孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港のウルムチ化への懸念 香港情勢が影響する台湾、シンガポール、更にその先には中国自身も

2019-12-11 23:06:51 | 東アジア

(今年4月、(シンガポール)チャンギ国際空港の新しい観光名所「ジュエル」がオープン。世界最大の人工滝など、世界の観光客を魅了する一方、経済減速、貧困など社会問題山積で一党独裁の陰りも見える【1210日 JB press】)

 

【「昨日の疆蔵(きょうぞう)」「今日の香港」】

香港については、アメリカで「香港人権・民主主義法」が成立したこともあって、普通選挙導入など「五大要求」を掲げる形で抗議活動は未だ収束していません。その性格は、実質的支配権力である中国に対する抗議の様相も強めています。

 

そうした情勢で気になるのは香港政府・中国側の対応。

 

****香港、殺傷武器を連日「発見」 政府発表、デモと関連付け****

香港メディアは11日、警察当局が10日に九竜地区で強い威力のエアガンを所持していた無職の男(22)を逮捕したと伝えた。一連の抗議活動に共感していたという。

 

香港政府は連日、手製爆弾など殺傷力の高い武器を「発見した」と発表。抗議活動との関連を調べているとしており、当局がデモ隊の“凶悪さ”の印象付けを図っているとの批判も出ている。

 

香港の林鄭月娥行政長官は10日の記者会見で「学校で破壊力が非常に高い爆弾が見つかった」と発表した。警察によると、遠隔操作で起爆できる手製爆弾2個を9日に発見。大量のくぎが仕込まれ、殺傷能力があるとみられるという。【1211日 共同】

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上記のような「発見」を根拠に、「抗議活動=テロ」といった解釈で強圧的な鎮圧に出る可能性もあります。

新疆ウイグル自治区では、まさにそういう図式で、100万人以上を「職業技能教育訓練センター」に送り込んでいるとも言われるような対応がなされています。

 

****香港デモ半年 反政府から反中へ抵抗運動続く 当局の「テロ」認定でウイグル化も****

香港で大規模な反政府デモが起きてから9日で半年を迎えた。「逃亡犯条例」改正案の撤回や林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官の引責辞任を求めていた反政府デモはその後、政府を背後で操る中国共産党への抵抗運動に発展した。8日の大規模デモを経て抗議活動はどこに向かい、中国当局はどう対応するのか。

 

「昨日の疆蔵(きょうぞう)」「今日の香港」「明日の台湾」−。

 

8日のデモ行進で掲げられていたのぼりである。「中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区やチベット地方で起きた問題は、香港で起きつつあり、台湾でもこれから起きうる」といった意味だ。

 

中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正問題に端を発した反政府デモが今や、“香港のウイグル化”にNOを突きつける反中運動でもあることを示していた。(中略)

 

スローガンも「香港人、頑張れ!」から「抵抗せよ!」に変わっていった。

  

デモ参加者は「和理非(平和、理性、非暴力)派」と「勇武(武闘)派」に大別される。(中略)

 

勇武派のメンバーによると、理工大でダメージを受けた勇武派は今、態勢の立て直しを図りながら、火炎瓶以外の「武器の強化」、具体的には「爆弾の製造を進めている」という。(中略)

 

今後、爆弾が使用された場合、当局は若者らのレッテルを現在の「暴徒」から「テロリスト」に張り替え、さらなる規制強化の口実にする可能性がある。

 

これは、中国の新疆ウイグル自治区で取られてきた手法だ。新疆では今、「テロ対策」と称して大量の住民が再教育施設に強制収容されている。

 

民主派のある区議は「中国本土と香港の境界付近に反テロ施設が建設されているようだ。警官を訓練するだけでなく、香港市民も収容される恐れがある。新疆での人権侵害は人ごとではない。香港にも差し迫った問題だ」と話し【129日 産経】

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【「今日の香港」「明日の台湾」】

香港の状況は「一国二制度」の実態を明らかにすることで台湾の若者らを刺激し、11日の総統選挙における蔡英文総統再選への強い追い風となっています。

 

