孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  統治失敗は明白だが権力は手放さない国軍 膠着した情勢を打破する道筋は未だ見えず

2022-03-08 23:37:10 | ミャンマー
(2月12日、ミャンマー・ネピドーで、国軍が軍事力と平和構築の姿勢を演出した「連邦記念日」の式典【2月12日 東京】)

【ミャンマー連邦記念日 「生活が一層厳しくなる中、記念日のお祝いどころではない」】
クーデターで実権を掌握した国軍支配への抵抗が続いているミャンマー情勢に関しては、2月6日ブログ“ミャンマー 国内的にも、国際的にも、国軍を制止できず、犠牲者・避難民が増加”で取り上げましたが、その後は、ウクライナ情勢一色の国際記事のなかでミャンマー関連記事はあまり多くは目にしていません。

状況が落ち着いているからニュースもない・・・というなら、いいのですが。
おおよその状況は以下のようにも。

****ミャンマー連邦記念日、祝賀ムードなし 少数民族の式典出席は半数****
ミャンマーの首都ネピドーで12日、多数派のビルマ族と少数民族が連邦国家として独立することに合意した「パンロン合意」の締結75年を記念した大規模式典が開かれた。2021年2月のクーデターで全権を掌握した国軍は、全少数民族武装勢力の代表者を招待したが半数の参加にとどまった。
 
国軍のミンアウンフライン最高司令官は式典あいさつで「停戦協定を締結した7勢力と未締結の4勢力の少数民族武装勢力代表者が式典に出席した」と明らかにした。国軍としては、少数民族武装勢力と民主派の連携を阻止したい考えとみられる。
 
ミャンマーでは11年の民政移管以降、約20ある主要少数民族武装勢力のうち10勢力が政府と停戦協定を締結した。しかし、南東部を拠点とするカレン民族同盟(KNU)などはクーデターに反発。民主派の支援に回り、国軍と激しい戦闘を展開している。
 
また、国軍が設置した国家統治評議会は12日、拘束中の800人以上を恩赦で釈放し、約50人の公判を終了させると発表した。

汚職罪などで南東部カイン(カレン)州の裁判所から禁錮80年超の有罪判決が言い渡された国民民主連盟(NLD)の女性幹部の刑期を半分に減刑することも表明した。
 
12日を前に国軍に抗議するデモや攻撃が呼び掛けられ、英BBC放送によると、12日は広範囲で携帯電話からインターネットへの接続ができなくなった。
 
ミャンマーでは新型コロナウイルスの新規感染者数が再び増加している。クーデター後の夜間外出禁止令も続いており、最大都市ヤンゴンのタクシー運転手の男性(55)は「生活が一層厳しくなる中、記念日のお祝いどころではない」と話した。
 
英国から独立する前年の1947年2月、「独立の父」アウンサン将軍がビルマ族を代表して一部少数民族との間でパンロン合意に調印し、少数民族に広範な自治権付与などを約束した。
 
しかし、アウンサン氏は間もなく暗殺され、48年1月の独立後も合意は履行されないままになっている。ただ、毎年この日は多民族国家を目指す国の形が定まった「連邦記念日」として祝日に定められている。【2月12日 毎日】
********************

本来であれば、国家顧問の地位にあるなしに関らず、「独立の父」アウンサン将軍の娘であるスー・チー氏の姿もあるはずですが・・・現在拘束中なのは言うまでもありません。

【国軍統治の失敗は明白ではあるが、膠着した情勢】
いずれにせよ、民主派勢力や少数民族(記念式典に出席しなかった半数の民族)の抵抗は続いています。
軍事政権側も抵抗勢力側も事態打開の道がひらけず、膠着状態にあるようにも見えます。

****袋小路に入りつつあるミャンマー軍事政権とスーチー氏****
1月29日付の英Economist誌が、クーデタから1年を経過したミャンマーの危険な膠着した情勢を打破するために諸外国が何等かの手段を探求すべきことを論じている。

2021年2月1日のミャンマーのクーデタから1年を経過するが、危険な行き詰まりの状況が継続している。しかし、この社説によっても、外部から現状を変えるための有効な手段があるようには思えない。

1月にトタルとシェブロンがヤダナのガス田プロジェクトから撤退することを発表したことは、軍事政権の資金源を断つ意味で有効と思われるが、他にどういう手段があり得るかは明らかでない。

何時のことか分からないが、現状が変わるとすれば、軍事政権の自壊は予見されないが、この政権が国内の状況から方針転換の必要性を考える時ではないかと思われる。既に経済の混乱を始めとして、情勢は統治不能に近いと思われ、軍事政権に大きな圧力となっているに違いないが、今後、次のような事象を注視して行くことが有益であろう。

