(ウクライナ軍フェイスブックより【3月10日 ABEMA Times】)
一昨日、3月8日は「国際女性デー」でした。
ロシア軍に対し激しい抵抗を続けているウクライナ軍ですが、ウクライナでは2014年に起きたロシアによるクリミア併合以降女性の戦闘任務が可能となり、女性兵士の数は全体の15%にあたる3万人以上とか。
なお、下記記事の「地域防衛隊」は民間人が参加する国防省傘下の組織で、正規軍とは別組織になります。
****女性兵士の投稿、世界に拡散 軍隊への参加進むウクライナ****
ロシアに侵攻されているウクライナで、武器を手に立ち上がる女性たちの投稿写真が、ネット交流サービス(SNS)で世界中に拡散している。
もともと女性兵の割合が比較的高かったのに加え、民間人が参加する国防省傘下の「地域防衛隊」の中で、徹底抗戦を呼びかける役割を買ってでる女性も出ているようだ。
「太陽は輝いているし、鳥は歌っている。きっとすべては良くなる」。2月下旬、軍服を着た女性が青空を背景にほほえみながらカメラに向かって語る動画がSNS上で広がった。
動画の出所は不明だが、動画をシェアする投稿には女性が語る言葉を翻訳したとされる英文も添えられ、「心を打つ映像」「ウクライナに平和を」とたたえるコメントが相次いだ。
2月23日には、元「ミス・ウクライナ」のアナスタシア・レナさんが「ウクライナとともに立ち上がろう」というハッシュタグとともに銃らしきものを抱える写真をSNSに投稿。「いいね」を示すハートマークが14万個以上に上り、欧米メディアも取り上げた。
ウクライナはロシアがクリミア半島を強制編入した2014年以降、女性兵の募集に力を入れてきた。女性兵の数は全体の15%にあたる3万人以上。
ロシアがウクライナ国境周辺に軍隊を集結させた昨年末には、防衛戦に備え、国防省が18〜60歳の女性に入隊を要請し、多くの女性が呼応して軍事訓練に加わった。
一方、国防省は女性兵を総力戦のイメージ戦略に活用しようとしており、そのやり方を巡って批判も出ている。昨年7月、国防省が式典で披露する軍隊の行進練習を公開した際、ハイヒールを履いて行進する女性部隊が登場。女性政治家などから「性差別だ」と反発が起きた。
戦争史やパブリックヒストリーに詳しい東京女子大の柳原伸洋准教授は、SNS時代の戦いは「市民一人一人に焦点があたっている一方で、イメージの固定化も同時に起きている」と指摘。勇敢な女性像だけを一面的にたたえる風潮は「戦争の本質を見失わせる」と語った。【3月6日 毎日】
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ウクライナに限らず、軍における女性の存在は以前に比べて大きくなりつつありますが、上記記事にあるような“ハイヒール”など、従来の女性イメージを引きずる側面も多々あるようです。
女性の権利が十分に認められていないとの批判があるイスラム世界にあっても、クウェート軍では女性兵士に戦闘任務に就くことを認めているようですが、一方で大きな制約も。
****クウェート軍、女性兵士の戦闘任務許可 ただし丸腰で****
中東クウェートで、国防省が女性兵士に戦闘任務に就くことを認めたものの、男性保護者の許可が必要だとした上、武器の携行を禁止したため、女性の怒りを買っている。
国防省はさらに、女性兵士は民間人と異なり頭髪を覆わなければならないとも決定。女性権利活動家は、「一歩進んで二歩下がる」政策だと批判している。
クウェートは湾岸諸国で最も開かれた社会の一つと見なされており、今回の動きにインターネット上で反発が広がった。
体育教師でクウェートサッカー協会の女性委員会メンバーのガディール・カシティ氏は、「なぜ軍への入隊にこのような制限があるのか分からない」「警察を含め、あらゆる分野であらゆる女性が活躍しているのに」とAFPに語った。
カシティ氏の母親は、1990年にイラクのサダム・フセイン大統領(当時)がクウェートに侵攻した際、米主導の連合軍によって7か月に及ぶ占領から解放されるまでレジスタンス活動を支援していたという。「母はアバヤ(全身を覆う長衣)に武器を隠し、レジスタンス活動家のところまで運んでいた。父もそれを奨励していた」
「何を根拠に、女性を弱いと見なしているのか理解できない」
