(【3月16日 PR TIMES】)
【メディア・国際世論の偏向 「かわいそうな」ウクライナ人と「かわいそうでない」イエメン人】
ウクライナの状況について日本を含む西側世界では連日メディアが大きく取り上げ、軍事進攻したロシア・プーチン大統領に対し世論は厳しい批判の声をあげています。
そのことは当然のことと思いますが、以前のブログでもちょっと書いたように、釈然としないものも個人的に感じます。(3月13日ブログ「ポーランド 寛容なウクライナ難民対応 これまでアフリカ・中東難民には冷淡 “二重基準”“差別”?」)
今のウクライナの悲劇はこれまでも、今も、アフリカや中東などでは普段に起きていることでもあります。
そうしたアフリカ・中東世界の悲劇に対し、日本や西側世界はウクライナに対してと同様の関心・共感を持ち、ロシアに対してと同様に批判の声を上げたのか?
ポーランドなど東欧諸国が温かく受入れているウクライナ難民の一方で、アフリカ・中東の人々は同様に受け入れられているのか?
そうした疑問の背景に、欧州・白人社会とアフリカ・中東に対する二重基準みたいなものがあるのでは?
私のような全くの部外者がそのような思いを抱くのですから、当事者の思いは複雑でしょう。
****ウクライナ侵攻でもロシアは国際的に孤立していない…新経済秩序が構築される可能性も****
ロシアがウクライナに侵攻して1ヶ月が経ち、西側諸国では「ロシアは孤立に追い込まれている」との見方が常識になりつつある。
非常に厳しい経済制裁を科されたことでロシアは大打撃を被り、国際社会から排除されつつあるのはたしかだが、西側諸国の対応に冷ややかな視線を送っている国々が少なくない点も見逃せない。
3月2日に国連で行われたロシア軍の即時撤退を求める決議では、国連加盟193カ国のうち141カ国が賛成したのに対し、反対はロシアを含む5カ国、棄権したのは35カ国だった。国別で見れば賛成が圧倒的多数だが、人口の総数で比較すると世界の人口(77億人)のうち53%が棄権などに回っていたことがわかる。
アフリカや中東で西側諸国のダブルスタンダードへの不満がこれまでになく強まっていることも気がかりだ。
前述の国連決議を棄権した東アフリカ・ウガンダのムセベニ大統領は、ウクライナを巡る西側諸国とロシアの対立について「アフリカは距離を置く」と表明した(3月18日付日本経済新聞)。歴史的にアフリカを搾取してきた西側諸国がウクライナだけに肩入れするのは「ダブルスタンダード」だというのがその理由だ。
同じく国連決議を棄権した南アフリカのラマポーザ大統領も17日、ウクライナにおける戦争についてNATOを非難し、「ロシア非難の呼びかけに抵抗する」と述べた。
アフリカでは難民や人道危機における国際社会の対応が「人種差別的」だと不満の声も上がっているが、中東でも「西側諸国のウクライナへの対応が中東に向けられた態度とあまりにも違う」との不信感が強まっている(3月8日付ニューズウィーク)。
欧米諸国は避難するウクライナ人に対して門戸を喜んで開放しているが、かつてシリアからの難民が流入した際、どれだけ冷たい態度をとったことか。中東地域で「白人優先主義だ」との非難は高まるばかりだ。
「外国への侵攻」という意味では米軍のイラク侵攻も同じだが、「国際社会は米国に制裁を科したのか」、「侵攻された側を支援したのか」との怒りもこみ上がってくる。
アフガニスタンからの米軍の撤退ぶりが与えた影響も小さくない。「米国はいざというときに頼りにならない」との認識を深めた中東諸国には「米国の同盟国であることは利益よりも不利益の方が大きいのではないか」との懐疑が芽生えつつあるという。
このように、「ロシアが国際的に孤立している」とする西側諸国の認識は、必ずしも国際社会全体の実態を表しているものではない。(後略)【3月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ロシアが孤立しているか云々は今回はパスします。
問題にするのは、“難民や人道危機における国際社会の対応が「人種差別的」だ”という指摘。
その顕著な事例が、内戦が続き、多くの国民が飢餓に瀕しているにもかかわらず、長く「忘れられた戦争」としてあまり国際的に大きな関心が払われることがない中東の最貧国イエメンでしょう。
****「かわいそうな」ウクライナ人と「かわいそうでない」イエメン人****
世界中の耳目がウクライナでの戦争とその被災者に向く中、ろくに顧みられることもないままイエメン支援会合がひっそり閉幕した。会合は、国連、スウェーデン、スイスが共催し、ただでさえアラブ最貧国の一つだった上、2011年以来の政治変動と国際紛争で「最大の人道危機」と呼ばれて久しいイエメン人民を支援するためのものだ。
