孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  原発攻撃も“なかったこと”にされるメディア統制 普段の情報源で生じる国民間の分断

2022-03-04 22:45:44 | ロシア
(ザポロジエ原子力発電所の監視カメラ映像(2022年3月4日、ソーシャルメディアから取得した映像のスクリーンショット)【3月4日 BUSINESS INSIDER】)

【“核テロ”に等しい危険な行為】
国際面のニュースは相変わらずウクライナ一色ですが、その中でも今日最大のニュースはロシア軍による欧州最大規模の原発「ザポロジエ原子力発電所」に対する攻撃でしょう。

当初、放射線量が上昇との報道もありましたが、その後の報道によれば異常はなく、火災も鎮火したようです。

****ロシア軍攻撃で原発火災=原子炉停止、放射線量変化なし―ゼレンスキー氏「核テロ」糾弾・ウクライナ****
ウクライナ南東部のザポロジエ原子力発電所で4日未明(日本時間同日午前)ロシア軍の攻撃により火災が発生した。原子炉には着弾しなかったもようで、放射能漏れなどは確認されていないが、大規模事故につながりかねないだけに、ロシアに攻撃の即時停止を求める声が強まっている。

ロイター通信によると、ウクライナ地方当局はロシア軍が原発を占拠したと述べた。
 
動画サイトに投稿された映像では、攻撃が加えられた施設から煙と炎が立ち上がった。ウクライナ軍高官はフェイスブックで、攻撃を受けたのが研修施設と研究所だったと説明。

AFP通信によれば、ウクライナ緊急事態庁は火災が消し止められ、犠牲者はいないと明らかにした。グランホルム米エネルギー長官はツイッターに、「原子炉は頑丈な格納容器によって守られ、安全に停止した」と投稿した。
 
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、原子炉が損傷すれば「深刻な危険」が生じると警告。IAEAはその後、「重要施設」に影響は出ておらず、原発の放射線量の変化も報告されていないと、ウクライナ当局から説明を受けたことを明らかにした。
 
AFP通信によると、ウクライナのゼレンスキー大統領は動画メッセージで「原発施設に攻撃を加えたのはロシアだけだ」と批判。「テロ国家は今や核テロに走った」と糾弾した。

ゼレンスキー氏はバイデン米大統領と電話で会談。ホワイトハウスによれば、バイデン氏はザポロジエ原発の状況について説明を受け、両首脳は攻撃停止をロシアに求めることで一致した。
 
ザポロジエ原発は欧州最大規模。ウクライナのクレバ外相は、ツイッターで「ロシア軍がザポロジエ原発に対し、あらゆる方面から攻撃している」と指摘。1986年のチェルノブイリ原発事故にも触れ、「もし爆発すれば、チェルノブイリの10倍以上の規模となるだろう。ロシアは直ちに攻撃を停止しなければならない」と訴えた。(後略)【3月4日 時事】
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「原子炉は頑丈な格納容器によって守られ・・・・」とは言っても、周辺施設の被害、例えば電源喪失などで惨事にいたることは福島原発の経験で明らかです。

ゼレンスキー大統領の言うように、まさに「核テロ」と同等のリスキーな暴挙です。

戦略的に見れば、“ウクライナは原発依存度は世界3位と高く、各地に原発が点在しているため、ロシア軍侵攻による危険性が懸念されている。”【3月4日 GLOBE+】と、ウクライナに与えるダメージが大きく、しかもザポロジエ原子力発電所はクリミアに隣接する南部にあって攻撃しやすい・・・ということで、“ウクライナの急所を突いた”【3月4日 NHK TVニュース】ということですが、やはり核兵器使用に準じた“禁じ手”でしょう。

ただ、戦争というのは所詮“殺し合い”であり、“禁じ手”も何もない・・・と言われればそうでしょう。

【ロシアは“ウクライナの破壊工作員の仕業” 国内メディアは“なかったことにしている状態”】
しかし、「戦争というのはそういうものだ」と言うならまだしも、更に卑劣なのはこうした“禁じ手”について相手方の仕業だというフェイクで押し通そうとする姿勢です。(もっとも私も現場を見た訳でなく、ロシア側主張が正しい可能性もゼロではありませんが。一般論で言えば、多くの事柄についてウクライナ側主張を鵜呑みにするのもまた危うい行為です。)

