(フランス・パリで行われた年金改革案をめぐる抗議デモで、正義の女神像を引く人々(2019年12月17日撮影)【12月18日 AFP】)
【政府・組合 双方とも引かず、交通スト2週間】
フランスでは政府の年金制度改革案に対し、これに反対する地下鉄やバスの公共交通機関の労働組合によって12月5日から大規模なストライキが続いています。
****仏 年金改革めぐりスト続く パリで自転車事故40%増など影響も*****
フランス・パリでは、今月5日から続く公共交通機関の労働組合によるストライキの影響で、自転車を利用する人が増えた結果、事故が多発するなど、影響が広がっています。
フランスでは、マクロン政権が進めている年金制度の改革に反発して、公共交通機関の労働組合などが今月5日からストライキを続けていて、パリでは、地下鉄やバスの多くの路線が運休したり、運行本数を大幅に減らしたりしています。
このため、自家用車や自転車で移動する人が増え、事故も多発しています。
パリの消防によりますと、ストライキが始まってからの10日間に自転車が関係する事故は600件起こり、去年の同じ時期に比べて40%も増えているということです。(中略)
一方、労働組合側は、17日も全国で大規模なデモを行い、このうちパリでは、およそ8万人が参加しました。
参加者のひとりは、「フランス経済にとって大きなロスになっても年金の権利を守る」とストを続ける決意を話していました。
マクロン政権は断固として改革を進める構えですが、最新の世論調査ではストライキを支持する人は62%に上っていて、世論の支持を背景にした労働組合側の要求に対して、政権側が譲歩するのかどうかに注目が集まっています。【12月18日 NHK】
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労働組合が弱体化した日本では、最近はあまり“一般利用者に迷惑をかける”ストライキは見かけなくなりましたが、フランスはストなどによる個人の権利の主張には寛容な社会とされており、上記のように通勤の足が止まる2週間にも及ぶ長期ストに対しても国民の62%がこれを支持するということで、国民性の違いが興味深いところです。
日本も、かつては交通ストというのはさほど珍しくもなく、ストを禁じられている労働者が業務のルールを完全に順守することにより作業能率を落とす“順法闘争”(結果的に電車などの運行本数が大幅に減少し、ストと同じような効果を発揮する)といったものも盛んに行われていました。
日本における大規模ストのピークは、ストを禁じられていた国鉄労働者がスト権獲得を目指して行った1975年(昭和50年)の、いわゆる「スト権スト」でした。
このスト権ストは11月26日から12月3日まで続けられましたが、労組側が期待したスト効果が得られなかったことやフランスほどストに寛容ではない日本の国民世論からの厳しい批判もあって、結局労組側の全面敗北に終わりました。
(個人的には、ストで大学講義が休講となり、歓迎しましたが・・・)
この大規模スト敗北をピークとして、日本の労働組合の運動は右肩下がりに低下していったように思われます。
また、このときのトラックによる代替輸送によって国鉄労組が期待したスト効果が得られなかった事実は、国鉄そのものの存在感を薄めていくことにもなりました。
閑話休題。話をフランスに戻します。
****仏、年金改革への大規模な抗議運動 マクロン大統領に最大の試練****
フランスで17日、政府の年金改革への抗議デモが行われ、全国で約61万5千人が参加した。
マクロン大統領は年金改革を「将来の世代のために必要だ」と訴えるが、労働組合は5日から大規模ストとデモを続けて撤回を要求。大統領は2017年の就任以来、最大の試練に直面している。
デモは労組が呼びかけたもので、今回が3度目。鉄道員や教員らが加わった。国鉄や地下鉄の運休で連日、通勤ラッシュ時の主要駅は大混乱。無期限ストで、年末の帰省客への影響が懸念されている。
マクロン氏は39歳で大統領選に当選し、年金財政の健全化は選挙の公約だった。今月発表された改革案は、職種ごとに42ある年金制度を一本化し、官民とも労働に応じたポイント制で年金受給額を決める内容。
さらに、現在は年金受給開始年齢の62歳を「基準年齢」に変え、これ以上働けば受給額を増やす仕組みにする。基準年齢は2027年に64歳まで引き上げ、高齢者の就労を促す。
政府は「転職や起業など、人生設計に応じて受給額が算出しやすくなる。現行よりも公平な制度だ」と主張。これに対し、労組は「事実上の定年廃止につながる」と反発する。
