(ロヒンギャの「ジェノサイドの日(8月25日)」にバングラデシュの難民キャンプで開催された大規模集会【9月3日 Newsweek】)
【責任逃れの域を出ないミャンマー側の取り組み】
これまでも取り上げてきたように、ミャンマー西部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難した70万人をこえるイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還は進んでいません。
国際社会から批判を受けるミャンマー政府は帰還のためのパフォーマンスは行っていますが、民族浄化と言える殺害・暴行・レイプ・放火などを行った国軍の責任が問われず、国籍の付与も明らかにされておらず、ラカイン州での安全な生活が保障されていない現状では、ロヒンギャ難民は帰還に応じていません。
帰還を可能にする基本的な問題に手を付けないまま、単にバスだけ用意して、帰還に向けて取り組んでいますと言われても・・・・。
****大弾圧から2年、ロヒンギャ20万人が難民キャンプで集会 バングラ****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが国外に逃れるきっかけとなった同国軍による苛烈な弾圧から2年を迎え、バングラデシュにある難民キャンプで25日、ロヒンギャ約20万人が参加して集会が開催された。
ロヒンギャをめぐっては数日前、2度目となるロヒンギャを帰還させる2度目の試みが行われたものの、失敗に終わっていた。
2017年8月に開始された国軍の容赦ない弾圧により、ロヒンギャ約74万人がミャンマーのラカイン州を脱出。バングラデシュ南東部にある広大な難民キャンプにはすでに、迫害のため以前から避難していたロヒンギャ20万人が暮らしていた。
世界最大の難民キャンプであるクトゥパロンの中心部では、ロヒンギャの人々が「ジェノサイド(大量虐殺)の日」と呼ぶこの日をしのび、子どもやヒジャブを着用した女性、「ルンギー」と呼ばれる長いスカート状の服を着た男性らが行進し、「神は偉大なり、ロヒンギャ万歳」とシュプレヒコールを上げた。
さらに焼け付くような日差しの下、大勢が「世界はロヒンギャの苦悩に耳を傾けない」という歌詞の愛唱歌を合唱した。
タヤバ・カトゥンさんは頬に涙を流しながら、「2人の息子を殺されたことに対する正義を求めてここに来た。最後の息をつくまで正義を求め続ける」と語った。
ミャンマー側は弾圧について、ロヒンギャの武装集団に警察施設が襲撃されたことを受け、鎮圧作戦を実施したと主張している。しかし国連は昨年、ミャンマー軍幹部をジェノサイドの罪で訴追するよう求めた。
ロヒンギャの指導者であるモヒブ・ウラー氏は、ロヒンギャは故郷へ戻ることを求めているが、まずは市民権を付与され、安全が保証され、自分たちの村で再び暮らすことが認められてからだと話す。
ウラー氏は集会で、「ビルマ(ミャンマー)政府に対話を求めてきた。しかしまだ何の返事もない」「われわれはラカイン州で殴打され、殺され、レイプされた。だが今もそこは故郷であり、われわれは戻りたい」と訴えた。
警察官のザキール・ハッサン氏がAFPに明らかにしたところによると、この集会にはロヒンギャ約20万人が参加した。 【8月25日 AFP】
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ミャンマー側も、国際批判の手前、多少は動きを見せないと・・・という考えもあるのか、一部国軍兵士の責任を問う動きもあるようです。
****ロヒンギャ迫害か、国軍兵士ら訴追へ ミャンマー****
ミャンマー国軍は、約70万人が難民になっている少数派イスラム教徒ロヒンギャが暮らしていた地域での、治安部隊による問題行動について、軍法会議を開き、関与した者を訴追する方針を示した。8月31日、国軍最高司令官事務所が明らかにした。
ロヒンギャへの新たな迫害行為を国軍が認める可能性がある。国軍が運営するメディアも同様の内容を報じた。
同事務所のウェブサイトなどによると、ロヒンギャが住んでいた西部ラカイン州の村で複数件、兵士らが「指示に従わなかった」行為があったとして、国軍が軍法会議にかけて必要な措置を取るとしている。
