孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  部分的動員令で急増する出国者  受入れ対応にEU内で差異 独は受入れ表明

2022-09-25 21:34:36 | 欧州情勢
(ロシアの首都モスクワで、ウラジーミル・プーチン大統領が発表した部分的動員令に反対するデモに参加し、警察に拘束される人(2022年9月21日撮影)【9月23日 AFP】)

【「動員令」以前から欧州で問題となっていたロシアからの入国者の扱い】
ロシアの動員令によって、徴兵を忌避してロシアから出国する者が急増していることに関して、多くの報道がなされていますが、「動員令」以前からロシア人の欧州への入国についてはEU内で問題となっていました。

安全保障上のリスクに加え、まるでウクライナで戦争が起きていないかのように、観光や買い物のために旅行する裕福なロシア人が多く見られるようになっていることへの反発・批判からのことです。

特に陸路の玄関口となるバルト三国のエストニアや北欧フィンランドには強い批判があり、独自の対応もとられました。

****エストニア、一般のロシア人のビザ取り消しへ EU渡航困難に****
エストニアはこれまでにビザを取得した5万人以上のロシア人に対し、週内に国境を閉鎖する。こうした措置を取るのは欧州連合(EU)加盟国としては初めて。これにより一般のロシア人がエストニアからEU域内に入るのが難しくなる。

エストニアのレインサル外相はロイターに対し、政府は全てのロシア人に対し国境を完全に閉鎖することを検討していると述べた。エストニア政府報道官によると、過去に発行されたビザでの渡航を禁止するのはEU加盟国ではエストニアが初めて。

毎日約2500人のロシア人がエストニアに入国しており、その約半数が欧州域内をビザやパスポートなしで自由に行き来できる「シェンゲン協定」に基づくビザを取得しているという。

ウクライナのゼレンスキー大統領は4日前、EU加盟国に対しロシア人に対するビザ発行を禁止するよう呼びかけていた。【8月17日 ロイター】
**********************

****フィンランド、ロシア人向けビザ発給制限へ 9月1日から****
フィンランドは16日、9月1日からロシア人へのビザ発給数を削減すると発表した。フィンランドに陸路で入国し、その後フィンランドのヘルシンキ・ヴァンター国際空港から欧州諸国に向かうロシア人観光客が急増している状況を踏まえた措置という。

フィンランド外務省によると、ロシアでのビザ申請予約を1日当たり1000件から500件に半減し、観光ビザも100件に限定する。(中略)

ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、EU諸国に対し、EUが誰でも入れる「スーパーマーケット」にならないよう、ロシア人のビザ取得を禁止するようあらためて呼びかけた。【8月17日 ロイター】
*********************

理念の問題で言えば、EUが批判しているのはプーチン政権であり、ロシア人一般ではないということもありますし、プーチン政権の圧力・弾圧を逃れてくるロシア人への対応もあります。

一方、一部の国が先行する状況でEUとしても統一的な対応に迫られ、ロシア人へのビザ発給を厳格化することとしました。

ただし、ウクライナやバルト3国のほか、ポーランドやフィンランドなどが主張していたロシア人向けのビザ発給の全面禁止については合意できませんでした。

****EU、ロシアとのビザ発給円滑化を完全停止 ウクライナが求めた全面禁止は合意できず****
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は31日、EUがロシアと合意していたビザ(査証)発給円滑化措置を完全に停止することで合意したと明らかにした。ただ、ウクライナのほか、一部EU加盟国が求めていた全面的なビザ発給の禁止については合意に至らなかった。

EUはプラハで2日間にわたり外相会議を開催。ボレル上級代表は同会議後の記者会見で「ロシアとのビザ発給円滑化協定の完全停止で合意した」とし、「これにより、EU加盟国が新たに発給するビザの数は大幅に減少する」と述べた。

バルト3国のほか、ポーランドやフィンランドなどが主張していたロシア人向けのビザ発給の全面禁止については、加盟国間の見解の相違が大きすぎたことで合意に至らなかった。ただ、ボレル上級代表は、ビザ発給円滑化の停止自体で実質的な影響を及ぼすことができるとの見方を示した。

