孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  ムシャラフ前大統領逮捕で表面化する「赤いモスク」事件の責任

2013-04-24 20:50:44 | アフガン・パキスタン

(「赤いモスク」事件が起きる前の2007年4月、周辺のCDショップを襲い、押収した“わいせつな”CDなどを焼き払う「赤いモスク」の神学生 “flickr”より By tahirpix http://www.flickr.com/photos/tahirpix/4102395423/)

【「逮捕は政治的動機によるものだ。裁判で争う」】
事実上の亡命生活からの帰国を強行したパキスタンのムシャラフ前大統領が19日、2007年に判事らを解任、拘束した事件で警察に逮捕されました。
逮捕に至るまでには、イスラマバードの高等裁判所に出廷中、逮捕命令を受けたムシャラフ氏が治安部隊に守られながら首都郊外の邸宅逃げ込むなどのドタバタ劇もありました。

****ムシャラフ氏「裁判で争う」 パキスタン、前大統領逮捕****
パキスタンの警察当局は19日、軍事クーデターで政権を奪い、9年間独裁体制を率いたムシャラフ前大統領を逮捕した。建国以来66年。その半分を軍事政権が占めてきた軍優先の歴史に終止符が打たれるのか。新たな混乱の引き金になるのか。裁判の行方が注目される。

18日に首都イスラマバードの高等裁判所に出廷中、逮捕命令を受けたムシャラフ氏は、治安部隊に守られながら逃げ込んだ首都郊外の邸宅で一夜を明かした。軍部の反発を警戒してか、逮捕をためらう警察に、高裁は署長の出頭を命令。逮捕するよう圧力をかけた。

ムシャラフ氏は自宅からビデオメッセージを発表し、在任中の実績を並べ立てた。しかし、19日朝になって、警察関係者の前に自ら姿を現し、そのまま地元の地方裁判所に連行された。

容疑となった2007年にチョードリ最高裁長官らを拘束させた行為について地裁は、対テロ法違反の疑いがあると指摘。2日後にムシャラフ氏を一般法廷よりも取り調べが厳しい対テロ特別法廷に出頭させるよう警察に命じた。ムシャラフ氏は自宅軟禁下に置かれた後、警察で取り調べを受けている。ムシャラフ氏はフェイスブックに「逮捕は政治的動機によるものだ。裁判で争う」と書き込んだ。

 ■軍への裁き、前例なし
パキスタンでは独立以来、3度の軍事クーデターがあり、軍部が計33年にわたり政権を直接掌握した。残る33年間を担ってきた文民政権も、軍部の反発を恐れて追及に及び腰で、今回まで、裁かれなかった。

前例のない過去の清算に道を開いたのは、チョードリ最高裁長官が率いる裁判所だ。ムシャラフ氏に対しては最高裁が、今回の逮捕容疑などに加えて、最高刑が死刑の国家反逆容疑についても事前審理を開始。来月の総選挙まで政権の座にある選挙管理内閣に対し、訴追手続きを始めるよう異例の圧力を強めている。

ムシャラフ氏側は「自分を裁くなら、当時の軍首脳全体が裁かれるべきだ」と主張。キアニ陸軍参謀長ら現在の軍首脳を巻き込む構えを見せている。
ムシャラフ氏の失脚後、軍は政治介入を控えており、今回の逮捕にも公式には反応していない。ただ、退役軍人からは「軍高官を裁くことを軍は看過しない」との声が漏れ始めた。

政治評論家のハサン・アスカリ氏は「軍部はすぐに介入しないにせよ、不満を募らせている。総選挙を控えた政治空白に乗じて、裁判所が指導者のように振る舞い、暴走すれば、事態は制御不能な方向に進みかねない」と指摘した。【4月20日 朝日】
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【「ムシャラフ氏のために軍が動くこともなく、下院選への影響も少ないだろう」】
そもそも、ムシャラフ前大統領がどういう算段があって帰国したのかよくわかりません。
下記記事にあるように“パキスタンで多くの支持を得ている”と思っていたのであれば、ずいぶんと認識にずれがあったようです。かつての軍政トップの自信でしょうか。

****パキスタン ムシャラフ氏を逮捕 「政界復帰」の思惑外れる*****
・・・・事実上の亡命生活を送っていたムシャラフ氏は帰国後に政界復帰を果たせるとみていたが、軍事政権を主導した自身への逆風を読み違えていたようだ。(中略)

ムシャラフ氏は「パキスタンを救う」と訴え、逮捕状が出ているにもかかわらず、帰国を強行した。政治評論家、ザイディ氏は「前大統領は、パキスタンで多くの支持を得ていると思っていたが、状況を見誤っていた」と指摘する。

69歳のムシャラフ氏は、今回を逃せば政界復帰がさらに遠のくと危機感を募らせ、軍の反対を押し切って帰国したとされる。かつて「独裁者」と呼ばれた力を過信し、パキスタンで最も影響力を持つといわれる軍トップを務めたという自信が帰国を実行させた。

