(スーパーで付加価値税の軽減が反映されているかを確認する当局者ら(16日、北部チョルム県)【2月17日日経】)
【GDPは拡大しているものの、通貨安と80%に迫るインフレが進行】
今日、夜のフライトでトルコに向かいます。観光旅行です。
そこで、トルコ経済の話
****トルコ、第2四半期GDPは前年比+7.6% 好調維持****
トルコ統計庁が31日発表した第2・四半期の国内総生産(GDP)は前年同期比7.6%増と、市場予想をやや上回った。輸出と内需が好調だった。
季節・日数調整済み前期比では2.1%増。
ロイターがまとめた市場予想は前年比7.5%増だった。今年の経済成長率予想は4%。今年下半期は、主要貿易相手国の景気減速などを背景に外需・内需が伸び悩み失速するとみられている。
昨年の経済成長率は改定値で11.4%と、新型コロナウイルス禍からの力強い回復を背景に過去10年で最高の伸びを記録した。今年第1・四半期のGDPは前年比7.3%増から7.5%増に修正された。
エルドアン大統領の経済計画では、一連の非正統的な利下げを通じて成長、雇用、投資、輸出の拡大を促しているが、利下げは通貨危機やインフレ高進を招いた。【8月31日 ロイター】
季節・日数調整済み前期比では2.1%増。
ロイターがまとめた市場予想は前年比7.5%増だった。今年の経済成長率予想は4%。今年下半期は、主要貿易相手国の景気減速などを背景に外需・内需が伸び悩み失速するとみられている。
昨年の経済成長率は改定値で11.4%と、新型コロナウイルス禍からの力強い回復を背景に過去10年で最高の伸びを記録した。今年第1・四半期のGDPは前年比7.3%増から7.5%増に修正された。
エルドアン大統領の経済計画では、一連の非正統的な利下げを通じて成長、雇用、投資、輸出の拡大を促しているが、利下げは通貨危機やインフレ高進を招いた。【8月31日 ロイター】
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上記のGDP伸び率を見ていると経済好調のように見えますが、最後の一文に記されている通貨安・インフレという大きな問題に翼面しています。
****トルコのインフレ率、7月は80%に迫る-ピークは先か****
トルコのインフレ率は7月も上昇し、1997年のアジア金融危機後以来となる高水準を記録した。ピークに達するのはまだ先の可能性がある。
トルコ統計局が3日発表した7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比79.6%上昇。6月は78.6%上昇だった。ブルームバーグがまとめたエコノミスト調査では80.24%上昇と見込まれていた。国内最大都市イスタンブールのインフレ率は99%を上回った。
世界的にインフレが高進しているものの、トルコのインフレ率は極めて高い。同国を上回るペースでインフレが加速しているのはジンバブエやベネズエラなど数カ国で、こうした国々のインフレ率は100%以上だ。
高金利がインフレ加速を招くとのエルドアン大統領の考えの下でトルコ中央銀行は政策金利を14%に据え置いているが、利上げせずにインフレを抑制するのは困難であることが示されている。【8月3日 Bloomberg】
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1年前に比べて物価が2倍ほどに高騰するという異常な事態。
トルコ以上のインフレが記録されているジンバブエやベネズエラなどは経済破綻を経験した国です。
さらに、インフレを加速させる電力・ガスの値上げも。
*****トルコ、産業用電力・ガス料金50%値上げ 家庭用は20%上げ****
トルコ当局は1日、家庭用の電気・天然ガス料金を約20%、産業用を約50%、それぞれ引き上げた。7月に80%近くまで上昇したインフレ率に一段と押し上げ圧力がかかる見通しだ。(後略)【9月1日 ロイター】
