(【アピステコラム】)
【加速する北極の変化 中緯度地域の干ばつ、洪水、熱波などの異常気象を誘発する可能性】
スペイン・マドリードで国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)が開催中ということで、温暖化に関する記事を多く目にします。その中からいくつか。
世界の気温については、2℃上昇を防げるかどうかが議論になっていますが、地球全体が2℃上昇する時、より敏感に反応する北極では4℃上昇して世界の気象に多大な影響を与えることになる・・・という論文が出されています。
****北極は数十年で4℃上昇、温暖化は加速モードに*****
(中略)世界の気温が2℃上昇したとき、北極と南極はどうなっているのかを報告する新たな論文が、12月4日付けで学術誌「Science Advances」に発表された。それによると、すでに北極は温暖化した世界を先取りしており、近いうちに誰もがその影響を目にすることになるという。
「緩和措置を直ちにとらなければ、今後20〜40年で、北極が加速度的に温暖化する段階に入るでしょう」と論文の著者であるポスト氏は警告する。論文は、複数の国から幅広い分野の科学者が共著者に名を連ね、両極の温暖化が現在と未来に及ぼす影響を検証する内容だ。
温暖化を先取りする北極
北極では、地球上のどこよりも速く温暖化が進んでいる。この10年だけで北極の気温は1℃上昇した。論文によると、温室効果ガスの排出がこのままのペースで続けば、北極地方の気温は今世紀半ばに年平均で4℃高くなる。特に秋は最も変化が大きく、気温は7℃上昇するという。
同じ頃に地球全体の平均気温は2℃上昇するとみられているが、これは悲惨な影響が生じるかどうかのしきい値とされることが多い。
すでに北極地方では、先例のない変化がいくつも起きている。陸と海での氷の大規模な減少や、永久凍土の融解、森林火災、季節外れの嵐、春の訪れの早まりなどだ。
今年の夏の海氷面積は、人工衛星による観測が始まった1979年以降で2番目の小ささとなった。また、7月の暑さで、グリーンランドの氷床から数十億トンの氷が解けた。森林火災はアラスカからシベリアにかけて数百万ヘクタールを焼き尽くした。
「近年の北極地方の温暖化は、すでに広い範囲に明らかな影響を及ぼしていますが、さらに温暖化が加速した状況ではこんなものでは済まないのです」とポスト氏は言う。
北極でも南極でも、数々の憂慮すべき変化が生じている。しかし、変化が格段に速いのは北極だ。近い将来、北極の温暖化の影響が高緯度地域にとどまらず、はるかに広い範囲で感じられるようになると論文は警告している。
予想以上に速いペースで海氷が消えている
科学者たちが特に心配しているのは、北極の海氷が失われることだ。夏の海氷は、過去40年にわたって10年ごとに10%を超えるペースで縮小している。温室効果ガスの排出ペースがこのまま続けば20〜25年以内に消滅すると予想されており、もっと早い時期を予想する研究者もいる。
論文の共著者で、カナダ、マニトバ大学と米国立雪氷データセンターの極域リモートセンシングの専門家ジュリエンヌ・ストローブ氏は、北極の温暖化により、夏の海氷の縮小はしきい値を超えてしまった可能性があると考えている。
「人々が二酸化炭素の排出量を削減して温暖化に歯止めをかけようとしている中でこんなことを言うのは危険なのですが……夏の北極海から海氷がなくなるのは現実になりそうです」
ストローブ氏による最近の研究では、北極海の海氷が、現行のほとんどの気候モデルが予測するより速く縮小していることが示唆されている。
海氷の縮小は悪循環を引き起こす。つまり、光を反射しやすい海氷が解けると、海面が熱を吸収しやすくなり、海水温が上昇することでさらに多くの海氷が解けるのだ。
北極海の海氷が解けると、北半球の中緯度地域に、干ばつ、洪水、熱波などの異常気象が増えるおそれがある。科学者の間でも議論があるが、いくつかの研究では、北極の温暖化によりジェット気流が弱まり、蛇行しやすくなることが示唆されている。そうなると、北極地方の冷たい空気が現在よりも南下し、暖かい空気が北に張り出すようになるという。
「北極の温暖化が加速すると、中緯度地域と高緯度地域の温度差が変化して、米国本土をはじめ北半球全体の天気に影響が及びます」と論文共著者である米ペンシルベニア州立大学の大気科学者マイケル・マン氏は説明する。
「中・高緯度地域の温度差はジェット気流を作り出しています。温度差が小さくなれば、ジェット気流は遅くなり、高気圧や低気圧が長期にわたって同じ場所にとどまるようになります」
マン氏によると、この現象は、今年の夏にヨーロッパを襲った猛暑や、近年、米国東部から中西部までを凍りつかせている北極からの強力な寒波と関連があるという。
永久凍土が解けて森林火災が激しくなる