ボレル氏によると、7月中旬以降、ロシアから近隣諸国との国境を通過する人が大幅に増加。「近隣諸国にとって安全保障上のリスクとなっている」とし、「これに加え、ウクライナで戦争が起きていないかのように、観光や買い物のために旅行するロシア人が多く見られるようになっている」と述べた。

欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)によると、ロシアによるウクライナ侵攻開始以降、100万人を超えるロシア人が陸路で国境を越えた。大部分がフィンランドとエストニアを経由してEU域内に入ったという。【9月1日 Newsweek】
********************

****EU、ロシア人のビザ厳格化=優遇措置の停止承認****
欧州連合(EU)は9日、ブリュッセルで開催した臨時の閣僚理事会で、ロシア人によるビザ取得を厳格化する提案を承認した。ウクライナ侵攻を続けるロシアに対する圧力を強めるのが狙い。これに伴い、ロシア人によるEU域内への渡航は12日から事実上制限される見通し。

ロシア側は反発しており、ロイター通信によると、報復措置を講じる考えを示した。

提案によると、EUはロシアと2007年に結んだビザ申請に関する優遇措置を停止する。ビザ取得費用が従来の2倍以上になり、手続きも煩雑になる。【9月9日 時事】
*************************

【「動員令」で急増したロシア出国者 バルト三国・フィンランドは入国禁止の方向】
そこへもってきての「動員令」でした。

****フィンランド、ロシアからの入国制限へ 「動員令」後に倍増****
フィンランドの国境警備当局は23日、ウクライナに侵攻するロシアが部分的動員令を出して以降、フィンランドに入国するロシア人の数が倍増しているとAFPに明らかにした。フィンランド首相は、ロシア人の入国者数を制限する構えを示している。

同当局によると、陸路で国境を越えてフィンランド入りしたロシア人は、今週初めには3100人だったのに対し、22日には6470人に上った。ただし、新型コロナウイルスの流行以前に比べると少ないという。

サンナ・マリン首相は22日、「ロシア人の観光と移動は、フィンランドの通過のみの場合も含めて、中止させなければならない」と述べていた。

首相は、ロシアが部分的動員令を発表した後に「他の国々、例えばバルト諸国やポーランドは、安全保障上のリスクを外国人の入国阻止の論拠としている」とし、ロシア人旅行者がもたらす安保上のリスクを「再評価」する必要があると述べた。

フィンランドは9月、ロシア人向けの観光ビザ(査証)の発給を大幅に制限。だが欧州諸国間で出入国審査なしに国境を越えることを認めるシェンゲン協定の加盟諸国が発給したビザを持つロシア人は、引き続きフィンランドに入国している。【9月23日 AFP】
**********************

****ロシア部分動員令受け出国者急増、フィンランドは入国禁止検討*****
ロシアのプーチン大統領が21日にウクライナでの戦闘継続のために部分的な動員令に署名したことを受け、招集される可能性のある男性の出国が増加している。フィンランドは22日、大部分のロシア人の入国禁止を検討していると発表した。

フィンランドはロシアと1300キロにわたって国境を接している。ロシア第2の都市サンクトペテルブルクから車で約3時間の距離にあるバーリマーの境検問所にはフィンランドに入国しようとする車が押し寄せ、国境当局によると、3車線ある道路で最大400メートルにわたり渋滞が発生した。

ジョージアへの出国も増えており、ロシアとジョージアとの間の国境検問所沿いでも渋滞が発生している。(中略)

フィンランドと同様に欧州連合(EU)加盟国でロシアと国境を接するエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドは19日からロシア人の入国を禁止。バルト3国は21日、部分動員令による招集を逃れるロシア人に保護は提供しないと表明した。【9月23日 ロイター】
*********************

【ロシア国内の抵抗運動と当局の弾圧】
ただ、ロシア国内では動員令に対する激しい抵抗が起きており、一方でロシア当局は抗議デモ参加者を狙い撃ちして徴兵することで弾圧しています。

****ロシア、部分動員令への抗議デモ続く 拘束者2000人超える****
ロシアでは、プーチン大統領がウクライナ侵攻を巡り21日に出した部分動員令への抗議デモが全土で続き、治安当局による拘束者は2000人を越えた。招集兵の戦地派遣が始まる中、状況を悲観した国民がフィンランドやジョージアなどを目指す動きも見られる。

