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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  微妙なハング・パーラメントでの更に微妙な連立交渉

2010-05-11 23:03:36 | 国際情勢

(キングメーカーとなった自由民主党のクレッグ党首(43歳) 
“flickr”より By Liberal Democrats
http://www.flickr.com/photos/libdems/4497706278/)

【「あら、あら、あら」】
6日投開票の英総選挙の結果、予想されていたことではありますが、36年ぶりにどの政党も単独過半数を制していない状態(ハング・パーラメント=宙づり議会)となったこと、また、それを受けて連立交渉が行われていることは連日報じられているところです。

“予想されていたこと”とは言え、微妙な結果でした。
“「あら、あら、あら」――5月6日のイギリス総選挙の結果を受けて、7日未明、イギリスのデイリー・テレグラフ紙は書いた。そう言いたくなるのも無理はない。近年のイギリス史上で最もエキサイティングな選挙は、複雑で矛盾に満ちた結果になった。
政権奪還を狙った最大野党・保守党は第1党に躍進したが、過半数の議席は獲得できなかった。
苦戦が予想された与党・労働党は、これまで強固な地盤だった選挙区で多くの議席を失ったが、予想外の選挙区でいくつか新たに議席を獲得した。
台風の目と見られていた第3党の自由民主党を率いるニック・クレッグ党首は、「浮気相手にはいいが、結婚相手にはふさわしくない男」と思われていたらしい。事前の世論調査ではクレッグが支持を伸ばしていたが、いざ投票日になると、自民党の得票は伸び悩んだ。結局、自民党の議席は改選前を下回った。”【5月10日 Newsweek】

【選挙区割りのマジック】
特に、選挙前に支持率が一気に高まり、労働党をしのぐ勢いだった自由民主党の“議席減”は以外でもありました。
得票率は保守党が36%、労働党が29%、自由民主党が23%・・・・自由民主党の得票率は23%で前回より得票率を1ポイント増やしたのに、議席は逆に5減らして57議席。一方で、得票率29%の労働党が約4.5倍の258議席獲得しており、自由民主党のクレッグ党首は「選挙制度は崩壊している」と語っています。

僅かな得票率の差が大きな議席数の差となるのは小選挙区制の本質でもありますが、イギリスの場合、特殊な事情もあるようです。
“かつての産業都市は選挙区数が多く、労働党の地盤。しかし、こうした地方都市は人□が減り、投票率も低いところが多い。プリマス大学のコリン・ローリングス教授(政治学)は「投票率の高い田舎が支持基盤の保守党は1議席を取るのに必要な平均票数は2万5干票。労働党は1万5干票でいい」と話す。
一方で、自民党の支持層は若者や知識層が中心で、全国に拡散。同党が地方で伸びる分、保守党が議常数を減ら
し、労働党に有利に働く”【4月28日 朝日】
労働党に有利な“選挙区割りのマジック”と呼ばれる現象です。

【保守・労働双方が連立交渉、首相辞任も】
議席数こそ減らしたものの、ハング・パーラメント状態でキングメーカーの立場に立った自由民主党を自陣へ引き込もうとする連立交渉が保守党、労働党双方で並行して進んでいます。

第1党となった保守党サイドの協議が先行して行われて、自由民主党との連立について「原則合意」との報道もありました。
****英連立政権の協議大詰め…原則合意報道も*****
英総選挙で第1党になった保守党と第3党自由民主党の連立協議は10日、大詰めを迎え、英スカイニュースは同日、両党が連立政権の枠組みで原則合意したと伝えた。
だが、同ニュースは合意の中身に触れておらず、両党の報道担当者もこの件については口を閉ざしている。(中略)
自由民主党は同日午後、合意事項を諮るための議員総会を開き、党内の意思統一を図った。保守党も同日夜、同様の総会を予定している。
ただ、最大の焦点である選挙制度改革で、現行の単純小選挙区制の存続を主張する保守党と完全比例代表制への変更を求める自由民主党がどこまで折り合ったのかは、明らかになっておらず、協議の行方次第では、自由民主党が閣外協力にとどめる可能性もある。【5月10日 読売】
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しかし、労働党サイドも、不人気かつ自由党との交渉でネックとなるブラウン首相が党首を辞任することを発表する形で自民党への働きかけを強めています。
****ブラウン英首相:辞任表明 自民と連立交渉促進*****
6日投開票の英総選挙で敗北したブラウン首相(59)は10日、労働党党首を辞任する意向を表明した。また「必要以上に職にとどまるつもりはない」と明言。新政権樹立、新党首選出をめどに首相も辞任することも表明した。次期政権の獲得を目指し第3党・自由民主党と正式な連立交渉に入る。自民党は「首相辞任」を労働党との連立交渉の条件に突きつけていた。自民党は第1党・保守党との連立交渉も進めており、新政権の行方は極めて流動的になっている。(中略)
総選挙はどの政党も過半数に達しないハングパーラメント(宙づり議会)という結果となり、保守党と自民党がまず連立交渉を始めた。保守党は、首相の辞任表明を受けて、自民党が最大の要望とする選挙制度改革で国民投票を提示した。報道によると、労働党は同改革で一歩踏み込み、比例代表制への変更を国民投票にはかることを自民党に提示。両党は週末に接触、クレッグ党首とブラウン首相も2度会談している。
労働党(258議席)と自民党(57議席)では過半数の326に達しないが、スコットランドなどの地域政党を加えた中道左派主体の「反保守党連合」を組めば、過半数に達する見通しだ。【5月11日 毎日】
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なお、労働党の次期党首として、ブックメーカー(公認賭元業者)のオッズ(賭け率)で人気が最も高いのは、デービッド・ミリバンド外相だそうです。