しかし、海外生活を送る約4年間で、パキスタンでは文民政治への支持や、かつての軍事政権への批判が強まり、司法も政治家に厳しい判決を下していた。ザイディ氏は「ムシャラフ氏のために軍が動くこともなく、下院選への影響も少ないだろう」と述べた。【4月20日 産経】
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改めて責任が問われる「赤いモスク」事件
いずれにしても、ムシャラフ前大統領は政治的にはすでに“過去の人”であり、同氏の逮捕自体はパキスタン政治・社会に大きな影響を与えるものではないでしょう。

むしろ注目されるのは、“世直し”的な改革に動くチョードリー最高裁長官を頂点とする司法と、パキスタン社会の中核としてのプライドを傷つけられたとも思われるキアニ陸軍参謀長など軍首脳との関係が、この事件でどうなるのかということです。

もう一点、個人的に興味がもたれるのは、ムシャラフ前大統領の罪状として、2007年の「赤いモスク」事件が表面化してきたことです。

****パキスタン ムシャラフ前大統領 殺人で訴追、動き拡大****
最高裁判事らの解任、拘束事件で逮捕されたパキスタンのムシャラフ前大統領に対し、罪を問う動きが拡大している。ムシャラフ氏が大統領だった2007年にイスラマバードのモスク(イスラム教礼拝所)で100人余りが特殊部隊に殺害された事件で、判事を長とする調査委員会が、同氏を殺人容疑で訴追すべきだとする報告書を最高裁に提出した。遺族らは改めてムシャラフ氏への厳しい裁きを求めている。

このモスクは、建物の色から「赤いモスク」と呼ばれた「ラル・マスジード」。イスラム原理主義勢力に近い思想を持つとされたマドラサ(イスラム神学校)の神学生らが立てこもり、7日後に治安部隊が突入して武力鎮圧した。
21日付のパキスタン紙ドーンによれば、調査委員会は報告書で、当時大統領だったムシャラフ氏ら政権幹部を殺人罪で起訴すべきだと指摘し、同氏らに損害賠償金を支払うよう求めた。

ムシャラフ氏のスポークスマン、モハンマド・アムジャド氏は産経新聞に「ムシャラフ氏が殺害を指示したのではない。内務省や警察の管轄だ」としているが、調査委員会は、「大統領らが知らなかったと容易に結論付けることはできない」と指摘している。

01年の米中枢同時テロ後、当時のブッシュ米政権のテロとの戦いに協力したムシャラフ氏は、イスラム過激派を厳しく取り締まり、国内のイスラム勢力から命を狙われるなど強い反発を受けた。政権末期には、首都イスラマバードでも過激派の行動が活発化。赤いモスク事件では、モスクに武装して籠城した神学生らだけでなく、女性を含む多くの市民も巻き添えとなり、少なくとも100人が死亡したとされている。

赤いモスクは事件後、「政府が赤は流血をイメージさせると指摘した」(モスクのスポークスマン)ため、白く塗り替えられたが、ムシャラフ氏の大統領辞任と国外脱出後、少しずつ赤く塗り替えられ、現在は元の赤色になっている。門には当時、特殊部隊に殺害された指導者のガジ師やその母の名が付けられ、以前の状態に回帰させようとの動きが加速した。

ムシャラフ氏は逮捕後、一時、警察の宿泊施設に移されたが、すぐに自宅軟禁下に戻された。ムシャラフ氏は、判事拘束事件を含め、ブット元首相暗殺事件などに関連した3つの事件で罪に問われており、07年に出した非常事態宣言についても、最高裁で国家反逆罪に問うための審議が続けられている。【4月24日 産経】
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イスラム過激派にどのように向き合うか
「赤いモスク」事件は、このブログを始めた頃に起きた事件で、ブログでも何回か取り上げたこともあって、記憶に強く残っている事件です。

“9.11以降アメリカの意向を受けて“テロとの戦い”に“転向”していたムシャラフ大統領とイスラム急進派の対立は、この事件で決定的な段階を向かえました。その後、対決姿勢を強めるムシャラフ大統領に対し、イスラム急進派は自爆テロで対抗、1000人近くが死亡するほどパキスタン全土の治安は悪化しました。この治安悪化が今年2月の総選挙での与党敗退の大きな原因となりました。”
【2008年7月9日ブログ“パキスタン「赤いモスク」から1年、武装勢力との対話決裂”より】

“過去の事件”である「赤いモスク」事件は、イスラム過激派のテロ頻発に苦しむパキスタン社会の“現在”を導く大きな契機となった事件です。
また、イスラム過激派の跋扈にどのように向き合うかは、総選挙を控えたパキスタンの“明日”にもかかわる問題です。

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