(ロシア東部ウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」で握手を交わすプーチン大統領(右)と習近平国家主席(2018年9月11日撮影)【7月31日 JBpress】)
【公的事業での汚職にプーチン大統領激怒・・・ただ、それはプーチン体制そのもの】
最近目にしたロシア関連の記事で一番面白かったのが下記記事。
****ロシアの宇宙基地建設で巨大汚職 約187億円、プーチン氏が激怒****
ロシアのボストーチヌイ宇宙基地の建設で大規模な汚職が相次ぎ、少なくとも110億ルーブル(約187億円)が詐取されたことが判明、プーチン大統領が激怒する事態になった。重要国家プロジェクトの大規模汚職は、ロシアの腐敗ぶりをあらためて裏付けた。
「何十億ルーブルも盗まれたのに、一向に収まらない」。11月の政府会議でプーチン氏は怒りを爆発。これを受け、直後に捜査当局が汚職の規模を明らかにした。
ロシアメディアによると、横領容疑などで140件以上が立件され、国営企業幹部ら32人が有罪判決。資材費などを水増し請求し、予算をだまし取る手口だった。【12月1日 共同】
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面白く感じた理由は、同じような記事がソチ五輪のときもあったからです。
****ロシア権力者にソチ五輪のツケ―露と消えた出世のもくろみ****
(中略)ロシア政府関係者や財界のリーダー、そしてプーチン大統領が7日に、メーン会場となる新しいフィシュト・オリンピック・スタジアムへ開会式のために入場する際、そこに(スキー場建設に携わった)ビラロフ氏の姿はない。
スキー場は今、ルスキエ・ゴルキ・ジャンピング・センターと呼ばれるジャンプ競技場となった。だが、ビラロフ氏は1年前にロシア五輪委員会の副会長を解任されている。政府首脳によると、建設費が当初概算の12億ルーブル(約35億円)から80億ルーブルに膨れあがったことが背景にある。
プーチン大統領は自らジャンプ台の頂上に登り、テレビ中継させたうえで、五輪担当の副首相に膨れあがる建設費と工期の遅延は誰の責任かと問いただした。副首相は「同志のビラロフ」だと答えた。
国営「北カフカス・リゾート」の代表を務めていたビラロフ氏は直ちに職を解かれた。同社はソチ五輪が決まった後、カフカス地方にスキーリゾートを建設するために新設された国営企業だ。ロシア当局はビラロフ氏が外遊で散財するなど職権を乱用した疑いで刑事捜査を開始した。
(中略)ソチの開催費用が膨らんだのは、ソ連崩壊後のロシアが経験した大プロジェクトを上回る、この地域の壮大な開発スケールも一因だ。五輪関係者はコストの高い変貌を要求した。
腐敗も費用を3分の1割程度つり上げたと指摘するウォッチャーもいる。だがプーチン大統領はこれを否定している。(後略)【2014 年 2 月 3 日 WSJ】
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デジャビュの感がありますが、プーチン大統領がいくら怒っても、プーチン氏を頂点とする権力の周囲に群がる政商・権力者が利権によって莫大な富を手に入れる、そうした既得権益層がプーチン氏を支える・・・・というプーチン体制そのものに起因する現象であり、ロシア経済が成長軌道に乗れない、ロシアの限界を示すものでもあるでしょう。
【「強いロシアの復活」を掲げたプーチン大統領は中国との関係を強化し、アメリカに対抗】
さはさりながら、ロシアが世界有数の軍事大国であり、国際政治に大きな影響力を有しているのは間違いない事実です。
周知のようにそのロシアは今、中国に接近して、中ロ蜜月とも言われる形でアメリカに対抗する構図が国際政治の大きな基軸ともなっています。
****冷戦終結30年 大国間の新たな争い 世界の分断や軍拡競争の懸念****
(中略)1989年12月3日、当時のアメリカのブッシュ大統領とソビエトのゴルバチョフ書記長は地中海のマルタで会談し、両国の対立で第2次世界大戦後の世界の分断をもたらした東西冷戦の終結を宣言しました。
アメリカはその後、世界唯一の超大国となり、自由と民主主義という価値観に基づくアメリカ主導の国際秩序の構築を図りましたが、2001年の同時多発テロ、イラク戦争、それにリーマンショックなどを経てその地位が揺らいでいきました。
こうした中、存在感を高めたのが「強いロシアの復活」を掲げたプーチン大統領率いるロシアと世界第2の経済大国となり軍事力を急速に増強する中国です。
アメリカはおととし発表した国家安全保障戦略で、ロシアと中国との新たな大国間競争を最大の脅威と位置づけ、両国への圧力を強めているのに対し、ロシアと中国は近年、連携を強化し、アメリカ主導の国際秩序に対抗する姿勢を鮮明にしています。
この結果、冷戦終結後の核兵器の大幅削減に役割を果たした米ロの核軍縮条約は両国の対立で失効し、核軍縮の枠組みが失われるなか、米ロ、それに中国は核を含めた先端兵器の導入を進めています。
さらに米中ロの開発競争は宇宙やサイバーといった新たな空間にも広がり、拡大する様相を呈しています。
冷戦終結から30年がたつなかで激しさを増す大国間の新たな争いは「新冷戦」とも呼ばれ、世界の分断や軍拡競争を再び招くおそれが懸念されています。(後略)【12月3日 NHK】
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その中ロ蜜月を象徴するものとして、ここ数日メディアに取り上げられているのが中ロ間のパイプライン稼働のニュースです。
****中国とロシア、550億ドルのパイプラインが示す新たな絆 *****
ロシア産の天然ガスを中国に運ぶ総延長1800マイル(約2900キロ)のパイプラインが2日から稼働する。建設費550億ドル(約6兆円)のプロジェクトはエネルギー輸送だけでなく、政治的にも大きな意味を持つ。
ガスパイプライン「パワー・オブ・シベリア」は、ソビエト連邦の崩壊以来で最も重要なロシア政府のエネルギープロジェクトであり、米国に挑む2つの大国の協力体制にとって、新たな時代の幕開けを示す物理的な絆でもある。
長年にわたりお互いに不信の目を向けライバル関係にあった中国とロシアは、世界の政治や貿易、エネルギー市場に影響を及ぼすべく、経済的・戦略的なパートナーシップを強化している。貿易面で米中対立が続く中、ロシアも欧米諸国との関係が冷え込んでいる。
コロンビア大学のフェローで米中央情報局(CIA)の元エネルギーアナリストのエリカ・ダウンズ氏は、「中国とロシアが手を結ぶことで、米国主導の国際秩序とは異なる選択肢があると示すことになる」と話す。
新たなパイプラインの開通式にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席がビデオ動画で登場予定だ。習氏はプーチン氏について、外国首脳の中でも「最も近く、親しい友人だ」と述べている。
一方のロシアも経済の脱ドル化を進める中で、中国元が外貨準備高に占める割合が昨年3月の5%から今年は14.2%まで増えたとロシア銀行(中央銀行)は明らかにしている。
ただし両国の協力関係に課題がないわけではなく、中央アジアでの影響力を巡る対立が支障となる可能性もある。
ロシア極東地域では中国資本のベンチャーへの反発もあり、中国からの訪問客や企業の進出を「中国による侵略」
ととらえる住民もいる。
中国の経済規模はロシアの8倍あり、ロシアでは同国が中国のジュニアパートナーになり、対等な貿易関係を築けていないとする見方もある。
パワー・オブ・シベリアは年内に50億立方メートルの天然ガスを中国に輸出し、その後は徐々に量を増やして2025年には輸送量が380億立方メートルに達する見通し。これはブラジルの1年間の天然ガス消費量に匹敵する。
中国とロシアはまた、モンゴルを通る次のパイプライン建設についてもすでに協議を始めているという。【12月2日 WSJ】
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このパイプラインは、シベリア地方イルクーツク州と極東サハ共和国の油田でガスを採掘し、中露国境の極東アムール州を経由して中国の黒竜江省まで輸送するものです。
“ロシアは、14年のウクライナ南部クリミア併合で欧米との関係が悪化。ガスの主要輸出先としてきた欧州に加え、アジアや中東など販路の多角化を進めている。”【12月3日 産経】というなかにあって、エネルギー確保が急務となっている中国と利害が一致したということでしょう。
もっとも、“ロシア政府系天然ガス企業ガスプロムと中国側の交渉は難航し、10年に及んだ”【12月2日 AFP】とのこと。難航したのは両者の力関係があってのことでしょう。
中ロ蜜月を印象づけるものとしては、パイプラインの他に中ロ間の道路建設も。