【悩ましい自由民主党クレッグ党首の選択】
自由民主党が関心を持つのは、多くの政策課題もありますが、一番は今回のように23%もの得票を得ながらその多くが「死に票」となってしまった選挙制度の改革、比例代表制度の導入をどちらがより強く確約してくれるのかという点です。単に検討委員会設置だけでは結局何も変わらない結果に終わることが予想されます。
労働党側は、新議会で単純小選挙区制を「死に票」が減るように修正した上で、来年中に完全比例代表制導入の是非を問う国民投票を行うとの二段構えの提案を行っています。
選挙制度改革に消極的な保守党は、「死に票」減に関する同じ提案を国民投票にかけることを「最後の譲歩」として自民党に提示しています。

自由民主党とにとってもこの連立交渉は、ハングパーラメントなった選挙結果同様、微妙で悩ましいものがあります。
完全比例代表制の導入を悲願とする自由民主党からすれば労働党案が好ましく、また、基本的に労働党は保守党よりも政策面で共通する部分が多く連立しやすい側面があります。
しかし、第2党と第3党の連立、それにより敗北したはずの労働党が復活することは世論の批判を招くことが予想されます。
更に、労働党と組んでも過半数議席には届かず、スコットランドなどの地域政党ような他の少数政党の支持を得る必要があり、政権基盤は安定しません。
一方、保守党と連携すれば、2党だけで過半数議席を握ることができ基盤はより安定しますが、政策面での差異いが大きい保守党との間で妥協する部分が増え、比例代表制導入も遠のきます。

安定政権を生む小選挙区制か「死に票」を減らす比例代表制か・・・という問題については万巻の書があるところですが、個人的には、日本の小選挙区比例代表並立制のような折衷案が妥当なところではないかと考えます。

【1年以内の再選挙?女王の役割に注目?】
こうした事態に、1年以内に再選挙が行われる可能性も指摘されています。
****1974年以来のハングパーラメントとなった英国、1年以内に再選挙も*****
英国で6日投票が行われた総選挙はどの政党も過半数を獲得できず、1974年以来の「ハングパーラメント」となった。これを受け、1年以内に再び選挙が行われる可能性がでてきた。
(中略)巨額な財政赤字に対する強力な措置を望んでいる金融市場は、政局不透明感を歓迎しない。総選挙結果は、すでにギリシャ問題で混乱している市場に追い打ちをかけかねない。
保守党関係者は自民党との連携実現を楽観しているが、アナリストは、自民党が保守党、労働党どちらと連携するにも障害は大きいとし、保守党単独政権が生まれる可能性が高いとみている。ただし、保守党の少数単独政権となった場合、さほど期間をおかず、選挙で再び有権者の信を問う可能性があるという。(後略)【5月10日 ロイター】
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“法律上、退任する首相の辞職を認め、新しい首相を指名するのは、女王の役割。通常は儀礼的な権限に過ぎないが、もし政治の混乱が続くようであれば、女王が調停役を買って出ることになるかもしれない。政党間で政権協議がまとまらなければ、再び議会を解散して選挙を行う権限も女王にある。にわかに、女王の存在が大きくクローズアップされてきた。”【5月10日 Newsweek】との指摘もあります。
まあ、イギリスではそこまでの混乱もないとは思いますが、カナダでは、2008年の選挙結果を受けた政治混乱で、儀礼的な名誉職と思われていたカナダ総督の役割(イギリスにおける女王のような役割)が現実問題として注目を集めたこともありました。

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パレスチナ・イスラエル アメリカ仲介で間接交渉再開

2010-05-10 21:51:33 | 世相

(東エルサレムでのユダヤ人入植地建設  Har Homa  09年4月
“flickr”より By activestills
http://www.flickr.com/photos/activestills/3595565199/

【「何の約束もしていない」】
“パレスチナ自治政府とイスラエルは9日、米国が仲介する間接的な形で和平交渉を再開した”とされていますが、“具体的な進展はほとんど期待されていない”というのが実情のようです。
パレスチナ・イスラエルの間接交渉は、イスラエルのガザ侵攻で中断してから1年半ぶりとなります。
イスラエルとパレスチナは3月8日にも間接交渉に合意しましたが、その直後にイスラエルが東エルサレムへのユダヤ人入植計画を承認したため、パレスチナ側が交渉開始を拒否していていました。

****中東和平間接交渉が再開、開始直後から亀裂あらわ*****
パレスチナ自治政府とイスラエルは9日、米国が仲介する間接的な形で和平交渉を再開した。だが、開始からわずか数時間で双方の亀裂があらわになった。

交渉再開に向け、数か月にわたり双方の間を行き来する「シャトル外交」を重ねてきた米国は、「信頼関係をひどく損なう」行為をした場合は責任をとるよう双方に警告し、交渉の再開を宣言した。
危うい状況を象徴するかのように、米国が発表した信頼醸成措置に関する声明をめぐり、すでに波紋が広がっている。
米国務省のフィリップ・クローリー次官補(広報担当)は「交渉の成功に寄与する雰囲気づくりのため、双方がそれぞれ尽力してくれた。(パレスチナ自治政府のマフムード)アッバス議長はいかなる扇動行為にも反対すると表明し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は(東エルサレムの)ラマト・ショロモでの住宅地建設は2年間はないとしている」と述べた。
これに対しイスラエル当局者は、ネタニヤフ首相は米政府に対し、通常の住宅建設計画では着工までに数年かかるというプロセスを説明しただけで、(凍結については)何の約束もしていないと即座に否定した。

間接交渉は当初、3月に始まる予定だったが、イスラエル側がラマト・ショロモでの住宅1600戸の建設計画を発表したことを受け、パレスチナ側が交渉に応じない意向を示した。
パレスチナ側はイスラエルが交渉を台無しにしようとしていると非難。アッバス議長の側近Nimr Hammad氏はAFPに対し、「イスラエルの声明は、米政府を辱めるためか挑発するためのものだ」と語った。
交渉再開後、いったん帰国したジョージ・ミッチェル米中東和平担当特使は来週、同地域に戻る予定だが、直接交渉の再開の可能性を除き、具体的な進展はほとんど期待されていない。【5月10日 AFP】
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ユダヤ人入植地建設計画については、パレスチナ側は新規建設が実態として止まっていることから、またイスラエルは対米関係の改善を目指す思惑から、交渉再開に応じたものと見られています。
ただ、イスラレル側は、着工まで当初から2年以上かかる見通しで、「入植凍結」を拒否する首相の姿勢に変わりはないという姿勢です。
このあたりは、アメリカ側は“イスラエル首相が住宅建設は2年間しないとしている”と、イスラエル側は“実態として着工まで2年間はかかると言っただけ”と、双方が都合のいいように解釈する形で、当初から玉虫色にされていた部分でしょうか。
まあ、これでは具体的な進展は期待できません。

【信用醸成措置】
“信用醸成措置”としては、“イスラエルは、拘束しているパレスチナ人数百人の解放▽西岸内での検問所の削減と自治政府の管轄地域拡大--などの「信頼醸成措置」を近く実行する見通しだ。しかし、ネタニヤフ首相は「互いに遠く離れたまま交渉していては和平に達することは不可能だ」と話し、国境や入植地などの中核的な問題については直接交渉に委ねたい従来の姿勢を示した。”【5月9日 毎日】

【領土交換案】
PLOのエラカト局長は、直接交渉に移る条件として、ユダヤ人入植地建設計画の完全凍結の発表、第3次中東戦争(67年)での占領地返還を原則としつつ一部の領土を等価交換することで将来のパレスチナ国家の国境を画定--などを提案したことを明らかにしています。
領土交換案については、“エルサレムの最終地位問題を棚上げすれば、比較的合意に達しやすい議題とみられている。交換で、占領地・ヨルダン川西岸内の既存入植地をイスラエル領へ一部併合することを認めることになる。しかし、パレスチナ側外交筋によると、イスラエルが交換を求める対象面積はパレスチナ提案の4倍以上だという。”【5月9日 毎日】とも報じられています。

【オバマ大統領の対イスラエル姿勢】
交渉が進展するかは、アメリカがイスラエルにどれだけ圧力をかけられるかということにかかっています。
最近のアメリカ・イスラエル関係については、こんな記事も。
****イスラエル:オバマ氏腰低く?地元紙が写真で分析*****
中東和平の間接交渉が近く始まるのを前に、オバマ米大統領は3日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で対話した。イスラエル紙「イディオト・アハロノト」は4日付朝刊で、電話する大統領の新旧写真を2枚掲載し、ボディーランゲージ(身ぶり)の変化から、米政権が対イスラエルの厳しい姿勢を和らげようとしているのではないかと読み解いた。
1枚は、占領地へのユダヤ人入植を巡り両国関係が悪くなり始めていた昨年6月の写真。大統領は靴を履いた足を机に投げ出し、まるで首相に指示を与えているかのようだ。当時、「無礼だ」とイスラエルのメディアをにぎわした。3日の写真では、姿勢正しく足を床に置いている。
記事の見出しは「もしもし、オバマです」。写真下に「無礼ではなくなった。今回は床に足を置いている」との説明書き。自国の首相に、米大統領がどう接してくれるか、気になるのは日本とそっくり?【5月4日 毎日】
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一国の首相に電話するのに机に足を投げ出して・・・というのは、いかにも無礼です。
そもそも、机に足を投げ出す行為自体が無作法です。しかし、よくそんな写真が公表されるものだと不思議でもあります。

【ガザ地区の困窮】
まあ、そんなことは大した話ではありませんが、下記の記事はもっと切実です。
****電力不足のガザ地区、発電機事故で死者100人を超える*****
パレスチナ自治区ガザ地区では、発電機による死者が100人を超える事態となっている。
パレスチナ自治区には、頻繁かつ長期にわたる電力不足のため、多くのディーゼル発電機がエジプトから密輸トンネルを通じて運びこまれている。停電は長い時には16時間も続き、ガザの人びとたちは中国製発電機からの電気で小さな灯りをつけている。

だが、多数の悲劇も起こっている。
発電機の安全な使用法をガザに人びとに教えている国際NGOオックスファムのカール・シェンブリ氏は、「人びとは、発電機のそばでタバコを吸っている時にスイッチを入れ爆発したとだか、一酸化炭素の危険性を認識していない」と語る。
ガザ地区の救急当局者によると、前年だけで発電機が原因の火事や一酸化炭素中毒によって87人が死亡しているという。今年に入ってからの4か月だけでも23人が死亡している。
オックスファムは、病院や学校、公的機関などに2万部のパンフレットを配るなど、発電機の安全な使用方法を伝える取り組みを行っている。ガザのほとんどの人は、電力不足が深刻化するまでは発電機など使ったこともなかった。
ガザ地区では電力不足は日常的なことだが、今年の状況は特にひどいという。そのため、比較的安い発電機に人気が集まっているという。【5月8日 AFP】
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砲弾が飛び交わなくても、こうした形で生活は困難になり、多数の死者もでます。
事態の改善が望まれますが、最初に書いたように、今回の間接交渉はあまり期待できません。

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ロシア  今後も続く双頭体制 期待できない北方領土問題での“前進”

2010-05-09 12:05:37 | 国際情勢

(ロシアのメドベージェフ大統領とノルウェーのストルテンベルグ首相(右)は4月27日、オスロで会談し、40年来の係争事案であった大陸棚境界について、均等分割による境界画定で合意しました。
“flickr”より By Statsministerens kontor
http://www.flickr.com/photos/statsministerenskontor/4555145226/)

【役割分担】
ロシアのメドベージェフ大統領が就任して2年が経過しました。
プーチン首相に比較すれば、リベラルなイメージもあり、また、経済近代化や汚職追放への意欲を見せる側面もありますが、基本的にはプーチン首相の権力基盤の上に立った“役割分担”であり、ロシアの双頭体制はこのまま続くという見方が一般的です。

****首相に実権、双頭体制安定=ロシア大統領、任期折り返し点に****
ロシアのメドベージェフ大統領は7日、就任から丸2年となり、4年の任期の折り返し点を迎える。大統領は経済近代化や汚職追放などを掲げ、独自色を出し始めたが、プーチン首相が国政の実権を握る「双頭体制」が揺らぐ気配は見えない。
メドベージェフ大統領は4月、オバマ米大統領とともに米ロの新核軍縮条約に調印、険悪化していた米ロ関係を修復軌道に乗せた。経済政策でも「金融危機でロシアは予想を上回る打撃を受けた。石油・天然ガス資源に依存すべきではなく、技術革新と近代化が必要だ」と述べ、プーチン時代の資源ナショナリズムからの転換を訴えている。

しかし、双頭体制に波風が立つ兆しはない。シンクタンク、政治情報センターのムーヒン所長は「メドベージェフ大統領には独自に行動するだけの権力基盤がなく、プーチン首相と協力する双頭体制を維持するしかない」と指摘する。
カーネギー財団モスクワ支部のシェフツォワ研究員も「プーチン首相は保守層、メドベージェフ大統領はリベラル派や西側にそれぞれアピールする言動を見せているが、役割分担しているにすぎない。双頭体制は現状維持が主眼であり、改革は期待できない」と述べている。【5月6日 時事】
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下記【産経】も、“大統領が「近代化」を掲げて政権のイメージアップに努め、首相が政策を進める役割分担”との見方です。
“「国家指導者の命令は実行されなくてはならない。できない者はだれでも(政権から)去る可能性がある」。メドベージェフ大統領は3月中旬、政策の実現率が低いとプーチン首相率いる内閣に不満を示した。
「大統領府と首相府の間に摩擦が起きていることを示そうとした」(露コメルサント紙)との観測も出たが、2人の個人的関係は盤石との見方が支配的だ。
大統領は昨秋以降、プーチン前政権批判とも受け取れる姿勢をしばしば見せてきたが、深刻な対立は表面化していない。大統領が改革のグランドデザインを示し、首相が努力する姿を見せて国民の不満を吸収する狙いといえそうだ。”【5月8日 産経】
ただ、汚職体質一掃にしても、政治的に競争勢力がなく、また、プーチン首相近辺に切り込めない現状では、改革は困難に思われます。

【“前進の兆し”?】
そのロシアを相手として膠着状態が続く北方領土問題について、“前進の兆し”とする記事を見ました。
****北方領土問題:前進の兆し 露、先端技術獲得を狙う 日本、政権浮揚の糸口に*****
北方領土問題が、解決に向け前進する兆しが見え始めている。鳩山由紀夫首相が交渉に意欲を示す一方、ロシア側も積極姿勢に転じているためだ。日露両国は首脳会談を年内に3回開くことで一致したほか、4月は露政府要人の来日が相次いだ。首相はロシア側の出方を見極める構えだが、「政権浮揚の頼みの綱」として6月からの首脳会談で大胆な決断をする可能性もある。ただ、米軍普天間飛行場の移設問題でつまずけば政権の求心力が失われるのは必至で、領土交渉どころではない事態も想定される。【野口武則】(中略)
(鳩山)首相の祖父、一郎元首相は1956年の日ソ共同宣言に署名した。北方領土問題の解決は、首相にとって宿願だ。共同宣言は、ソ連が平和条約締結後に歯舞群島、色丹島を日本に引き渡すとしたが、2島返還では不十分と平和条約を結ばなかった。以後、交渉は進展していない。
打開に向け首相に接近するのが、汚職事件で失脚したが民主党政権で復権した鈴木宗男衆院外務委員長だ。4月30日には自らのモスクワ訪問を前に首相と面会。終了後記者団に「首相は日露関係を動かしたいという大変な情熱を持っている」と語った。同9日にも首相に「現実的な交渉をするしかない」と、持論の歯舞、色丹両島の「2島先行(段階)返還」論を説いた。

首相は今のところ、「日本が受け入れ可能な案をロシア側から引き出すまで待つ」(外務省幹部)との外務省方針に歩調を合わせる。09年11月の首脳会談でロシア側は「独創的アプローチ」の具体案を示したが、2島返還だったと見られ、首相は「2島返還では理解できない」と拒否した。
ただ、参院選を控え、支持率低迷のまま6月にカナダで開かれる主要8カ国(G8)首脳会議の際に行う日露首脳会談に臨む場合、与党内には「日本がカードを切るべきだ」と期待する声もある。首相周辺も「日露外交で政権浮揚を図れないか」と期待を口にする。

 ◇相次ぐ要人来日、首脳会談3回「露から」
「6、9、11月の3回の首脳会談は、ロシア側から持ち掛けられた」と外務省幹部は明かす。ロシア側が積極的な背景には、12年の次期大統領選をにらみ、メドベージェフ大統領が手がける新事業に、日本の先端技術を導入したいとの狙いがあるとみられる。領土問題はその呼び水というわけだ。
ロシアは2月、新技術開発と商業化の拠点「ロシア版シリコンバレー」をモスクワ郊外のスコルコボに創設すると決定。予算100億ルーブル(約320億円)を投入し、医療、エネルギー効率、核エネルギー、宇宙・通信、IT(情報技術)の5分野で、国内外から研究者や企業を集める。この事業に日本の技術を導入したい考えで、4月にフリステンコ産業貿易相ら要人が訪日した。
日露経済協力の主な課題だった極東・シベリア開発は、プーチン首相の大統領時代から引き継いだもの。これに対し今回の事業は、経済の近代化を唱える大統領の「肝いり」で、成否は12年の次期大統領選の結果に直結する。ロシア政府関係者は「日本の首相が誰になっても交渉を進める」と事業成功への意欲を強調する。【5月2日 毎日】
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しかし、メドベージェフ大統領は、これまでより後退した“近い将来の解決は困難との見方”を示しているとも報じられています。
****領土解決は歴史的展望=「今世代」から後退-ロシア大統領*****
ロシアのメドベージェフ大統領は7日、日本との懸案である北方領土問題について、「極端な立場を離れるなら、最終的には歴史的展望において解決可能だ」と述べ、近い将来の解決は困難との見方を示した。大統領就任から2年の任期折り返し点を迎え、イズベスチヤ紙とのインタビューで語った。
メドベージェフ大統領はこれまでの日ロ首脳会談で「問題解決を次世代に委ねない」と述べ、今の世代で解決を図ることに意欲を示していたが、立場を後退させたとみられる。
大統領はインタビューで「領土問題は極めて困難」と強調した上で、「われわれはロシアの国益を踏まえ、解決方式に関する独自の見解を持ってこの問題に取り組んでいる。日本側も同様だ」と述べた。
その一方で、大統領は「両国は戦争状態にはない。関係は正常化しており、政治・経済の交流は発展している」と述べ、領土問題が解決しなくとも日ロ間の経済協力などが進展するとの見通しを示した。 
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【ノルウェー、中国とは“2等分方式”】
ロシアは先月末、40年来の係争事案であったノルウェーとの大陸棚境界について、海底エネルギー資源の共同開発を視野に、係争海域を2等分する方法で合意しました。