独立監視団体OVDインフォによると、24日には33の町で計798人が拘束された。

政府系メディアからも批判的な声が上がる。国営放送RTのある編集者は、招集令状が対象条件と合致しない男性に送られるといった問題が「人々を激怒させている」と指摘した。

ロシア国防省は23日、「特定のハイテク産業や金融システムの稼働を保証する」ため、重要産業で働く人の招集を免除すると表明。IT、電気通信、金融のほか、「システム上重要な」報道機関などが対象とされている。

ニューヨークで開催された国連総会に出席しているラブロフ外相は24日の会見で、なぜこれほど多くのロシア人が出国しているのかと質問され、移動の自由があると指摘した。【9月25日 ロイター】
*********************

“プーチン氏演説の数時間後に訪問…対象外の大学生に令状、糖尿病の63歳も招集”【9月25日 読売】

動員規模についても、セルゲイ・ショイグ国防相が21日に言及した30万人にとどまらず、100万人規模との報道が相次ぎ、国民の不満は高まっています。

****「戦争に行くか、投獄か」 ロシア、逮捕のデモ参加者に選択強要****
ロシアの予備役動員令に抗議するデモに参加したミハイル・スエチンさんは、拘束されることは予測していたが、まさか自分が反対している軍への入隊を命じられるとは思いもしなかった。

ウラジーミル・プーチン大統領が21日、国民に向けたテレビ演説で、第2次世界大戦以来となる動員令を発表すると、国内では抗議が巻き起こった。

首都モスクワでこれまでにも反政権デモに参加してきたスエチンさんはAFPの電話取材に、「いつものように逮捕され、警察に連行され、出廷させられることは覚悟していた。ところが、『お前はあす戦争に行く』と言われ驚いた」と語った。

独立系人権団体「OVDインフォ」によると、21日に国内各地で行われたデモでは、1300人以上が逮捕された。モスクワの少なくとも15か所の警察署では、拘束された男性が徴兵用紙を手渡されたという。

大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は翌朝の記者会見で、こうした手続きは「法律違反ではない」と擁護した。

動員令発表の前日には、招集令状を拒否した人や脱走兵への処罰を強化する法案がロシア議会を通過。まだ新法として成立はしていないが、違反者に5〜15年の懲役刑を科す内容となっている。

■「戦争に行くか、10年間投獄か」
警察署に連行されたスエチンさんは一人で部屋に連れて行かれ、翌日に徴兵事務所に出頭することを求める令状に署名するよう圧力をかけられた。警察官は、「これに署名してあす戦争に行くか、10年間投獄されるかのどちらかだ」と脅したという。

スエチンさんは弁護士の助言に従い、署名を拒否。翌朝5時ごろに釈放された。だが警察は、重大事件を担当するロシア連邦捜査委員会に対し本件を通知するとし、スエチンさんは「非常にまずい」状況に置かれると警告した。

だが、招集に応じた人の未来がこれよりも明るいわけではない。
先週18歳になったばかりの大学生アンドレイさんは、モスクワでのデモで拘束された後、軍に招集された。

アンドレイさんはAFPに対し、警察署では署名を拒否する人々が警官から「脅迫」を受けていたと証言。「自分が逃げられないのは明らかだった」ことから、徴兵事務所への出頭を誓約する文書に署名してしまったと語った。

■両親には伝えず
ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は21日、学生は動員しないと約束しており、大学に入学したばかりのアンドレイさんは招集されないはずだった。「ロシアは無限の可能性を秘めた国だとは良く言ったものだ」とアンドレイさんは皮肉った。

22日の徴兵事務所への出頭には応じないことにしたが、今は弁護士を探しているところで、今後どうするかは分からないという。

 親には、心配をかけたくないとの理由でまだ打ち明けていない。「自分がどうなるのかがより見えてきたら、言うと思う」 【9月24日 AFP】
*********************

