孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北方領土問題  「2島先行返還」で動き出す交渉 シベリア鉄道の北海道延伸も

2016-10-04 23:05:35 | ロシア

(2011年当時の「飯島プラン」【http://blog.goo.ne.jp/withmac/e/e56fbf7d98b3de11a0a0e8674c85cc81】)

安倍首相 12月の地元・山口県でのプーチン大統領との会談で、領土問題を含む平和条約締結に道筋をつけたい考え
「4島返還」という枠組みに縛られて身動きがとれない北方領土問題について、安倍首相が歯舞群島、色丹島の「2島先行返還」の線でロシアと交渉にあたる方針を固めたとも報じられています。

****北方領土、2島返還が最低限・・・・対露交渉で条件****
政府は、ロシアとの北方領土問題の交渉で、歯舞群島、色丹島の2島引き渡しを最低条件とする方針を固めた。
平和条約締結の際、択捉、国後両島を含めた「4島の帰属」問題の解決を前提としない方向で検討している。

安倍首相は11月にペルー、12月には地元・山口県でロシアのプーチン大統領と会談する。こうした方針でトップ交渉に臨み、領土問題を含む平和条約締結に道筋をつけたい考えだ。
複数の政府関係者が明らかにした。

択捉、国後については日本に帰属するとの立場を堅持する。その上で、平和条約締結後の継続協議とし、自由訪問や共同経済活動などを行いながら、最終的な返還につなげる案などが浮上している。【9月23日 読売】
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安倍政権としては「2島先行返還」の成果を掲げて解散総選挙に打って出る・・・という思惑とも。

ロシア側は少なくとも国後・択捉を返還する意思は毛頭ないでしょう。
ソ連崩壊の混乱・経済苦境の時代はロシア政府からも放置されたような両島の住民生活は不便・困窮を極め、島民には日本への一定の期待もありましたが、近年はロシアも両島の開発に力を入れ始め、それに伴い住民生活も安定し、日本への期待も薄れています。

更に、最近では軍事的にもこの地域を活用する流れとなっています。

****ロシア軍基地建設で北方領土外す? 建設候補地は千島列島中部の松輪島、択捉・国後では駐屯地建設****
ロシアのショイグ国防相が3月末、北方領土の択捉、国後島を含む「大クリール諸島」での海軍基地建設計画を表明した問題で、ロシア軍幹部は27日、建設候補地に千島列島中部のマトゥア島(松輪島)が挙げられていると明らかにした。ロシア国営テレビが報じた。

北方領土以外の土地を候補とすることで、日本に一定の配慮を示した可能性がある。(中略)
 
ロシアは2020年までの国家安全保障戦略で北極圏での権益維持を重視する方針を打ち出しており、新基地建設は北極圏と北東アジアを結ぶシーレーン防衛の一環とみられている。

一方、露は北方領土の択捉、国後島には3500人規模の部隊を駐留させ、新たな駐屯地建設も進めている。【5月27日 産経】
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北方領土以外の土地を候補としたのは、日本への配慮というより純粋に軍事的観点からではないでしょうか。
それよりは、国後・択捉でも軍事利用が進むことの方が重要でしょう。

一方、歯舞・色丹については1956年の日ソ共同宣言において(歯舞群島と色丹島の)2島を返還すると明記されており、ロシア側もこれに配慮する交渉基盤があります。

面積も小さく(両島で4島の7%)、生活するロシア住民も少ない(歯舞は国境警備隊員が少数駐屯するだけ。色丹は94年の地震によって缶詰工場が被災して人口が激減し、総務庁資料では97年当時で2300人とされています。随分古い数字で、現状はよく知りません。)という国後・択捉とは異なる事情もあります。

こうした事情もあって、プーチン大統領自身も歯舞・色丹については交渉の余地を示唆しています。

****2島返還論を主張=制裁下でも対日関係発展-ロシア大統領****
タス通信によると、ロシアのプーチン大統領は5日、中国・杭州で記者団に対し、北方領土問題について「ソ連は長く粘り強い交渉の結果、1956年に日ソ共同宣言に署名した。そこには(歯舞群島と色丹島の)2島を返還すると書いてある」と述べ、明記されていない国後島と択捉島は領土交渉の対象外との考えを示した。また、歯舞群島と色丹島に関し、返還方法やどの国の主権に属するかが検討課題と強調した。
 