****ロシア:ノルウェーとの大陸棚境界を画定 係争域2等分*****
ロシアとノルウェーは27日、北極圏のバレンツ海と北極海で40年にわたり争ってきた大陸棚の境界を画定することで基本合意した。約17万5000平方キロの係争海域を2等分する方法で、天然ガスなど豊富な海底エネルギー資源の共同開発を視野に、お互いが歩み寄ったといえる。(中略)
ノルウェーは07年、バレンツ海のスノービット・ガス田で天然ガスの生産を開始した。一方、ロシアも16年をめどにバレンツ海でシュトクマン・ガス田の生産開始を計画。しかし、現時点で氷の下に埋蔵されている資源の採掘技術を持たないため、「ノルウェーの優れた技術の導入を望んでいる」(エネルギー問題の専門家)といわれる。メドベージェフ大統領は会見で「(境界画定の)合意を実践するためには、共同開発が求められている」と述べ、ノルウェーとの共同資源開発に期待を示した。
ノルウェーは冷戦時代の1970年から、当時のソ連とバレンツ海などの境界画定をめぐり交渉を続けてきた。係争海域は日本の領土のほぼ半分に相当する。
ロシアは08年、ソ連時代から係争してきた中国との東部国境画定にあたり、国境の川の島をほぼ2等分することで最終解決しており、今回も同様の手法を採用した形だ。
ロシアと日本の北方領土問題は未解決の状態が続いているが、ロシア側が実利を見いだせば、領土問題で柔軟に対応する側面を見せたといえる。【4月28日 毎日】
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【“前進”が期待できない日本国内事情】
一般的に見て、国境線・境界を決定しているのは現在の力関係・国際情勢であり、過去の条約・合意はその時々の力関係・国際情勢の結果です。
また、“交渉”というものは双方の立場・利害がありますので、たとえバンコクやプノンペンの屋台での買い物であれ、国家間の領土交渉であれ、一方が自己の主張の100%実現に固執する限り成立しません。

麻生政権末期にもありましたが、政権が行き詰まると起死回生の切り札として“北方領土問題”が浮上するようです。しかし、本当にまとめる意志があるなら、「極端な立場を離れた」柔軟な発想が必要とされますが、今の日本国内の世論にそういったものを受け入れる雰囲気はありません。
また、そうした方針をリードしていくには強いリーダーシップが必要とされますが、政権末期ではそれもありません。
ということで、この問題での“前進”は期待できないのではないでしょうか。

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エジプト大統領選挙 エルバラダイ前IAEA事務局長の動向 変革か混乱か

2010-05-08 19:39:58 | 国際情勢

(エルバラダイ氏が進める、民主改革を求める請願書に署名するエジプト女性
“flickr”より By madmonk
http://www.flickr.com/photos/zarwan/4486133191/)

【「時間がかかっても民主化は必要だ」】
****エジプト:変革求めデモ激化 11年の大統領選前に*****
エジプトで野党勢力や労働関係のデモが目立っている。経済発展の恩恵を受けられない庶民の不満が強まる中で、11年の大統領選にエルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長が立候補の意欲を表明しており、強権的とされる現政権の「チェンジ(変革)」に期待が高まっているからだ。
ムバラク体制は来年で30年を迎える。大統領は6日、カイロで演説し、「変革と混乱の取り違えは受け入れられない」と警告を発し、憲法改正にも否定的な姿勢を示した。

人民議会(国会)前では4月から失業や低賃金などへの対処を求めた座り込みが続く。地方住民の「直訴」だ。現政権に批判的な著名作家のアラー・アスワニー氏は「極めて異例なことで、国民の不満の大きさを示すものだ」と見ている。(中略)
カイロ中心部では3日、野党政治家や民主化運動家ら約100人が集結。約30年来続く非常事態令の解除や、大統領選の立候補要件を緩和する憲法改正などを要求した。憲法改正要求は、エルバラダイ氏ら独立系政治家の大統領選出馬を可能にするのが目的で、数百人の治安要員が包囲する中、参加者は「ムバラクは去れ」などと叫び、小競り合いで逮捕者も出た。