****「死にたくない」 ロシア人男性、動員令逃れ次々出国****
母国に妻子を残し、小さなかばん一つでアルメニアに到着したドミトリーさんは、ウクライナ侵攻への従軍を避けるためにロシアを出国した多数の人々の一人だ。

ドミトリーさんはAFPに「戦争には行きたくない」と吐露。「こんな無意味な戦争で死にたくはない。これは同胞殺しの戦争だ」と訴えた。

ウラジーミル・プーチン大統領が今週、30万人の予備兵動員を決定したことで、同国では国民の国外脱出が相次いでいる。

17歳の息子と共にアルメニアの空港に到着したセルゲイさんは、途方に暮れて疲れ果てた様子で「ロシアでは誰もが国を離れたくなるような状況だ」と証言。自身が「動員を理由に」逃れてきたことを認めたが、名字は明かさなかった。

アレクセイさんは「控えめに言っても、21世紀に戦争に行くなんて間違っている」と主張。将来、帰国できるかどうかは「状況次第だ」とした。

モスクワ発の便でアルメニアの首都エレバンに到着した人々の大半は、兵役対象年齢の男性で、多くの人は取材に消極的だった。

安全上の理由から匿名を希望した男性は、動員令に「ショックを受けた」と説明。「この戦争を支持している人はほとんどいない」とし、「とても痛ましい。すぐに全部終わってほしい」と語った。

■ロシアは「偽情報」と否定
ロシア大統領府は22日、招集対象の国民が出国を急いでいるとの報道を「偽情報」と否定。だが、ロシアからアルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンといった近隣の旧ソ連諸国に向かう空の便は、向こう1週間にわたりほぼ満席となっている。

ロシアと国境を接するフィンランドの入管当局は22日、動員令の発表後にロシアからの入国者が増えたことを認めたが、その数は比較的低い水準を保っていると強調した。

フィンランド・バーリマーのロシア国境検問所では同日午後、入国待ちの車が150メートルの列をつくっていた。モスクワから到着した男性はAFPに対し、自身は招集対象だと説明。もともと10月までにロシアを出国する計画だったが、動員令を受けて予定を早めたと語った。【9月23日 AFP】
*******************

抗議デモを行っているロシア若者に敢えて苦言を呈すれば、これまで地方や少数民族から徴兵され、モスクワなど大都市からの徴兵が控えられてきたなかで、「自分たちには関係ない」と無関心を装ってきたことのツケが回ってきたとも言えます。「無関心」は将来自分の首を締めることになります。

【ドイツは受入れ表明】
こうした状況を受けて、欧州側にもドイツのようにロシア脱出者受入れを表明する国も

****ドイツ、ロシア脱出者の受け入れ表明****
ロシアで、ウラジーミル・プーチン大統領が出した部分的動員令から逃れるため国外へ脱出する人が相次いでいると伝えられたことを受け、ドイツの閣僚2人は22日、ロシアの脱走者を受け入れる用意があると表明した。

日刊紙フランクフルター・アルゲマイネが公開したインタビューの抜粋によると、ナンシー・フェーザー内相は「深刻な弾圧を受ける恐れがある脱走者は原則、ドイツで国際保護を受けることができる」と説明。「プーチン政権に勇敢に立ち向かい、そのために大きな危険にさらされる人は誰でも、政治的迫害を理由に亡命を申請することができる」と述べた。

またマルコ・ブッシュマン法相はツイッターに、「部分的動員」というハッシュタグを添え、「多くのロシア人が祖国を離れているようだ。プーチン氏の路線を嫌い、自由民主主義を愛する人は誰でもドイツで歓迎される」と投稿した。

ドイツは、ロシアによる侵攻を逃れたウクライナ人約100万人に加え、ロシアの反体制派も受け入れている。フェーザー氏によると、これまでに多数のジャーナリストを含む反体制派438人が、迅速化された保護申請手続きを利用した。【9月23日 AFP】
***********************

「動員令」以前から、プーチン政権の弾圧を逃れてくるロシア人を拒否していいのか・・・という議論がありましたが、「動員令」によってその問題が表面化しています。

“バルト3国は21日、部分動員令による招集を逃れるロシア人に保護は提供しないと表明”
一方、ドイツ法相は「プーチン氏の路線を嫌い、自由民主主義を愛する人は誰でもドイツで歓迎される」と。

これまでのロシアとの距離感、ロシアの脅威の切実さなども反映した差異です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする