孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  ビル・クリントン元大統領の“舌禍”に見る「オバマケア」の困難な状況

2016-10-06 23:13:25 | アメリカ

(【2010年03月24日 AFP】)

苦戦するヒラリーの足を引っ張る夫ビル・クリントン元大統領の「オバマケア」批判
アメリカ大統領選挙は多くの報道があるように、どんな暴言・スキャンダルへの批判も吸い込んでしまうブラックホールのようなトランプ候補(それは、現状に不満を持つ支持層がそうした論理的整合性や政治的正しさなどは重視しておらず、既成政治・社会の変革あるいは破壊を“ダークヒーロー”トランプ候補に期待しているということでしょう)を相手に、既成政治を象徴するイメージの正統派クリントン候補が依然として厳しい戦いを強いられています。

決め手になるとも思われた「税金逃れ」疑惑も、今のところ大きな影響は与えていないようです。
“10月4日、米大統領選の共和党候補で不動産王のドナルド・トランプ氏が長期間にわたり所得税を支払っていなかった可能性があることについて、米国人の半数近く(46%)が、「頭がいい」と考えていることが分かった。”【10月5日 ロイター】

これでは、いくら討論会で圧倒しようが支持層を引きはがすことは難しいでしょう。
クリントン候補としては、現在わずかながらもトランプ候補を上回っているとされる支持者を投票日まで維持する必要がありますが、トランプ候補と異なり、彼女の場合は僅かなミスもネガティブな評価に直結します。

“わずかながらもトランプ候補を上回っているとされる支持者”というのも、破天荒なトランプ氏支持を口にするのは“良識”からためらわれるが、心中では・・・という有権者もいると思われますので、投票箱を開けてみないとわからないという感もあります。もちろんアメリカの場合、全国的な支持率にかかわらず、決め手となるのは激戦州の行方です。

そうしたクリントン候補には厳しい選挙情勢にあって、旦那のビル・クリントン元大統領の失言が報じられています。

****肝いりの「オバマケア」への批判が再燃 クリントン元大統領「世界で最もクレイジー」 トランプ氏にとって格好の攻撃材料に****
オバマ米大統領の政治的遺産(レガシー)の筆頭格とされる医療保険制度改革(オバマケア)への批判が、思わぬ形で再燃している。

大統領選の民主党候補、ヒラリー・クリントン氏の夫、ビル・クリントン元大統領がオバマケアについて、「世界で最もクレイジー(まともではない)な出来事だ」と述べたためだ。共和党候補のドナルド・トランプ氏はオバマ氏の失政を元大統領が認めたとして、格好の攻撃材料にしている。
 
元大統領は3日のミシガン州での演説で、オバマケアで不利益を被ったのは「(低所得者に支給される)補助金を受け取るのはほんの少しだけ収入が多い中小企業経営者や個人だ」と言及。オバマケア導入後に保険料が大幅に値上がりしたことにも触れ、中間層へのしわ寄せの大きさを激しい言葉で問題視した。
 
これを受け、トランプ氏は4日のアリゾナ州での演説で、「クリントン元大統領がオバマケアの真実について話した」と述べ、オバマケアを廃止して別の制度を導入するとの公約を改めて主張。5日のネバダ州での演説では、「クリントン氏はオバマケアを後押ししたことを謝罪すべきだ」とたたみかけた。
 
元大統領は4日のオハイオ州での演説では、オバマケアの問題点を認めつつも「支持している」と釈明。クリントン陣営も、「元大統領は少し説明不足だったが、オバマケアに改善が必要なことはオバマ氏も含めた全ての人にとって明らかだ」との声明を発表、事態の沈静化に努めている。
 
2014年から本格施行されたオバマケアは、個人に医療保険への加入を義務づけた上で、所得に応じて補助金を支給することが柱。この結果、15年の無保険者は約2900万人となり、13年に比べ1300万人近く減った。
 
しかし、本格施行後の保険料は増加傾向にある。オバマケアが保険対象となる医療行為の拡大を義務づけているうえ、健康状態が悪い新規加入者が想定以上に多いことで、保険会社の支払い負担がかさんでいることなどが理由だ。
 
米コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーが18州と首都ワシントンの状況について分析した試算によると、オバマケアによる17年の保険料の値上がり幅は前年比7・6〜17・1%。15年以降で最大の伸びになる見通しだ。