****ロシア国防省、“原発を攻撃したのはウクライナの破壊工作員”ロイター通信****
(中略)一方、ロイター通信によりますとロシア国防省は原発を攻撃したのはウクライナの破壊工作員だとして非難したという。【3月4日 ABEMA Times】
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当然ながら、情報統制が進むロシア国内では報じられていません。

****“原発砲撃”メディアは無視 ロシア国内では...SNS上で“不安”****
(中略)原子力発電所の火災は、現地はもちろん世界中が懸念を表明しているが、ロシアメディアはなかったことにしている状態。

ウクライナ南東部のザポリージャ原発の火災は、ウクライナ政府やウクライナメディアが一斉に取り上げ、注意喚起した。

一方、ロシアメディアが伝えているのは、ウクライナ東部を支配する親ロシア派武装勢力がウクライナ軍と戦う姿、それをサポートするロシア軍の動きばかりで、原発での火災のことは一切、報じていない。

一方、SNSでは「ひどいことが起こっている」、「プーチンは狂気の人になった」などと話題になっている。

ただプーチン政権は、原発への圧力は、あくまでウクライナに虐げられている武装勢力の解放作戦の一環と主張している。【3月4日 FNNプライムオンライン】
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【ロシア国内の情報統制の実態】
こうした情報統制、自分に都合のいい情報だけ(フェイクも含めて)流し、都合の悪い情報は遮断する、あるいはフェイクだと非難する・・・というのは、今回原発攻撃に限ったはなしでもなく、ウクライナでの戦争全般、さらに言えばすべての政治的事象についてロシア当局がとっている手法です。

もちろんそういう情報操作は、日本でも昔は「大本営発表」なんてありましたし、今も官庁の国会への虚偽報告など別に珍しくもありませんが、程度の問題があります。

****ウクライナ侵攻をロシアのテレビで見る まったく別の話がそこに****
ロシアの国営テレビが映し出す「現実」が、いかに現実と違うか。日本時間3月2日午前2時の画面が、その典型例だった。

BBCワールドニュースは、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でロシア軍がテレビ塔を砲撃したという速報で始まった。同じ時にロシアのテレビは、ウクライナの都市を攻撃しているのはウクライナだと伝えていた。

では、ロシアの人たちは、この戦争について何をテレビで見ているのだろう。電波を通してどのようなメッセージを聞いているのか。

以下は、3月1日にロシアで主なチャンネルをザッピングしていた人が、目にしただろう内容の一部だ。主なチャンネルはロシアの場合、政府と、政府に協力する企業がコントロールしている。

国営テレビ局「チャンネル1」はロシアで特に人気のチャンネルだ。その番組「グッドモーニング」は、ニュース、カルチャー、軽いエンターテインメントを組み合わせた、多くの国にありがちな朝の情報番組。

モスクワ時間1日午前5時30分(日本時間同午前11時30分)、通常の放送が変更になった。司会者が「みなさんよくご存じの出来事のため」放送予定を変更し、ニュースや時事問題の話題をいつもより多く伝えると説明した。ニュース速報は、ウクライナ軍がロシア軍の機器を破壊しているという報道は誤報で、「経験の浅い視聴者を欺く」ためのものだという内容だった。

「インターネット上では、フェイクとしか言いようのない映像が流れ続けています」と司会者が説明し、「雑に加工されたもの」だと説明する写真が複数、画面に映し出された。

モスクワで午前8時になると、テレビ局NTVの朝の番組に切り替える。NTVは、ロシア政府の支配下にあるガスプロムの子会社が所有するテレビ局だ。この朝の番組は、ウクライナ東部ドンバス地方の話題ばかりだ。(中略)

共に国営放送でロシアで最も人気のチャンネル、「ロシヤ1」と「チャンネル1」は、ドンバス地方でウクライナ軍が戦争犯罪を犯したと非難した。ウクライナ市民を脅かすのはロシア軍ではなく、「ウクライナのナショナリスト」だと、ロシヤ1のアナウンサーは述べた。(中略)