****ロシア・中国間、越境道路橋が完成 来春開通へ****
ロシアの極東・北極圏発展省は12月1日までに、同国のブラゴベシチェンスク市と中国の黒河市を結ぶ初の道路橋が完成したと発表した。ロイター通信が報じた。
両国間の貨物輸送の増加を見込んでいる。同省によると、アムール川に架かる橋の利用開始は来年春になる見通し。
両国の合弁企業が担った橋の建設では長さ20キロ以上の新たな道路などを整備。ロシア国営のタス通信は今年1月、橋の建設工事は2016年に開始されたと報道。工費は推定で188億ルーブルとしていた。
ロイター通信によると、ロシア・アムール州の知事は「新たな国際輸送回廊の誕生」と評価。「橋により我々は中継地点としての可能性を十分に開発出来る」と強調した。
ブラゴベシチェンスク、黒河両市間の交流強化を図る事業はこの他にもあり、来年には国境越えのケーブルカー路線が開通予定。オランダ企業の設計によるもので、乗車時間は約7分30秒となる。【12月1日 CNN】
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【ロシア側には、ロシア極東への「中国による侵略」やロシアの「裏庭」中央アジアでの中国の軍事的存在感の高まりへの懸念も】
こうしてロシア極東が中国との関係強化を強めることは、ただでさえ人口・資本が希薄な極東が、中国経済圏に組み込まれてしまうとの不安がロシア側にはあります。前出【WSJ】が指摘する「中国による侵略」とのロシア側の懸念です。
また、前出【WSJ】が同時に指摘している中央アジアでの勢力争いについては、以下のようにも。
****中ロ蜜月に不穏な香り 中央アジアに吹くすきま風 *****
米国と鋭く対立する中国とロシアの蜜月ぶりが一層、際立っている。6月上旬に訪ロした中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席はロシアと連帯を深める共同声明に署名し、約30件の経済案件をまとめた。
ロシアのプーチン大統領も、中国に貿易・ハイテク戦争を仕掛ける米国をあからさまに批判し、習主席に共闘を誓った。北朝鮮やイラン問題でも、両国は米国へのけん制を強めている。
この蜜月は今がピークか、それともさらに上り坂を登っていくのか。中ロはこれまで以上に互いを必要としているようにみえる。
米欧から制裁を浴びせられるロシアは今年、経済成長が1%台に急減速するとみられ、中国との経済協力に頼らざるを得ない。
一方、対中強硬策に走る米国に対抗するため、習主席にとってもロシアの利用価値は高まっている。
だからといって、内部に何のあつれきも抱えず、相思相愛の関係が続くわけではない。
ロシアは内心、強大になる中国に「潜在的な脅威を感じてもいる」(ロシア軍事専門家)。中国は国内総生産(GDP)で約8倍、人口では約10倍に膨れ、国力差は広がるばかりだからだ。
ロシアが特に心配するのは、「裏庭」とみなす旧ソ連圏の中央アジアが、中国の勢力圏に染められてしまうことだ。経済面ではこの筋書きが現実になっている。
2018年には、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギスで中国が最大の貿易相手に躍り出た。公式データが公表されているキルギス、タジキスタンでは、直接投資の累積額でも中国が首位となり、カザフスタンでもロシアを抜いて4位になった。
もっとも、中国が経済的に中央アジアに入り込むだけなら、ロシアとしても容認できる。莫大な中国マネーによってインフラが整い、地域が発展するなら、自分にも恩恵が及ぶからだ。
だが、その一線を越えて、中国が安全保障の影響力まで強めるとなると、話は別だ。ロシアからすれば、大事な「裏庭」を荒らされていると映るにちがいない。
6月半ば、中央アジアのウズベキスタンに、米欧や周辺国の閣僚や高官、識者らが集まり、地域情勢を話し合った。そこで感じたのは、そんな不穏な兆しだ。
現地の安保関係者らによると、2~3年前から地域の情勢に変化が表れた。中国がひそかにタジキスタンに軍部隊を送り、駐留を始めたというのだ。中国は公式にはこの事実を認めていないが、同関係者は「アフガニスタンでも似たような兆しがある」と話す。
中国は経済の影響力を広げても、ロシアに配慮し、安全保障に首を突っ込むことは厳に慎んできた。
その鉄則をあえて破ったのは、新疆ウイグル自治区へのイスラム過激派の侵入を防ぐためだ。タジキスタンに国境管理を任せていたら心もとないため、両国の同意のもとに中国軍を送り、治安活動に乗り出したという。
