孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタンの今後に関心がないトランプ大統領の対タリバン和平協議再開

2019-12-02 23:15:35 | アフガン・パキスタン

(感謝祭に合わせアフガニスタン米軍基地を訪問したトランプ大統領【11月29日 BBC】)

 

【忘れられた大統領選挙】

実を言えば下記記事を見るまで私はすっかり忘れていましたが、アフガニスタンでは9月28日に大統領選挙があったのですが、いまだにその結果が明らかになっていません。

 

*****アフガニスタン大統領選、投票から2か月過ぎても当選者決まらず****

アフガニスタン大統領選は、9月28日の投票から2か月が過ぎても当選者が決まらない事態となっている。

主要候補の陣営が、現職アシュラフ・ガニ大統領(70)陣営の不正投票への関与疑惑を指摘し、集計作業を阻止しているためだ。

 

米国のトランプ大統領は11月28日に旧支配勢力タリバンとの和平協議再開を宣言したが、政治の混乱が和平の先行きに影を落としている。

 

不正を訴えているのは、首相に相当する行政長官のアブドラ・アブドラ氏(59)陣営で、ガニ陣営が選挙管理委員会と協力して票の水増しなどを行った疑いがあるとしている。

 

大統領選には18人が立候補し、選管は当初、11月上旬に開票結果を発表する予定だった。だが、アブドラ陣営が票の集計に必要な立会人を引き上げたため、集計できない状況になった。選管は、結果発表日を「未定」としている。

 

アブドラ陣営は、29日には首都カブールで数千人規模のデモ行進を行い、投票の一部無効を訴えた。

 

アフガンでは2014年の大統領選でも、不正疑惑などにより、第1回投票からガニ氏の当選決定まで5か月以上がかかった。

 

国連や日米欧は、和平には米政府とタリバンの協議だけでなく、アフガン政府とタリバン、市民団体などによる「アフガン人同士の対話」が重要だとの立場だ。国連筋は「大統領選が終わるまでは、彼らがひざを交えて国の未来を語ることは難しい」と話している。【11月30日 読売】

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この大統領選挙はタリバンの妨害のなかで行われましたが、投票率は3割を下回るような状態で、アフガニスタン政府の弱体化・混迷、国民の期待の薄さを表すものともなっていました。

 

*****アフガン大統領選 投票者数は過去最低****

アフガニスタン大統領選(9月28日投票)で、選挙管理委員会は4日までに、投票者数が約260万人だったとする暫定結果を発表した。2014年の前回選挙を大幅に下回り、大統領選で過去最低になる見通し。

 

イスラム原理主義勢力タリバンによるテロを警戒して投票を回避する動きが出たことや、和平を実現できない政府への期待感が薄いことが背景にある。

 

選管は「数字は今後変動する可能性がある」と説明するが、2014年大統領選(第1回投票)の約660万人、09年の約460万人を大幅に下回ることは確実だ。今回の大統領選の登録有権者は約960万人で、投票率は単純計算で30%を切ることになる。

 

タリバンは大統領選について「民衆を欺くものだ」と反発し、選挙の妨害を明言。投票当日には政府施設や投票所などを攻撃し、全国で計29人が死亡、100人以上が負傷した。

 

ガニ大統領は選挙の確実な実施と自らの再選を通じて、政権の求心力を高めたい思惑があった。ただ、これまでアフガン政府は米国とタリバンとの和平交渉に関与すらできておらず、平和を望む国民からの期待感は高くない。

「人々は選挙が平和をもたらさないことを知っている」とは、アフガン政治評論家のモハメド・ハキヤール氏の言葉だ。また、公務員の収賄が横行するなど、政府には腐敗のイメージも強い。

 

選挙戦には18人が立候補したが、事実上はガニ氏と政権ナンバー2のアブドラ行政長官の一騎打ちとなった。14年の大統領選と構図は同じで、新鮮味に欠けたという面もある。

 

選管は10月19日に暫定の選挙結果を発表する見通し。過半数に達した候補がいない場合は、上位2候補の決選投票が行われる。【10月4日 産経】

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このまま“うやむや”になってしまえば、命がけで投票した人々、死者29人負傷者100人以上という犠牲者はいったい何だったのか?という話にもなります。

 

選挙結果が示されれば、負けたとされた側が、前回選挙同様に激しい抗議行動を行い、混乱が続くのでしょう。

(アブドラ行政長官は選挙直後の選管発表がない段階で早くも勝利宣言を行っていますが、ガニ現大統領に近いとされる選挙管理委員会が今後ガニ氏勝利を発表しても、アブドラ氏はそれを認めないでしょう)

 

【米・タリバン交渉再開】

こうしたアフガニスタン政府の現状を見るにつけ、アメリカとしても「アフガニスタン政府に期待しても多くは望めない。アフガニスタンから抜け出るためにはタリバンとの直接交渉しかない」ということになるでしょう。

