(イランの首都テヘランで行われたデモで、髪を覆うスカーフを燃やす人々。(2022年9月22日撮影)【9月27日 AFP】)
【スカーフ女性死亡への抗議デモは、政権への不満、支配聖職者層の解体を求める声にも拡大】
9月22日ブログ“イラン スカーフをめぐる女性死亡で広がる抗議デモで混乱 瀬戸際の核合意再建問題”でも取り上げたように、イランでは今月16日、スカーフのかぶり方が不適切だとして逮捕された22歳の女性が死亡したことをめぐり、警察が心臓発作が原因だと説明しているのに対し、警察官による暴行が原因だとして抗議するデモが各地で起きましたが、未だ収束していないようです。
長引く背景には、単に女性のスカーフの問題だけでなく、保守強硬派政権下での宗教的価値観強要による自由の制約、更には長引く制裁で改善しない経済苦境への市民の不満などが抗議行動の根底にあるように思えます。
そうした不満は「独裁者に死を」といった声にも。
****イランでデモ隊と治安部隊が衝突、「独裁者に死を」唱える動画も****
イランでは女性の頭髪を覆うスカーフの着用が不適切だったとして拘束された女性が死亡したことへの抗議活動が激化しており、国営メディアやソーシャルメディアによると27日、数十の都市で機動隊・治安部隊とデモ隊が衝突した。
ソーシャルメディアに投稿された動画には、テヘランなどで治安部隊と衝突しながら支配聖職者層の解体を求めるデモ隊の姿が映し出されている。ツイッターの動画では、最高指導者ハメネイ師を指して「独裁者に死を」と唱えている様子も見られた。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはツイッターで、イランの治安部隊がデモ隊に実弾などを使用、「数十人が死亡、数百人が負傷」と指摘した。
一方、国営メディアは、デモ参加者を「偽善者、暴徒、凶悪犯、扇動者」と表現。国営テレビはいくつかの都市で警察が「暴徒」と衝突したと報じた。
インターネット遮断監視組織NetBlocksによると、デモ参加者がソーシャルメディアに動画を投稿することを困難にするため、当局はいくつかの州でネットアクセスを制限している。【9月28日 ロイター】
ソーシャルメディアに投稿された動画には、テヘランなどで治安部隊と衝突しながら支配聖職者層の解体を求めるデモ隊の姿が映し出されている。ツイッターの動画では、最高指導者ハメネイ師を指して「独裁者に死を」と唱えている様子も見られた。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルはツイッターで、イランの治安部隊がデモ隊に実弾などを使用、「数十人が死亡、数百人が負傷」と指摘した。
一方、国営メディアは、デモ参加者を「偽善者、暴徒、凶悪犯、扇動者」と表現。国営テレビはいくつかの都市で警察が「暴徒」と衝突したと報じた。
インターネット遮断監視組織NetBlocksによると、デモ参加者がソーシャルメディアに動画を投稿することを困難にするため、当局はいくつかの州でネットアクセスを制限している。【9月28日 ロイター】
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【「暴動は許さない」と鎮圧に向けた姿勢を強めるライシ大統領の不穏な経歴】
国営メディアによれば治安当局との衝突などでこれまでに41人が死亡する事態となり(人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ(IHR)」によると、抗議デモが続く11日間で、少なくとも76人の抗議者がイラン治安部隊によって殺されたとも)、国内外で当局対応への非難の声が高まるとともに、政権側としてはこれ以上の混乱は体制を揺るがすものとして容認できないところに来ているようにも見えます。
****イラン大統領“暴動はレッドライン” 女性死亡の抗議デモで****
イランでスカーフのかぶり方をめぐり逮捕された女性が死亡したことに抗議するデモが続いていることについてライシ大統領は、レッドラインを越えて暴動に発展しているとして取締りを徹底する姿勢を強調しました。混乱の収束に向けて、デモへの参加を思いとどまらせるねらいがあるとみられます。