会合に際し、ユニセフとWFPは共同報告書を発表し、現時点で3万1000人が厳しい飢餓状態にあるところ、本年中にはこれが5倍の16万1000人に増加するだろうと予想した。同報告書は、現時点で1740万人が直ちに支援を必要とする状態だが、これも2022年6月までに1900万人に増加すると警告した。
必要な支援を行うために国連が各国に要請した拠出額は約43億ドルだったが、支援会合を通じて拠出表明があったのは要請の3分の1にしかならない17億3000万ドルだった。
国連のグリフィス事務次長(人道担当)は、ウクライナでの戦争に世界の関心が集まる中、イエメン紛争を忘れてはならない、今般の支援会合は国際社会がイエメンのことを見捨てていないことを示す機会だと訴えたが、現実の拠出表明、そして問題についての報道の量・質を見る限りこの呼びかけは無視されたといっていい。
そもそも、2021年分についても国連の拠出要請38億5000万ドルに対し、17億ドルしか拠出表明がなかったことから、ウクライナでの戦争の有無や展開にかかわらず、すでに国際社会と称するものやそこで生きる良心と道徳心あふれる人々はイエメン人民がどんなに困窮しようが、飢えて死のうが大して関心がないということは否定しようがない。
イエメン人民の窮状が全くと言っていいほど顧みられない、大体からして日本国内でこの問題を報じる報道機関、まともに論評する「専門家」、イエメン人民の窮状や紛争の実態に関する「現地の声」を伝えてくださる「報道人」がほぼ存在しないのは、今に始まったことではない。
この問題は、イエメン紛争が本格化し支援が喫緊の課題となった2014年から2015年ごろは、イエメン人民の窮状はEU諸国に押し寄せた「大量の」シリア難民の問題やシリア紛争の惨状についての報道によって見事に吹っ飛んだ。
なお、本邦政府はイエメン領内での活動がほぼ不可能な中、国連機関をはじめとする各種機関を通じて様々な支援事業に拠出・関与しており、国連からの度重なる要請が顧みられない中での貢献としてはマシな方に属する。ちなみに、アメリカ政府の発表によると同国はイエメンの人道支援のために過去7年間で45億ドルを拠出し、今後も5億8500万ドルを提供する予定とのことである。
これまでも様々な機会で何故イエメンの窮状はまるで顧みられないのか、シリアやウクライナに平和や支援を求める声に比べればイエメンにそれを求める声はないも同然なのかについて考察してきた。
主な原因としては、有力な支援国となるべきアラビア半島の産油国諸国がイエメン紛争の当事者と化しておりそこからの支援はイエメン全体に行き渡るものではないこと、そうした諸国をはじめとする外部の当事者が紛争やイエメン国内の政治的な権益配分についての不平を収束させる見通しも方法もないまま干渉を続けていること、そして何よりも、イエメンから紛争や窮状について発信する能力やそうした情報を拾い上げて国際的な関心を惹起する機能や努力が著しく欠けていることが挙げられる。
報道機関、そして近年ではSNS上の有力な発信者には、単に記事や動画を配信するだけにとどまらない絶大な権力がある。それは、読者・視聴者に対し「どんな問題に関心を持つか」、「ある問題についてどのように解釈し、どのように振る舞うか」を方向付け、誘導するという恐るべきものである。
この権力者たちのお気に召さない限り、どんなひどい目に合おうが一般の読者・視聴者の話題にもしてもらえないみじめな生き物へと貶められることになってしまう。
従って、イエメン人民の窮状が全くと言っていいほど顧みられない理由は、彼らの生き物としての価値がシリアやウクライナの人民のそれと比べて劣るからではなく、一般の読者・視聴者に対し話題を提供し、反応を方向付ける権力を持つ者たちがイエメン人民についての「話題や考察・行動の機会を提供する」ことを怠り続けたからだといってもいい。
つまり、イエメンについての情報がほぼ発信されない状況をここ1カ月ほどの推移に即して解釈するならば、世の中の情報発信・伝達に従事する人々の多くがウクライナ人民は支援すべきだがイエメン人民は飢え死にしても一向にかまわないと表明したに等しい。
世の中の情報発信は、その担い手の政治・経済的状況や、紙幅や放送のために費やすことができる時間という技術的な制約の中でなされる高度な営みである。他のニュースと比べてイエメンの問題を「ボツ」にするという行為とその影響についてもそうした高度な営みの判断材料に入れてもいいのではないかとも思う。【3月17日 髙岡豊氏 YAHOO!ニュース】