 

アメリカは、タリバンとの直接交渉を断続的に進めています。

 

前回、アメリカ政府はタリバンに加えてアフガニスタン政府幹部と米大統領山荘キャンプデービッドで三者会談を開く予定でしたが、直前の9月5日に自動車爆弾を使ったタリバンの攻撃で米兵が死亡したことを受け、トランプ大統領は9月7日に会談をキャンセル。 和平協議について「死んだ。私がみる限り、死んだ」と述べていました。

 

ただ、トランプ大統領としては何とかアフガニスタン撤退を実現して、再選に向けた「成果」としたいところで、その後も水面下の交渉は再開し、再び協議再開の機運が高まっています。

 

****トランプ氏、アフガン電撃訪問 タリバンとの協議再開を公表****

ドナルド・トランプ米大統領は28日、予告なしにアフガニスタンの米軍基地を訪れ、アメリカは反政府武装勢力タリバンとの和平協議を進めていると明らかにした。

 

首都カブールのバグラム空軍基地を訪れたトランプ氏は、「タリバンが取引を望んでいる」と説明した。アメリカとタリバンは協議再開の地ならしとして、捕虜を交換したばかりだった。(中略)

 

「うまくいくだろう」

トランプ氏は空軍基地で、タリバンとの和平協議再開について、「彼ら(タリバン)と会い、停戦が必要だと伝えたが、彼らは停戦を望まないと言った。しかし彼らはいま、停戦したいと言っている」と説明。「その方向でうまくいくだろうと信じている」と述べた。

 

アメリカとタリバンの交渉が、どれほど中身があるのかは不明だ。

 

4000人以上削減の計画

トランプ氏はまた、アフガニスタン駐留米兵の「大幅な」削減も表明した。

 

アフガニスタンには現在、約1万3000人の米兵が駐留している。2001年9月11日の米同時多発襲撃事件を受け、タリバン追放のためにアフガニスタンへの駐留を始めてから、18年が経過している。

 

トランプ氏はこの日、駐留米兵を8600人ほどに減らす計画に改めて言及。しかし、どれだけの人数がいつ撤退するのかは明らかにしなかった。

 

「合意に達するか完全な勝利を収めるかして、彼らが取引の必要に迫られるまで、米軍は駐留を続ける」と述べた。

 

捕虜を交換

アメリカとタリバンの捕虜交換は、数週間前に行われた。

アメリカはタリバンの幹部戦闘員3人を解放。これに対しタリバンは、2016年から拘束していたアメリカ人ケヴィン・キング氏とオーストラリア人ティモシー・ウィークス氏の2人の学者を解放した。

 

アメリカとタリバンの和平協議は9月、トランプ氏がタリバーン幹部とガニ氏をワシントン郊外にある大統領専用のキャンプデービッド山荘に招いた直後に中止となった。

 

協議開催の2日前には、タリバンによるテロで米兵1人と市民ら11人が殺害され、トランプ氏が急きょ中止を決めた。

 

国内政治を意識か

アフガニスタン側はしばらく前からタリバンとの停戦を求めてきたが、タリバンはアメリカと合意を結ぶのが先だとして、アフガニスタンとの直接交渉を拒んできた。タリバンは現在、2001年以降で最も広い地域を制圧している。

 

ロイター通信によると、タリバン幹部が米政府高官と先週末からドーハで会談していることを認めた。ただ、正式な交渉は再開されていないという。

 

BBCのクリス・バクラー北米特派員は、今回のトランプ氏の訪問は、同氏がアフガニスタンに興味をもっていることを示すものではなく、去年のクリスマス時期のイラク訪問と同様、国内政治を意識したものだと解説。

 

海外駐留の米兵との団結を示すことは、大統領にとって、国内で支持を得る上で重要だと述べた。【11月29日 BBC】

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和平協議再開については、タリバン側も明らかにしています。

 

****タリバン「ドーハで米代表と会談」和平交渉の再開を明らかに****

アフガニスタンの和平をめぐるアメリカとの交渉について、反政府武装勢力タリバンの幹部は、NHKの取材に対し、今月上旬に、タリバンの政治事務所がある中東のカタールでアメリカ側の代表と会談を行い、和平交渉を再開したことを明らかにしました。(中略)

 

アメリカ側との交渉に関わってきたタリバンの複数の幹部は、NHKの取材に対し、「われわれの政治事務所があるカタールのドーハで、今月上旬、アメリカ側の交渉担当者と協議した」と述べ、トランプ政権でタリバンとの協議を担当するハリルザド特別代表らと会談したことを明らかにしました。

そのうえで、「会談では、アフガニスタン国内で起きるテロによる暴力の削減や、アメリカ軍との停戦の進め方、それに、タリバンの戦闘員の釈放を含む人質の交換について集中的に協議した」と述べ、ことし9月に中止されたアメリカ側との交渉を再開したことを明らかにしました。

