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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「一帯一路」で腰が引けた中国をつなぎとめようとする財政悪化のパキスタン サウジにも資金を求める

2019-12-19 23:27:43 | アフガン・パキスタン

(今年3月、パキスタンのカラコルム・ハイウェイを走った際に工事中の道路わきで見かけた中国語の標識 画像がかすんでいるのは、舞い上がる砂埃のせいです。跳びはねる車の中から撮影。)

 

【「一帯一路」 中国に依存しすぎる国々が多すぎ、中国一国では支え切れない状況】

中国の進める「一帯一路」については、中国の軍事的戦略に沿うものだとか、「債務の罠」等々の批判があるのは周知のとおりですが、中国自身の対応にも変化がみられるとの指摘も。

 

****一帯一路からデジタル覇権へ舵切った中国の野望****

一帯一路構想(BRI:Belt and Road Initiative)は、中国が最も重視する国家戦略の一つであり、米中の覇権争いを分析する際に不可欠な要素だ。

 

このBRIが現在どのような状況になっているかを明快に分析した論考が最近発表された。

 

この論考は、米国のシンクタンクAEI(American Enterprise Institute)が運営している「中国世界投資調査(CGIT:China Global Investment Tracker)」の膨大なデータベースに基づいて分析されている。

 

この分析で注目されるのは以下の2点だ。

 

まず、BRIの参加国は増えているが、中国によるインフラ建設は、中国の外貨準備高の減少に伴い2016年をピークに減少していて、この傾向は継続する可能性が高いという指摘だ。

 

つまり、BRIにおけるインフラなどの建設分野は今後期待できないということだ。

 

2点目は、BRIで今後注目すべきは、中国政府が重視する「デジタル・シルクロード(DSR:Digital Silk Road)」であり、その動向に注目すべきだという指摘だ。

 

以下、この2点を中心として紹介するが、特に「中国のDSRの成功が中国の21世紀の国際秩序を形成する能力を強化し、米中覇権争いの帰趨を決定づける可能性がある」という観点で、DSRの重要性を強調したい。

 

1 一帯一路構想(BRI)

BRIとは?

一帯一路構想には明確な定義がないが、陸の「シルクロード経済ベルト」と海の「21世紀海洋シルクロード」によりアジアから欧州までを連結させる雄大な「シルクロード経済圏構想」と表現されることが多い。(中略)

 

発展途上国にとってBRIは、自力では困難なインフラ整備が可能になるという抵抗しがたい魅力を持っているという。

 

しかし、負の側面として発展途上国の経常収支の悪化や対外債務拡大をもたらしていると批判されている。

 

中国は現在、137カ国とBRI協定を締結している。特に、2018年6月から2019年6月までに新たなパートナー諸国62カ国が加盟した。

 

しかし、この加盟国の増加は、BRIにおける建設額や投資額の増加につながっていないという。この原因は、中国の資金不足が大きい。

 

一方で中国側の嘆きは、多くのBRI加盟国がBRIを中国による対外支援と捉え、「待つ」「頼る」「求める」という傾向が強い点だという。

 

つまり、資金力のある米国や日本が加盟しておらず、中国に依存しすぎる国々が多すぎ、中国一国では支え切れない状況だ。

 

BRIの目的は何か?

BRIの目的については様々な解釈がある。私は、米国主導の世界秩序に対抗する中国主導の世界秩序の構築がBRIの目的だと思っている。

 

この中国主導の秩序の中に中国の海外展開のための軍事インフラ(人民解放軍が使用する港、空港、鉄道・道路など)の確保も入っていることを強調したい。

 

BRIに批判的な人たちの表現を使えば、BRIは発展途上国に対する債務の罠を伴う「新植民地主義」「現代の朝貢システムの構築」「中国版マーシャル・プラン」、中国の過剰生産能力の解消手段として輸出市場を確保する狙いなどが列挙されよう。(後略)【10月17日 JB Press】

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要するに、中国としても、あまりに「依存」されても資金的に無理があるということでしょう。

 

【中国のカラコルム・ハイウェイ補修で人々の暮らしが改善した・・・・という話】

その「一帯一路」の中核にあるのが、中国からパキスタンのグワダル港に至るルートを整備する「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」です。

 

具体的には、中国・新疆ウイグル自治区に接続するカラコルム・ハイウェイもCPECの重要部分となっています。

 

このカラコルムハイウェイについて、その功績を賞賛する記事が下。

 

****パキスタン人「中国が道路を補修してくれたおかげで豊かになった」****

2019年12月16日、中国紙・環球時報は、パキスタンと中国をつなぐ「カラコルム・ハイウエー」に関連し、あるパキスタン人の話として「中国が道路を補修してくれたおかげで肉を食べられるほど豊かになった」と報じた。

環球時報は、米ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)のニュースサイトが15日、「中国がこの山岳道路の補修に数十億ドルを投資している」とする記事を掲載したことを紹介した。