中国はこうした事情をロシア側に説明し、「理解」を得たうえで駐留を始めたにちがいない。だが、現地の外交官によると、中国軍の進出にロシアは内心、懸念を募らせている。
ロシアにとってタジキスタンは最大級となる国外軍事基地を構える拠点だ。42年まで駐留する契約を交わしている。
「タジキスタンにはロシア軍も基地を持ち、8千人程度が駐留している。長い目で見て、中ロの軍がタジキスタンで共存できるとは思えない」。中央アジアの安保戦略ブレーンはこう分析する。
ロシアを刺激しないよう注意しながらも、テロ対策のため、中国は中央アジアの安全保障に関与を深めざるを得ない。それが意図せずして、ロシアとの不協和音を招く……。そんな筋書きを感じさせる兆候だ。
中国との勢力争いも意識してか、ロシアは中央アジア諸国の動きに一層、神経質になっている。
今年3月、中央アジア5カ国は2度目の首脳会議を開くことになっていたが、延期され、実現のめどが立っていない。カザフスタンの大統領の突然の交代が表向きの理由だが「ロシアの反発を恐れ、各国が開催に慎重になっている」(現地の外交筋)という。
「ロシアには帝国的な思考を残す人々が大勢いる。彼らは依然として、旧ソ連諸国を自分たちの勢力圏だとみなしている」。ウズベキスタンの独立系研究所「ノリッジ・キャラバン」のファーカッド・トリポフ所長はこう語る。
将来、中ロのすきま風が強まれば、国際政治にも少なからぬ影響が及ぶ。中ロの枢軸が弱まることは、日米欧などの民主主義国には望ましいといえるだろう。北朝鮮への圧力も強めやすくなる。
「中国との覇権争いを優位に進めるためにも、中ロにくさびを打つ布石を探るべきだ」。先月、ポーランド・ワルシャワで開かれた米欧の官民戦略対話では、こんな意見が出た。
クリミアを併合したプーチン大統領との融和は無理としても、彼の任期が切れる24年以降、ロシアとの敵対関係を和らげ、中ロの分断を図る必要がある――。ワシントンの軍事戦略家の議論でも、こうした声が聞かれる。
2つの巨象は4千キロ以上の長い国境を接する。国境紛争が起きた1969年のような時代に戻ることはないにしても、蜜月が永遠に続くとは考えづらい。【7月25日 日経】
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私事になりますが、先月チャーター便を使った観光ツアーでウズベキスタンを訪問しました。
ウズベキスタンが日本からの観光に力を入れ、資本進出に秋波を送るのも、中ロのどちらかだけに頼るのではなく、国際バランスを多様化したいとの思惑の一環でしょう。
****中ロの蜜月、ロシアより中国にはるかに有利****
国際政治の三角関係に異変、属国と化すロシアとどう付き合うか
中ロのパートナーシップがどれほど中国側に有利かが明らかになるのは数年先かもしれない。
これこそが、まさしく国際政治の三角関係だ。第2次世界大戦以降、中国、ロシア、米国は繰り返し、パートナーを取り換えてきた。
中国と旧ソ連の協力関係はヨシフ・スターリンの死後崩壊し、1972年にはリチャード・ニクソンが中国を訪問、そして30年前にはミハイル・ゴルバチョフが中国とのデタント(緊張緩和)を成し遂げた。
現在はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席がペアを組んでいる。ロシアによるクリミア併合後の2014年に強固になった関係だ。
これまでの事例を見ると、3カ国のうち孤立してしまった国が、軍事、外交の面で無理を強いられるという形で代償を支払うのが常のようだ。
今回は違う。孤立しているのは米国だが、対価を払わされているのは主にロシアだ。
中ロのパートナーシップのあらゆる面を中国側が牛耳っている。中国の経済規模はロシアの6倍(購買力平価ベース)。しかも、ロシアが徐々に衰えている一方で、中国の力は伸びている。
西側諸国に背を向け、ロシアの影響力を強める絶好の方法に思えた戦略は今、ロシアが抜け出すのに苦労するワナのように見える。
ロシアは対等なパートナーどころか、中国の朝貢国になる道を歩みつつある。(後略)【英エコノミスト誌 2019年7月27日号】
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上記のような懸念はプーチン大統領は百も、二百も承知のところでしょう。それでも中ロ蜜月に走る背景には・・・何があるのでしょうか?