問題行為の具体的な内容は明かされていない。国軍が示した村の名前などから、AP通信が昨年2月、ロヒンギャの多くの遺体が埋められたと報じた件に関連している可能性がある。
国軍は、2017年8月の治安部隊による掃討作戦でロヒンギャを迫害したと国際社会から非難され、同年の独自調査でロヒンギャへの暴行を「なかった」と結論づけた。その後、ロヒンギャ10人の殺害に兵士らが関与したことが発覚し、兵士7人が懲役刑を受けていた。【9月2日 朝日】
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74万人を国外に追いやった民族浄化が、一部兵士の「指示に従わなかった」行為によるものとは到底思えませんが、ミャンマー国軍としては、このあたりが限界なのでしょうか。
自浄が期待できないなら、国際機関を入れての調査が必要になりますが、ミャンマー政府はこれを拒んでいます。
【負担が大きいバングラデシュ政府は「隔離政策」の方向へ】
一方、難民社会における難民の犯罪行為への関与やテロ勢力の浸透など、大量の難民を受け入れてきたバングラデシュ側の負担も大きくなっています。
****ロヒンギャ大量流出2年 帰還開始で合意も希望者ゼロ****
ミャンマーからイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大量に流出し、4日までに2年が経過した
。両国は帰還開始で合意しつつも、難民に希望者がおらず事態は膠着(こうちゃく)。事態の早期解決が困難な状況の中、バングラデシュではロヒンギャが治安の不安要因となり始めている。
2017年8月25日、ミャンマー西部ラカイン州で治安部隊とロヒンギャの武装集団が衝突し、国連によると、約74万人が難民となってバングラデシュ南東部コックスバザールに逃れた。
両国は昨年11月の帰還開始で合意したが、希望者がおらず中止に。今年8月22日にも両国が約3500人の帰還開始で一致し、大型バスも用意されたが、手を挙げる難民はなく帰還は実現しなかった。逆に難民は流出2年となった25日にキャンプで10万人規模の集会を開催し、ミャンマー政府に対して抗議の声を挙げた。
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相率いる与党国民民主連盟(NLD)は、来年の総選挙を控え、多数派仏教徒の支持を取り付けたい局面にある。
ロヒンギャの帰還を急げば、受け入れに反発する仏教徒の支持離れは免れない。国際社会に問題を解決する意向は示しつつも、積極的な帰還には及び腰だ。
バングラデシュ側は受け入れについて、「限界に達している」(ハシナ首相)と繰り返し訴えている。2年を経て顕在化するのは、治安への不安だ。
ロヒンギャ難民が犯罪グループに加入するケースが相次ぎ、特に薬物の運び屋として“雇用”されている。今年に入って40人以上のロヒンギャが薬物犯罪に関わったとして治安当局などに殺害されたとされる。
バングラデシュ政府は難民キャンプ周辺で「安全保障上や治安上の理由」により携帯電話を遮断する方針も打ち出す。
地元ジャーナリストは、難民がイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)などテロ組織に勧誘される可能性を指摘。「事態の膠着が続けばあり得ない話ではない」と警戒している。【9月4日 産経】
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上記記事にある「携帯電話禁止措置」については、以下のようにも。
****ロヒンギャ難民の携帯利用禁止 バングラ政府 ****
バングラデシュは、イスラム系少数民族ロヒンギャ難民が携帯電話サービスを利用できないようにする。
ネット接続の主要手段を奪うことにもなり、本国ミャンマーからのニュースや親族との連絡を携帯電話に頼るロヒンギャにとって大きな痛手となる。
ロヒンギャ難民はバングラデシュ内での移動や雇用機会を著しく制限されており、携帯電話の利用ができなくなれば孤立状態がさらに深まる。バングラデシュには2年前、ミャンマー軍の弾圧を逃れようとするロヒンギャ難民70万人超が流入した。
バングラ政府は1日、携帯電話会社に対して、ロヒンギャ難民への携帯SIMカードの販売を停止するよう指示した。