鉄道労組などでは、特権喪失につながることへの警戒も強い。19世紀以来の伝統で、過酷な労働を伴う鉄道員や警察官には50代で早期退職できる優遇制度が認められてきたからだ。
フランスでは1995年、シラク政権の年金改革案が3週間のゼネストで挫折に追い込まれ、以後は小ぶりの制度見直しにとどまった。
年金受給開始年齢でドイツは67歳、英国は68歳への引き上げを決めたのに対し、フランスは高齢化対応が遅れた。年金への公的支出は国内総生産(GDP)の14%。欧州連合(EU)でギリシャやイタリアに次いで負担が大きい。
フィリップ仏首相は「国民に、もっと長く働いてもらう仕組みが必要だ」と訴えるが、国民には労組側への共感が強く、仏紙の世論調査ではデモやストを「支持する」「共感を覚える」とした人が54%に上った。
マクロン政権は昨年、燃料税引き上げ計画を機に「黄色いベスト」の反政府デモに直面。パリ中心部で放火や略奪が相次ぐ騒ぎになり、増税撤回に加え、庶民支援の予算措置を迫られた。再びデモに対して妥協すれば、「改革」を旗印とした政権の信頼が大きく揺らぐことになりかねない。【12月18日 産経】
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性格的にも、ときに“傲慢”と批判されるほどに強気で、こうした抵抗に屈することが少ないマクロン大統領ですが、政治的にも年金改革は公約のど真ん中に位置するものですから、安易な妥協はできません。
すでに、(細かい内容は省略しますが)一定の譲歩は示しているという事情もあります。これ以上の譲歩は・・・というところでしょう。
“仏年金改革、首相が譲歩も労組反発 スト拡大宣言”【12月12日 AFP】
【17日大規模デモの評価は? このままクリスマス期に突入か】
労組側も、クリスマス休戦を拒否して、一歩も引かない構えです。
****年金改革反対の仏労組、クリスマスのスト休止を拒否****
フランスの左派系労働組合は、年金制度改革に反対するストライキをクリスマスも継続する考えを示した。17日には国内最大の労組フランス民主労働総同盟(CFDT)が抗議活動に加わったが、労組側が期待していたほどデモ行進は盛り上がらなかった。
ストを主導している左派系労組は共同声明で、この日の全国規模のデモ行進はマクロン大統領が掲げる年金制度改革の「徹底的な拒絶」を意味しているとして、撤回を求めた。「撤回されなければ停戦はない」としてクリスマスもストを継続する考えを示した。CFDTは声明に署名しなかった。
仏内務省の発表によると、労組執行部の呼びかけに応じて全国でデモ行進に参加したのは約61万5000人だった。大規模な抗議活動が始まった今月5日の80万6000人から大幅に減少したが、パリだけでみると参加者は増えた。
これに対し、フランス労働総同盟(CGT)は、全国のデモ参加者は180万人に上り、独自集計による5日の参加人数を上回ったと発表した。労組と政府のデモ参加者の集計は大幅に異なる場合が多い。
年金改革は法定退職年齢を62歳に据え置く一方、賞罰により64歳まで働くことを奨励する内容。
ストを受けてパリの地下鉄など交通機関が運行停止となり、エッフェル塔も閉鎖された。CGTは家庭や企業で広がった停電やガス供給の停止の原因を作ったと認めた。
労組側はマクロン大統領がクリスマス前までに年金改革を取り下げるよう期待しており、マクロン氏はクリスマス前のスト終了を望んでいる。クリスマスまで続けば市民の不満は募るとみられる。
フィリップ首相は議会で「年金改革への民主的な労組の抗議は完全に合法的だ。ただ、政府は年金制度を改革し、年金関連予算を均衡化させる強い決意を明確にしてきた」と強調した。【12月18日 ロイター】
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今後の展開を予測するうえで17日の大規模デモがどれほどの規模になるかが注目されていました。
参加者が多ければ労組側が勢いづき、少なければ政府側のガードが一層かたくなります。
5日のストライキ開始以来3度目となる17日のデモには、教員や病院職員をはじめとする大勢の公務員らが参加しています。
結果は61万5千人、上記記事では“労組側が期待していたほどデモ行進は盛り上がらなかった”とも。
ただ、労組側は“独自集計による5日の参加人数を上回った”としていますので・・・どうでしょうか。
このままクリスマス期に交通ストが継続することで、国民世論のストへの支持、譲歩しない政府への支持がどのように変化するのか・・・もうしばらく時間がかかりそうです。
【12月17日 Paers Today】
周囲の空気を読んだり、忖度したり・・・・という日本、お互い力勝負でぶつかり合うフランスです。