****香港デモ、蔡氏に若者の風 台湾総統選まで1カ月****

反政府デモが続く香港情勢が、来年1月11日の台湾総統選の様相を一変させている。台湾に統一を迫る中国への警戒感が高まり、歯切れ良く「一国二制度」を拒否する現職の蔡英文(ツァイインウェン)総統(63)の支持率が急回復。香港と同じく若者が世論を引っ張っている。

 

 ■「一国二制度」の不安、20代7割支持

(中略)台湾の若者が香港のデモに共鳴する背景には、統一をめざし台湾に圧力をかける中国への警戒感がある。

 

中国の習近平(シーチンピン)・国家主席が、香港に適用する一国二制度の「台湾モデル」を模索すると演説したのは今年1月。

 

その香港で6月から本格化したデモを、香港政府はときに実弾を使って抑え込んだ。一国二制度の現実を、台湾の人々は隣で見せつけられている。(中略)

 

若者らの切迫した不安を台湾メディアは「亡国感」と表現する。その受け皿になっているのが再選をめざす蔡英文氏だ。

 

「圧倒的多数の台湾の民意は一国二制度に反対だ」

習氏が統一を呼びかけた1月、蔡氏は即座に反論した。昨年11月の統一地方選で与党民進党が大敗、蔡氏の支持率も2割台に沈んだが、毅然(きぜん)とした姿勢が好感され3割台に急回復した。

 

さらに6月、100万人規模に膨らんだ香港のデモについて蔡氏は「香港人には自由と民主主義を追求する権利がある」と表明。この月、支持率は不支持率を抜いた。

 

対する野党国民党の韓国瑜(ハンクオユイ)氏(62)の支持率は夏まで蔡氏を上回っていたが、親中的な姿勢が嫌われ急落している。

 

世論調査では、20代の7割、30代の5割が蔡氏を支持する。1987年に戒厳令が解かれ民主化が進んだ台湾で、自由な空気を吸って育った若者らだ。

 

2014年3月に当時の国民党政権の対中関係強化策に反対し、立法院(国会)を占拠した「ひまわり学生運動」の世代でもある(中略)この運動が一つの刺激となり、香港では同年9月、民主化を求める「雨傘運動」が起きた。(後略)【1211日 朝日】

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【シンガポールの香港化】

上記のような香港・台湾連動の話はよく見聞きするところですが、香港の混乱はシンガポールにも及んでいるというのは興味深い話です。

 

もとより、経済的に金融センターとして香港とシンガポールはライバル関係にありますので、香港が混乱すれば資金はシンガポールに流出するということはありますが、話はそこに限定されないようです。

 

その前提として、シンガポールの強権的・一党支配的といってもいいような政治体質があります。

 

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そもそも、シンガポールは国際的に報道・言論・表現の自由度で極めて低くランキングされているが、10月、自由度をさらに引き下げる新たな規制法を施行した。

 

政府が虚偽と判断した記事や情報の削除や訂正を命じ、最大10年の禁錮刑を科すことが可能な「フェイクニュース・情報操作対策法」の適用を始めたのだ。

 

早速11月に、野党政治家のフェイスブックへの投稿が虚偽だとして、フェイクニュース対策法に基づく訂正命令を出した。

 

10月には、人気ユーチューバーで東京や大阪にも店を構える香港の飲食店主のアレックス・ヤン氏が、シンガポールで香港デモをテーマとした政治集会を無届で開催したとして、国外退去処分になっている。仮に、彼が届けを出していたとしても、実際には許可されず、国外処分となっていただろう。

 

シンガポールでは、抗議活動に関する規制に違反すれば、最長6カ月間の禁錮刑に科される可能性もあるのだ。

 

ちなみに、多くの企業が混在する金融先進国のシンガポールでは、政府公認の組合が唯一スト権を保有し、いわゆる労働組合は事実上存在せず、活動していない。

 

さらに、大学入学希望者は「危険思想家でない」という証明書の交付をシンガポール政府から発行してもらう必要がある。反政府や反社会的な学生運動などは存在しないのが実情だ。

 

国際的に有力な大学が地元大学と共同事業を展開するなど、教育分野でも魅力があるとされるシンガポールだが、こと言論に関しては自由とはほど遠い。(中略)