海面上昇も心配されている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が9月に発表した報告書によると、北極圏の陸氷、特にグリーンランドを覆う広大な氷床は、現在の気候モデルの予想より速く解けていて、海面上昇は今世紀末に約1mという現行の予測をかなり上回る可能性があるという。
北極圏の永久凍土の融解も進んでおり、強力な温室効果ガスであるメタンを放出して大気中のメタン濃度を急上昇させ、温暖化に深刻な影響を与えている。
最近発表された別の研究では、永久凍土が融解した土壌が乾燥することで、北極地方の森林火災の激しさが年々増していくと予測されている。
北極ではすでに季節が狂いつつある。(中略)
今回の論文は「現在起きている変化と温室効果ガスの排出シナリオとの関係をしっかり評価できています」と米アラスカ大学フェアバンクス校の大気科学者ジョン・ウォルシュ氏は認める。なお氏は今回の論文には関わっていない。
「2℃の温暖化は排出量を極力少なくできた場合のシナリオですが、この論文は、その場合ですら北極がこれまでとは違った場所になってしまうことを指摘しています」
化石燃料の使用による排出量を減らすことで、北極の温度上昇の幅を小さくしたり、数十年遅らせたりすることができるかもしれないと著者らは主張する。
「ある意味、北極は私たちに語りかけているのです」とポスト氏は言う。「あとは、私たちがその声に耳を傾けるかどうかです」【12月10日 ナショナル ジオグラフィック】
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より身近なところでは、以下のような報告も。
****オホーツク海の流氷“今世紀末には消える可能性も”温暖化影響****
北海道の網走市などで見られる冬の風物詩、流氷が地球温暖化の影響で、今世紀末には消えて見られなくなる可能性があるとする調査結果をオホーツク流氷科学センターがまとめました。
ロシア沿岸部でできる流氷が気温の上昇で北海道まで南下しなくなるためで、研究グループは「流氷を見られなくなる日が予想以上に早いペースで近づいている」と指摘しています。(中略)
札幌管区気象台は、国連が発表した地球温暖化のデータなどをもとにオホーツク海側の冬から春にかけた平均気温をシミュレーションした結果、今世紀末には3度から最大で6度前後上昇する可能性があるとしています。(後略)【12月10日 NHK】
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【気候変動は食糧生産に影響することで、世界的規模での紛争・政治不安定化にも】
“北極海の海氷が解けると、北半球の中緯度地域に、干ばつ、洪水、熱波などの異常気象が増えるおそれがある”・・・・ということで、単に「気象が変化する」ということにとどまらず、世界の広い範囲で食糧生産や居住可能性に大きく影響してきます。
****気候変動が世界の食糧供給の脅威に 研究****
気候変動による異常気象が同時に複数の穀倉地帯を襲うと、世界の食料供給が脅かされると警告する研究結果が9日、英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジで発表された。
気候は重要な不確定要素だが、ある地域で穀物が不作だった場合、通常は別の地域の生産によって損失分が補われている。また、短期的な混乱には備蓄や貿易で対応している。だが、論文によると「現在の仕組みが、これまで以上の異常気象に耐えられるかは疑わしい」という。
オーストリアを拠点とする国際応用システム分析研究所の研究チームは、気候変動は気温を上昇させるだけではなく、干ばつ、熱波、洪水など深刻な異常気象をこれまで以上に発生させていると指摘する。
論文の筆頭執筆者であるIIASAのフランツィスカ・ガウプ氏は、気候が農業生産に打撃を与えると、食糧価格の急騰や飢饉(ききん)が発生し、政情不安や移住など他のシステムにまで危険が及ぶ可能性があると指摘する。
1967年〜2012年の気候と穀物生産量のデータは、特にコムギ、トウモロコシ、ダイズについて、世界の複数の穀倉地帯で不作が同時に発生する確率が著しく増加していることを示している。(中略)
さらに、ネイチャー・クライメート・チェンジ誌に同時掲載された関連論文は、世界の食料生産の最大4分の1を占める北米西部、欧州西部、ロシア西部、ウクライナで、ジェット気流の変化によって熱波が発生する危険性が急速に高まっていると警告している。
独ポツダム気候影響研究所の客員研究員カイ・コルンフーバー氏は、「今回の研究では、食糧システムにおける脆弱(ぜいじゃく)性を発見した。世界規模で風のパターンが固定化されると、世界の主要穀倉地帯で熱波が同時発生する危険性が20倍となる」と説明している。
また、共著者であるPIKのジョナサン・ドンジュ氏は「今後、異なる地域で同時に熱波が発生する頻度が増えるだけではなく、熱波の深刻さもはるかに増す」と指摘した。
「熱波の影響を直接的に受ける地域で食糧不足となるだけではなく、遠く離れた地域も食糧不足と価格高騰に見舞われる恐れがある」 【12月10日 AFP】AFPBB News
