成立した。これにより、ブルンジはICCの設立規定を定めた国際条約「ローマ規定」から脱退したことになる。脱退の時期について、ローマ規定は国連事務総長への通知から1年後と定めているが、ブルンジ政府は法律がただちに施行されると発表した。

ICCは大量虐殺や人道に対する罪を含む重大な犯罪を国際法に基づいて裁く目的で、1998年にオランダのハーグに設立された。今回ブルンジが脱退すれば、初のケースとなる。

対象はアフリカばかり
ICCの主任検察官でガンビア出身のファトゥ・ベンスダは今年4月、ブルンジにおける人権侵害の予備調査に着手した。対象になったのは、ヌルンジザが大統領選への3選出馬を発表した2015年4月以降の状況だ。

出馬に抗議する市民に対する治安当局の激しい弾圧や軍幹部によるクーデターの失敗で、多数の死傷者が出た。ベンスダは当初、430人以上が殺害された模様だと述べた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、衝突が始まってから30万人以上の住民が隣国などへ逃れて難民になった。

本格調査に乗り出すというICCの決定は、ヌクルンジザを苛立たせた。
さらに国連は9月、ブルンジで2015年4月以降に564件の処刑が実施された事実を立証できたと主張、その多くは治安部隊が反対派とみなした勢力を弾圧するために行なわれたとする報告書を公表した。こうした動きに激怒したブルンジ政府は報告書の受け入れを拒否し、それ以降は国連調査団の受け入れも拒否している。

ブルンジはICCから脱退する最初の国だが最後の国ではなさそうだ。アフリカの独裁者たちは以前から、ICCが自分たちを標的にしていると不満を抱いてきた。

これまで人道に対する罪や戦争犯罪でICCに裁かれ有罪になった4人の被告人は、全員がアフリカ出身だ。

9月にはマリ出身のイスラム過激派の元戦闘員アフマド・ファキ・マフディが、西アフリカのマリ北部を一時制圧していた2012年に世界遺産都市トンブクトゥの文化財を破壊した戦争犯罪に問われ、ICCが禁固9年の判決を言い渡した。

6月にはアフリカ中部コンゴ(旧ザイール)の副大統領だったジャンピエール・ベンバが、2002年に中央アフリカに派遣した自身の部隊が犯した戦争犯罪と人道に対する罪で、ICCに禁固18年の量刑を言い渡された。ベンバは判決を不服として上告している。

ICCが進行中の3件の裁判すべてにアフリカ出身者が関わっており、裁判に向けて予備調査が進んでいる10件のうち9件もアフリカ諸国に関連する事案だ。

アフリカからの反発が強まる中、ブルンジの次にICCを脱退する可能性があるのはどの国だろうか。(後略)【10月20日 Newsweek】
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記事は脱退の可能性がある国として、ダルフールでの大量虐殺でバシル大統領に逮捕状が出ているスーダン、2007年12月の大統領選挙の結果をめぐって起こった暴動に乗じて人道に対する罪を犯した容疑でケニヤッタ(当時副首相)とルト(当時高等教育相)を含む6人が召喚されたケニア(ケニア政府が重要な証拠の提出を拒み、その後起訴は取下げとなっています)、早くからICC脱退を訴えているアフリカでも最高齢の指導者であるウガンダのムセベニ大統領などをあげています。

しかし、現実のICC脱退の動きは、上記の“問題国”ではなく、アフリカの地域大国である南アフリカで始まっていることが報じられています。

****南アフリカ 国際刑事裁判所からの脱退手続き開始****
南アフリカ政府は21日、国際刑事裁判所から脱退するための手続きを開始したと発表しました。

南アフリカは去年、戦争犯罪などの疑いで国際刑事裁判所から逮捕状が出ていたスーダンのバシール大統領が、AU=アフリカ連合の首脳会議に参加するため現地を訪れた際に、大統領を逮捕しないまま出国させたとして国際的な批判を受けました。