(中略)ライシ大統領は28日、国営テレビのインタビューに答える形で、女性の死因に関する調査結果が数日以内に公表される予定だと明らかにしました。
その一方で「デモと暴動は違う。社会の治安を乱すことは許されず、暴動はレッドラインを越えている。人々の命と財産を傷つける者には裁きを受けさせる」と述べ、取締りを徹底する姿勢を強調しました。
(中略)ライシ大統領としては混乱の収束に向けて、デモへの参加を思いとどまらせるねらいがあるとみられます。(後略)【9月29日 NHK】
その一方で「デモと暴動は違う。社会の治安を乱すことは許されず、暴動はレッドラインを越えている。人々の命と財産を傷つける者には裁きを受けさせる」と述べ、取締りを徹底する姿勢を強調しました。
(中略)ライシ大統領としては混乱の収束に向けて、デモへの参加を思いとどまらせるねらいがあるとみられます。(後略)【9月29日 NHK】
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2019年11月、ガソリン価格高騰から抗議デモが激化した際には、当局の弾圧によって死者は1000人を超えたとのアメリカ側の観測もあります。(1500人以上との指摘もあります)
ただ、イラン政府は死傷者数などデモの詳細を明らかにしていませんので、真相は不明です。
今回もそうした大規模な犠牲者が懸念されますが、その懸念を膨らませるのはライシ大統領の経歴です。
最高指導者ハメネイ師に近い保守強硬派のライシ大統領は、「イスラム法学者」「司法府でキャリアを積んだ」などと説明されていますが、別の顔もあります。
****「死の委員会」の一員だったライシ氏****
ライシ氏は2019年からイランの法相を務めているが、何よりも若い頃から長年にわたり、検察官として反体制派の弾圧、処刑に関与してきたことで知られる。
特に1988年、当時の最高指導者ホメイニ師の勅命によって実行された反体制派大弾圧の責任者の1人とされていることは重要だ。
ホメイニ師は1988年にいわゆる「死の委員会」を設立、政治犯として拘束されていた反体制派モジャヘディン・ハルク機構(PMOI)の支持者らを直ちに処刑するよう命じた。ライシ氏はその「死の委員会」の一員だった。
数千人から数万人にのぼるとされる犠牲者の遺族を代表するNGO「1988年イラン大虐殺の犠牲者のための正義(JVMI)」は、家族には事前に何も知らされぬまま処刑は秘密裏に行われたため、最後のお別れをする機会もなかった、彼らは6人ずつクレーンに吊るされて処刑され、遺体には消毒液がかけられ、夜のうちに集団墓地に密かに埋められた、としている。
しかしイラン当局は、今もその事実を認めていない。
2021年5月には150人以上の元国連職員や人権専門家が、この1988年イラン大虐殺について調査を行うよう要求する書簡を国連に提出、これを受け取ったミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は「人道に対する罪」に相当する可能性に言及した。(後略)【2021年6月1日 FNNプライムオンライン イスラム思想研究者 飯山陽氏「イラン次期大統領最有力候補の血塗られた過去」】
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ホメイニ時代の数千人から数万人にのぼるとされる反体制派大弾圧の責任者の1人・・・その経歴が今また繰り返されることがなければいいのですが。
情報が統制された国家ですので、仮に大弾圧が行われても、イラン国外にはその情報はなかなか伝わってきません。
【イラク・クルド自治区のクルド人勢力拠点への越境攻撃も】
前回9月22日ブログでも触れたように、死亡した女性がクルド系だったことで、混乱は国境を超えて、隣国イラクのクルド自治区にある反政府活動を続けるクルド人勢力の拠点への攻撃という形にも拡大しています。
