孤帆の遠影碧空に尽き

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アメリカ  カリフォルニア銃撃事件にテロの可能性も浮上 社会に内在する「マス・ヒステリー」の懸念

2015-12-04 21:07:58 | アメリカ

(身体障害を持つ米紙ニューヨーク・タイムズの記者の姿態をあざけるようなポーズを見せるトランプ氏 パリ同時多発テロ以降、反移民・反イスラムの姿勢が更に支持を集めています。【11月26日 CNN】

14人の死者、21人の負傷者を出したカリフォルニア州で発生した銃乱射事件は、容疑者がイスラム教徒で過激派との接点も指摘され、自宅からは多数の銃器のほかパイプ爆弾まで発見されるということで、単なる銃撃事件ではなくテロだったのでは・・・との見方も強まっています。

銃規制が殆どない移民社会であるアメリカにおいて、この種の事件にどのように対処していくべきかという重苦しい自問を含みながら、捜査の行方が注目されています。

****カリフォルニア銃撃】被疑者は「何らかの作戦任務を実施」とFBI 移民大国に突き付けられた取締りの限界****
米西部カリフォルニア州で発生した銃乱射事件は、オバマ政権と社会に衝撃を与えている。

テロか否かは不明だが、容疑者がイスラム過激派の人物と接触し、銃規制論議の域を越える武器を所有していたにもかかわらず、情報機関がまったくマークしていない存在だったためだ。

事件は、「移民大国」の米国における情報の把握と、事件を水際で防ぐ難しさを浮き彫りにしている。

オバマ大統領は事件発生後、しきりに銃規制の必要性を強調した。だが、容疑者のアパートからパイプ爆弾が発見され、「明らかに何らかの作戦任務を実施した」(連邦捜査局=FBI)との見方が強まり、単なる銃撃事件ではない−と困惑の色を隠さない。

過激派との“接点”も浮上し、オバマ氏は「複数の動機が絡み合っているかもしれない」と語っている。インターネット上では、犯行を称賛するイスラム過激派によるとみられる書き込みも見られる。

テロについては、考え方の相違から国際法上の定義はないものの、国連は「住民を威嚇、あるいは政府や国際組織の行動を強制し自制させる目的で、危害を引き起こすあらゆる行動」と位置づけている。

米政府は数多くのテロを水際で防いできた。例えば、ニュージャージー州フォートディクス陸軍基地へのテロを計画していた、ヨルダン出身などの6人を逮捕したこともある。それでも監視網に穴があることを、事件は示している。

米国では6月、オバマ政権が推進し、国家安全保障局(NSA)による電話や通信の傍受などを制限する「米国自由法」が成立している。こうした制約があだとなっている可能性もある。

パリ同時多発テロ後、「安全確保のためあらゆる手段を尽くしている」と強調してきたオバマ氏と国民は、捜査の行方を固唾をのんで見守っている。【12月4日 産経】
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一方で、次期大統領選挙の共和党候補のレースにおいて、差別的な暴言を繰り返すトランプ氏が依然としてトップの座を譲らず、パリ同時多発テロ以降は、その反移民、反イスラム姿勢が好感される形で衰えかけていた勢いが盛り返すという状況にあります。トランプ氏はアメリカに住むイスラム教徒の登録制導入を支持するとも発言しています。

保守派の論客からもトランプ氏を「ファシスト」呼ばわりする声が上がり始め、共和党内部からもトランプ氏によって共和党が長期にわたるダメージを被る恐れが指摘されてはいますが、勢いは未だ衰えていません。

その背景には、アメリカ社会の政治意識における変化も窺われます。

なお、下記記事はトランプ氏に次いでベン・カーソン氏が2位につけていた時期に書かれたものですが、現在では、カーソン氏が支持を落とし、若手のルビオ、クルーズ両上院議員が受け皿として浮上しているとも言われています。
ただ、状況に大差はありません。

****お笑い番組化」する米大統領選挙****
政治水準の低下止まらぬ「世界最強国」
アメリカ大統領選が、「リアリティーTV」の様相を強めている。

候補者乱立の共和党では、自らバラエティー番組を持つドナルド・トランプと黒人の元神経外科医ベン・カーソンが、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事らプロの政治家たちを大きく引き離したまま、候補者選びの選挙に突入する情勢だ。