国防省は昨年10月、女性の戦闘任務参加を認めると決定したが、イスラム教のファトワ(宗教令)を理由に「(戦闘任務は)女性の本質に合わない」と主張する保守派議員から国防相に質問が出された後に制限を加えた。
■女性殉教者
クウェート女性文化社会協会のルルワ・サレハ・ムラ会長は、国防省の課した制限は差別的かつ違憲であり、協会として法的措置を取ると明言した。「わが国には、自らの意思で祖国を守った女性殉教者たちがいる。誰に命じられたわけでもない。祖国を愛していたからだ」
「クウェートがイスラム教国なのは事実だが、私たちは法律がファトワに左右されないことを求める。個人の自由は憲法で保障されており、法律は憲法に基づいている」
クウェート大学のイブティハル・カティーブ教授(英語学)は、新規則をめぐる議論は筋が通っていないと指摘。「軍は男女を差別することなくまとめる必要がある」「危険は男女を区別しいないし、戦闘中の死も同様だ」と述べた。 【3月6日 AFP】
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イスラム世界以外でも“地域事情”はいろいろ。
お隣、韓国では徴兵制のもとで男性には兵役義務がありますが、最近は女性にも同じような兵役義務を広げるべきとの議論が、特に兵役が現実問題となる若い男性から提起されています。
韓国では深刻なジェンダー対立があることは指摘されるところですが、兵役問題の背景にもこのジェンダー対立が存在するようです。
****「女性も徴兵制を」 韓国で議論が活発化する背景とは****
男性の徴兵制がある韓国で、女性にも兵役を課すべきだという議論が活発化している。今年5月には、女性徴兵制を求める大統領府あての請願に29万人以上が賛同し、話題を呼んだ。
20代の韓国人らに話を聞くと、兵役に不満を抱く男性だけでなく、女性からも賛成の声が聞かれた。
署名した市民や専門家に取材する中で、今の韓国社会が抱える課題が見えてきた。それは日本人にとっても人ごとではない問題だ。
29万人が賛同
「女性も徴兵の対象に含めてください」。今年4月、青瓦台(大統領府)のホームページ(HP)に、こんなタイトルの請願が投稿された。30日以内に賛同者が20万人を超えれば、政府が見解を出す仕組みになっている。
請願の投稿者はHP上で、「出生率の低下が軍の兵力の補充にも大きな支障をきたしている。軍務に適していない人員も無理やり徴兵対象となっているため、軍の質が落ちている」と指摘。
軍はすでに将校などに女性を募集しており、身体的に軍務に適していないとの理由は通らないとして「兵役の義務を男性にだけ負わせるのは非常に後進的で女性を卑下する発想だ」と訴えた。この請願では、30日以内に29万3140人が賛同した。政府が出した見解については後段でふれる。
これまでも女性徴兵制を求める声はあった。青瓦台に2017年に寄せられた同様の請願では12万人以上が賛同。国会に対する請願を受け付けるHPでも今年4月、同様の請願が出され、10万人が同意した。
少子化で兵士不足
なぜ女性徴兵制を求める人がこんなにも多いのか。青瓦台への請願に賛同したソウル市の男子高校生(18)はこう説明する。「少子化のために、本来は適任でない兵士まで徴兵されている。女性の中には男性よりも軍の仕事に適した人がおり、軍の質の向上にもつながるはず。女性に門戸を開かないのは旧時代的な女性差別だ」
韓国では近年、急速に少子化が進んでいる。2020年の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数)は0.84と、日本の1.34(20年)を大幅に下回る。経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国(当時)のうち、1を下回ったのは韓国だけだ。
徴兵対象者の徴兵率は1993年に72%だったが、今では9割近くにまで上がっている。徴兵を所管する兵務庁は20年10月、1年に必要とされる20万人の兵士を32年以降は維持できなくなるとの見通しを示した。
世論調査会社の韓国ギャラップが今年5月に実施した調査で徴兵制の対象とすべき性別について聞いたところ、「男性だけ」(47%)と「男女両方」(46%)が拮抗(きっこう)した。20代は「男女両方」が51%と、「男性だけ」(37%)を大きく上回った。若い世代を中心とした議論の盛り上がりが見て取れる。
不公平感も背景に