第一に、国民民主連盟(NLD)の議員が作った影の政府=国民統一政府(NUG)である。NUGは領域を支配している訳でもなく、諸外国政府が承認している訳でもない脆弱な存在であるが、NLDとはスタイルも中味も違った特色を有していることに注目しておく必要があろう。

NUGはスー・チーの独裁的な党運営の手法と決別してコンセンサスでの運営を方針とし、ビルマ族の党であることと決別して少数民族を取り込んだ包摂的な政府だとしている。彼等は連邦政府を目指し、ロヒンギャに市民権を与えることを約束している。

この立場(スー・チーと一線を画する立場である)は彼等が国際的に正統性を主張する必要性、また軍と戦う上で少数民族の協力を必要としている事情を反映するものに違いない。

第二は、抵抗勢力が昨年夏には非暴力の不服従運動から劇的に転換して暴力による抵抗を始めたことである。装備や人員の面で軍に太刀打ち出来るような存在ではないが、少数民族の支援を得ている例もあるようである。

NUGはビルマ族による支配を排除した多様な民族構成を持つ新たな軍(国民自衛軍)を構想するに至っている。軍による残虐な弾圧作戦は抵抗勢力による戦闘員徴募を助ける効果を持っているとの観察がある。

第三に、最も重要な鍵であるが、軍が何時までその一体性を維持出来るかの問題である。これまでにも兵士や警察官の逃亡が伝えられているが、国民に銃を向ける行動に兵士のモラルが低下する、あるいは軍の方針に幹部の間で分断が生ずることはないかという問題である。軍が分解することは考えられないが、軍の一体性に対する脅威が強まることは軍事政権の行動の重大な制約要因となろう。

スーチー氏は過去の人との見方も
以上に鑑みれば、軍事政権がその基盤が徐々に浸食されることを阻止することは相当に困難に思える。中国がスー・チーの釈放を要求しているとこの社説にあるが、彼女の釈放が情勢を転換する一手になるようにも思えない。

そもそも、軍が彼女の政治的復権を認めることはないが――彼女は軍の歓心を買うことも試みたが(ヒンギャの問題について国際司法裁判所で軍の弁護に立った)、結局、彼女と軍とではうまく行かないことが証明された――彼女は最早過去の人物になりつつあるように思われる。【2月16日 WEDGE Infinity】
********************

スー・チー氏の政治資質に問題もあること、ロヒンギャ問題で消極的対応に終始していることなど・・・はありますが、「最早過去の人物になりつつある」というのはどうでしょうか?

軍事政権から民政復帰するとき、国民をまとめられるのは彼女しかないように思えます。

ただ、軍事政権が彼女を解放するとも思えませんので、その意味では「最早過去の人物になりつつある」のかも。

国軍支配が完全に失敗したことは明らかです。国軍指導者も「こんなはずではなかった」と考えているのでは。
それでも権力は手放しません。

一方で、民主派勢力や少数民族側に国軍を凌駕する力があるようにも見えず、一般国民の抵抗も力で封じ込まれている状況では、国軍内部から明らかな統治失敗に対する動きが出てこないと状況はなかなか変わらないのかも。

あと、国軍を支援する中国・ロシアの対応が変わらないとなかなか・・・

****中ロがミャンマー軍政に武器供与 国連特別報告者****
国連でミャンマーの人権問題を担当するトム・アンドリュース特別報告者は22日、昨年2月のクーデター後も中国やロシア、セルビアがミャンマー軍事政権に対し、市民への弾圧に使われている武器を供与し続けているとの報告書を公表した。
 
アンドリュース氏は国連安保理に対し、「ミャンマー市民に対する攻撃や殺害に使われていることが分かっている武器の軍事政権への移転を禁じる決議について協議、採決するための」緊急会合を招集するよう呼び掛けた。
 
同氏は声明で、「軍政は昨年のクーデター後、罰を受けずに残虐な犯罪に及んでいるとの証拠があるにもかかわらず、安保理の常任理事国であるロシアと中国は軍政に対して、数多くの戦闘機や装甲車両を供与し続けている。ロシアに関しては、さらなる武器供与も確約している」と指摘した。
 
報告書の中でアンドリュース氏は、3か国による武器の供与について「市民への攻撃に使用されるだろうと完全に認識した中で実施されており、恐らくは国際法違反になる」と強調した。
 
国連によると、ミャンマーでは昨年2月以降の暴動に対する軍政の弾圧により、市民1500人以上が死亡している。 【2月22日 AFP】
*********************