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いささか感情的に過ぎるものがある上記記事ではありますが、指摘する問題は間違ってはいないでしょう。
【国連機関が警鐘を鳴らすイエメンの飢餓 緊急レベルの飢餓に苦しむ人の数は増加の一途】
イエメンの窮状は、記事にもあるように国連機関などが強い警鐘を鳴らしています。
****イエメン:史上最悪の飢餓、飢饉レベル5倍増の予想【プレスリリース】****
ユニセフ・FAO・WFP共同声明
ユニセフ(国連児童基金)、国連食糧農業機関(FAO)、国連世界食糧計画(国連WFP)は、イエメンでは、今や1,740万人が食料支援を必要とし、緊急レベルの飢餓に苦しむ人の数は増加の一途をたどっており、悲惨な食料危機がさらなる大惨事へ向かっていると、警鐘を鳴らしました。
3機関は、イエメンに関する最新の総合的食料安全保障レベル分類(IPC)分析が本日(14日)発表されたことを受けて、今年の6月から12月の間に、イエメンの人道状況はさらに悪化し、最低限の食料ニーズすら満たすことができない可能性が高い人々の数は、過去最高の1,900万人に達するだろうと警告しました。
同時に、緊急レベルの飢餓に苦しむ人の数は、今後さらに160万人増え、年末までに合計730万人にのぼることが予想されると指摘しました。
本日発表されたIPC報告書では、5歳未満児の急性栄養不良が依然として高い水準にあることも示されています。イエメン全域で220万人の子どもが急性栄養不良に陥っており、そのうち50万人近くは命を脅かすほどの重度の急性栄養不良に直面しています。
本日発表されたIPC報告書では、5歳未満児の急性栄養不良が依然として高い水準にあることも示されています。イエメン全域で220万人の子どもが急性栄養不良に陥っており、そのうち50万人近くは命を脅かすほどの重度の急性栄養不良に直面しています。
また、約130万人の妊産婦も急性栄養不良に苦しんでいます。最も状況が深刻なのは、ハッジャ州、ホデイダ州、タイズ州です。重度の急性栄養不良に陥った子どもたちは、治療食の支援を受けなければ命を落とす危険性があります。
紛争こそが、イエメンにおける飢餓の根本的な原因です。紛争の副産物である経済危機と通貨の下落によって、2021年の食料価格は2015年以降の最高水準へと高騰しました。
紛争こそが、イエメンにおける飢餓の根本的な原因です。紛争の副産物である経済危機と通貨の下落によって、2021年の食料価格は2015年以降の最高水準へと高騰しました。
ウクライナでの紛争がイエメンの食料輸入に多大な影響を与え、食料価格をさらに引き上げることも予想されます。イエメンは食料をほぼ全面的に輸入に依存しており、小麦輸入の30%がウクライナからなのです。
最新のデータのきわめて憂慮すべき点は、破滅的なレベルの飢餓(IPCの5段階のうち最も深刻なフェーズ5、飢饉)にある人の数が、現在の3万1,000人から2022年後半には16万1,000人にまで、5倍に増加すると予測されていることです。
国連WFPは資金不足のために、今年初頭に800万人への食料配給の削減を余儀なくされました。これにより、各家庭は国連WFPが基準とする1日の最低食事量の半分をかろうじて受け取っているという状況におかれています。いまにも飢饉のレベルに陥る危険性のある500万人には、引き続き完全な食料配給が行われています。
ユニセフ事務局長のキャサリン・ラッセルは、「イエメンでは、日に日により多くの子どもたちが空腹のまま眠りにつくようになっています。子どもたちはますます、身体的・認知的な障がい、さらには命の危険にさらされています。イエメンの子どもたちの窮状を、これ以上見過ごすことはできません。これは、生死に直結する問題なのです」と述べました。【3月16日 PR TIMES】
国連WFPは資金不足のために、今年初頭に800万人への食料配給の削減を余儀なくされました。これにより、各家庭は国連WFPが基準とする1日の最低食事量の半分をかろうじて受け取っているという状況におかれています。いまにも飢饉のレベルに陥る危険性のある500万人には、引き続き完全な食料配給が行われています。