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【エルドアン大統領 インフレでも金利を下げる反教科書的な独自の政策】
これまでも当ブログで取り上げてきたように、特筆すべきは、このインフレがエルドアン大統領の経済原則を無視した低金利政策によってもたらされていることです。エルドアン大統領は長らく低金利を提唱。実質金利が大幅なマイナス圏に陥り、国民の生活は圧迫されています。
経済学の教科書が教えるところは、インフレ対策としては金利の引上げが必要というものですが、強権的なエルドアン大統領は反対する何人もの中央銀行総裁の首を切ってでも、金利引き下げによる輸出・投資拡大、成長拡大に固執しています。
****トルコ中銀利下げ、市場に衝撃-インフレ率85%に上昇と予想でも****
トルコ中央銀行は18日、政策金利を引き下げた。トルコ・リラが最安値付近で取引され、インフレ率が24年ぶりの高水準となっている同国の利下げは予想外で、市場に衝撃が走った。リラは急落した。
金融政策委員会は1週間物レポ金利を13%と、これまでの14%から引き下げた。政策金利は前月まで7カ月据え置かれていた。ブルームバーグがまとめたエコノミスト21人の調査では全員が据え置きを予想していた。リラは対ドルで一時約1%下落。その後、下げ幅を縮小した。
金融政策委は発表文で、製造業が減速した場合に備えての対応であり、金融緩和サイクルに突入したわけではないと示唆、「政策金利は現在の見通しでは最適な水準」と説明した。
さらに「世界経済成長を巡る不透明感や地政学リスクの高まりが見られる中で、工業生産の成長の勢いや雇用の前向きなトレンドが保たれるよう、金融環境が引き続きそれを支えることが重要だ」との考えを述べた。
エルドアン大統領は今年6月、利下げの継続を表明。選挙を控え、1年を経ずして利下げを再開した背景には大統領の意向をくむ当局の姿勢が反映されている。トルコ中銀は先月下旬、今年のインフレ率見通しを約18ポイント引き上げていた。
トルコ中銀、年末のインフレ率予測を60.4%に引き上げ-従来42.8%
カブジュオール中銀総裁は、ロシアのウクライナ侵攻を要因とする商品相場の世界的な上昇がインフレの原因だと非難。
同中銀は現在、今秋にはインフレ率が約85%に上昇すると予想している。年末には60%付近に低下するとみているものの、それでも中銀インフレ率目標の12倍だ。【8月18日 Bloomberg】
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利息を認めないイスラム社会にあって、イスラム主義者のエルドアン大統領は基本的に金利を敵視するようなところがあるようにも見えますが、「高金利はインフレを引き起こす」という“独自の理論”を展開しています。
****失政でハイパーインフレ? 利下げしたトルコリラが陥る通貨危機のリスク****
インフレ圧力が高まる中、トルコは政策金利を引き下げ
(中略)トルコのインフレ率は、7月時点で前年同月比79.6%の上昇です。ちなみにトルコ中央銀行が定めている目標ンフレ率は5%ですから、大幅に乖離した状態が続いています。そうであるにも関わらず政策金利を引き下げたのは、なぜでしょうか。
第一生命経済研究所の主席エコノミスト、西濱徹氏が8月19日に発表した、「トルコ中銀の『暴走特急』は再出発」と題したレポートのなかで「金利の敵を自認するエルドアン大統領の圧力も影響した」と書いています。
これまでエルドアン大統領は、「高金利はインフレを引き起こす」という、経済学の主流である考え方とは逆の持論を展開してきました。なぜ、このような持論になるのか、ということですが、さまざまなニュースに目を通すと、2つの見方があるようです。
トルコ・エルドアン大統領が強行する利下げのロジックは破綻?
