(パキスタン北西辺境州の中心都市ペシャワルの街角 “flickr”より By gunpodo7
http://www.flickr.com/photos/taeyoon/509202260/)
【板ばさみのパキスタン】
アフガニスタンでの戦いにとって、パキスタンの部族支配地域の動向が重要であり、アメリカも越境攻撃を繰り返しているところです。
パキスタンは、こうした“テロとの戦い”遂行をせまるアメリカと、部族支配地域攻撃による国内治安悪化・テロの増加、また、アメリカに追随して同じムスリムを攻撃することを嫌う国民世論の間で板ばさみとなっています。
今年3月発足したギラニ内閣は国内世論を受けて一度はイスラム武装勢力との和平を試みましたが、結果的に武装組織側が勢力を拡大し、アフガニスタンでのタリバン側攻勢が激化することになり、アメリカからの強い要請もあって、政府は6月末に掃討作戦を再開した経緯があります。
板ばさみ状態で揺れるパキスタンの政府・軍の対応は、国軍自体がかつてタリバンを養成したようにもともとイスラム武装勢力とのつながりが強いこともあって、どちらを向いているのかよくわからないところがあります。
10月1日ブログでは、イスラム武装勢力との繋がりがかつてから指摘されていた情報機関「三軍統合情報部(ISI)」の長官ら上層部の交代があったことから、“テロとの戦い”の方向で本腰を入れるのか・・・とも書きました。
【「武力だけでは永久に勝てない」】
しかし、ここにきて主戦場であるアフガニスタンでの和解交渉の動きを受けて、パキスタンにおいても再度“対話”の方向に動き出したとの報道がありました。
****パキスタン:軍が対テロ戦転換 イスラム武装勢力と対話へ******
パキスタン軍がアフガニスタン国境付近で続けているイスラム武装勢力掃討作戦について、同軍が武力による掃討から「対話による解決」に方針転換を図っていることがわかった。これを受けてパキスタン国会も22日、対テロ戦の見直しを政府に求める決議を全会一致で採択。アフガンでもカルザイ政権が武装勢力タリバンとの和解を模索するなかで、パキスタンが対話路線にかじを切れば、米国がこの地域で進める対テロ戦戦略は大きな転換を迫られることになる。
関係者によると今月8日、掃討作戦を指揮する軍のパシャ中将が議会上下院に対し、極秘裏に国境地域の軍事情勢説明を開始。「武力だけでは永久に勝てない」として、武装組織との対話による政治的解決が必要との結論を伝えた。
中将は、軍が武装勢力を封じ込めることができない理由について、地元住民が武装組織を支援しているためと指摘。3カ月前からの掃討作戦で300万人の避難民が出ている部族支配地域バジョール管区を例に、「政治的対話がもはや不可欠」と強調した。
パキスタン国会は、軍や専門家の分析などを検討し、「アフガン政府が和解しているのに、わが国が戦闘に固執する必要はない」と結論。対テロ戦見直しを求める決議を採択した。
パキスタンは経済状況が極度に悪化。債務不履行(デフォルト)に陥る可能性があるとして、国際通貨基金(IMF)に緊急融資を求めている。経済悪化の背景には、国際的なエネルギーや食糧価格の急騰のほか、対テロ戦で国内の治安が悪化し、外国からの資金が流出していることがある。
軍や議会の判断の背景には、経済危機打開には、治安を改善して外資流出を食い止める必要があるとの判断もあるとみられる。
一方、米軍によるアフガン側からの越境攻撃は最近になって連日のように続き、地元住民が武装勢力支援に転じる原因になっていると指摘されている。パキスタン側は今後、治安改善を図るためにもさらに米国に、越境攻撃を止めるよう求めていくとみられる。
地元メディアによると、パキスタン国内では対テロ戦見直しを支持する世論が圧倒的。選挙で選ばれたザルダリ人民党政権は、世論を無視できないとみられる。【10月26日 毎日】
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“アフガニスタン自体が和解で動いている今、デフォルトの危機にありIMFに緊急支援を要請しているパキスタンがどうして国民世論を無視してまで戦闘行為の矢面に立つ必要があるのか”・・・もっともな話です。
【不透明な先行き】
ただ、この記事の前日には、まったく逆の戦闘遂行を伝える記事もありました。
*****武装勢力の死者1500人超=部族地域の対テロ戦-パキスタン*****
パキスタン軍高官は25日の記者会見で、アフガニスタンと国境を接する北西部の部族地域、バジョール地区で8月上旬に始まったイスラム武装勢力に対する過去最大規模の掃討戦で、武装勢力側の死者が1500人を超えたことを明らかにした。
逮捕者は950人に達し、パキスタン兵73人も死亡した。軍は武装勢力の支配下にあった主要な複数の町を制圧、優勢に立っていると強調した。作戦はさらに数カ月続く見通し。【10月25日 時事】
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アメリカも今後、経済支援強化を取引材料に再度パキスタンつなぎとめに動くとも思われます。
経済苦境にあるパキスタン側の狙いもそこにあるかも・・・とも邪推されないことありません。
これまでも、アメリカからの支援を引き出すために敢えてイスラム武装勢力との紛争を長引かせているのでは・・・との疑念も語られてきました。
また、アメリカ新大統領に近づいているオバマ候補は、かねてよりアフガニスタン・パキスタンでの戦闘に積極的だとも伝えられています。
しかし、ムシャラフ軍政と異なり、選挙に基盤があるザルダリ政権は、基本的にはこれ以上国民の支持を得られない戦いに協力することは難しいように思われます。
また、アフガニスタンでも参戦国の間でも、「武力だけでは永久に勝てない」という認識が定着しつつあります。
【誰のための戦争か】
肝心のアフガニスタンの和解交渉は全く先が見えません。
と言うより、それほど現実化しているように見えません。期待が一人歩きしている状態では。
今後もし和解がありうるとしたら、外国勢力撤退を条件に、近い将来にはタリバン政権が復活するような形しかないのでは・・・と思われます。
およそ人権とか民主化とは縁遠いタリバン政権の復活には、個人的には忸怩たるものがあります。
しかしながら、どのような大義名分を掲げようと、アフガニスタン・パキスタン当事国の住民にとって戦争は生活破壊であり、住民が望まない戦いを外国勢力が干渉してその戦いを正当化することには無理があります。
誤爆や空爆難民を生むような攻撃、越境攻撃という戦術が民心の離反を招いた結果と言えますが、そもそも、戦火にさらされる住民の生命・財産を尊重する立場にたてば戦争などあり得ない・・・という単純な理念に立ち戻る必要があるのかも。
もちろん、現実世界では一方に“武力”で攻勢をかけるタリバン勢力が実在する訳ですが、応戦して潰せばいい・・・というものでもなく、一体誰のために何をやっているのか、誰が犠牲を払うのかということを再度考える必要があります。
今日はそんな気がしています。明日はわかりませんが。
大岡裁きであれば、痛がる子供の手を思わず離す母親に、「それでこそ本当の母親だ」ということになるのですが、現実世界では、腕がもげようが引っ張り続ける方が勝つ・・・それだけなのかも。
いやな渡世だ。でも腕をもぎとる訳にもいかないし。
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