ユニセフ事務局長のキャサリン・ラッセルは、「イエメンでは、日に日により多くの子どもたちが空腹のまま眠りにつくようになっています。子どもたちはますます、身体的・認知的な障がい、さらには命の危険にさらされています。イエメンの子どもたちの窮状を、これ以上見過ごすことはできません。これは、生死に直結する問題なのです」と述べました。【3月16日 PR TIMES】
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ウクライナでの戦争は“食料をほぼ全面的に輸入に依存しており、小麦輸入の30%がウクライナから”というイエメンを更に追い詰めています。
そんなイエメンで、紛争の方はむしろ激しさを増しているとも。
“国連WFPイエメン事務所代表 リチャード・レーガン氏「年初から紛争は激しさを増し、爆撃もかなり多くなった」「人口3000万人のうち2000万人が、毎日食べることが困難。かなりショッキングな話です」”【3月25日 日テレEWS24】”
【フーシ派、サウジアラビア石油施設を攻撃 原油価格に影響 やっと目を向ける国際社会】
どれだけの子供が栄養失調で死のうが普段顧みられることがないイエメンでの戦闘に国際社会が目を向ける唯一のケースが、軍事介入を続けるサウジアラビアに対するイエメン・反政府勢力フーシ派の攻撃が及んだとき。
****フーシ派、サウジ石油施設を攻撃 F1会場付近で大火災****
サウジアラビア・ジッダで25日、国営石油会社サウジアラムコの石油施設が隣国イエメンの反政府武装組織フーシ派の攻撃を受け、大規模な火災が発生した。火災は同市で開催中のフォーミュラワン(F1世界選手権)のコースからも見られた。
フーシ派は、無人機や弾道ミサイルでジッダのアラムコ施設や首都リヤドの施設などに計16回の攻撃を行ったと発表。イエメンとの国境にある南西部ジザンの電力施設も攻撃を受け炎上した。フーシ派と戦うサウジアラビア主導の連合軍も、攻撃があったことを確認した。
ジッダのF1コースでは当時、練習走行が行われていた。レッドブルの世界王者マックス・フェルスタッペン選手は走行中、チームとの無線連絡で、何かが焦げた臭いがすると語った。
イランの支援を受けるフーシ派は2014年、イエメンの首都サヌアを制圧。サウジアラビア主導の連合軍は翌15年、国際社会の承認を受けたイエメン政権を支援するために軍事介入を開始した。 【3月26日 AFP】
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サウジアラビア主導の連合軍がイエメンの親イラン組織フーシ派の拠点を報復空爆したとのことですが、影響はウクライナ情勢で敏感になっている石油市場に直ちに及んでいます。
****サウジ石油火災でフーシ派に報復 原油価格上昇に懸念****
サウジアラビア主導の連合軍は26日、イエメンの親イラン組織フーシ派拠点への空爆を開始し「軍事作戦を続ける」と発表した。イエメンの首都サヌアや西部の港湾都市ホデイダで「脅威の源」を標的にしたとしている。サウジの国営メディアが伝えた。国営石油会社の施設がフーシ派の攻撃を受け、大規模な火災が発生したことへの報復。
フーシ派は25日の声明で「さらなる攻撃」を予告。ロシアのウクライナ侵攻に伴い原油価格が高騰する中、報復の連鎖は価格上昇に拍車を掛けると懸念される。
原油高を受け、世界最大級の産油国サウジには増産要求が高まっている。【3月26日 共同】
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****北海ブレント120ドル突破、サウジ石油施設への攻撃受け****
米国時間の原油先物は1%超上昇し、北海ブレント先物が1バレル=120ドルを突破した。サウジアラビアの石油関連施設に対するミサイル攻撃が影響した。一方、米政府は戦略石油備蓄の再放出を検討しているという。(後略)【3月26日 ロイター】
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サウジアラビアの石油施設への攻撃はフーシ派にとって戦略的に重要なポイントですが、こうでもしなければ目を向けようとしない国際社会への反発もどこかにあるのかも。
2001年3月、アフガニスタンのタリバンは世界的な文化遺産であるバーミヤンの大仏2体に砲弾とロケット砲を浴びせ、最後はダイナマイトで爆破しました。その非道に国際社会は非難の声をあげました。
その国際非難にたいして、あるタリバンが言い放った言葉
「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】