****イランがイラク北部のクルド自治区攻撃、13人死亡 国内騒乱巡り****
イランの革命防衛隊は28日、隣国イラク北部のクルド人地域の武装勢力を標的にミサイルと無人機で攻撃を行ったと明らかにした。当局によると、13人が死亡した。
イランでは今月、クルド系女性がを理由に警察に拘束され死亡したことを巡り、大規模な抗議デモが発生。イラン当局はクルド勢力が関与していると非難している。
イラクの国営通信社は、この攻撃でクルド人自治区のアルビルとスレイマニヤ近郊で13人が死亡し、58人が負傷したと、クルド人当局の話として伝えた。
イラクのクルド関係筋によると、28日朝に行われた攻撃はスレイマニヤ近郊のクルド側拠点の少なくとも10カ所が対象だったという。
米中央軍は、アルビルに向かうイラン無人機を撃墜したと明かし、「空爆による米軍の負傷者や死者はなく、装備に被害はない」と声明を発表した。
イラン革命防衛隊は攻撃後、テロ勢力と見なす同地域のクルド人への攻撃を続けると表明した。【9月29日 ロイター】
イランでは今月、クルド系女性がを理由に警察に拘束され死亡したことを巡り、大規模な抗議デモが発生。イラン当局はクルド勢力が関与していると非難している。
イラクの国営通信社は、この攻撃でクルド人自治区のアルビルとスレイマニヤ近郊で13人が死亡し、58人が負傷したと、クルド人当局の話として伝えた。
イラクのクルド関係筋によると、28日朝に行われた攻撃はスレイマニヤ近郊のクルド側拠点の少なくとも10カ所が対象だったという。
米中央軍は、アルビルに向かうイラン無人機を撃墜したと明かし、「空爆による米軍の負傷者や死者はなく、装備に被害はない」と声明を発表した。
イラン革命防衛隊は攻撃後、テロ勢力と見なす同地域のクルド人への攻撃を続けると表明した。【9月29日 ロイター】
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イラン革命防衛隊は、イラクのクルド人勢力が「北西部からイランを攻撃して同国に侵入し、不安と暴動を扇動して混乱を広げている」と非難し、攻撃を正当化しています。
“イラク政府はイラン大使を呼び出し抗議。国連イラク支援ミッションはツイッターへの投稿で、「ミサイル外交は壊滅的な結果をもたらす無謀な行為だ」と非難した。米国も、攻撃を「強く非難する」と表明し、さらなる攻撃を行わないようイランに警告した。”【9月29日 AFP】
イラクではシーア派内部の反イラン派と親イラン派の対立から政治混乱が続いていますが、イランの今回のようなイラク主権を無視した越境攻撃のような行動が、イラク国内の対立を激化させているのでしょう。(もっとも、イラク主権無視はトルコもアメリカ・・・といったところでしょうが)
【東隣アフガニスタンではイラン抗議デモに連帯する女性も】
上記イラクはイランの西隣ですが、イランの東隣はタリバン支配のアフガニスタン。
「不適切な服装」云々で言うなら、アフガニスタンではイラン以上に厳しい制約があります。そのことへの女性たちの不満も。
****「イラン抗議運動」支持の女性集会を強制解散 タリバンが空砲で****
アフガニスタンの女性たちが29日、首都カブールで、隣国イランで服装規定違反を理由に「道徳警察」に逮捕された女性の死をめぐって広がった抗議運動を支持するデモを行ったが、イスラム主義組織タリバンにより強制的に解散させられた。
AFP特派員によると、イラン大使館の前に約25人の女性が集まり、イランでの抗議運動で用いられたスローガン「女性、命、自由!」を叫んだ。これに対し、タリバン兵は空砲を撃つなどして集会を中止させた。
女性たちが手にした紙には、「イランは立ち上がった。今度は私たちの番だ!」「カブールからイランへ、独裁にノーと言おう!」などと書かれていた。タリバン兵はこれらの紙を素早く奪い取り、デモ隊の前で破り捨てた。【翻訳編集】
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タリバン復権をあっけなく許したアフガニスタン男性でしたが、アフガニスタン女性は粘り強く勇敢なようです。