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(イラン在住のみきハヌーンさんのブログ「特派員ママ!@イラン」http://ameblo.jp/iranmama/entry-11928303259.htmlより
テヘラン市内に3か所ある女性専用公園の入り口 中に入ると、ほとんどの女性がスカーフや身体のラインを隠すマーント(コート)を脱ぎ去るそうです。)
【来年5月の大統領選に向けて強硬派と穏健派のせめぎ合い】
イランでは、制裁解除を目指して欧米との核開発問題合意を進めた穏健派のロウハニ大統領と、これに反発する保守強硬派との間で厳しい対立があるとされています。
そうした政治対立を反映したものでしょうか、今月、ロウハニ政権の3閣僚が辞任したと報じられています。
****イランの3閣僚が辞任、ロハニ政権に痛手****
イラン大統領府は19日、ジャンナティ文化・イスラム指導相ら3人の閣僚が辞任したと発表した。
穏健派のロハニ大統領と対立する強硬派は3閣僚を批判しており、路線対立が背景にあるとみられる。ロハニ政権が2013年に発足して以来、閣僚の辞任は初めてで政権には痛手だ。
ジャンナティ氏は9月に国内で開かれた音楽会の開催を許可した。音楽会で演奏者と聴衆の男女が握手をしたことなどが「イスラムの教えに反する」とやり玉に挙げられ、同氏の責任を追及する声が宗教界で強まっていた。
他に辞任したのはファニ教育相、グダルジ・スポーツ・青少年相。来年5月の大統領選に向けて強硬派が政権批判を強め、強硬派と穏健派の間で対立が深まりそうだ。【10月21日 読売】
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路線対立があるのは事実ですが、辞任の経緯などはよくわかりません。
ジャンナティ文化相についても、上記記事では、音楽会での“不祥事”を保守強硬派に責められて・・・・という話になっていますが、下記記事では、保守派の圧力に屈して音楽ライブを中止したことが穏健派ロウハニ大統領の不興を買って・・・という説明がなされています。
****イラン文化相が突然辞任 音楽ライブ中止が原因か ****
イランで10月中旬、ジャンナティ文化・イスラム指導相が突然辞任したことが23日までに明らかになった。
厳格なイスラム体制下、欧米文化の流入を嫌う保守強硬派の圧力に屈する形で音楽ライブが相次ぎ中止に追い込まれており、穏健派ロウハニ大統領の方針に反したとして不興を買ったことが原因とみられている。
昨年7月に欧米などと核合意を結んだロウハニ政権は、社会の自由拡大を掲げてきたが、保守強硬派の頑強な抵抗にさらされ、一向に進んでいない。ライブで公演予定だった著名歌手らが「音楽への侮辱だ」と批判するなど、不満が広がっている。
前後して、グダルジ・スポーツ・青少年相とファニ教育相も辞任。2013年8月のロウハニ現政権の発足以来、閣僚の辞任は初めて。来年5月の大統領選を見据えた動きとの見方もある。
ライブは今年5~8月、イラン北東部のイスラム教シーア派の聖地マシャドなどで実施予定だった。地元の有力聖職者らが「この街にふさわしくない」と猛反対したことで直前に中止が決定。ジャンナティ氏はこれを追認した。
ロウハニ師は8月下旬、「閣僚は法律に従って任務を全うすべきだ。いかなる圧力にも屈すべきではなかった」と不快感を表明。地元メディアはライブ中止と辞任に関連があると示唆している。【10月23日 共同】
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いずれにしても、来年5月の大統領選を控えて、強硬派・穏健派のせめぎあいがあるのは間違いないでしょう。
【強硬派アフマディネジャド前大統領出馬自粛で、穏健派ロウハニ再選の流れ】
ロウハニ大統領はアメリカ大統領選挙について、「お互いを責め、さげすみ合っている。そんな民主主義は必要なのだろうか」と酷評したそうです。
****「さげすみ合っている」米大統領選を酷評****
イランのロウハニ大統領は23日、米大統領選の民主党クリントン、共和党トランプ両候補について「お互いを責め、さげすみ合っている。そんな民主主義は必要なのだろうか」と述べ、これまでの選挙戦を酷評した。西部アラクでの演説内容をイランメディアが伝えた。
