(米ニュージャージー州ジャージーシティーで、銃撃が起きたユダヤ人向け食品店で行われる解体・復旧作業(2019年12月11日撮影)【12月12日 AFP】)
【「私ほどイスラエルにとって友好的な大統領はいない」】
アメリカ・トランプ大統領が、エルサレムの首都容認、ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植活動の容認など、従来のアメリカの対イスラエル政策を大きく転換してイスラエル寄りの姿勢を鮮明に打ち出していることは周知のところです。
結果的にパレスチナ問題の枠組みであった「2国家共存」も困難となり、パレスチナ問題はこれまで以上に出口が見えない状況ともなっています。
まあ、これまでも「出口」は殆ど見えていなかったので、トランプ大統領としては、イスラエル総選挙後に「世紀の取引」を発表して新たな「出口」を作り出すことで、状況の劇的転換を図るつもり・・・・なのかもしれませんが。
****「2国家共存」案さらに困難に 米がイスラエルの西岸入植容認 パレスチナ反発****
パレスチナ自治区・ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地の建設について、トランプ米政権が国際法に違反しないとの立場を示したことで、国際社会が支持するイスラエルとパレスチナの「2国家共存」案はいっそう実現が困難となる見通しだ。
イスラエル寄りの政策を相次いで打ち出すトランプ政権に対し、欧州などは批判を強めるとみられる。
「米国にはイスラエルの入植地に正当性を与える権限などない」。パレスチナ自治政府トップ、アッバス議長の報道官はこうトランプ政権を批判した。
西岸は1967年の第3次中東戦争でイスラエルがヨルダンから占領した。ヨルダンはその後、領有権を放棄。現在は将来のパレスチナ国家の領土に想定され、約290万人のパレスチナ人が住む。
米政権は、自治政府とイスラエルの和平協議を促すためとして、パレスチナ支援を担う国連機関への拠出金の停止を表明するなどしてきたが、実質的には2国家共存案を葬る動きとも指摘されてきた。今回の「入植容認」でパレスチナ側の反発を強め、和平協議再開が遠のくのは間違いない。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、今回の動きで「歴史的な誤り」が正されたと称賛した。ネタニヤフ氏が率いる右派・宗教勢力の支持層には、西岸を「神に与えられた土地」だと考える入植者も多い。
西岸には120ほどの入植地が点在し、約40万人のユダヤ人が居住。国際社会は、入植活動は占領地の地位変更を禁じるウィーン条約違反だとみなしている。
ネタニヤフ氏は9月の総選挙後、連立協議に失敗。汚職疑惑もくすぶる。そんな中での米政権による「入植容認」は、同氏への援護射撃の意味合いがあるとみられるが、ライバルであるガンツ元参謀総長による連立協議が続く中での米国の“介入”で、イスラエル政治がいっそう不透明となる可能性もある。【11月19日 産経】
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【在米ユダヤ人社会 トランプ大統領は反ユダヤ主義】
こうしたイスラエル寄り政策を連発することで、アメリカのユダヤ人社会はさぞやトランプ支持に傾いているであろう・・・とも考えてしまうのですが、基本的にユダヤ人票はこれまでリベラルな民主党支持の傾向が強く、トランプ大統領の一連のイスラエル寄り政策にもかかわらず、むしろ反トランプの動きが強まっているとも。
****トランプは反ユダヤ主義だ、ユダヤ系アメリカ人が反発、支持率も半減****
トランプはユダヤ系アメリカ人よりイスラエル右派の味方なのか?