あまりに低次元の展開に、「米国の政治体制」そのものを疑う米国民が急増している。

深刻なニュース離れ
注目度ナンバーワンのトランプにとって、十一月は「イスラム教徒叩き」で終始した。パリの同時多発テロ事件をきっかけに、「全米のモスク(イスラム教礼拝所)を監視しなくてはならない」「9・11同時多発テロ事件の惨劇に、ニュージャージー州に住むアラブ人たちは狂喜していた」などと、放言を連発した。人権団体が「あからさまな人種差別」と抗議しても、トランプは発言を繰り返すだけ。

十一月二十二日放送のABCニュース番組では、キャスターのジョージ・ステパノポロスの質問を一蹴した。
「警察は、(アラブ人が喜んだという)事実はないと言っていますよ」
「私は見たよ、テレビでね」

米国中のメディアが数日間、地方紙のデータベースや地方局の当時の放送を調べたが、そうした事実はなかった。ニューヨークに隣接するニュージャージー州は、イスラム教徒人口が三%(全米最高)に達する。アラブ系住民や移民が多いことでこれまでも、憎悪や人種差別的発言の標的になっており、トランプはこうした偏見に乗る形で、「ニュージャージーのアラブ人」「イスラム教徒」を攻撃した。

「メディアの調査は虚しいものでしたね。おそらく、トランプ支持層は真面目な新聞やテレビを見ていない。『言ったほうが勝ち』で、そのまま有権者の心に残ってしまう」とは、在ワシントンの米国人記者。

「モスク監視」についても、「そりゃあ、本当はやりたくないよ。でもこれからは、やりたくないことをしなくてはいけないのだ」と固執した。十一月下旬の世論調査では、トランプは三二%の支持率で首位のままだった。(中略)

米国民自身が政治的叡智を疑う
非政治家二人の支持率合計が過半数に達することについては、様々な解釈がある。一致して指摘されるのが、「反エスタブリッシュメント感情」「クリントン、ブッシュ以外を望むこと」(いずれもワシントン・ポスト紙)である。

オンライン政治コラムニストのロバート・トラシンスキはトランプ支持層について、「反移民、白人、あからさまな人種差別主義者」を挙げ、「主流メディアの情報に疎いか、関心がない人」を特徴とした。そうなると、メディアがいかにトランプの放言を「検証」しても、支持が減らないわけだ。

ワシントンのシンクタンク「ブルッキングス研究所」のエレーン・カマーク上級研究員は、「新聞は今では『恐竜』となり、真面目な硬派ニュースは危機に瀕している」と、アメリカ人の「深刻なニュース離れ」を指摘する。

彼女の調査によると、今世紀初頭には大卒以上の高学歴者の六〇~七〇%が毎日、何らかの新聞を読み、高卒者でもその比率が五〇%を超えていたのに対し、今は高学歴者で三〇~四〇%、高卒者では三〇%以下になった。

テレビ視聴自体は全体として減っていないものの、「三大ネットワーク」のメインニュースの視聴率は各局とも六%前後で、一九八〇年代(一五%前後)に比べ三分の一近くに落ち込んだ。

代わって「主要ニュース源」のトップに躍り出たのが、コメディアンが司会を務めるバラエティー・ショー。三十歳未満では、「ニュース源」の一、二位を「コルベア・リポート」「デイリー・ショー」という二つのお笑いバラエティーが占めた。

いずれも若者の四割の支持を集め、ニューヨーク・タイムズ紙など大メディアを引き離した。両番組とも、ニュースを短く紹介しながら、コメディアンのお笑い評を交える。「リベラル」「左派」と紹介されることが多いが、「共和党や保守をネタにする方が、より可笑しいだけ」(前出米国人記者)という。

民主、共和両党の候補者たちにとっては、ニュース番組や新聞より、コメディアンのバラエティーに出る方が有権者に浸透できる。その際は、自分もジョークや何かの芸で、笑いを取ることが絶対必要になる。