 

クリーンで開かれたイメージのあるシンガポールだが、報道メディアや反政府活動の自由さや民主主義の度合いにおいて、現在の香港に比べてもえげつなく劣悪な状態にあると言ってもいいだろう。

 

選挙で野党候補者が当選した選挙区には、政府による“懲罰”が科され、公共投資や徴税面で冷遇されることでも知られている。

 

 形の上では公正な選挙で選ばれたように見えて、その実、選挙区割をはじめ選挙システムなど与党による独裁が守られる「仕かけ」が施されているのだ。

 

また、政府批判勢力には、国内治安法により逮捕令状なしに逮捕が可能で、当局は無期限に拘留することも許される。

 

そして、新聞、テレビなどの主要メディアは政府系持株会社の支配下にあり、独裁国家のプロパガンダを国民に刷り込むことに一役買っている。

 

来年に見込まれる総選挙で政権打倒を目指す野党「ピープル・ヴォイス(人民の声)」の党首で人気ユーチューバーの弁護士、リム・ティーン氏は、「国民の知る権利を剥奪する御用メディアは深刻な問題だ」と現政権を非難する。【1210日 末永 恵氏 JB press

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こうしたシンガポールの強権的一党支配体制は経済的繁栄と引き換えに、当然に大きな不満を抱え込んでいます。

そこに香港の「覚醒」が影響すると・・・・

そしてシンガポールの動揺は、シンガポールを“先生”に選んだ中国の行く末・・・という話にも

 

****香港民主化運動、思わぬ国に飛び火****

鎮まる気配を見せない香港の民主化運動が様々なところに飛び火し、アジアの政治体制を揺るがしている。

 

すぐに思いつくのは、来年1月の台湾総統選だろう。(中略)そして、思わぬところにも飛び火した。

 

香港同様、旧宗主国が英国で、国民の過半数が華人系、しかもアジアの金融センターの主導権争いなど長年、何かとライバル関係にあるアジアの富の象徴、シンガポールだ。

 

実は、シンガポールにとって香港の争乱は経済的にプラスに働いた。

 

米国で最大の投資銀行、ゴールドマン・サックスによる分析では、「香港のデモ激化で最大40億ドル(約4300億円)の資金がシンガポールに流出した」(10月公表)という。(中略)

 

しかし、話がここで終わればハッピーエンドだが、そうは問屋は卸さない。

 

1人当たりGDP(国内総生産)で日本を超えたシンガポールの屋台骨を支えている政治体制に動揺が走っているのだ。

 

建国以来54年、事実上、一党独裁体制を敷いてきたシンガポール政府は、香港の動向に危機感を募らせている。

反政府活動や野党の締め付けを強化しているだけではなく、今秋見込まれていた総選挙も来年に延期した(20211月期限)。

 

(前出)

 

このようにシンガポールでは一党独裁制を崩さない仕組みがきっちり組まれているのだが、一向に収拾に向かわない香港の民主化運動に危機感を抱き、さらなる対策に打って出ようとしている。

 

筆者の取材にシンガポール政府安全危機管理関係者は、「香港の民主化に感化され国内に混乱が発生した場合の『危機管理スキーム』を作成し、暴動クライシスへの対策を取りまとめた」という。

来年見込まれる総選挙を控え、シンガポールの“香港化”を防ぐ準備を行っていることを明らかにした。

 

これまでシンガポール政府は、困難に直面する香港への配慮から、民主化運動への公の言及を避けてきた。しかし、総選挙を延期決定した10月以降、シンガポールの香港化への危惧を公に露わにするようになってきた。

 

リー・シェンロン首相は、10月中旬に開催された一連の会議で「(我々が注意警戒していなければ)香港で起っていることが、シンガポールでも起こり得るだろう」と初めて公式に憂慮を示した。

 

そのうえで、「香港の民主化勢力は妥協を拒み、自由や民主主義を主張するが、真の狙いは香港政府打倒だ!」と声を荒げて民主化勢力を非難。

 