ロシアのテレビは、ウクライナで起きていることを「戦争」とは呼ばない。その代わり、攻撃は軍事インフラを標的とした非軍事化作戦、あるいは「両人民共和国を防衛するための特別(軍事)作戦」と表現される。

国営テレビでは、アナウンサーや特派員が感情的な言葉や画像を使い、ロシアによるウクライナでの「特別軍事作戦」とソ連のナチス・ドイツに対する戦いには、「歴史的類似性」があると強調する。

「子どもを盾にするナショナリストの戦術は、第2次世界大戦以来変わっていない」と、「ロシヤ1」の姉妹チャンネル「ロシヤ24」の朝の番組のアナウンサーは述べた。

「連中はまさにファシストそのもののように行動する。ネオナチは武器を民家の横に設置するだけでなく、子供が地下室に避難している家のそばにおいている」と、特派員はリポートした。ビデオには「ウクライナのファシズム」というテロップが出ている。

ウクライナの都市爆撃はウクライナのせいに
特派員の説明は、ウラジーミル・プーチン大統領が2月末に根拠なく主張した内容に呼応するものだ。ウクライナが女性や子供、高齢者を人間の盾にしているというのが、プーチン氏の言い分だ。

プーチン氏が命令した侵攻が期待通りの迅速な戦果を挙げていないのではないかと、西側諸国の報道は問いかけている。それに対してロシアのテレビは、ロシアの作戦は大成功だと繰り返す。(中略)

ロシアの朝のニュース速報は、ウクライナ東部以外でのロシア軍の攻撃作戦についてほとんど何も伝えない。国営テレビの特派員は、キーウやハルキウ(ハリコフ)など、ロシア軍が住宅地を砲撃した主要都市では取材していない。ロシアの特派員たちは代わりに、ドンバス地方の部隊に密着している。

しかし、この日の午後になると、BBCがもう何時間も大々的に報道してきたハルキウ砲撃について、ニュース番組はようやく触れた。ただしその報道内容は、住宅破壊はロシア軍のせいではないというもので、ロシアに責任を負わせようとする情報は「フェイク」だと主張した。

(中略)さらに4時間後、「ロシヤ1」の報道はさらに踏み込んで、ハルキウを爆撃したのはウクライナ軍だと主張した。(中略)

午後5時のニュースでは「ロシヤ1」のアナウンサーが、ウクライナにおけるロシアの「主な目的」を、「西側の脅威からロシアを守ること」だと説明した。それによると西側諸国は「ロシアとの対決にウクライナ国民を利用している」のだという。

ウクライナに関する「フェイクニュースやうわさ」がネット上で流れていることに対抗するため、ロシア政府が「真実の情報のみが掲載される」新しいウェブサイトを立ち上げることになったと、アナウンサーは伝えた。

政府の公式見解以外は報道不可
ロシアのテレビ局は連邦政府の監督機関「通信・IT・マスメディア監督サービス」から、政府の公式見解に沿った報道をするよう、義務付けられている。(中略)

若いロシア人の中には、独立系のウェブサイトやソーシャルメディアからニュースを入手する人が増えている。そして、戦争が長引けば長引くほど、死んだ兵士や捕虜の画像や映像がそうしたメディアに登場している。しかし、当局はこれを受けて、独立系メディアの規制をますます強めている。

連邦政府の通信・IT・マスメディア監督サービスはTikTokに対し、軍事的・政治的コンテンツを未成年者に「おすすめ」しないよう命令した。「ほとんどの場合、こうした素材は際立って反ロシア的内容」だからと、不満をあらわにしてた。

同サービスはグーグルに対しても、いわく「ロシア軍の損失に関する偽情報」とする検索結果の削除を要求した。ロイター通信によると、モスクワの「特別軍事作戦」に関する「偽報道」については、 ツイッターの読み込み速度を再び減速させたほか、フェイスブックへのアクセスも制限したという。

この監督機関はメディア各社に対し、侵攻を報道する際にはロシアの公式情報源のみを使用するよう指示し、「宣戦布告」や「侵攻」に言及した報道を取り下げるよう指示した。対応しない場合は罰金や放送禁止などで処分すると警告している。