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食糧供給の不安定化、食糧価格の高騰は、脆弱な地域で政治の不安定化に直結し、地域的な紛争を誘発、より安定した国への膨大な難民の発生を惹起し、世界規模での混乱に・・・・といった事態も想定されます。
困ったことに、温暖化による北極などにおける変化は、変化の結果が更に変化を加速させる方向に働くという形で加速度的に進み、ある時点を超えるともはや止められない状況に陥ります。
一部の現象はすでにこの限界を超えたのでは・・・と危惧させるところもありますが、全体的なところでは、今はそうした「崖っぷち」に近づいている状況と思われています。
【“ステーキを毎日食べたい”小泉環境相が石炭火力の必要性について“丁寧な説明”】
そうした中にあって日本は「化石賞」を授与されるぐらいに評判がよくありません。
****石炭火力、日本が支援を継続 途上国の発電所新設、逆行批判も****
地球温暖化対策に逆行するとして批判が強い発展途上国の石炭火力発電所建設への国際援助を、日本政府が今後も続ける方針であることが9日、政府関係者の話で分かった。
スペイン・マドリードでの気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)では、石炭火力の廃止を求める声が高まっており、日本の公的援助にはさらに厳しい目が向けられそうだ。
政府は「インフラシステム輸出戦略」で「石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、要請があった場合は原則、世界最新鋭の発電設備について導入を支援する」と、条件付きながらも石炭支援の実施を明記している。【12月10日 共同】
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COP25に出席する小泉環境相は「厳しい批判に対しては誠実に逃げることなく、丁寧な説明をする」と語っていますが・・・・
****地球温暖化防止 英大学が食堂で牛肉・羊肉メニュー出さず 畜産農家は猛反発****
小泉環境相の「ステーキ、やっぱりステーキ食べたいですね。毎日でも食べたいね」という2019年9月の発言が、海外で波紋を呼んだ。
牛肉をめぐっても、環境に優しくないと批判の声がある。
というのも、家畜の飼育は温室効果ガスを増やすが、特に牛は、鶏や豚に比べて、排出する温室効果ガスが多く、あるデータでは6倍以上だという。
なぜかというと、牛は食べた餌を胃の中の微生物によって発酵することで消化しやすくしていて、その際に発生する大量のメタンガスを、げっぷなどで大気中に排出しているため。
こうしたことから、イギリスのあの名門大学の学生食堂では、牛肉を使ったメニューは、もう食べられなくなっている。
一方で、畜産業界からは反発の声。
イギリスの名門・ケンブリッジ大学では、すべての学生食堂で、3年前から、牛肉と羊の肉を使った料理を提供することをやめている。
学生食堂責任者は、「一番下に豚肉はあるが、冷蔵庫の中に、羊肉や牛肉は一切入っていない」と話した。
温暖化の防止に貢献しようとするもので、大学によると、温室効果ガスの削減量は、1年間でおよそ500トンにのぼったという。これは、乗用車で地球を94周回る際の排出量に匹敵する。
大学の環境問題担当者は、「ここまでの削減になるとは思わず、ワクワクした」と話した。
一方、地元の畜産業者は、猛反発している。
牧場経営者は、「人々は、責任転嫁先を探しているのだと思う」と話した。この牧場では、牛に与える餌はすべて、ここで栽培した草を与えているという。
牧場経営者は、「ここでは加工した餌を使っておらず、車を使った牛の運搬も最小限にしているので、温室効果ガスの排出は少ない」と主張している。
牧場経営者は、「車や飛行機などを利用する人間こそが、汚染の原因だ」と話した。
学生食堂で牛肉を使ったメニューをやめる動きは、イギリスのほかの大学にも広がりつつある。【12月10日 FNN PRIME】
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不可逆的な限界点を目前にして、できることはすべてやらないといけない状況で、“ステーキを毎日食べたい”大臣が石炭火力の必要性について“丁寧な説明”をしても・・・恐らく受け入れられないでしょう。
別に小泉氏を揶揄するつもりもありませんが、危機感をどこまで切実に感じているか・・・という問題でしょう。
ドイツの環境NGOは、去年1年間に異常気象で世界で最も深刻な被害を受けたのは、記録的な豪雨や猛暑に見舞われた日本だったとする分析を発表していますが・・・。
日本についていえば、同じ“危機意識の切実さ”の問題は温暖化だけでなく、今後30年間に70%の確率で起きると言われる首都直下地震についても同様でしょう。