アフガニスタンでは、今月、タリバンが、拘束していたアメリカ人などを解放したのと引き換えに、タリバンの幹部3人が釈放されていて、アメリカとタリバンによる和平交渉が再開するのではないかと注目されていました。

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幹部3人の釈放と引き換えに、タリバンが拘束されていたアメリカ人とオーストラリア人の人質2人を解放したのは、アフガニスタン政府とタリバンによる捕虜釈放と人質解放に関する合意の一環であり、ポンペオ米国務長官は、アフガニスタン政府とタリバンの合意について「アフガンの戦争が近く政治的解決を迎えるかもしれないという、希望を抱かせる兆候だ」と指摘しています。

 

【トランプ大統領がタリバンとのアフガニスタン撤退交渉でリスクを冒す可能性】

和平協議の今後については、以下のようにも。

 

****トランプが抱えるアフガニスタン撤退のジレンマ****

(中略)

トランプは早期の部分撤退を欲してきた。2020年の大統領選挙の前には完全撤退を目指している。従って、タリバンとの合意の完成を急がせていた。この動機に変化があるとは思われない。ということは、タリバンとの交渉を再開する可能性は十分あり得るのではないだろうか。

 

仮に、タリバンと交渉が再開されるとして、合意が米国にとって受諾可能なものであるためには、少なくとも二つの条件が充たされる必要があろう。

 

一つは、合意において、タリバンは、アルカイダと絶縁し、アフガニスタンをISなど国際テロ組織のプラットフォームにしないことを保証するようであるが、タリバンにその能力がある筈もなく保証を信用する訳にも行かない。

 

ここは、米軍のテロ対策の部隊の残留とバグラムおよびカンダハールの空軍基地へのアクセスを確保することが必要になろう。

 

もう一つは、タリバンとアフガニスタン政府の和解を米軍の最終的な撤退の条件とすることである。

 

第一弾として、トランプは、1万4000人のうち、4000ないし5000人を撤兵することを主張してきたが、これは2017年のトランプ就任の時点の規模に戻るだけであるので、問題は少ないかもしれない。

 

しかし、最終的な撤退は別である。このような条件を付したとしても、将来を担保は出来ないが、少なくとも両者の合意が成らないままアフガニスタン政府を見捨てることは米国としては無責任のそしりは免れないであろう。(中略)

 

しかし、アフガンにおいて民主的で統一された政治制度や女性の基本的人権の保護のための体制を作ることは、米国の視野からはとうに失せているように思われる。

 

トランプがタリバンとのアフガニスタン撤退交渉でリスクを冒す可能性は依然としてくすぶり続けていると言えよう。【9月10日 WEDGE】

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“少なくとも二つの条件が充たされる必要”とは言うものの、何らかの合意をして米軍が撤退してしまえば、その後にタリバンが合意内容を実質的に覆すような動きに出たとしても、シリア撤退のために同盟勢力のクルド人を“見捨てた”トランプ政権が、大統領選挙も満足に行えないアフガニスタン政府救済のために米軍を再びアフガニスタンに戻すことなない・・・・と、タリバン側も考えているでしょうから、とりあえずの米軍撤退の理由付けになるような合意を結ぶこと自体は、タリバンにとってはそう難しい話ではないのでは・・・。

 

“アフガンにおいて民主的で統一された政治制度や女性の基本的人権の保護のための体制を作ることは、米国の視野からはとうに失せている”状況で、ましてやアフガニスタンのその後に関心などないトランプ大統領ですから、“後は野となれ山となれ”であったにしても、何らかの合意を再選に間に合う形で演出することは十分に感がられるところです。

 

タリバンとは別に、アフガニスタンで戦闘を行っていたISも求心力を失いつつあるようですから、和平協議にとっては追い風でしょう。

 

****アフガンIS、投降相次ぎ千人超 指導者死亡で組織弱体か****

アフガニスタンで活動する過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員や家族が相次いで政府に投降し、地元メディアによると、1日までの1カ月間で千人を超えた。

 

専門家は政府の掃討作戦強化が奏功したことに加え、10月に指導者のバグダディ容疑者が死亡したことで、組織が弱体化したためと指摘している。

 

特に投降が相次いでいるのはISの一大拠点とされる東部ナンガルハル州。ガニ大統領は11月中旬、「1年前なら誰も信じなかっただろう」と述べて同州でのIS壊滅を宣言し、州当局や治安部隊の健闘をたたえた。【12月2日 共同】

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本来歓迎すべき和平協議合意ですが、トランプ大統領の再選に向けた「成果」づくりのための“後は野となれ山となれ”的な合意も予想される状況で、もうひとつ素直に喜べないところも。

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