<ユダヤ系アメリカ人は、トランプと共和党には根深い白人ナショナリズムがあり、それが反ユダヤ主義や人種差別につながっていると見ている>
12月7日に開催されたアメリカに帰化したイスラエル人団体の年次総会で、ドナルド・トランプ米大統領が行った演説が物議を醸している。在米ユダヤ人グループはトランプの発言を「反ユダヤ主義」と厳しく非難した。
トランプ大統領は演説の中で、「イスラエルを十分に愛していない」ユダヤ系アメリカ人がいる、と述べ、「私ほどイスラエルにとって友好的な大統領はいない」と訴えた。
さらに「ユダヤ人の多くが不動産ビジネスに携わっている。私はよく知っている」と言い、「ユダヤ人はたいへんな遣り手だ。いい人たちとはいえないが、あなたがたは私に投票しなければならない。選択肢はない」と述べた。
ユダヤ系アメリカ人グループは、このコメントは「反ユダヤ主義的」で、「致命的な結果」を招く可能性がある、と本誌に語った。
トランプの発言は本質的に「ユダヤ系アメリカ人は必ずイスラエルとその右派の政策を支持しなければならない」ことを意味し、それはアメリカをはじめ世界各国に住むユダヤ人を攻撃するために使われる「ユダヤ人の忠誠心はアメリカよりイスラエルにある」という偏見を助長するもの、という声もある。
共和党の反ユダヤ主義
「トランプ大統領の発言は常軌を逸しており、いくつもの反ユダヤ感情を刺激する。彼の演説は、米共和党内の反ユダヤ主義の根深さを露呈している」と、進歩的なユダヤ系アメリカ人活動組織「イフノットナウ」の政治ディレクター、エミリー・メイヤーは言う。
「こうした表現は致命的な結果をもたらす可能性がある。ユダヤ人として、私たちは共和党内部に存在するこうしたあからさまな白人ナショナリズムと反ユダヤ主義を否定するよう求める」
やはり進歩的なユダヤ系アメリカ人組織「平和のためのユダヤ人の声」の共同ディレクター、アリス・ワイズも同様の心情を訴えた。
「トランプ大統領は、反ユダヤ主義的な表現を使わずにユダヤ人に語りかけることができない。イスラエルに批判的で、人種差別に反対する大統領候補を積極的に支持するユダヤ系アメリカ人は増えている」と、ワイズは言い、トランプは「あくどいユダヤ人というステレオタイプを使った」と付け加えた。
全米ユダヤ民主評議会のヘイリー・ソイファー事務局長は、本誌宛ての電子メールでトランプの発言を「非常に不快」で「非良心的」だと評した。
「反ユダヤ的なステレオタイプのイメージを持ち出して、『ユダヤ人は金で動き、イスラエルに忠誠を尽くしていない』と決めつける卑劣で偏狭な大統領の発言を、私たちは強く非難する。トランプはずうずうしくも、ユダヤ人には自分を支持する以外の「選択肢」がないとまで言った」と、ソイファーは述べた。
トランプが大統領に就任して以来、在米ユダヤ人の間で共和党への支持が大幅に低下していることもソイファーは指摘した。「トランプ大統領の政策と発言は、ユダヤ人の価値観と相容れないため、2014年には33%だったユダヤ人の共和党への支持率が、18年には17%に低下した」
親イスラエルのリベラル派アメリカ人グループ「Jストリート」も、トランプの発言には批判的だ。「合衆国大統領は、ユダヤ人の聴衆に語り掛けるにあたって、自分の頭の中ある反ユダヤ主義に凝り固まった言葉しか使えない」と、ツイッターで非難した。(中略)
トランプは今年8月にも、トランプは民主党に投票する在米ユダヤ人は「無知か、忠誠心が完全に欠落している」と述べ、非難の的になった。【12月9日 Newsweek】
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反ユダヤ主義はキリスト教社会に根深い問題で、トランプ大統領が先導した形にもなっているポリティカルコレクトネスを軽視する社会風潮のなかで、アメリカだけでなく欧州でもしばしば問題になります。
“ユダヤ人墓地にかぎ十字など、落書き100基以上 フランス”【12月4日 AFP】
“フランス全体でも反ユダヤ主義的な犯罪に関する通報は急増しており、2018年には前年比で74%増加した”とも。
アメリカ・ニュージャージー州で起きた事件も。
****米銃撃、標的はユダヤ食品店 地元市長が発表****
米ニューヨーク郊外のニュージャージー州ジャージーシティーで発生し、6人が死亡した銃撃戦をめぐり、地元市長は11日、犯人らがユダヤ教の戒律に従った「コーシャー」食品を扱う店を標的としていたことを認め、事件は反ユダヤ主義に基づいたものだったとの見解を示した。