ムスタファ・ジャバル通信相はインタビューで、ロヒンギャ難民の身元確認資料が不足していることが要因と説明した。同国の法律では、身元確認資料がそろっていないとSIMカードの登録ができない決まりだという。
また、ロヒンギャ難民が現在使用しているSIMカードも使えないようにする方針だと述べた。ロヒンギャの犯罪組織が携帯電話を使って連携するのを阻止する狙いがあるとした。
外国政府はこれまで、先進国の多くが移民受け入れを制限する中で、イスラム教徒中心のバングラデシュが大量のロヒンギャ難民を受け入れたことを高く評価していた。
バングラデシュ政府はロヒンギャに対し、自発的にミャンマーに帰還するよう求めているが、ロヒンギャはミャンマー政府による帰還受け入れの申し出を拒否している。
ミャンマー政府は8月下旬にも少数の帰還受け入れを申し出たが、ロヒンギャの間ではミャンマー軍に再び攻撃されるとの懸念がなお根強い。【9月5日 WSJ】
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就労も禁止され、通信手段も奪われる・・・・ということで、ますます難民キャンプ全体が大きな監獄のようにもなっていきます。
バングラデシュ政府は、キャンプそのものを交通もままならない辺鄙な場所に移してし、地域社会から隔離する計画も進めています。
****ロヒンギャ難民、強制移住も視野 バングラデシュ、避難長期化で****
バングラデシュのモメン外相は26日までに共同通信のインタビューに応じ、隣国ミャンマーから逃れてきたイスラム教徒少数民族ロヒンギャの集団帰還が進まないため、国境近くの難民キャンプからベンガル湾の島に強制移住させることも視野に入れていると明らかにした。
70万人以上が避難するきっかけになったロヒンギャ武装勢力と治安部隊の戦闘から25日で2年が経過した。モメン氏は同日のインタビューで避難生活の長期化に懸念を表明。
南東部コックスバザールのキャンプは雨期に土砂災害の危険があるとして「帰らないなら、より強い姿勢を取ることになる」と述べた。【8月26日 共同】
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この強制移住先“ベンガル湾の島”については、【6月27日 Newsweek「終わりなきロヒンギャの悲劇」】によれば、およそ人が住むには適さない場所とされています。
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なお、難民受け入れの負担を何とか減らしたいバングラデシュ政府が強行しようとしているのが、キャンプから北西に約120キロ離れた国内の無人島バシャンチャールに、10万人のロヒンギャを移送する計画です。
ベンガル湾に浮かぶこの小さな島は、10〜20年ほど前に浅瀬に泥が堆積してできた「泥の島」で、バングラデシュ政府による突貫工事で防波堤と10万人分の居住施設が完成間近だそうです。
ただ、もともと泥の堆積による「泥の島」で、人間の居住には適さないとして以前計画が棚上げ状態にもなった場所です。
建設中の防波堤がどれほどのものかは知りませんが、“バシャンチャールは島というよりは中州のように海抜が低く、海が荒れたらひとたまりもなく水没しそうだ。”【6月27日 Newsweek「終わりなきロヒンギャの悲劇」】とも。
また、“住民によれば、この辺りの島々は外界から隔絶しているため医療・教育施設が乏しく、荒天時には文字どおり孤島になるという。そんな場所に難民を閉じ込めれば、バングラデシュ社会と共生することもミャンマーに帰ることも難しくなるだろう。”【同上】
【7月15日ブログ「中国のウイグル族弾圧を擁護するミャンマーのスー・チー政権」より再掲】
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こういう状況にあれば、難民のなかに過激なテロ組織に共鳴する者が出てきてもなんら不思議ではなく、そうなるとますますバングラデシュ政府の隔離政策が強まることも予想されます。
多くの問題同様、ロヒンギャの問題も出口が見えない状況です。
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