韓国では原則として男性は約2年の兵役を課される。女性徴兵制に多くの賛同が集まった背景には、男性側が現行制度を不公平だと感じていることも背景にある。
青瓦台の請願には海外在住の韓国人も参加できる。賛同した京都市在住の韓国人男性(27)は「国は、男性の約2年にわたる多大な犠牲への補償をしてほしい。それができないなら、女性も国防の義務を分担すべきだ。数が減っている若い男性だけが国防を担うのは荷が重すぎる」と不満をのぞかせた。
「多大な犠牲」とは、青春時代の貴重な時間が失われることだけではない。それは、深刻な社会問題となっている若者の就職難に関係している。
教育部(文部科学省に相当)が高等教育を受けた人に実施した19年の調査では、韓国の大学卒・大学院修了者の就職率は67.1%にとどまった。韓国政府の統計によると、20年の若年層(15~29歳)の失業率は9.0%。日本の若年層(15~24歳)の完全失業率はこの年、4.6%だ。
このため競争は激烈だ。学生たちは就職で少しでも有利になるように早くからインターンシップ制度の利用や資格の取得などに奔走する。だが、兵役中は事実上、就職活動をすることができない。
以前は、兵役の義務を果たすと一部の公務員採用試験で点数が加算される「軍加算点制度」が実施されていた。だが兵役に就けない障害者や女性らが「差別的だ」と反対運動を展開。99年に憲法裁判所が「平等権を侵害する」として違憲と判断し、廃止された。
求人情報サイト「ジョブコリア」が今年、4年制大学卒の新入社員を採用した企業を対象に実施した調査で、新入社員の平均年齢は女性が27.3歳であるのに対し、男性は30.0歳。前述の京都市在住の男性(27)は、「同期の女性は、男性が兵役中に留学し、男性より早く就職する。不公平だ」と本音をもらす。(後略)【2021年10月3日 毎日】
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まあ、女性の側からすれば、「だったら女性だけが担う出産はどうしてくれるの? 最低育児は平等でないと!」といった話にもなるのでしょう。
ちなみに韓国社会は日本以上に男尊女卑の風潮が強く、先進国を中心とした29カ国を対象にした「女性の働きやすさ」ランキングでは例年韓国が最下位、日本が下から2番目という“好ライバル”状況です。
話を軍における女性の存在に戻すと、必ずしも女性に兵役を広げればいい・・・という話でもないとの議論もあるでしょう。
一方で、今回ウクライナで女性の出国避難が認められた一方で、「残って戦え!」と18〜60歳までの男性の出国が制限されたことへの疑問も。
****メディアが拡散する“ロシア軍と戦う女性兵士”と“子どもを連れ避難する母親”…ウクライナ侵攻、女性も男性と同じリスクを背負うべきなのか?****
「今年、私たちが手にしているのは花だけではない。銃も手にしている」と述べたのは、キエフに残る野党「声の党」のキラ・ルディク党首。実際、これまでも銃の訓練に参加する一般女性の様子が度々報じられており、志願して前線に赴く女性たちもいるという。
海外メディアによれば、ウクライナでは2014年に起きたロシアによるクリミア併合以降、女性の戦闘任務が可能となり、現在は軍全体の約15%にあたる3万人にのぼるという。
■戦争を遂行する側は“女性の顔”を利用する
あらゆる分野で女性の社会進出が進む中、国防も例外ではない。女性比率が18.8%だというアメリカ軍では2015年に女性兵士の職種を解放、最前線の戦闘任務に就く可能性も出てきた。女性比率が7.9%の自衛隊においても、ほぼ全ての職種が解放されている。
東京女子大学の柳原伸洋准教授(ドイツ・ヨーロッパ近現代史)は、「やはり堅強な人は女性であれ、男性であれ兵士になる。そういう考え方がヨーロッパを含めて浸透していると思うし、ロシア近隣の国においてはその割合がウクライナと同じぐらいになってきている。(中略)
その上で、「私が住んでいるドイツとウクライナは2000kmくらいの距離にあり、今週には女性と子どもがミュンヘンにも逃げてきた。そうした女性たちがSNSに発信する情報が、“私たちと続いているんだ”という意識を作ってくれている面はあると思う。
一方、前提として考えたいのは、どの国においても戦争を遂行する側が“女性の顔”を利用しようとするということだ。(中略)」
■女性も男性と同じリスクを背負うべき?