それによると、NPRの記事はまず、「パキスタン北部の背の高い山脈を曲がりくねって中国西部に達するカラコルム・ハイウエーには多くのことが期待されている。両国は、貿易ルートとしての可能性を見てその道を補修している」「中国政府は、約20億ドル(約2190億円)を投資して160マイルに及ぶ区間を補修しており、工事は来年3月に完了する予定だ。この補修は、中国パキスタン経済回廊(CPEC)の重要なプロジェクトの一つだ」などと伝えた。

そして、「最近現地を訪れた記者は、この道路がパキスタンのコミュニティーに変化をもたらしていることに気付いた」と指摘。

 

あるトラック運転手から「新しい道路を走るのをとても楽しみにしている。タイヤがパンクしたり、車を頻繁に修理したりしないで済むようになる」との声や、牧畜民からは「3年前に中国の企業が道路のこの区画を補修して以来、私の運命は変わった。人々は今、肉を食べられるほど豊かになった」との声が上がっていることを紹介した。

(中略)ある地元の教師が「カラコルム・ハイウエーとCPECにより、さらに多くの施設がここに建てられ、さらに多くの雇用が生まれるだろう」と述べていることも伝えている。【12月19日 レコードチャイナ】

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中国に批判的な方々からは異論が多々あるでしょうが、個人的には実感できるものがあります。

 

今年3月にパキスタン北部のフンザを観光しましたが、片道二日、往復で四日、このカラコルム・ハイウェイを走り、中国の資本で整備された道路では中国に感謝し、未整備の悪路では「中国さんよ、早く整備してしてよ!」と切実に感じました。

 

パキスタンの山奥に、中国語で書かれた道路標識・注意書きがあったりもして、「なるほどね・・・」という感も。

 

なんだかんだ言いつつも、「じゃ、中国以外の誰がやってくれたのか?」という話も。

 

道路の整備は、単に観光だけでなく、この地域の物流を大きく変えていくでしょう。

 

【パキスタンの財政悪化で、腰が引ける中国側 資金提供を求めるパキスタン】

ただ、このパキスタンにおける「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」も、冒頭の話に関連するところで、中国側には重荷になっている部分もあるようです。

 

****中国パキスタン経済回廊 先行きに暗雲 ****

中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」の中で、パキスタンが経済成長を後押しする主要事業として期待している「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」。

中国西部からパキスタンを南北に縦断する道路やパイプラインなどを建設する大規模インフラ整備事業だ。

 

だが一帯一路事業に伴うパキスタンの対外債務の増加もあって、先行きを不安視する声があがっている。

 

11月上旬、CPEC事業について両国で協議する会合が(パキスタンの首都イスラマバードで)開かれた。パキスタン側は中国側に対し、石油やガスといった分野での事業拡大やパキスタンの製鉄所の売却などを提案したが、中国側は新たな事業や資金調達に慎重な姿勢を崩さなかったようだ。

 

両国の代表団は北西部ペシャワルと南部カラチを結ぶ主要鉄道路線「ML-1」事業などについても話し合った。ML-1事業ではペシャワル―カラチ間を全線複線化し、走行速度を引き上げる予定だったが、事業の縮小や停止といった動きが出てきている。関係者によると、この事業についても、新たな資金調達の枠組みの話は進展しなかったという。

 

一帯一路を掲げる中国側がパキスタンからの提案に慎重になっているのは、(中国から見ても)パキスタンの経済が深刻な状況に陥っているからだ。

 

パキスタンは一帯一路のインフラ整備に伴い、(中国からの輸入が急増して)対中貿易赤字が膨らみ、国際収支が悪化。対外債務の償還に追われている。

 

米ウィルソン・センターでアジアを専門とするマイケル・クーゲルマン氏は「巨額の債務を抱え、国際収支が危機的状態にあるパキスタンにさらに融資するのはリスクがあるため、中国は慎重になっている」と指摘する。

 

パキスタン政府は今回の会合に備えて、いくつか手を打っていた。カーン政権は一帯一路事業を迅速に進めるため、通常の手続きを踏まずにCPEC専門の部署を政府内に新設した。

 

また、CPECの最南端にあたる港湾都市グワダルで操業している中国企業への免税措置なども用意した。だが会合では、新規事業にさらなる資金をつぎ込むといった進展はみられなかったという。

 

今回の会合に出席した中国国家発展改革委員会の寧吉喆副主任は、中国側は過去最大規模の代表団を派遣したことを強調したものの、あくまで既存のCPEC事業を支援する意向を示唆するのにとどまった。

 

英ノッティンガム大学で一帯一路事業に詳しいディレクター、キャサリン・アデニー氏は、「CPECプロジェクトが推進されれば中国とパキスタンの双方にメリットがあるが、失敗すれば一帯一路全体に対する懸念が世界中に広まりかねない」と話す。クーゲルマン氏は「両国政府が共に困難を乗り越えてCPECプロジェクトを推進する方法を見つけることが急務だ」としている。

 

国際情勢に詳しい在米アナリスト、マリク・シラージ・アクバル氏は、「パキスタンが一帯一路事業で中国に服従し続けることは、インフラ整備や開発といった側面だけでなく、インドなど(対立している国々)を遠ざけるという意味でも価値がある」としている。【11月24日 日経】

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上記のCPECに関する事情からは、世間一般で言われているような中国が巨額のチャイナマネーを使って途上国を「債務の罠」にかけようとしている・・・というような話とは異なる、腰の引けた中国から何とかカネを引き出そうとする債務国、債務超過と言う蟻地獄に中国を引きずり込もうとする債務国という構図も垣間見えます。

 

もちろん、いろんなケース、いろんな側面がありますので単純に判断することはできませんが、世間一般で言われている「常識」だけで判断しては現実を見誤ることも。

 

【パキスタンにとってもうひとつの資金提供国、サウジアラビアとの関係】

パキスタンが資金面で頼ってきた国としては、最近の中国以外に、以前からつながりの深いサウジアラビアがあります。

 

パキスタンの核開発もサウジアラビアの資金援助でなされたもので、サウジアラビア側の有事の際にはパキスタンがサウジに核兵器を提供するという密約があるとか、ないとか・・・も。

 

現在、マレーシア・クアラルンプールでマハティール首相主催でイスラム首脳が集まる国際会議が開かれていますが、イラン・ロウハニ大統領の他、イランに近い国々が集まるということもあって、サウジアラビアに忖度した(?)パキスタンのカーン首相は欠席したとか。

 

****米を牽制?イスラムVIP集結 ロハニ師らマレーシアの会議へ****

イスラム世界が直面する問題を話し合う目的で、マレーシアの首都クアラルンプールで18日から4日間、マハティール首相が主催する国際会議が開かれる。参加予定者の顔ぶれが明らかになり、会議の内容に注目が集まっている。

 

この会議は、マハティール氏が名誉総裁を務める財団の主催。マハティール氏は会議の狙いを「イスラム教徒はテロリストだとレッテルを貼られて恐れられている。問題を解決するための場が必要だ」とビデオメッセージで語っている。

 

参加予定者は、イランのロハニ大統領、トルコのエルドアン大統領、カタールのタミム首長ら。いずれもトランプ米政権による対イラン制裁に否定的だ。会議には米国への牽制(けんせい)という意味合いもありそうだ。

 

パキスタンのカーン首相も参加する予定だったが、イランなど他の参加国と対立しているサウジアラビアに配慮し、直前に欠席を決めたと報じられた。

 

ロハニ師は17日、出発前にテヘランの空港で「米制裁は違法で、多くの国はイランとの良い関係を望んでいる」と述べ、イスラム諸国の連帯を訴えた。ロハニ師はこの会議の後に日本を訪れる予定だ。【12月18日 朝日】

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一方で、カーン首相はサウジ・UAEに資金預託を要請したとか。ということであれば、忖度とか配慮といったレベルではなく、もっと強い圧力があったのでは・・・とも想像されます。

 

****ドルの力?(サウディのパキスタンに対する圧力?)****

矢張り金の力なのでしょうね!!

al qods al arabi net は、south china morning postを引いて、パキスタンがマハティール首相の主催するイスラム国家首脳会議に欠席することとなったのは、サウディからの圧力によると報じています。

パキスタンは、首相の同会議欠席の理由について特段の説明はしていないが、記事は、背景にサウディが同国が主導してきたイスラム諸国会議がマハティ―ルの動きで、影響力を失うことを危惧していることがあるとコメントしています。

他方同ネットの別の記事は、the news(パキスタン紙か?)が、パキスタンはサウディとUAEに同国の経済破綻を防ぐために、50億ドルの資金の預託を要請したと報じています。

れにサウディとUAEが同意して、50億ドルが預託された模様ですが、今後パキスタン政府はこの預託金を政府借款に転換するように交渉する由(後略)【12月18日 「中東の窓」】

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重要な点は、中国の腰が引けるほどに、サウジ・UAEに資金提供を求めるほどに、パキスタンの財政状態が悪いといことでしょう。

 

【国内情勢に関するよくわからない話も】

そうした財政悪化に加え、カーン首相は国内に別の火種も抱えているようです。

 

****カーン首相の退陣求め大規模抗議 パキスタン、選挙の不正訴え****

パキスタンのイスラム急進派政党イスラム聖職者協会(JUI)が主導し、カーン首相の退陣や選挙のやり直しを求める大規模な抗議行動が1日、首都イスラマバードであった。カーン政権が誕生した昨年の下院選は「軍が支援したもので不正だ」と主張している。

 

2014年にはカーン氏率いるパキスタン正義運動(PTI)が当時のシャリフ首相の退陣を求めるデモを実施し治安部隊と衝突、多くの死傷者が出た。カーン政権は今回も混乱に発展しないか神経をとがらせている。

 

数万人が集まったとみられ、抗議が収束しなければカーン政権に打撃となる可能性がある。【11月2日 共同】

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昨年7月に行われた選挙について、なんで今頃・・・という疑問がありますが、何かしらの政治的背景があるのでしょう。

 

“抗議が収束しなければカーン政権に打撃となる可能性がある”とのことですが、その後どうなったのかにつての報道は目にしていません。

 

続報がないということは、収束したということでしょうか。

 

 

コメント
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