米紙ニューヨーク・タイムズは「残りの32州の多くでは保険会社がより大きな値上げを求めてきた」として、オバマケアのマイナス面を指摘している。【10月6日 産経】
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必ず自分の政権時代の政策や結果に言及して、自身を弁護・擁護することとに終始してしまう
なぜこの時期に、格好の攻撃材料ともなる「オバマケア」批判をビル・クリントン元大統領が口にしたのか・・・よくわかりませんが、かねてより旦那クリントン元大統領はヒラリーの選挙の足を引っ張ることがあったのも事実です。

自身のセックス・スキャンダルが度々蒸し返されるのは別にしても、ヒラリーの最大の弱点となっているメール問題でも“失態”がありました。

****クリントン候補、FBIの事情聴取に応じるも夫の失態が足かせに****
ワシントン陣営を中心とするクリントン候補への“告訴なし”観測は、一段と現実味を帯びてきました。しかし、まだ問題が残ります。それは、夫のビル・クリントン元大統領です。

クリントン元大統領と言えば、マサチューセッツ州の予備選でも選挙違反と思しき行動を取って一部で猛烈な批判を浴びたものです。今度は、妻ヒラリーのeメール問題の調査をめぐり最終段階にある米司法省の長官に歩み寄るという失態を犯してしまいました。

オブザーバーによると、アリゾナ州のフェニックス空港にて離陸するはずのクリントン元大統領が乗ったプライベート・ジェット機は、ロレッタ・リンチ米司法長官が控える航空機が同じ滑走路に着陸するまで待機していたといいます。

明らかに、クリントン元米大統領が面会する機会を伺っていたと解釈できますよね?リンチ米司法長官と言えば、当時大統領だったクリントン氏にNY東部地区連邦地方裁判所の判事に指名された人物です。

妻のクリントン候補は暫く沈黙していたものの、FBIで聴取を受けた後にNBCのインタビューに応じるなかで夫とロレッタ米司法長官との面会に触れ「短い、偶然の機会だった」と振り返っていました。その上で、両者の顔合わせがいかに政治的に批判を招くものだったかとお互い認識したと言及、二度とこうした面会はないと述べた一方で「後の祭り」と断っていました。

もともと、クリントン元大統領は空港で誰かに話しかける癖があったようです(後略)【7月4日 BLOGOS】
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更に言えば、クリントン元大統領の“足かせ”ぶりは、ヒラリーが予備選挙でオバマ氏に敗れた2008年選挙の時も、その敗因のひとつとも指摘されています。

以下は、大柴ひさみ氏の2008年当時のブログからの抜粋です。

****クリントンが負けた理由⑤「Bill Clinton(ビル・クリントン元大統領の舌禍****
・・・・ただし、彼(オバマ氏)は、過去の公民権運動を経たJesse Jacksonのように黒人大統領候補として、「人種」のカードを最初から出さずに、むしろ人種問題に対してはニュートラル、あるいは言及することを避けていました。

ですので、1年半前のキャンペーン開始時は、逆に奴隷制度と公民権運動と直接関わらないオバマは、黒人層からは、彼の「Blackness(黒人性)」が足りないことへの、反発と批判を招いていました。

また、多くの黒人層は、黒人の人権や経済的なサポートを果たして「First Black President(初めての黒人大統領)」と呼ばれたビル・クリントンへの忠誠心から、当初はヒラリー・クリントンへの支持を表明していました。

この「First Black President」と呼ばれたビル・クリントン、およびヒラリー・クリントン自身の発言が、クリントン陣営のロイヤリストとしてコアのサポーターであった、黒人層の怒りを買い、オバマへ大きく流れるというと結果をもたらしました。

以下の有名な舌禍事件となったもので、日本風に言うと、「クリントン発言の炎上」ともいえます。

「御伽噺発言」:「the biggest fairy tale that I have ever seen」オバマが当初からイラク戦争に反対していたことを、こんな御伽噺(フェアリーテール)のような話を今まで見たことがないと発言。オバマの大統領候補としての可能性を信じ始めた黒人層は、これを黒人への侮蔑ととって反発した最初の発言。

「ジェシー・ジャクソンを例にした黒人軽視発言=人種差別発言」:「Jesse Jackson won South Carolina in '84 and '88」オバマのサウス・キャロライナでの圧勝に関して、コメントを求められた時の発言。黒人層の多いサウス・キャロライナでの勝利は、黒人であるオバマの場合当然で、ジャクソンですら、84年と88年2回勝ったと発言。上記の「フェアリーテール」発言以上に、黒人層の反発を招いた。(中略)