AP通信によると、ロウハニ師が公の場で米大統領選に言及したのは初。昨年7月に欧米などとイラン核合意を果たすなど、同師は国際社会との融和路線も進めており、国内で反米の保守強硬派が強める反発に配慮を示した可能性もある。
今月19日にはイランの最高指導者ハメネイ師も、米大統領選の選挙戦を非難していた。【10月24日 毎日】
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ロウハニ大統領のご指摘はごもっともです。アメリカ大統領選挙の低次元ぶりにあきれているのはロウハニ大統領だけではありません。
ただ、皆が見えるところで争っている・・・というのは、“民主主義”のよいところとも言えます。
選挙などの政治的争いで“さげすみ合い”やドロドロしたものがあるのは、アメリカも日本もイランも同じです。そして、イランの場合は、それが見えないところで進行し、国民に多くが語られないという面があります。
次期大統領選挙での復権を目指して強硬派アフマディネジャド前大統領が選挙活動を始めたものの、最高指導者ハメネイ師から「国が二つに割れる」と不出馬勧告をされた・・・という話は、9月27日ブログ“イラン 最高指導者ハメネイ師がアフマディネジャド前大統領の大統領選出馬自粛を要請、しかし・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160927で取り上げました。
そのときは、最高指導者ハメネイ師との確執もあったアフマディネジャド前大統領が素直に従うだろうか・・・、政治バランに乗っかるハメネイ師に前大統領を抑え込むことができるのだろうか・・・・との疑問をあげたのですが、その後、アフマディネジャド前大統領は実にあっさりと身を引くことを表明しています。
****イラン前大統領、出馬辞退表明「国家のしもべでいます」****
イランのアフマディネジャド前大統領は、来年5月の大統領選に出馬しないとする書簡を最高指導者ハメネイ師に送り、27日に公開した。同師は、前大統領に「国が二つに割れる」として辞退を勧告していた。
前大統領は「勧告に従い出馬しません。謙虚な革命の戦士、イラン国家のしもべでいます」とした。【9月28日 朝日】
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“イラン国家のしもべ”などという歯の浮くような言葉は皮肉にも聞こえます。
水面下のドロドロはわかりませんが、一応これでアフマディネジャド前大統領が引き下がり、次期大統領選挙については、ロウハニ大統領の再選も視野に入ってきました。
****<イラン大統領選>ロウハニ師、再選出馬へ 強硬派は反発****
来年5月19日投票のイラン大統領選に、保守穏健派ロウハニ大統領が再選を目指して立候補する見通しとなった。大統領選を統括するラハマリファズリ内相が25日、出馬を明言した。
現段階では保守強硬派の対抗馬は不在で、再選が有力だが、既得権益の打破を試みる政権に強硬派は圧力を強める。約半年後の選挙を見据え、両陣営の綱引きは激しさを増している。
「核合意の目標は世界に扉を開き、経済を促進させること。無用な論争をせず、国の発展に努めるべきだ」。昨年7月に米欧との核合意にこぎつけたロウハニ師は23日、政権批判を強める強硬派をけん制した。
政権は、関連ビジネスが国内総生産の最高4割を占めるとも言われ、聖域視されてきた革命防衛隊の経済活動にメスを入れる姿勢を示している。
9月初旬、防衛隊が経営する大手建設会社と同社関連企業の取引を大手銀行2行が拒否したことが表面化した。マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金の規制に携わる国際機関「金融活動作業部会(FATF)」に協調する政権の姿勢の表れだ。
だが、こうした動きに対し、最強硬派紙ケイハンは「国益に反する」と批判。FATFとの協調を続けるかは防衛隊出身者が幹部の国家安全保障最高評議会にゆだねられた。
強硬派の圧力は、公的機関の幹部らが不当に高給を得ていた問題でも表れた。
強硬派系メディアが、1カ月で20億リヤル(約640万円)を得ていた銀行頭取の給与明細書を5月に公開後、相次いで高給問題が発覚。批判の矛先は政権に向けられた。
だが、政権は今月初旬に公的機関の幹部ら約400人の訴追見通しを発表して批判をかわした。
さらに、ロウハニ師は23日、ジャンナティ文化・イスラム指導相ら3閣僚の交代を発表。ジャンナティ氏は8月に強硬派の圧力で聖地マシュハドなどでの音楽コンサートを中止したことで、ロウハニ師との不一致が顕在化していた。
評論家のダリユシュ・ガンバリ元国会議員は「(今春の)総選挙で支持勢力が拡大し、コンサート問題が噴出したタイミングを選んで行動に出た」と分析。大統領選を見据え、国民の支持を高める措置だと指摘した。
最高指導者ハメネイ師は9月下旬の演説で、保守強硬派のアフマディネジャド前大統領に大統領選出馬を断念するよう伝えたと示唆。「君が出れば、社会が二極化する」と述べたとした。
「二極化を望まない姿勢はロウハニ師の穏健路線を追認したも同然」(外交筋)ともみられている。改革派は独自候補の擁立を見送り、ロウハニ師支援を明確にしている。【10月26日 毎日】
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【イランの穏健化は幻想か?】
アメリカ・オバマ政権など欧米側がイランとの核開発問題合意を進めた背景には、イランにおける“穏健派”政権を後押しして、人権・民主化での改善への期待があります。
その後、イラン側には、欧米側の経済制裁解除が一向に進まないという不満が、欧米側には、イランが合意を十分には守っていないという不満がありますが、イランに対し厳しい立場をとる向きには、そもそも、“穏健派”とは言いつつも、その本質はかつての弾圧政権と変わらず、“穏健派”への期待は幻想にすぎないとの指摘もあります。
****オバマ政権が期待したイランの穏健化は幻想だ****
<イラン・ロウハニ大統領の本質は3万人の反体制派を大量処刑した革命初期の指導者と変わらない>
(中略)
法相は大量処刑の責任者
エスカレートするイラン側の挑発は、国際社会に決断を迫っている。今こそ危険な行動を止めようとしないイランの「穏健派」と本気で対峙すべきだ。
ロウハニ政権に対する国際社会の対応が後手に回っている問題はほかにもある。ロウハニ政権には「穏健派」のイメージがあるが、イラン国内の人権状況は一貫してその評判を裏切るものだった。
だからこそオバマ政権と同盟国は、核合意と1月の人質交換(米政府も7人のイラン人を釈放)の「成功」を優先させ、人権問題をあえて積極的に取り上げようとしなかったのかもしれない。
だが現在、イランの穏健化が進行していないことは火を見るよりも明らかだ。
ロウハニについて、イスラム革命初期の指導者とは違うと考える根拠は何もない。88年、反体制派の政治犯3万人を処刑した当時の体制と現政権との間に本質的な違いはない。
最近になって明らかになった情報によれば、このとき反体制派の処刑やその他の人権侵害に反対した当局者は、例外なく権力の座を追われた。一方、積極的に加担した当局者は高く評価され、現在まで権力の中枢にとどまっている例も少なくない。
ロウハニ政権のプルモハンマディ法相もその1人だ。88年当時、プルモハンマディは情報省の代表として、処刑する政治犯を選ぶ「死の委員会」のメンバーに加わっていた。このような人物が現政権で大きな力を持っていること自体、「穏健派」への期待が幻想にすぎないことを雄弁に物語る。
イランの対外的な侵略姿勢と国内での暴虐に立ち向かう勢力が、現体制の内部から生まれることは期待できない。対抗勢力の芽は、勇気あるイランの活動家と国際社会の中にしか存在し得ないのだ。【10月4日号 Newsweek日本版】
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欧米的価値観からすれば“穏健派”の本質については上記のような話にもなるのでしょうが、現実問題としては、国民の自由な活動への理解・対応については、強硬派との間に差もあるのも事実でしょう。
“対抗勢力の芽は、勇気あるイランの活動家と国際社会の中にしか存在し得ない”と言っても、それこそ“幻想”にしか過ぎません。
制裁措置でもっと強力に締め付けろ・・・ということであれば、イラン国内を反欧米の方向に追いやるだけのように思えます。
【“次期最高指導者候補”は「死の委員会」メンバー】
イランの次期大統領をめぐるっては、先述のようにロウハニ再選の方向の流れがありますが、高齢の最高指導者ハメネイ師についても、“次期”が取り沙汰されています。
下記記事によれば、次期最高指導者には、上記記事にある「死の委員会」のメンバーでもあった、強硬派イブラヒム・ライシなる人物が有力視されているそうです。
****イランの次期大統領候補も仲間とは言えない****
(筆者注:内容的に“次期最高指導者候補”の間違いではないかと思われますが、原文のまま)
米外交問題評議会のレイ・タキー上席研究員が、9月26日付ワシントン・ポスト紙に、「イランの次の最高指導者になりそうな人は西側の友人ではない」との論説を書き、イランの次の指導者と目されているイブラヒム・ライシの経歴などを紹介しています。論旨、次の通り。
最も反動的な人物
イランが実利的になることへの最大の障害は最高指導者ハメネイであると言われてきた。(中略)
しかし、ハメネイと革命防衛隊が最高指導者になるように育てている人イブラヒム・ライシは、イランの支配エリートの中でも最も反動的な人物の一人である。
ライシは56歳で、ハメネイ同様、マシュハード市出身である。神学校に行った後、彼は検事総長、一般監察当局の長、聖職者特別法廷(聖職者を公式見解から逸脱しないようにする機関)の検事など、法執行部門で働いた。彼は1988年、でっち上げの容疑で数千の政治犯を処刑した「死の委員会」の一員であった。
最高指導者は尊敬される聖職者がなるものと考えられてきたが、ハメネイは宗教面では冴えない経歴しかなかった。それで、そうでもない人が最高指導者になる道を開いた。
ライシの経歴は、反政府派弾圧を使命とする革命防衛隊の好みに合う。革命防衛隊の司令官は最近、イランの政権への脅威は外部の圧力より国内での反乱にあると述べた。ハメネイの理想的な後継者は革命防衛隊と同じ見方を持ち、治安・司法当局と緊密な関係を持つ人ということになる。革命防衛隊はそういう人としてライシを支持している。(中略)
ハメネイと革命防衛隊にとり、最重要問題は政権の生き残りではなく革命の価値である。彼らはイランを中国――イデオロギーを捨て、商業利益を重視した――にしないと決心している。
2009年春の反乱は、いまや米では忘れられているが、イランの神政政治擁護者にとり分水嶺的出来事であった。ハメネイの下、イランは警察国家になった。その論理的帰結として、イランの抑圧機関からの人が最高指導者になろうとしている。
正式には専門家会議が次の指導者を選ぶが、現実には決定は今裏で行われている。
ロウハニ大統領は穏健政権への希望であるが、この権力劇には関係がない。ハメネイなどは、次の指導者は不安な時期に権力の座につくと考えている。この指導者は西側への軽蔑心を持ち、政権のために流血もいとわない人であるべきである。神政政治の抑圧を信じるとともに、その機構の一部であったライシほどそういう属性を持つ人はいない。(後略)【10月28日 WEDGE】
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ハメネイ師は1939年生まれで77歳、健康状態が悪いという話は時にはありませんので、まだまだ・・・という感じもありますが、専門家会議の選挙でも“次期最高指導者の決定に関与する”という点が注目されていました。
【「神政政治」と異質視することの弊害】
イブラヒム・ライシなる人物については全く知りませんし、次期最高指導者に関する動きも知りません。
ただ、“ハメネイと革命防衛隊にとり、最重要問題は政権の生き残りではなく革命の価値である”として、イランの「神政政治」の面を強調する上記論調には違和感もあります。
イラン政治は国民の“民意”に左右され、穏健派・強硬派ともに“民意”を自分の側に引き寄せようと争っているという点で、欧米のそれと似通っているとも言え、「神政政治」というほどの仰々しいものではもはやないように思えます。
ハメネイ師の最重要問題は政治的バランスであり、強硬派と言われる革命防衛隊の最重要問題はイラン経済の中核をなす経済的既得権益ではないでしょうか?「革命の価値」も、そうした既得権益を守るために都合よく利用される面があるようにも思えます。
「神政政治」という異質なものとしてとらえると、話し合いの余地もなくなりますが、穏健派にしろ強硬派にしろ現実的利害を重視しているという観点から見れば、そこには交渉の余地が生じてきます。