「香港とシンガポールの状況は違うが、シンガポールで社会的混乱が起きれば、シンガポールの国際的信用は破壊され、シンガポールは壊滅し『終わる』だろう」と危機意識を露わにした。(参考:https://www.youtube.com/watch?v=OxxzAs92QH4

 

なぜシンガポール政府が静観から一転して強い懸念を示すようになったのか――。

一つには、あえて国民の危機感をあおり、香港のような民主化運動が起こるのを未然に防ぐ狙いがあったと言える。

 

そしてもう一つの大事な点が、国民の自由を剥奪してきた政策が至る所で綻びを見せ始めているという現実だ。

 

国政メディアは決して伝えないものの、経済発展を果たしたいま、自由を求めて国民の不満が高まり、じりじりマグマ化してきている実態が明らかになってきた。

 

以前、「金持ちなのに 老化と貧困に悩むシンガポール」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57180)で書いたように、シンガポールは日本を上回る超少子高齢化や格差社会の課題を突きつけられている。

 

一方で、ホームレスの増加、若者や高齢者の貧困や自殺、インドや中国からの移民急増による国民の雇用不安や失業、CPFという年金を核にした社会保障制度の不備が社会不安をあおっている。

 

11月、そんなシンガポールで興味深い全国調査の結果が公表された。「シンガポール初の全国規模のホームレス調査」(シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院)だ。

 

人口約570万人のうちホームレスの数が約1000人だったことが明らかになった。

 

シンガポールにもホームレスがいるのは国民も知ってはいたが、その数がここまで多いとは誰も思わなかったのだろう。衝撃的なニュースとして伝わった。(中略)

 

彼らの多くが、人口の約20%にも達している貧困層で、守衛や清掃員、宅配サービスのGrabなどの低賃金の仕事で生計を立てている。

 

さらに特筆すべきは日本との比較。

日本の首都・東京では、人口約1350万人でホームレスは毎年減少傾向で、1126人(今年1月現在)ほど。

 

これに対し、人口約570万人と東京の半分にも満たないシンガポールのホームレス数が東京並みで、かつ増え続けているのだ。

 

1人当たりGDPでは日本を超えたが、国民が幸せに暮らせているかというと、そうでもない。

 

シンガポールの一党独裁の歪は、政治的統制、様々な規制、能力至上主義社会を反映し、米調査会社ギャラップの日常生活の「幸福度」調査では、シンガポールが148カ国中、最下位だったこともある。

 

経済発展がある程度進むと、人々の欲求は人間らしさに向かうのだろう。長年、シンガポールを取材してきて痛感する点である。

 

シンガポール建国の父、リー・クアンユー元首相の長男、シェンロン氏は現首相、次男のリー・シェンヤン氏はかつてはシンガポール最大の通信企業シングテルの最高経営責任者、さらには大手銀行のDBS銀行やシンガポール航空を傘下に収めるテマセク・ホールディングス最高経営責任者は、現首相シェンロン氏の妻、ホー・チン氏だ。

 

シンガポールは一党独裁でありながら経済成長を果たした背景から、「明るい北朝鮮」とも呼ばれる。リー・ファミリーが政治権力だけでなく、富も独占的に保有してきたからだ。

 

香港の民主化運動は、シンガポールのこうした政治体制をも揺るがしかねないパワーを秘めている。

 

政府が必死に飛び火を食い止めようとするのも分かる。しかし、国民の間にマグマのようにたまった不満を強硬な政策で抑え続けることは難しくなりつつある。

 

20153月に建国の父、リー・クアンユー氏が亡くなった時、旧知の間柄だった台湾の李登輝元総統はこう言い放った。「我々、台湾は自由と民主主義を優先させたが、シンガポールは経済発展を優先させた」

 

この時すでに李登輝氏はシンガポールの現在の悩みを予知していたのかもしれない。

 

そして、それは改革開放以来、鄧小平国家主席(当時)の理想理念のもと、シンガポールを“先生”に選んだ中国の行く末でもある。

 

香港の民主化運動が本格的にシンガポールに飛び火するかどうかは、中国の一党独裁を永続させることができるのかという問いでもある。【1210日 末永 恵氏 JB press

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