ひとつは、「インフレが加速すると、中央銀行は政策金利を引き上げてインフレを抑制しようとするため、金利水準は上昇する」→「つまりインフレが加速すると金利が上がる」→「したがって金利を引き下げればインフレも収まる」ということ。
そしてもうひとつが、「インフレの最中に金利を引き下げると通貨安になる」→「自国通貨安は輸出にとってプラス。あるいは観光地であるトルコにとって、外国人観光客を増やすのに望ましい」→「輸出産業、観光産業が潤い、雇用が回復してトルコ経済は好転。最終的にトルコリラが上昇に転じ、インフレも収まる」という考え方です。
正直、このロジックを理解しろと言われても、頭のなかがぐちゃぐちゃになるだけで、一般的な経済学を勉強してきた人にとっては理解不能でしょう。
このような持論を展開するエルドアン大統領の圧力によって、極めてユニークな金融政策に異を唱えるトルコ銀行の総裁は次々に更迭されてしまいました。
そもそも、エルドアン大統領のロジックは、破綻しています。インフレが進行した時、事後的にでも金利を引き上げれば、インフレを抑制する効果が見込めますが、金利を下げることが、インフレの抑制効果をもたらすことはありません。金利を引き下げれば景気は回復しますから、むしろ物価は上昇しやすくなります。
また、利下げで自国通貨安へと誘導し、輸出産業や観光産業にとってプラスになるとしても、結局のところはバランスの問題です。
仮にそうなったとしても、自国通貨安はインフレ要因ですし、そもそも物価上昇率が80%にも達しようとしている国の通貨を買いたいなどとは誰も考えませんから、結局のところトルコリラが高くなることはなく、事態はさらに深刻化します。(後略)【8月29日 Finasee】
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【国によって異なるインフレに対する寛容さ】
低金利政策という点では、欧米各国がインフレ抑制のために金利を引き上げるなかで、低金利政策を維持し、結果的に円安を惹起している日本も、似たようなところがあります。もちろん、インフレの程度、景気の状態など取り巻く環境はそれぞれ異なるのでしょうが。
****トルコがインフレ率が80%に近いなかでの「利下げ」実施で、市場に衝撃。日本も他人事ではない****
トルコ中央銀行は18日、金融政策決定会合を開き、主要政策金利の1週間物レポ金利を年14%から13%に引き下げると決めた。利下げは2021年12月以来8会合ぶり(18日付日本経済新聞)。
足元のインフレ率は80%近いが、インフレのなかでの利下げという異例の事態。FRBやECBが物価上昇を受けて金融政策を正常化から引き締め、つまり利上げに動くなか、欧米のインフレ率を大きく上回るトルコがインフレを加速させかねない利下げを実施したのである。(中略)
今回のトルコの利下げは全く想定外となり、金融市場に衝撃が走った。その結果、トルコの通貨リラは発表後に対ドルで一時、前日比1%超下落し、1ドル18リラ台の年初来安値を付けた。通貨安は当然ながら輸入物価を通じて物価の上昇要因となる。
トルコのエルドアン大統領は「金利を下げればインフレ率も下がる」として、経済学の定石とは逆を主張し、その主張を中央銀行に押しつけている格好となっている。(中略)
物価上昇の要因はエネルギー価格の上昇など一時的なものによるとして、頑として非常時対応の金融緩和を修正もせず、市場がそれを催促するような動きに出ると、今度はさらなる緩和策ともいえる指し値オペで対抗するという、日銀の姿勢とトルコの姿勢には共通点があるようにみえる。
今回のトルコの利下げに対して「全く言葉を失う。こうしたことは明らかに行なうべきでない」といった市場の声が紹介されていたが、これはそのまま日銀の現在の政策にも言えるものである。
「金融政策はもともと機動的、弾力的であるのが特徴だ。超緩和の常態化は日本経済の新陳代謝を遅らせ構造改革を阻む。日銀は超緩和に固執するのではなく、正常化への出口を探るときだ。景気一辺倒から景気・物価両にらみに政策転換する場面だろう」
これは19日付日本経済新聞のコラム「大機小機」にあったものだが、完全に同意する。【8月19日 久保田博幸氏 金融アナリスト】
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インフレに対する国民の敏感さは国よって異なります。
アメリカなどは非常に敏感で、大統領選挙や議会選挙前のインフレ率・失業率の状況がストレートに選挙結果に反映するため、政権も神経質になります。
GDP成長率といった“漠然としたもの”よりは物価や雇用といった各自が肌で感じられるものが重視されるといったところでしょうか。
一方、日本などは“まずは経済成長率ありき”といった感も。
中南米諸国などはあえてインフレを放置しているとも。
****物価上昇率80%でもトルコが「利下げ」を決断したワケ、エルドアン政権の“真の狙い”*****
(中略)世界には、物価上昇という問題に直面しても、制御できないインフレに陥る国と、そうならない国とに分かれる。
たとえばロシアはインフレになりにくい国の典型である。ウクライナ侵略に伴う各国の経済制裁によって、ロシアは猛烈なインフレが危惧されたが、金利の引き上げを強行するとともに、厳格な外貨管理を実施することで何とかインフレ押さえ込むことに成功した。
一方、トルコのように、理論とは逆の政策を実施し、インフレを拡大させている国もある。トルコもロシアも大統領が強権的という点では同じだが、この違いはどこから生じるのだろうか。
あえてインフレを放置している?
インフレを繰り返す国として有名なのは中南米諸国である。アルゼンチンは過去に何度もハイパーインフレに見舞われているし、ベネズエラも制御できないインフレが進行中である。しかしながら、中南米諸国とトルコには大きな違いがある。それはインフレそのものに対する根本的な認識の違いである。
中南米諸国の場合、インフレを止められないのではなく、社会全体として過度なインフレも許容するような風潮がある。
中南米諸国の場合、インフレを止められないのではなく、社会全体として過度なインフレも許容するような風潮がある。
農作物輸出が中心の経済構造であり、基本的に通貨が安くなることは輸出事業者にプラスになるとの考え方が根強い。
日本でも輸出競争力を強化するため、円安を強く望む風潮が一部にあるが、基本的な図式は同じである。土地所有者が経済の中核を担っており、インフレが進んでも土地の価格は同じように上昇するため、インフレに対してあまり警戒感を持っていない。
政権側もこうした事情をよく理解しており、国民の人気取りを目的に大型の財政出動を繰り返し、結果として生じるインフレを放置している面がある。
政権側もこうした事情をよく理解しており、国民の人気取りを目的に大型の財政出動を繰り返し、結果として生じるインフレを放置している面がある。
アルゼンチンでは、小麦粉の価格高騰を受けて、低所得者を中心に大規模なデモが発生しており、一部の国民はインフレに対して強く反発している。しかしながら、インフレに対して激しい抵抗感を持つロシアのような国民性とは異なり、社会全体としてインフレに対して寛容であるのは間違いないだろう。
ちなみにインフレが進むと、国民の預金は物価上昇分だけ毀損する一方、政府債務は物価が上がった分だけ軽減されていく。つまりインフレが進めば、国民が持つ預金から政府に所得が移転はインフレ対応に苦慮していますので、"寛容"かどうかは簡単ではなさそうです。するので、インフレは事実上、増税として機能する。
ちなみにインフレが進むと、国民の預金は物価上昇分だけ毀損する一方、政府債務は物価が上がった分だけ軽減されていく。つまりインフレが進めば、国民が持つ預金から政府に所得が移転はインフレ対応に苦慮していますので、"寛容"かどうかは簡単ではなさそうです。するので、インフレは事実上、増税として機能する。
だが多くの国民はそのメカニズムに気付かないため、為政者の中には、お金をバラ撒いてインフレにしてしまった方が手っ取り早いと考える人も多い。中南米諸国は基本的にこうしたメカニズムで動いている。【8月19日 経済評論家 加谷珪一氏 ビジネス+IT】
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もっとも、アルゼンチンにしても“アルゼンチン、数千人がデモ 賃上げとインフレ対策求め”【8月18日 ロイター】ということで、政権はインフレ対応に苦慮していますので、"寛容"かどうかは簡単ではなさそうです。