イギリスのBBCなどによりますと、マスサ法相は脱退の理由について「国際刑事裁判所が加盟国に義務づけている国家元首の逮捕を求める訴追手続きが、外交特権を認める南アフリカの法律と相いれない」と説明しているということです。

今回の発表について、国際的な人権団体からは「訴追手続きの国際的な協力を損なうものだ」として批判の声が上がっています。

一方、アフリカ諸国の間には、国際刑事裁判所に対して「アフリカの指導者ばかり狙って訴追している」として根強い不信感があり、最近もブルンジが脱退を検討していることを明らかにしたばかりで、ほかの国にも同調する動きが広がる事態が懸念されています。【10月22日 NHK】
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地域大国・南アフリカが脱退すれば、不満が鬱積している(あるいは脛に傷をもつ指導者が多い)アフリカ諸国で追随する国がありそうです。

オランド大統領:ロシアを戦争犯罪でICCに提訴・・・・
アフリカばかり対象となっている理由は先述のとおりですが、アフリカ以外でも非人道的犯罪・戦争犯罪が疑われる行為が絶えないことも事実です。

誰しも、思浮かべるのはシリア・アレッポで大量の住民を巻き込む形で行われているシリア政府・ロシアによる大規模空爆でしょう。

実際、シリア内戦開始当時から、アサド大統領をICCに訴追すべし・・・という声は、欧米やエジプト(ムシル政権当時)から出ていましたが、シリアが加盟国でないこと、国連安保理でもロシアが賛同しないことで、現実の動きとはなっていません。

最近また、アレッポ空爆を止めないロシアのプーチン大統領に対し苛立つフランス・オランド大統領がICCへの提訴に言及しています。

****仏大統領、アレッポ空爆のロシアを戦争犯罪で提訴示唆****
ロシアはアレッポ空爆停止を求める安保理決議に拒否権を行使した フランスのフランソワ・オランド大統領は10日、シリア北部アレッポへの空爆を続けるロシアを戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)に提訴する可能性を示唆した。

オランド大統領は仏テレビ局TMCに対し、来週フランス訪問予定のウラジミール・プーチン露大統領との会談を拒否するかもしれないと述べた。(中略)

ロシアはアレッポ空爆で民間人を攻撃していない、テロリスト集団を標的にしていると繰り返し主張している。
ロシアとシリアはICCに加盟していない。

オランド大統領はシリアの人々が「戦争犯罪の被害者になっている」と延べ、「ICCの場を含め、戦争犯罪を犯した者は責任を取らなくてはならない」と述べた。

大統領は、「もし(プーチン大統領)と会うことになったら、(空爆は)受け入れられないと伝える。ロシアのイメージに深刻な影響を及ぼす可能性がある」と語った。

これに先立ち、フランスのジャン=マルク・エロー外相は、反政府勢力が支配するアレッポ東部への攻撃について、ICC検察官が捜査着手できるよう取り組んでいると話した。

ジョン・ケリー米国務長官も先週、ロシアとシリア両政府による病院への攻撃は、「事故を超え」、意図的な戦略の下で行われたと非難。戦争犯罪として訴追するよう呼びかけた。(中略)

複数の主要国は、ICC判断には従わないと決意を固めている様子だ。米国、中国、インド、パキスタン、インドネシア、トルコなどは条約締結さえしていない。

エジプト、イラン、イスラエル、ロシアなどは締約国だが意思は不明確で、批准していない。
これらの国における人道に対する犯罪が訴追される可能性は低い。【10月11日 BBC】
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プーチン大統領は大物すぎて、ICCの手には負えないでしょう。
オランド大統領も実現できるとは思っていないでしょうが、とにかく欧米側の苛立ちを“プーチン大統領の戦争犯罪を問う”という形で表明したというところでしょう。

そういう欧米側の苛立ちを多少斟酌したのでしょうか、プーチン大統領がアレッポ攻撃を20日からしばし停止して、住民避難と食料搬送の人道的配慮をアピールしたのは報道のとおり。