大統領はこれまでも、日ソ共同宣言に沿った2島返還による最終解決を唱えてきた。安倍晋三首相が5月のソチ会談で領土問題の解決に向けた「新しいアプローチ」を提案後、大統領が2島返還論を公言するのは初めてとみられる。
 
一方で大統領は、ウクライナをめぐる対ロシア制裁にかかわらず、日ロ関係は発展するとの認識を表明。領土問題の解決に向けて良好な環境を整えることが「極めて重要だ」と訴えた。
 
プーチン政権はこれまで、制裁を「非友好的」と問題視してきた。ロシアによるウクライナ南部クリミア半島編入が続く限り、制裁の完全解除は難しいが、大統領は「(日本のウクライナ問題に対する立場は)日ロ関係を阻害しない」と述べた。【9月6日 時事】
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また、プーチン大統領はG20首脳会議閉幕後の会見で「ソ連時代に北方4島のうち2島を返還する用意があったが日本が拒んだため、未解決のまま今に至っている」とも発言しています。【9月5日 ロイターより】

【「2島」で最終決着にしたいロシア
日本側には「北方4島は日本固有の領土」という立場がありますが、そもそも「領土」に関する概念が日ロでは異なるとも。

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はたしてロシアは、4島を返還する気があるのか? 私は26年間モスクワに住んでいますが、「返す気は全然ない」と思います。なぜか?

そもそもロシアには、「固有の領土」という概念がないからです。では、どういう概念なのか?
「領土は、戦争によってコロコロ変わる」という概念。

ロシアの起源は、9世紀にできたキエフ大公国にあります。この国は、モンゴルに滅ぼされました。その後、モスクワ大公国、ロシア・ツァーリ国、ロシア帝国と変化を経ながら、領土をどんどん拡大し、極東まで到達した。

つまり、ロシアの起源はもともとキエフからはじまり、征服して征服して、世界一の大帝国になった。「ロシアの固有の領土はどこですか?」といわれたら、今の100分の1とか、1,000分の1になってしまうでしょう。【10月4日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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私個人も「領土」関しては、「固有の領土」に懐疑的なロシア同様の考えを持っています。
侵略や戦争などを含めた過去の経緯で「取ったり、取られたり」してきたのが領土であり、それ以上でも以下でもないと考えています。日本だって時代を遡れば、沖縄や北海道が「日本固有の領土」なのか怪しいものです。

日本が「4島」にこだわる限り、ロシアと戦争でもしないかぎり返還はないでしょう。

お互いに利害が反し、主張が異なる外交問題では妥協・譲歩が必要です。エリツィン時代のロシア混乱期ならもっと日本に有利な妥協も可能だったでしょうが、今となっては「2島」あたりが現実的な線ではないでしょうか。

以前もブログで書いたかと思いますが、「永久に返還されなくてもかまわない。固有の領土たる4島を主張し続けることに意義がある」という立場なら、それはそれで。なんだか自己満足のようにも思えますが。

もっとも、「2島」にしても、日本は「2島先行返還」という形で、国後・択捉に関する主権の主張も残したいのに対し、ロシアは「2島」返還で「最終的かつ不可逆的に」解決されたという形にしたいところでしょう。
個人的にはそれでもいいと考えます。領土問題をすっきりさせて、国後・択捉については自由に墓参でも観光でもビジネスでも行き来ができるようになり、平和条約が締結されてロシアとの関係も安定するのであれば。

ただ、日本の国内世論・政治状況を考えると、政府としてはあくまでも「先行返還」という形にこだわりたいところでしょう。

ロシアにすれば、いつまでも北方4島を主張してやまない日本は、慰安婦問題での韓国のようにも見えるのかも。
どのように折り合いをつけるのか・・・。

シベリア鉄道の北海道延伸は「シベリア鉄道を日本の貨物で満載することにつながる」】
更に言えば、ロシア側すれば、たとえ「2島」であったにしても、返還する必要もないものを返してやるのだから、それ相応の見返りを・・・という話にもなるでしょう。