独立系民間テレビ局「ドシチ」と、リベラル系の人気ラジオ局「モスクワのこだま」のウエブサイトは共にアクセスがブロックされた。両社が「過激主義と暴力」を呼びかけ、「ロシア軍の活動に関する虚偽情報を組織的に拡散した」というのが、その理由だ。【3月4日 BBC】
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モスクワにミサイルを打ち込むことはできませんが、“情報戦”が主戦場のひとつにもなっている昨今、ロシア国民に“正しい現実”を知ってもらうような情報戦略ができないものか・・・とも考えます。

もちろんウクライナ側は、“ウクライナとしての現実”を情報戦の一環としてロシア国民に流してきていますが、そのあたりをもっとレベルアップ・規模拡大して・・・と。

【情報源によって生まれる人々の分断】
ただ、アメリカでトランプ支持者がマスメディア情報を信用しないように、いったん作られた世界を壊すことは容易ではありません。

結果、ロシアの場合だと、国営TVなどの情報に接する人々と、若者らを中心にした独立系のウェブサイトやソーシャルメディアからニュースを入手する人の間には越えがたい溝が生じます。

****「我々が選んだわけではない」  ウクライナ戦争の理解に苦しむロシア国民****
(中略)しかし多くのロシア人は、実際、ウクライナで何が起こっているのかを十分に知らない。国営テレビは、キエフや他のウクライナの都市でのロシアの爆撃や砲撃の様子をほとんど報道せず、代わりにいわゆるウクライナの「愛国主義者」や「ネオファシスト」を取り上げている。

ロシア軍がウクライナに進駐してからおよそ1週間、多くのロシア人は、戦争が実際に起こっているという事実をまだ受け止めていない。

米国をはじめとする西側諸国は、数週間前から攻撃が始まることを警告していたが、侵攻が始まる前に行われたCNNの世論調査では、ロシアの攻撃がありそうだと考えたロシア人はわずか13%で、3人に2人(65%)がロシアとウクライナの緊張が平和的に解決すると予想していた。

しかし、モスクワに住むアリーナさん(25歳)のようなロシアの若者は、テレビを見ていない。インターネットを利用してブログを読んだり、ブロガーの話を聞いたりしている。

まだデモには参加していないが、街中でリュックやカバンに「戦争反対」のサインを貼り付けて「無言の抗議」に参加する若者を目にしてきた。

アリーナさんもまた、なぜウクライナで戦争が起きているのか、そしてそれが若いロシア人である自分の人生にとって何を意味するのか、理解に苦しんでいるという。

しかし、アリーナさんの母親はまったく違う見方をしている。「母はテレビで見ることをすべて信じている」とアリーナさんは言う。

「プーチンは必要な措置を講じたというのが母の考えだ。兵器が国を取り囲んでいるから、西側からの脅威があるから、プーチンは今回のような行動に出ていると信じている」。

アリーナさんは、母親と「とても激しい言い争いをした」という。
「母は私の言うことを信じないし、私も母の言うことを信じない。私たちの情報源は全く違う。私は、ロシアでは長い間ほとんどブロックされている独立系メディアからすべてを学び、母はテレビを見ている」。

アリーナさんと彼女の友人たちは、ウクライナに関するニュースをソーシャルメディアで追いながら、プーチン氏のウクライナ攻撃決定に対する西側諸国の反発を目にしている。

ロシア人は矛盾した、正反対の反応をしているとアリーナさんは言う。
「1つ目は、誰もが『そうだ、恥じるべきだ』と言うこと。2つ目は、『いや、自分たちを恥じないようにしよう、自分たちが決めたのではないことを自分たちに押し付けないようにしよう』というもの」。

しかし、両者の立場は1つの点で一致しているとアリーナさんは言う。「国際社会に『国民は大統領ではない。そして自分たちが現状を選択したわけではない』ということを知ってもらいたいのだ」。【3月4日 CNN】
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当面は上記記事のアリーナさんと母親の間の溝は埋まらないでしょう。
ただ、今後制裁措置、ロシア孤立化の影響が日常の市民生活に大きな影響をもたらすようになった時点で、母親など国営TV情報に依っていた人々も「どうして、こんなひどいことになったのか?」と、TV情報への疑いを待つようになるのでしょう。

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