一方、ウクライナではロシアの侵攻が始まると、防衛態勢強化のために18〜60歳までの男性の出国が制限された。これに対し“なぜ男性だけなのか”といった疑問の声も上がっている。
ソフトウェアエンジニアでタレントの池澤あやかは「男性でも女性でも、戦争に行って自分の命を危険に晒すのは嫌だと思う。そこでなぜ女性だけが行かなくていいということになるのか。男性だけにリスクを背負わせるというのは良くないことだと思うし、ジェンダー平等を訴えるのであれば、女性も積極的にリスクを取っていく必要があると思う。ただ、戦地において生理中はどうするんだ、お風呂はどうするんだ、といった問題も出てくるので、ある程度はジェンダーバランスが取れていないと女性が参加するのは難しいのではないか」とコメント。
フィギュアスケート元日本代表の安藤美姫は「泣きながらボーイフレンドや旦那様と別れる女性、子どもを連れて国外に逃げる女性の姿をテレビで見ているが、もちろん国内に残りたいという人、戦いたいという人もいると思う。女性であるから戦争に行かないという時代ではないと思うし、日本ではできないことだろうが、私も同じ立場になったら自分や家族の身を守るためにも、銃を取ろうと思うかもしれない。ただ、他の女性の姿と自分と照らし合わせてしまうということは、あまりいい方向に動かないのかなという思いもある。
そして、もちろんお父さんが育てている家庭もあるとは思うが、子どもを守って育てていくという面ではやっぱりお母さんの方が長けていると感じるし、ウクライナ人の子孫を残していくという面では女性を守った方がプラスに動くこともあるのではないか。戦争という状況においては性差別やジェンダーの問題とは別に、選択肢として“女性と子ども”を逃がす、ということもあるのかなと思う」とコメントした。
■今も続く、“男性的な女性の語られ方”
安藤の話を聞き、父子家庭に育ったというギャルユニット『BlackDiamond』リーダーのあおちゃんぺは「もちろん、率先して行きたい方、身体能力がずば抜けていい方であれば活躍できるとは思うが、女性と子どもを逃がすというのは、子育てや子孫の繁栄を考えると正しい選択だと思う」と賛同。
ただ、「男性ばかりのところに女性が行けば弱い存在のように思われたり、性暴力の対象になったりする。私だったら絶対に行こうとは思えないと思う」と、戦場や各国の軍隊でしばしば問題になってきた女性への性暴力について問題提起した。
デザイナーでモデルの長谷川ミラは「戦争はどう考えてもそういう場になるが、東日本大震災の際には避難所での性的被害が多く報告されているわけで、どこでも起きうる問題でもある。その意味では、女性たちが自分を守るために対策をするだけでなく、男性たちを教育するための議論をすべきだ」と指摘。
「2021年の『ジェンダーギャップ指数』(世界経済フォーラム)では、ウクライナは74位で、ウクライナ系カナダ人の友人に、数年前まで女性が就けない職業もあったと聞いた。120位の日本よりも高い順位とはいえ、そういう背景もあると思う」と話した。
柳原氏は「男性側の教育が必要なのではないかという指摘は、本当におっしゃる通りだと思う。19世紀以降、国民国家というものが成立すると、戦争に参加するということが市民権であり、参政権につながった。だからこそ男性中心だったということだ。
そういう語り方が21世紀の今なお尾を引いているために、女性兵士についても“女性なのに強い”とか“女性なのに勇敢だ”というような、19世紀以来の男性的なモードが連続している。そういうことにも目を向けてもいいのではないかと思う」と話していた。(『ABEMA Prime』より)【3月10日 ABEMA Times】
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