10日に起きた事件では、ライフルで武装した2人組が食料品店に乱入し、買い物客2人、店員1人と警官1人を殺害。犯人らはその後、警官の銃撃を受け死亡した。
ジャージーシティーのスティーブン・フロップ市長は、犯行動機の解明はまだ困難だとしつつも、防犯カメラ映像の分析結果からは、犯人らがこの店に狙いを定めていたことが示されたと説明した。
米紙ニューヨーク・タイムズが匿名の情報筋の話として伝えたところによると、銃撃犯のうち1人は犯行に先立ち、ユダヤ人と警察に対する反感を示す声明をオンライン上に公開していた。
また、捜査当局は犯人らのワゴン車から手製爆弾1個と短いメモを発見したとも伝えられている。メモには犯行理由が明確に示されてはいないものの、米NBCニュースは宗教関連の内容だったと報じている。 【12月12日 AFP】
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部外者にとってはトランプ大統領と反ユダヤ主義を直接結び付けるのはイメージ的に難しいところがありますが、トランプ大統領と白人ナショナリズム、白人ナショナリズムと反ユダヤ主義・・・という形で考えると、トランプ大統領と反ユダヤ主義を結ぶ線も見えてきます。
【イスラエルに対するボイコット運動の取り締まりを可能とする大統領令】
一方、「私ほどイスラエルにとって友好的な大統領はいない」「民主党に投票する在米ユダヤ人は無知か、忠誠心が完全に欠落している」とするトランプ大統領は、先述のような「トランプは反ユダヤ主義だ」との在米ユダヤ人社会からの批判を意識したのかしていないのか・・・「反ユダヤ主義」取り締まりの旗振り役を買って出たようです。
ただ、「反ユダヤ主義」取り締まりではなく、イスラエル批判の取り締まりのようにも見えるのですが・・・。
****トランプ氏、ユダヤ教を国籍と認める大統領令に署名 ボイコット運動に対抗****
米国のドナルド・トランプ大統領は11日、ユダヤ教を宗教としてだけでなく、国籍として再定義するとした大統領令に署名した。イスラエルに対するボイコット運動の取り締まりを可能とする動きとなる。
トランプ氏は、ホワイトハウスのイーストルームで行われたユダヤ教の祭日「ハヌカ」を祝福する式典で「私はわが国の大事な友人であり、同盟国であるイスラエル国家をいつでも支持する」と述べた。
米史上最も親イスラエル派の大統領を自負するトランプ氏は、来年の米大統領選に先駆け、従来は民主党支持層である国内ユダヤ教徒を取り込むための確固たる努力を強化するため、毎年恒例の行事を利用した。
この大統領令は学術的な変更に見えるが、大学キャンパスで広がっている、イスラエルに対する制裁を呼び掛ける運動を政府が取り締まることを可能にする重要な法的効力を持つ。
米国の大学では、イスラエル政府によるパレスチナ人への対応に抗議するBDS(ボイコット、投資引き揚げ、制裁)運動が拡大している。今回の大統領令は明らかにこの運動の鎮圧を目指すもので、大学側にそうした運動を阻止させるか、さもなくば政府の補助金を削減することができる。
トランプ氏は、大統領令は「反ユダヤ主義に対抗する」もので、「反ユダヤ主義のヘイトに関わっている機関に適用される」と説明。
さらに「大学へのメッセージ」として、「多額の連邦資金を毎年受け取りたいのなら、反ユダヤ運動を拒否しなければならない」と述べた。 【12月12日 AFP】AFPBB News
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近年、一部大学生の間で、イスラエルのパレスチナ政策を批判しパレスチナを支援する「ボイコット、投資引き揚げ、制裁(BDS)運動」への支持が広がっていることがあり、学生などをそうした「反ユダヤ主義的な差別」から守ることを主旨とする大統領令だとか。
BDS運動について上記以外の情報を知らないせいか、全く理解しがたい大統領令に思えます。
トランプ大領こそが反ユダヤ主義だかどうかは別にして、ユダヤ人を差別する反ユダヤ主義がよくない・・・というのは当然のことです。
ただ、そうした反ユダヤ主義と、国家としてのイスラエルに対する批判、結果としてのボイコットなどは別物でしょう。
イスラエルを批判し、パレスチナ人を支援すると反ユダヤ主義になる・・・・と言っているようにも思えてしまいます。
そんな子供でもわかる混乱を大統領令が犯しているはずもないのですが・・・・よく理解できません。
“BDS運動は米議会の与野党議員が批判し、多くの州がBDS運動を規制する措置を講じている”【12月12日 ロイター】とのことですので、今回の大統領令に限った話でもないようです。