【相変わらずの国軍のロヒンギャ問題対応】
ロヒンギャ問題への軍事政権対応は相変わらず。

****ロヒンギャ迫害審理 ミャンマー国軍「司法裁に管轄権なし」主張****
オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)で21日に再開したミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」への迫害を巡る審理で、ミャンマー国軍の代表は「ICJはこの問題を審理する権限がない」と主張した。
 
ミャンマー国軍が国際協力相に任命したコーコーフライン氏が出廷し、ロヒンギャ問題について「政府が平和的な解決に取り組んできた」と述べ、訴訟の却下を求めた。その上で、審理自体には協力する意向を示した。続いてミャンマー側の弁護士が、提訴した西アフリカのガンビアには訴訟を起こす法的地位がないと主張した。
 
裁判を巡っては、ミャンマーの民主派が設置した国民統一政府(NUG)は、ICJにこの問題の管轄権を認めた上で、国軍の代表を出席させないように求めていた。

ICJのジョアン・ドノヒュー裁判長は21日、コーコーフライン氏の出廷に先立ち、訴訟当事者は「特定の政府ではなく国家である」と述べた。これに対し、NUGは21日、「審理が軍事政権に正当性を与えるものではないと信じる」との声明を発表した。
 
審理は28日まで開かれる。欧米メディアは、ICJが管轄権の有無を判断するまでに数カ月かかり、管轄権を認めた場合は、ガンビアが主張している国連のジェノサイド条約違反と判断されるまでは数年かかるとの見通しを報じている。【2月22日 毎日】
********************

仮に数年かけてジェノサイド条約違反と判断されても、国軍支配が続く限り、事態は全く変わらないでしょう。

【ASEAN特使派遣も成果は期待できず】
ミャンマー軍事政権への対応で温度差があるASEANは、軍事政権と調整がつかずこれまで特使派遣ができませんでしたが、議長国カンボジアのプラク・ソコン外相がASEAN特使としてミャンマーを訪問するようです。

****ASEAN特使、20日からミャンマー訪問****
カンボジア外務省報道官は、東南アジア諸国連合(ASEAN)のミャンマー問題担当特使であるプラク・ソコン外相が今月20─23日にミャンマーを訪問することを明らかにした。

和平プロセスの開始を目指す。同相は先月、ミャンマーの軍事政権に対し、全ての利害関係者との面会を認めるよう求めていた。カンボジアは、現在ASEANの議長国。

外務省報道官は、同相が誰と面会するか、詳細を明らかにしていない。ASEANの特使は過去に民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏との面会を試みたが、失敗に終わっている。(後略)【3月4日 ロイター】
*******************

カンボジアのフン・セン首相とミンアウンフライン氏のオンライン会談で、ミンアウンフライン総司令官は、東南ASEAN特使が国民民主連盟(NLD)のメンバーと面会することを認めたとのこと。ただし、スー・チー氏と面会する可能性は低いと見られています。【2月7日 ロイターより】

いずれにしても、軍事政権に宥和的なフン・セン首相の命を受けるカンボジア外相ですから、軍事政権に厳しい注文をつけることはなく、国軍の主張を拝聴して帰ってくるのでしょう。

あとは、ASEAN内部で軍事政権に厳しい対応をとる国がどう反応するか・・・でしょう。

【停電で厳しさを増す市民生活 軍の意図的作戦?】
現在のミャンマー国内の市民生活について、停電が多くなっており、しかも“軍政による反軍政の市民の行動を困難に陥れる作戦ではないか”とも見られているとか。

****内戦状態のミャンマー、大規模停電で干上がる市民生活、SNS監視も強化****
国際報道はロシアによるウクライナ侵攻一色となっているが、ミャンマーにおける軍と武装市民・少数民族武装勢力との戦闘も依然収束しておらず、むしろ一部では激化している。
 
特に最近になって一般の市民生活の大きな脅威となっているのが大規模な停電だ。
ミャンマーの反軍政の独立系メディア「ミッズィマ」などによると、中心都市ヤンゴンでは2月初旬以降、停電が頻発しており、ひどい時は1日約5時間も電力が停止する事態が続いているという。
 
軍政によれば、停電の主な原因は、軍政に対抗するために市民が電気料金の支払いを拒否していることとしているが、同じヤンゴン市内でも、軍の基地や施設に隣接する地区では停電は頻発していない。こうしたことから停電は、軍政による意図的なものである可能性も指摘されている。