この発言(ヒラリー自身の「キング牧師とジョンソン大統領比較発言」)と上記のビル・クリントンの発言が連続して起こり、結果これが大きなトリガーとなって、黒人層がクリントンに見切りをつけて、一気にオバマ支持に走って行った。

米国史上初めて、元大統領が、大統領候補者の夫として、キャンペーンに参加するということ自体が、異例のことです。クリントンキャンペーンは、ビル・クリントン元大統領の影響力のある言動をコントロール出来ず、多くの論議を巻き起こしています。

実際にキャンペーン内部には、ヒラリーとビルのスタッフが別々に存在し、両社の連携は密とは言えず、また元大統領を諌める、あるいは助言できる立場の人間が存在しないために、多くの混乱を招いています。

特に彼は感情が激化してくると、しばしば一般の質問者やレポーターを、真っ赤になりながら指差して論破しようとして、それが「YouTube時代」のスキャンダルとして、オンラインだけに限らず、ケーブルTV局を通じて、あっという間に広まっていきました。

また、もう一つの大きな問題は、彼のキャンペーン参加は、ヒラリーを大統領にするためであるにもかかわらず、必ず自分の政権時代の政策や結果に言及して、自身を弁護・擁護することとに終始してしまうという点です。

まるで、自らがホワイトハウスへの復帰キャンペーンを行っているようで、映画「Back to the Future」ではありませんが、90年代の昔に戻ったような錯覚と困惑を、パブリックに与えて、「Change」を求める多くの人たちの心を掴むことが出来ませんでした。(後略)【7/6/2008 大柴ひさみ氏 http://www.hisami.com/blog/5bill-clinton
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今回のオバマのレガシーとされる「オバマケア」への批判も、“自分の政権時代の政策や結果に言及して、自身を弁護・擁護することとに終始してしまう”性癖や、2008年当時からのオバマ批判とだぶるものがあるようにも見えます。

ただ、アメリカ経済が良好だった頃の大統領としてビル・クリントン元大統領は未だに大きな人気を維持しており、多くの“舌禍”“失態”にもかかわらず彼の助けを必要としているところに、ヒラリーの苦しい選挙戦が感じられます。

大幅な改革がない限りオバマケアは崩壊する
さて、今回発言の対象となった「オバマケア」ですが、オバマ大統領のレガシーの筆頭に位置するもの(反オバマ・共和党支持者からすれば批判リストのトップ)ではありますが、クリントン元大統領も批判するように、かなり困難な状況に直面しています。

****保険会社撤退続出、存続の危機に瀕するオバマケア****
もし米国の次期大統領がドナルド・トランプ氏になったなら、アフォーダブル・ヘルスケア・アクト、通称オバマケアは恐らく廃止になる。しかしそれを待たずして、オバマケアはすでに崩壊の危機に瀕している。
 
今年に入り、オバマケアのマーケットプレイスから脱退する、と発表した保険会社が後を絶たない。マーケットプレイスとはネット上に各保険会社が個人向け健康保険プランを提示し、顧客がプランを比較検討し購入できる場所のこと。年収などにより異なる保険料も明記される。

8月にはついに大手保険会社であるエトナ社が、現在オバマケアを提供している15の州のうち特に損失額の大きい11州から撤退する、と発表した。
 
なぜこのようなことが起きるのか。それにはオバマケアの仕組みについての説明が必要だろう。オバマケアは全国民を対象とするものではない。企業に勤める人々は企業が半額から全額を支払う健康保険制度がある。これからはみ出す人々、自営業者や零細企業、無職で健康保険を持たない人の救済措置として生み出されたのがオバマケアだ。
 
米国の一般的な健康保険制度は、保険会社が提供するプランを利用者が買う仕組みだ。しかしプランは非常に複雑で、例えば病院に行くたびに一部費用を負担するかしないか、その負担額、さらに高額治療の場合に免責金額を設定するか否か、その金額などにより保険料が異なる。
 
オバマケアとは、収入に応じて政府が保険料の一部を負担し、誰もが健康保険を持てるようにする、というものだ。

カリフォルニア州の場合、ロサンゼルス郡のマーケットプレイスには7社が20種類のプランを提供している。通常で購入すれば月々400ドル前後のプランだが、収入に応じて政府による補助金が加算され、数十ドルでも購入が可能だ。ただし安いプランでは免責金額が非常に高く、実際に医者にかかると数百ドル単位の出費となる。

オバマケアで損失を垂れ流す保険会社
2016年、オバマケアの加入者は1270万人となった。しかし保険会社にとってはオバマケアは「損失を垂れ流す」ものとなっている、という。エトナの場合、今年度の損失額は3億ドルとも言われる。

保険対象が低所得層であり、プランも比較的安いものが用意されているが、それに対し保険の使用率が企業が想定していたよりも多かったためだ。
 
別の大手保険会社、ブルークロスは今年の保険料を州により前年比で64%近く上昇させた。つまり営利企業が保険を仕切っている限り、「誰もが入れる低価格の健康保険」というのは絵に描いた餅のようなもの、ということが徐々に露呈している形だ。
 
ところで米国には政府保証型の健康保険も存在する。67歳以上に提供されるメディケア、貧困層に提供されるメディケイドなどだ。これを国民全般に広げ、企業が提供するのではなく国が提供する健康保険を、という声は以前からある。
 
その代表とも言えるのが、民主党の大統領指名を最後まで争ったバーニー・サンダース氏だ。同氏はエトナのオバマケア撤退のニュースを受け、「メディケア・フォー・オール」システムの推奨を訴えた。「健康保険は利益を出すことを目標とする営利企業に委ねてはならないものだ」との声明を出した。

ただし長く保険会社による健康保険制度が実施されてきた米国の制度を一気に変えることは困難だ。健康保険を政府が行うことで巨大保険会社が破綻し経済に影響が及ぼされることも懸念されている。

一方ドナルド・トランプ氏はエトナの撤退を「ほんの手始めに過ぎない」として、オバマケアという制度そのものに欠陥がある、と指摘。今後もオバマケアから撤退する保険会社が増えるだろう、と批判の目を向ける。

「オバマケアは崩壊する」
問題は、保険会社がオバマケアのマーケットプレイスから撤退することにより、残った少数の企業の寡占状態になる、という点だ。

マーケットプレイスを設置して利用者がプランを選べるようにしたのは、企業の競争を強める意図もあったが、「オバマケアは金にならない」と撤退する企業が相次げば、全体の料金も上がって本来の意味が薄れる結果にもなりかねない。
 
もちろんブルークロス、カイザーなどの超大手に混じり、ローカルの小さな保険会社もマーケットプレイスには参加しているが、こうした小規模の保険会社では選べる病院や医師が限られている、などのマイナス面がある。
 
ヒラリー・クリントン氏が大統領になったとしても、オバマケアは見直しの必要性に迫られることになる。大手保険会社カイザーのオバマケア担当者は「あと数年は現状が維持できるが、大幅な改革がない限りオバマケアは崩壊する」と語る。
 
先進国で唯一国が補償する皆保険制度がなく、企業が健康保険を管理する、という米国の特殊さを、誰が改善できるのか。健康保険制度改革チームを立ち上げたサンダース氏への期待もあるが、制度の抜本的解決は相当困難だ。【10月6日 WEDGE】
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大手医療保険会社が収支悪化を理由に相次いで撤退を発表。事業を続ける会社も保険料を大幅に引き上げ、保険料負担を敬遠し、オバマケアの加入者は伸び悩むとの見方が多いようです。

「オバマケア」撤廃を公約するトランプ候補は、保険市場を自由化すれば保険料が下がり加入しやすくなると訴えています。

一方、ヒラリー・クリントン候補は「オバマケア」を存続したうえで低所得者向けの公的保険を拡充する方針で、トランプ候補とは対照的に政府の関与を強める方向です。【8月23日 日経より】

「社会主義的施策」など、国民皆保険の日本などからすれば、理解しがたいところもある「オバマケア」批判ではありますが、医療に対する公的補助が莫大な金額になることは日本の事例(2015年の国家予算96兆円に対し医療費国庫負担分が10.4兆円、また、地方負担5.2兆円を合わせた公費負担は15.5兆円)を見ても間違いないところでもあります。

政府の役割を小さくすることを重視する者が多いアメリカにあっては許容しがたいものでしょう。
アメリカにしても、日本にしても、更なる医療保険制度改革が必要とされています。
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