しかしながら、短い停止期間を終えて、再びアレッポ攻撃が再開されています。

****アレッポの停戦、期限切れ 空爆再開 軍事衝突も****
シリア北部アレッポで22日遅く、政府軍を支援しているロシアが一方的に宣言した一時停戦が期限切れとなり、政府軍と反体制派の激しい戦闘が再燃した。
 
ロシア政府は「人道支援」を理由とする一時停戦を、停戦開始から3日目のグリニッジ標準時(GMT)22日午後4時(日本時間23日午前1時)まで延長していた。

国連(UN)は負傷した民間人を避難させるため停戦の延長を要請していたが、ロシアが新たな停戦延長は発表することはなかった。

在英のNGO「シリア人権監視団」によると、アレッポを分断している前線に沿った複数の地域で新たな戦闘が発生した。(中略)

アレッポの反体制派地域は約3か月にわたって政府軍に包囲され、数週間激しい爆撃を受けた。住民や戦闘員はシリア政府軍やロシア政府から一時停戦中の退避を促されていたものの、従わなかった。【10月23日 AFP】
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多くのアレッポ住民が退避しないのは、反体制派に阻止されているなどで、事実上逃げることもできない状況にあるためでしょうか、それとも、退避後の政府軍による対応に不安があるからでしょうか、あるいは、住民も反政府勢力にシンパシーを有しており、最後まで一体となって抵抗する意思があるということでしょうか・・・そのあたりはよくわかりません。

****国連人権理事会、アサド政権とロシア非難 アレッポ空爆****
シリアのアサド政権軍が反体制派を攻撃している北部アレッポで民間人約27万人が取り残されている人道危機を巡り、国連人権理事会の特別会合が21日、スイス・ジュネーブで開かれ、同政権と政権を支援するロシアを非難する決議案を賛成多数で採択した。
 
決議案は、欧米諸国が主導。たる爆弾や空爆などを含む兵器の無差別使用や、食料や水、医薬品などの供給が断たれている状況を強く非難。アサド政権と「同盟者たち(ロシア)」に、空爆をただちにやめるよう求めた。
 
さらに、国連のシリア独立調査委員会に国際刑事裁判所(ICC)での訴追も視野に、国際人道法違反の疑いで調査して、来年前半の人権理に報告するよう求めている。
 
ザイド国連人権高等弁務官は会合冒頭の演説で、無差別空爆などについて、戦争犯罪や人道に対する罪に当たる可能性を示唆した。
 
これに対し、シリアは、英国などに対して「戦争犯罪についての根拠ない罪状を捏造(ねつぞう)し、反シリアのプロパガンダを広めている」と反発。ロシアは決議案でアサド政権などを名指しした記述の削除を求めたが、反対多数で否決された。【10月22日 朝日】
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ICC フィリピン・ドゥテルテ大統領へ警告
最近、ICCの名前があがったもうひとつの事例が、フィリピン・ドゥテルテ大統領の麻薬犯罪取締りに係る「超法規的処刑」です。

****フィリピン・ドゥテルテ政権 国際刑事裁から警告! 「麻薬容疑者の超法規的殺害は訴追対象だ****
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のベンスダ主任検察官は14日までに、フィリピン当局による強権的な麻薬犯罪対策について、容疑者を超法規的に殺害することはICCの訴追対象となる可能性があると警告する声明を発表した。
 
状況を数週間注視し、ICCが管轄する犯罪があったかどうか調べる予備調査の要否を判断すると明らかにした。
 
声明は、過去3カ月に同国で超法規的に殺害された麻薬の売人や使用者は3千人を超える可能性があると指摘。「当局の高官らが公に殺害を容認する発言をし、継続を促しているとみられることに深刻な懸念を抱いている」と表明した。【10月14日 産経ニュース】
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フィリピンはアジアでは珍しくICC加盟国です。“状況を数週間注視”して、何か動きがあるのでしょうか?
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