停電で市民生活に深刻なダメージ
ヤンゴンで治安当局による追及・逮捕を逃れるために地下に潜伏しているジャーナリストによると、ヤンゴン市内の停電は多くの地区で1日7〜8時間に及ぶこともあるという。だが軍の施設がある地区では停電は2日に1度、それも3時間程度となっており、地区により差が出ていると証言する。
 
ミャンマーは3月から一年で最も暑くなる乾季に入り、雨季が始まる6月までは電力需要が非常に高くなる。このため今後も停電が続くようであれば市民生活に大きな影響が出ることが考えられる。

エアコン、扇風機、冷蔵庫といった住居内の電気製品、あるいは病院の医療機器、銀行のATMなどの公共サービスへの電力供給が滞り、機能不全になる可能性がある。
 
停電の原因を、市民らによる電気料金の支払い拒否にあるとする軍政は、市民に対して電気料金の速やかな支払いを求めている。
 
企業の中には、停電による被害を軽減するために自家発電機を使用しているところもあるが、自家発に使用する燃料も高騰しており、「いつまで使えるかわからない」と懸念を表明している。
 
ヤンゴンではガソリンや灯油などの燃料、ガスも値上がりしており、これまた市民生活に打撃を与えている。
 
燃料の値上がりは公共バスの運行にも響いている。バスの運行回数が減少し、やっと来たバスも乗客が満員のため、バス停でどれだけまっても一向に乗車できない状況になっていると現地報道は伝えている。
 
ところが軍の施設がある周辺地区では停電の頻度も少ないことから、停電の理由は軍政が説明している電気料金の支払い停滞だけではなく、軍政による反軍政の市民の行動を困難に陥れる作戦ではないか、との見方も強まっている。

情報統制も強化、スマホの情報から民主派の若者が芋づる式に逮捕
こうした大規模な停電で市民生活が苦しくなる中、ヤンゴンでは2月以降、SNSで反軍政の情報発信を続ける若者らに対し、軍政が一斉摘発に乗り出しているという。
 
治安当局はネット上で情報発信を続ける人物のスマートフォンなどから、芋づる式にその仲間の連絡先や住所などを入手して、居場所を確認できた85人の若者を2月中に発見して身柄を拘束したと一部報道機関が報じている。
 
(中略)釈放された若者は治安当局の協力者か、今後の協力を約束した者だ。その他の若者は警察で尋問を受けた。軍の施設に送られた若者は、これまで反軍政の活動が顕著な者だった模様で、今後さらに厳しい取り調べや拷問を受けるのではとの懸念も出ている。

スマホを使って仲間を装い、誘い出して逮捕
また治安当局は反軍政の情報発信を続ける若者のFacebookやInstagramなどの検閲を強化しており、アップされた写真などから本人の居場所、活動場所、同僚、賛同者などの個人情報の特定を強化し、摘発を進めている。
 
地下運動を続ける若者の一人は反軍政のメディアに対してこう証言している。
「治安当局は、逮捕した若者のスマートフォンを利用し、その所有者を装って『釈放されたので会おう』と仲間を誘い出し、現場にやってきたところを逮捕している」
 
その「逮捕」にしても、極めて暴力的だ。(中略)

軍と民主派との戦闘、各地で勃発
このように民主化を求める市民側が追い詰められる中、ヤンゴン市内では治安部隊と武装市民との戦闘が激化している。2月19日、タケタ郡区で軍の車両や軍が駐屯するタケタサッカー場に対して武装市民側が手りゅう弾攻撃を行い、兵士2人が死亡、4人が負傷した。
 
一方、軍はタケタ郡区のセブン市場に放火した。軍によると武装市民が市場内に潜伏しているとの情報に基づいた作戦であるとして、放火を正当化している。
 
中部の都市マンダレーでは2月21日に地元大学構内に駐屯していた軍部隊に爆弾攻撃が2回あり、兵士が死亡。また武装市民組織はマンダレーのマハ・アウン・ミャイ郡区など3郡区の地方事務所を攻撃して放火した。地方事務所は軍が占拠して、市民弾圧の拠点となっていたことから武装市民メンバーが放火したようだ。
 
このほかにも、各地で武装市民による治安組織に対する攻撃が相次ぎ、軍も空爆という手段まで含めて反撃中だ。

市民の犠牲も増えている。タイ・バンコクに拠点を置くミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると3月3日現在軍政により殺害された市民は1597人に上り、逮捕訴追を受けた市民は9478人となっている。
 
ウクライナの人々も大きな苦難を強いられているが、ミャンマーの人々もまた塗炭の苦しみを味わい続けている。
【3月8日 大塚 智彦氏 JBpress)
*********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする