孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  改善しない生活状況、女性の権利侵害 タリバン、「掃討作戦」開始 市民監視目的?

2022-03-18 22:52:24 | アフガン・パキスタン
(タリバンによる「掃討作戦」 捜索対象の住宅の前に集まるタリバンの戦闘員ら (8日、カブール)【3月18日 日経】)

【相変わらずの経済混乱・生活苦、女性への人権侵害】
国際関係ニュースがウクライナ情勢一色になっているなかで、その他の地域のニュースは目にする機会が減っていますが、今回はタリバン支配のアフガニスタンに関するニュースをいくつか。

アフガニスタンについては、2月13日ブログ“アフガニスタン 政治混乱・干ばつ・食糧難・医療崩壊・・・「世界最大の人道危機になりつつある」”でも取り上げましたが、危機的状況は変わっていません。

上記ブログでは“金欠で子ども売る家族”に関する記事も触れましたが、売る子供がいなければ自分の臓器を・・・

****アフガンで広がる貧困 臓器売買も横行 タリバン支配から半年****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが首都カブールを制圧して、15日で半年となった。タリバンが政権を奪取して以降、国内経済は事実上破綻状態となり、貧困が急速に拡大している。

農村部では困窮した住民による臓器の売買も横行。「人道的危機と経済的崩壊」が同時に押し寄せ、安定には程遠い状況が続いている。

2400万人に支援必要
「私はやりたくないが、臓器を売って生活をする人も多い」。西部バドギス州のハビビさん(45)は産経新聞通信員の取材に困窮を打ち明けた。

ハビビさんによると、腎臓1つの値段は約1300ドル(約15万円)程度。これまでも臓器売買はあったが、困窮が拡大して臓器を売ろうとする人が絶えず、〝価格〟は下落しているという。複数メディアは、住民が子供を人身売買業者らに売って生活費を得る様子も報じた。

タリバンの政権奪取後、国家予算の8割を占めた海外援助が停止されたことに加え、長年続く干魃(かんばつ)の影響で経済は非常に厳しい状況だ。国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は、今年は人口の約6割に当たる2400万人以上に人道支援が必要になるとの見通しを示した。昨年と比べて600万人増えるという。

東部ラグマン州のムルザさん(50)は「(タリバンが政権を握って以降)戦闘は確かに減ったが、貧困をどうすればいいのか」と語る。電気が使えるのは1日のうち3時間程度。警備員だったムルザさんも失業し、家財道具を売りながら糊口をしのいでいる。

女性への人権侵害続く
タリバンは昨年8月15日にカブールを制圧して政権を掌握した。9月には暫定政権を立ち上げ、支配体制を固めている。

ムルザさんが語るように国内の治安には改善がみられる。国連によると、昨年8月19日〜12月31日の間に起きた銃撃戦など治安に関する事件は985件で、前年同期比で91%減少した。タリバンと政府軍の戦闘がなくなったことが影響しているとみられる。

一方、女性に対する人権侵害は依然として深刻だ。タリバンは女性の就学を制限し女性の映画出演を禁止。「男性の親族が同伴しない限り、女性は公共交通機関を利用してはならない」との命令も出している。

政権批判にも神経をとがらせ、ジャーナリストの拘束や暴行も相次ぐ。

これに対し、欧米各国を中心に国際社会は暫定政権への厳しい姿勢を貫く。アフガンの豊富な天然資源に着目する中国を含め、暫定政権を正式な政府として承認した国はない。

アフガンの政治評論家、サミム・カイバル氏は「凍結資産の解除や国際援助の再開はなかなか見込めず、国内の貧困は拡大していくだろう。国際社会は暫定政権を通さずに市民に支援が行きわたる方法も考えていくべきだ。そうしなければ市民の餓死が増えるだけだ」と話した。【2月15日 産経】
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女性の就学については、大学は種々の制約のもとで女性の就学を認めることにはなっていますが、現実問題としては「再開」とは言い難い状況です。

****主要大学再開、女子学生まばら=アフガン****
アフガニスタンで26日、イスラム主義組織タリバンが昨年8月に政権を奪取してから初めて、首都のカブール大学など主要大学が再開された。しかし、タリバンの弾圧を恐れ、登校する女子学生の姿はまばらだった。教員の国外脱出も相次ぎ、講義が成立するかどうかも危ぶまれている。【2月26日 時事】 
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【規制の押しつけ 今はそれほど強制力は表面化していなくても、今後は・・・】
教育を初めとして女性に対する制約が多いのは事実ですが、一方でタリバン側も国際的な視線を気にしてでしょうか、旧政権時代のように“力づくで何が何でも”といった姿勢でもないようです。

下記は、ガニ政権崩壊時に遅ればせながら自衛隊機を派遣したもののいろんな問題から“唯一の退避日本人”となり、それから3カ月後に再びカブールに戻って住み続けると決めた安井浩美氏のリポートの一部です。

****唯一の邦人退避から3カ月、カブールに戻って住み続けると決めた タリバン支配下の生活―安井浩美のアフガニスタン便り(1)****
(中略)
 ▽音楽は禁止、とても多い女性への規則
家事の中で洗濯が一番好きな私。というのもカブールの気候は、乾燥していて気持ちが良いからだ。日本にはない真っ青の青空もいい。アマゾンミュージックで1980年代のポップスをスピーカでつなげて聞きながら洗濯をバルコニーに干すのが日課だった。

宗教音楽以外の楽曲を禁じるタリバン政権になってからはそれもできなくなった。家の中では聞いているが、外では聞くことができない。
 
ほかにも、おしゃれ好きにはつらいことが多い。体の線を隠すためにブルカと呼ばれる頭からすっぽり覆うマント、もしくは、アフガンではヘジャブと呼ぶ黒色の足首まである黒いコートの着用が義務づけられたため、すてきな服を着ても人から見てもらえないのだ。
 
女性に対する規則は挙げればきりがなく、欲求不満になっている自分に気づく。ただ、あれもこれもいろんな規則がある割には、強制力が今のところはあまりなく、今までとあまり変わらぬいでたちで、街を闊歩(かっぽ)している若い女性も見かける。
 
いつまでこの状態が続くのか気が気でない。男性はというと、以前のようにしゃれた服装でいるとタリバンに嫌がらせを受けるので、多くが民族服のペラン・トンボンを着用している。(後略)【3月12日 共同】
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まさに“いつまでこの状態が続くのか気が気でない”というところ。

タリバンに対し声を上げる女性もいるようですが、タリバンからの圧力も厳しく、生命の危機に及ぶことも。

****【現地ルポ】「私たちには夢があった」タリバン政権下で声を上げるアフガニスタンの女性たち****
飛び立つ米軍機にぶら下がる人々の衝撃的な映像で、2021年夏に世界の注目を浴びたアフガニスタン。イスラム主義組織タリバンのカブール制圧と米軍の完全撤退で起きた悲劇を、国際社会はもう過去の出来事として忘れているようだ。

しかし実際には市民の生活は悪化の一途を辿っている。米国内のアフガン資産が凍結されたことなどで経済が崩壊し、国民の半分は飢餓に直面しているのだ。

抵抗勢力の戦闘が近く本格化するとの情報が飛び交い、タリバン暫定政権は大規模な家宅捜索などを実施し、取り締まりを強化している。

女性の権利と自由を求めてタリバンに抗議デモをした10代、20代の女性たちもその標的だ。危険を承知でアフガニスタンに留まり、声を上げる女性たちに会った。

●「通りでよく男たちを殴ってたの」
マリアム(24)がカフェに入ってくると、周りの空気が一瞬、揺れる。くっきりとした眉と長いまつ毛に縁取られた大きな瞳、ブラウン系のリップ、礼儀正しさと人懐こさが混じった微笑み。タリバンがカブールを制圧する前まではモデルクラブに所属していたということも頷ける華やかさがある。ベージュのスカーフは、彼女の黒髪だけでなく、秘めた闘志も巧みに覆っているのだ。

「何年か前までは、通りでよく男たちを殴ってたの」と言う。テコンドーの道場に通っていた18歳ごろのことだ。すれ違い様に手や足に触れる男たちが我慢ならなかった。「ちょっと待って」と呼び止め、殴った男に殴り返され、顔が腫れたこともあった。

「私たちには夢があった」。前政権の汚職にはうんざりしていたが、大学でビジネスを学び、「アフガニスタンのビル・ゲイツ」を目指していた。だからタリバンが復活したあの夏、「未来を奪われた」と感じ、いち早く逃亡したガニ大統領ら政治家に怒りが湧いた。

アフガニスタンは多民族国家で、タリバンの主要な構成民族、パシュトゥン人は女性に関して極めて保守的だ。「タリバンはいい人たち」と語るパシュトゥン女性もいるが、タジク人であるマリアムには行動や教育、職業など女性の行動を厳しく規制するパシュトゥンの慣習はなじめない。

友人のラムジア(22)たちが、女性の自由と権利を求めるデモをすると聞いた時、マリアムは「参加しなくちゃ」と思った。

「デモなんて、あばずれがやるものだ」。父はそう言い、弟たちも反対したが、マリアムは振り切った。「ここは私の国よ。女性たちは互いの力が必要で、私にも責任がある」

自分の可能性を試したいと夢に向かって歩いていたのに突然、道を塞がれて止められ、罰せられたようだった。「私たちの罪は何?」。プラカードにそう書いた。

通りで見ていた男たちは「女がやることか」と嫌な顔をした。タリバン兵士に囲まれ、銃を突きつけられたり、催涙ガスを撒かれたりした。それでも女性たちはデモを何度も実行したのだ。

●「抵抗以外に選択肢がない」
(中略)デモ参加者たちは今、追われる身だ。「タリバンのスパイから尾行されているかもしれないから気をつけて」とラムジアはマリアムに忠告する。米CNNテレビのインタビューを受けたラムジアの親友は1月中旬、武装した男たちに自宅で拘束され、2月中旬に解放されるまで行方不明だった。

地元ジャーナリストが人権活動家の話として語ったところによると、北部マザリシャリフでは、タリバンに拘束された複数の女性がレイプされた。事実だったとしても、家族の名誉を重んじる文化の中では被害が公になることはない。不名誉だとして、被害者が肉親に殺されることもあるのだ。

マリアムとラムジアも、タリバンと名乗る男の声で「お前たちを見つけ出す」と脅迫電話を受けた。ラムジアは毎晩、寝る場所を変えている。デモもしばらく中断を余儀なくされたが、女性たちはこれで終わりにするつもりはないという。

「危険なことは分かっている。でも私たちには他に選択肢がないの」と2人は言う。「この国の未来に責任があると思う。もし国を出なければならなくなっても、国外でアフガニスタンのために働きたい」。(後略)【3月18日 舟越美夏氏 AERAdot.】
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【タリバン、治安維持を目的とした「掃討作戦」開始 市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方も】
タリバンは治安維持を目的とした「掃討作戦」を展開しています。

****タリバン、アフガン人の出国禁止 治安理由に「掃討作戦」開始****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは27日夜、自国民の出国を厳しく制限すると発表した。また、首都カブールなど複数の都市で治安維持を目的とした「掃討作戦」を展開していることも明らかにした。
 
タリバン暫定政権のザビフラ・ムジャヒド報道官は新たな渡航規制について、国外に暮らす多くのアフガン人が「非常に悪い状況にある」とする報告を受けたためだと説明。「政府には国民を保護する責任がある。国民の命が危険にさらされないという保証が得られるまで」出国を制限すると述べた。
 
各国政府や非政府組織の計画したアフガン人の国外退避禁止に加え、自力で出国を試みる家族も「理由」がなければ出入国管理局に止められることになる。また、男性親族を伴わない女性の出国は禁止される。
 
タリバンはまた、カブールなど複数の都市で先週末から「誘拐犯、窃盗犯、強盗犯」を取り締まるため、1軒ずつ民家をしらみつぶしに捜索する「掃討作戦」を開始したと発表。イスラム過激派組織「イスラム国」メンバーの疑いのある6人と誘拐犯9人、窃盗団53人を拘束したとした。
 
カブールの大規模な治安作戦は28日も続いており、欧米が支援していた前政権や米軍をはじめとする駐留軍に協力していた人々は、標的とされることへの警戒を強めている。
 
欧州連合のアンドレアス・フォンブラント駐アフガニスタン大使は、「異なる民族グループや女性に対する脅迫、家宅捜索、逮捕、暴力は犯罪であり、直ちにやめなければならない」「(ウラジミール・)プーチン大統領の戦争があろうが、われわれはあなた方を見ている」とツイッターに投稿した。
 
これに対し、ソーシャルメディアを多用するタリバン当局者のムハンマド・ジャラル氏は、「プーチン氏から欧州を守ることに集中しろ」と返した。 【2月28日 AFP】
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「誘拐犯、窃盗犯、強盗犯」を取り締まるため、1軒ずつ民家をしらみつぶしに捜索する「掃討作戦」・・・深夜突然、武装した大勢に踏み込まれる威圧感は甚だしいものがあります。
“定政権に対する市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方もある”とのこと。

****アフガン市民をタリバンが監視****
首都で深夜に家宅捜索

アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンが市民の監視を強めている。カブール首都圏では深夜を含め、抜き打ちの家宅捜索を始めた。

女性を対象に、イスラム法に基づく事実上の出国制限の実施を表明した。テロ対策や人材の国外流出の抑止が目的だとみられるが、失業が深刻になるなか、暫定政権への反発が強まっている。

内務省は2月下旬、家宅捜索を始めた。ポーランド出身のジャーナリストの女性によると、カブールの自宅に深夜、自動小銃や対戦車砲で武装した少なくとも20人の要員が突然、押し入った。「家中のものをひっくり返された。一人暮らしで、とても怖かった」という。

女性は後日、タリバンの広報担当がツイッターに投稿した掃討作戦に関する声明を読み、やっと事態をのみこめた。
タリバン側は家宅捜索の目的を、犯罪者の摘発と治安の維持だと説明するが、暫定政権に対する市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方もある。

住民は不満を募らせている。捜索を受けたカブール市民の一人は、冷蔵庫の上にイスラム教の聖典コーランを乗せていたが、扱いが雑だと要員に叱責された。

別の女性は、家に女性しかいないときに男性ばかりのタリバンの戦闘員が土足で上がり込んできて、食器棚を含め、隅々まで調べた行為に恐怖を覚えたと証言した。

暫定政権は市民の権利を制限している。2月下旬にはタリバンの報道担当が、市民の国外流出を抑える方針を示した。海外に留学する女性は親族の男性と一緒でないと出国できなくなった。イスラム法の解釈が根底にあるとみられる。

報道担当はその後、女性を含めた出国制限は「合法の書類を所持したり招待を受けたりした」人たちには適用しないとツイートした。

タリバン側は、こうした規制が国民を保護するために必要だと主張する。だが、暫定政権の監視下に置かれ、移動の自由も制限された市民の生活は一段と困窮する。国際労働機関(ILO)によると、2021年8月にタリバンがカブールを陥落させた後、50万人以上が職を失った。

暫定政権に抗議する活動に加わる女性は女子校でトルコ語を教えていたが、タリバンの制圧後、失業した。タリバンが女子学生の通学を禁止したためだ。この女性は「タリバンの言うことを聞かないと罰を受ける」と非難する。

「タリバンは私たちの行動、行き先、着る物を含めすべてを統制しようとしている。息が詰まりそうだ」【3月18日 日経】
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旧政権が生まれた内戦の混乱期と異なり、まがりなりも「自由」の空気を経験した現在のカブールなど都市住民、女性に対し「息が詰まる」ようなタリバン支配が受け入れられる余地は小さいように思えますが、そうなるとタリバン側は「力」で・・・ということにも。

そうしたタリバン支配を承認するものではありませんが、危機的な状況に対する人道支援は国際的に行う必要もあります。

****国連、アフガン支援継続を決定 タリバン支配下でも****
国連安全保障理事会は17日、イスラム主義組織タリバンが昨年実権を握ったアフガニスタンで正式な支援活動を継続する決議案を採択した。
 
決議は国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の活動期間を1年間更新するもの。活動内容には、女性、子ども、ジャーナリストなど、人道、政治、人権の分野での協力が含まれている。タリバン政権は国際社会で承認されておらず、決議ではタリバンへの言及はなかった。

採決では14か国が賛成し、ロシアが棄権した。
 
決議案を起草したノルウェーのモナ・ユール国連大使は採決後、AFPに対し「UNAMAの新しい任務は、差し迫った人道的・経済的危機に対応するだけではなく、アフガニスタンの平和と安定という包括的目標を達成するために極めて重要だ」と述べた。【3月18日 AFP】
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