そうした“見返り”というか、対ロシア経済協力のひとつとして、シベリア鉄道の北海道延伸の話が出ているようです。

****ロシアがシベリア鉄道「北海道延伸」のビックリ提案 12月、首脳会談へ****
安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が12月に行う日露首脳会談で、北方領土交渉が動く可能性が出てきた。ロシアの国民感情を軟化させる対露経済協力で、具体的な内容が提案されているのだ。

ロシア側からは、シベリア鉄道を北海道まで延伸する驚きの提案まで飛び出した。戦後71年、日露の平和条約締結交渉は進展するのか。

「プーチン氏と14回会談を重ね、信頼関係を構築してきた。この問題を解決していくことが、日露の未来にとって正しい判断であり、両国の可能性を顕在化していくために必要だ」

安倍首相は3日午前の衆院予算委員会で、民進党の前原誠司元外相から日露首脳会談への姿勢を問われ、こう強調した。

日本政府は、安倍首相の地元・山口県で12月に行う日露首脳会談で、北方領土問題を含む平和条約締結交渉を前進させるため、極東の産業振興やエネルギー開発など8項目の対露経済協力の検討を加速している。

ロシア側も提案しているが、この中に「シベリア鉄道の北海道延伸論」が含まれていた。

シベリア鉄道は、モスクワと極東ウラジオストクを結ぶ、全長約9300キロの鉄道だ。シベリア南部を東西に横断しており、「世界最長の鉄道」といわれる。

延伸論は、サハリン(樺太)間の間宮海峡(約7キロ)と、サハリンから北海道・稚内間の宗谷海峡(42キロ)に橋またはトンネルを建設する構想で、実現すれば日本からモスクワを経て欧州を陸路で結ぶ。物流や観光などの活性化につながるとして期待の声もある。

プーチン氏も「シベリア鉄道を日本の貨物で満載することにつながる」と期待感を示す。ただ、日本とロシアが地続きとなる安全保障上の問題を懸念する向きもある。

日露経済協力をめぐっては、杉山晋輔外務事務次官が今月中に訪露して次官協議を開催する方向。世耕弘成ロシア経済分野協力担当相も11月前半の訪露を調整している。同月には、プーチン氏が信頼するシュワロフ第1副首相が来日する。

安倍首相とプーチン氏は「ウラジーミル」「シンゾウ」と呼び合うなど信頼関係を築いてきた。日露は年末動きそうだ。【10月4日 zakzak】
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ロシアとの関係に深入りすることや石油・ガスなど資源をロシアに依存することなどに関しては警戒論もありりますし、現実問題としてはロシア関連の事業は政治的に左右されやすいことや腐敗・汚職の問題などで困難な側面もあります。

ただ、中国とロシアの海軍が南シナ海で合同軍事演習を行うなど、中国がロシアを巻き込んでアメリカ・日本への圧力を強めるという国際情勢にあっては、日本としてもロシアに関与して中ロ関係にくさびを打ち込む形で中国をけん制する方が、安全保障上ベターではないでしょうか。別に中国との対決姿勢を煽る意図は毛頭ありませんが。

そういう国際情勢の話は別にしても、広大な隣国にチャンスを求めることは日本経済にとって非常に有意義なことでしょう(「満蒙は日本の生命線」とは言いませんが)。
ロシアには腐るほどの土地があります。シベリアの人口が減少するロシアとしても開発の担い手を探しています。

シベリア鉄道について言えば、壮大でいいですね。島国の人間としては、シルクロードとかシベリア鉄道といった壮大なものにはロマンを感じます。

経済的にも、陸路で欧州に直結することにもなります。(現状では、実際の輸送手段としてのシベリア鉄道は効率が悪く厄介なようですが)

小泉元首相の元秘書官の飯島 勲氏が2011年に“プーチンも了承「シベリア鉄道北海道延伸」私案”として雑誌発表もしています。(飯島氏の発案かどうかは知りません)

延伸の話はもともと朝鮮半島にあったそうで、韓国には日本に持って行かれた・・・という声もあるようです。

****韓国が取り残される?シベリア鉄道の北海道延伸案に韓国から懸念の声****
2016年10月3日、ロシアが日本との経済協力の一環としてシベリア鉄道を北海道まで延伸する計画を日本側に提案していることが分かった。韓国・京郷新聞などによると、韓国ではこの計画について、欧州と日本が鉄道でつながることで韓国が「島」のように取り残されかねないと懸念の声が上がっているという。

シベリア鉄道は、ロシア・モスクワとウラジオストクを結ぶ9297キロに及ぶ世界最長の鉄道だ。ロシアは、この鉄道を朝鮮半島に延伸し、韓国南東端の釜山とウラジオストクを結ぶ朝鮮半島縦断鉄道(TKR)の建設計画を進めてきており、韓露両国は08年の首脳会談を経て戦略的協力関係を築いていた。しかし、北朝鮮による核開発やそれに伴う南北関係の悪化から、TKR建設事業は進展がみえないまま時が過ぎてしまった。

こうした状況から韓国メディアは、ロシアによる今回の北海道延伸計画について、「韓露の経済協力が足踏み状態の中、ロシアがシベリア鉄道の延伸パートナーとして韓国ではなく日本を選んだことを示す兆候」と懸念を含んだ論調で伝えている。

韓国のネット上などでは、日本を大陸ではない「島国」とやゆする言い方がたびたび使われる。そのためか京郷新聞はこのニュースに「島になった朝鮮半島」との見出しを付けて伝え、ネットユーザーからも「島国」に言及したコメントが多数寄せられた。(後略)【10月4日 Record china】
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不快感を示すと思われるアメリカ
国際情勢の面で見ると、日本が北方領土問題でロシアに接近することに関しては、ウクライナ問題でロシア制裁を続けるアメリカは不快感を隠さないでしょう。

特に最近は、シリア問題でアメリカはロシアとの停戦交渉を打ち切り、一方ロシアは「アメリカは責務を果たしていない」として、米露の核軍縮合意により生じた余剰プルトニウムの処分に関するアメリカとの合意を停止する大統領令を発令する・・・というように、米ロ関係は険悪化していますので、そうした中でのロシア接近にはいい顔をしないでしょう。

もちろんロシアに接近するとは言っても、北方領土問題や中国牽制、あるいは経済問題の話であって、日本の安全保障の基軸がアメリカとの協調にあるのは変わりありませんので、そこらの説得は政治家のお仕事でしょう。

ロシア国内世論 42%が交渉の余地あり?】
ロシア国内の北方4島に関する意識については、以下のようにも。

****北方四島、ロシア人の53%「ロシアに帰属****
2016年9月7日、ロシアでの最近の世論調査で、日露間で交渉が行われている国後・択捉・色丹・歯舞の北方四島の帰属について、53%が「ロシアに帰属する」と答えたことが分かった。環球網が伝えた。

ロシアの通信社スプートニクが伝えたもので、日本の在ロシア大使館が今年3月、ロシアの民間調査会社、全ロシア世論調査研究センターに委託して実施した調査によると、北方四島について、53%がロシアに帰属しこれからもそれは変わらないと答えた。帰属について双方が交渉を継続し合意を図るべきだと答えた人は42%だった。


日本との関係については、80%が友好的だと答え、反対の立場を示した人は16%だった。

日本との協力を強化すべき分野についての問いでは、90%が「科学技術」、79%が「貿易・投資」、74%が「外交・安全」を挙げた。

日本からの軍事脅威については、存在しないと答えた人が58%で、反対の立場は37%だった。【9月7日 Record china】
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8割ぐらいがが交渉の余地なしと考えていると思っていましたが、帰属について双方が交渉を継続し合意を図るべきだと答えた人が42%もいたというのが意外でした。
日本の在ロシア大使館が依頼した調査ということで、何らかの誘導・作為があったのでは・・・とも思えるほどです。信頼できる調査なのでしょうか?「返還」という文言を表に出していない質問形式がミソなのでしょう。

こうした数字が本当ならプーチン大統領も動きやすいでしょうが、下記の方が実態に近いのでは。

****返還反対78%に低下=北方領土でロシア世論調査****
ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターは5日、北方領土の日本への返還にロシア人の78%が反対、7%が賛成しているという調査結果を発表した。反対が70%台に下がったのは、プーチン政権下で初めてとみられる。
 
北方領土をロシアの国家元首として初訪問したメドベージェフ前大統領時代の2011年は反対90%、賛成4%で、ロシア世論に一定の軟化が見られる。調査は今年5月、800人を対象に実施された。【8月5日 時事】
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まあ、それでも“一定の軟化が見られる”ということで・・・・。
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