こうした政治風土では、トランプは無敵だ。(中略)

最近の政治の動きに「何が起きているのか」と戸惑う国民も増えている。世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが今年八~十月に行った調査では、米国民の政治的叡智を「信頼している」とした人はわずか三四%だった。

この調査は長年実施されているもので、九七年には六四%が、〇七年には五七%が「信頼している」と答えていた。同じ調査では、米国民が「政治家は一般市民より、自己中心的で、噓つきで、愛国心に乏しい」と考えていることも分かった。

共和党の惨状を、「指導者不在」と嘆くか、「民主主義は国民にふさわしい政府(政治家)を持つ」と見るか。米政治が最低水準を更新していくことに、まだまだ驚かされ続けそうだ。【12月号 選択】
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トランプ氏の支持層に見られる「主流メディアの情報に疎いか、関心がない」反移民やあからさまな人種差別も厭わない層が顕在化して社会の流れを主導する形になりつつあるとき、冒頭のような事件は、取扱いによっては反イスラム教徒の「マス・ヒステリー」に結びつくことも懸念されます。

****乱射事件、「イスラム教徒の容疑者」に苦悩するアメリカ - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代****
今週2日、ロサンゼルス近郊のサンベルナルディーノにある福祉施設で発生した銃乱射事件は、14人の犠牲者を出すという規模の大きさが全米に衝撃を与えました。

同時に、事件の背景に「原理主義テロ」の可能性が否定できないため、メディアの報道には明らかな「歯切れの悪さ」があります。オバマ大統領のコメントも同様です。(中略)

こうした様々な憶測はあるものの、警察当局や大統領は極めて慎重です。例えばオバマ大統領は、事件から一夜明けた3日には「テロリズムである可能性は排除できないが、職場のトラブルという可能性も排除できない」という発言をしています。そこには、慎重さと同時に重苦しさが感じられます。

アメリカは、明らかに苦悩しています。警察もメディア、2人の本名を発表するまで半日以上の時間を置きましたし、大手メディアはパキスタン系であることや、サウジ巡礼の話は事件翌日の昼過ぎまでは伏せて報道していました。その「苦悩」というのは、2人の真の動機を理解しかねて苦悩しているということではありません。

そうではなくて、仮に今回の事件が「イスラム教徒による原理主義テロ」であるならば、アメリカ社会の中で「移民排斥」や「イスラム教徒への偏見拡大」といった「マス・ヒステリー」に近い現象が拡大する可能性があるからです。

9・11の直後にブッシュ政権は、「イスラムとの共存」を国民に説き、国内のイスラム教徒との団結姿勢を見せながら、アフガニスタンとイラクという戦争に突き進むことで「アメリカが攻勢に出て弱みを見せない」ことが、保守層の「安心」になる政治的判断を下しました。

ですが、現在は、状況が異なります。世論の厭戦感情が強いために対ISIL地上戦は不可能な一方、パリの事件が「他人事であるがゆえに、国内での不安が増す」という異常な状況にあるのです。

そんな中、ドナルド・トランプという稀代のポピュリストは、事件の前日には「ISIL攻撃では不十分。アメリカでもテロリストを生み出したら、その家族をこっちが人質にとって、場合によっては殺すことにして対抗すべき」という極端な言論を展開しています。

そのトランプは、「9・11の直後に、ニュージャージー州では何千人というイスラム教徒が集まって、勝利を喜んだ」(地元の人間として断言できますが、100%デマです)とか、「9・11はブッシュ政権時代に発生した。意味わかるだろ?」(ブッシュに責任があるような言い方で、これも大いに物議を醸しました)などという暴言もはいており、それが一部の支持者に受け入れられているのも事実です。

そのような世相の中で、今回の事件が、世論の不安感情に「点火してしまう」こと、大統領もメディアもそれをおそれているのです。9・11直後とは、また別の形でアメリカは苦悩の中にあります。【12月4日 Newsweek】
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アメリカの政治動向は、日本を含む世界の政治に大きく影響します。
国内におけるテロ対策の在り方の検討も含め、「マス・ヒステリー」による暴走を起こすことなく、慎重に事態に対応することが求められます。

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