エルバラダイ氏の支持組織幹部で、3日のデモに参加したハムディ・カンディーラ氏は「政府は国民の不満に対処していない。時間がかかっても民主化は必要だ」と言う。
各種デモや労働争議は小規模ながら連続しており、与党国民民主党議員が4月、デモ参加者の扱いに関し「手ぬるい。発砲すべきだ」と国会で発言。5月になって謝罪した。【5月8日 毎日】
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【「キファーヤ(もうたくさん)」】
ノーベル平和賞受賞者でもあるエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)前事務局長(67)は、11年9月に予定されているエジプト大統領選挙への出馬の意思があることが昨年12月4日のエジプト各紙に報じられ、今年2月19日には、空港に詰め掛けた約1500人の群衆に熱烈な歓迎を受ける形で帰国しました。

エジプト治安当局は空港で出迎えるなど集会行為を禁止し、支持者による「違法なデモ」を阻止するための措置を取ると警告していましたが、“群衆は国歌を斉唱、ムバラク大統領の長期政権を批判する横断幕を掲げた。民主化の加速を求める大衆運動体「キファーヤ(もうたくさん)」などの野党支持者や一般民衆が集まり、「違法集会の禁止」を求めた治安当局の警告を無視した”【2月20日 時事】

帰国後のTV番組出演では、“90%以上で当選するような選挙は芝居だ”とか“ファラオ国家”といった刺激的な言葉も使って、28年あまりにおよぶムバラク長期政権を激しく非難しています。
****ムバラク長期政権を痛烈批判=「国民望むなら出馬」-エルバラダイ氏****
来年のエジプト大統領選への出馬を求める声が強まっている国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ前事務局長は21日夜、テレビ番組に約2時間にわたって出演した。この中で約28年余り続くムバラク大統領の長期政権を痛烈に批判、「人々が望むなら出馬する。変革の手段になりたいだけだ」と述べ、出馬への意欲を改めて表明した。

エルバラダイ氏は「国民は50年間も民主主義不在の中で暮らしてきた。候補が(得票率)90%以上で当選するような選挙は芝居だ」と、ムバラク政権下での不正選挙や非民主政治を指弾した。
さらに、1960年代にエジプトは韓国と同じ経済水準だったが、現在の1人当たり国民総所得は韓国約2万5000ドルに対し、エジプトは1200ドル前後だと、数字を示して国力の低迷を強調。「関心はエジプトをファラオ(古代エジプト王)国家から政府組織で統治される国家に再生することだ」と述べた。【2月22日 時事】
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これだけの発言をして当局がおとがめがないのは、国際的に評価・知名度が高く国際メディアが注目するエルバラダイ氏へのうかつな対応は国際的悪評を呼びかねないとの当局側の懸念があるとみられています。
しかし、支持者らの街頭デモは「違法」と取り締まり、4月6日のカイロのデモでは30人を拘束しています。
また、同氏に関する本を最近出版した出版社幹部が一時拘束されたりもしています。

28年あまりにおよぶ長期政権を続けるムバラク大統領は、イスラム過激派の脅威などに対処しつつ、経済自由化にも一定の成果を出しているとの評価もあります。しかし、一方で与党・国民民主党(NDP)の事実上の一党支配を背景とした権威主義体制や経済格差拡大への国民の閉塞感も高まっています。
高齢のムバラク大統領は健康不安も話題にもなります。
11年の大統領選挙については依然、態度を明らかにしていませんが、次男ガマル氏(46)擁立が有力視されています。

国民の間にはこうした“権力世襲”へ反発が強く、04年の総選挙と05年の大統領選を契機に、「キファーヤ(もうたくさん)運動」など市民運動が民主化を求める声を上げています。
しかし、エルバラダイ氏に関する報道のたびに指摘されているのが、同氏の大統領選挙出馬を現実的に阻む法的なハードルの存在です。

【困難な立候補資格問題】
****「法律と制度」か「民主的な実態」か******
1981年から権力の座にあるムバラク大統領(81)が5選を果たした2005年のエジプト大統領選は、初めて直接投票の複数候補制で実施された。以前は、人民議会(下院)で与党から大統領を選出し、国民はそれを国民投票で追認するだけだったので、制度としては大幅に“民主化”された形だった。
ところが、来年秋の大統領選に出馬の意思を表明して話題を呼ぶエルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長(67)は、05年に改正された大統領選に関する憲法条項の再改正を訴えている。
改正後の憲法76条では、立候補資格を「人民議会、諮問評議会(上院)、地方議会の議員250人以上の支持が必要」とした上で、「人民議会と諮問評議会で5%以上(07年の再改正で3%に引き下げ)の議席を有し、5年以上の実質的な活動実績を持つ政党の最高意思決定機関メンバーを1年以上務めた者」との条件を課している。
複数政党制が正常に機能していれば特に問題とも言えない内容だが、既存野党が極めて弱く、ムバラク氏率いる国民民主党(NDP)の一党支配を補完する“飾り物”にすぎないと指摘される現状では、新興政治勢力や独立候補を締め出す効果があることも否定できない。

「民主化に見せかけた一連の制度改革には、NDP幹部である大統領の次男ガマール氏(46)に合法的に権力を世襲する狙いが込められている」
エルバラダイ氏らの言い分だが、多くの国民は一理あるとも受け止めている。客観的にエルバラダイ氏出馬の芽はないようにみえるが、同氏は民主化を求める市民運動のみこしに乗って、あくまでも体制に挑戦する構えだ。
法律と制度が民主主義を作るのか、民主的な実態が先なのか? エジプトは今、興味深い実験場となっている。【3月22日 産経】
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ムバラク現政権の与党・国民民主党(NDP)が国と地方議会で大半を占めており、無所属候補が250人を集めるのは事実上、不可能です。既存の野党に参加した場合は、1年間党の役職を務めることを条件に立候補出来ますが、エルバラダイ氏は既存政党すべてと距離を置いており、これも実現の可能性は薄いとされています。

こうした現実的な制約がありながらも、出馬への意欲を語るエルバラダイ氏の意向、同氏を支持する運動の高まりは、不思議でもあります。
エルバラダイ氏は「大統領になることより、エジプトに変化をもたらすことが重要だ」と語っており、国際的に知名度の高い自らの出馬への動きが、長期政権の続く政治の変革につながるとの見方を示しています。
“市民運動や野党勢力は、知名度が高い同氏を担ぎ出し、憲法改正を手始めとする民主化要求に勢いをつけようという狙いだ。前回大統領選で旋風を巻き起こした独立系候補、アイマン・ヌール氏はその後、選挙にからむ容疑で逮捕されたが、国際的に知られたエルバラダイ氏には体制側も手を出せないとの思惑もあるだろう”【2月21日 産経】との指摘もあります。

【変革か混乱か】
エルバラダイ氏は支持者獲得への運動を進めており、遊説や集会など伝統的な手法に加えてインターネットも活用し、「ツイッター」での発信や、ウェブサイトでの支援署名募集を展開しているとも報じられています。
法的・制度的には不可能と見られるエルバラダイ氏の大統領選挙出馬への取り組みが、閉塞状態のエジプトに何らかの変革をもたらすのか注目されています。

ただ、エジプトの“民主化”については若干の不安もあります。
エジプトでは、穏健派イスラム原理主義組織で事実上の最大野党「ムスリム同胞団」は非合法組織とされており、議会選挙には無所属の形で出ています。前回選挙では、ムスリム同胞団メンバーは人民議会の2割弱に当たる88議席を保持、同組織は慈善活動などで国民の支持を広げています。
一方、勢力拡大を懸念した政府は弾圧を強化、「非合法団体に所属している」などの理由で幹部やメンバーを拘束するなどしています。このため、今年予定される人民議会選挙では大幅な議席減が予想されています。【1月17日 毎日より】

良くも悪くも、ムバラク政権の強権的弾圧で押さえてきたイスラム過激派ですので、“民主化”実現でイスラム原理主義の台頭という新たな火種を抱える不安も感じます。だから強権支配が正当化されるという話ではなく、“民主化”には向き合うべき課題もあるという話ですが。

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フィリピン大統領選挙  リードを広げるベニグノ・アキノ上院議員

2010-05-07 21:44:25 | 国際情勢

(母親譲りの「ラバン(闘争)」の頭文字Lを示す、“ノイノイ”こと、ベニグノ・アキノ上院議員
“flickr”より By noynoy aquino
http://www.flickr.com/photos/45356271@N07/4401119154/)

【リードを22ポイントに拡大】
フィリピンでは大統領選挙が今月10日に行われます。
世論調査によると、故コラソン・アキノ元大統領の長男ベニグノ・アキノ上院議員が選挙戦終盤でリードを広げており、何事もなければ、親子での大統領が誕生する見込みです。

****比大統領選、アキノ候補がリードを拡大=世論調査****
フィリピンの民間調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)が2─3日に実施した世論調査によると、10日の大統領選で、コラソン・アキノ元大統領の息子であるベニグノ・アキノ上院議員が、2位の候補に対するリードを22ポイントに拡大している。(中略)
調査では、アキノ候補の支持率が4月から4ポイント上昇して42%となった。
一方、エストラダ前大統領の支持率は3ポイント上昇して20%となり、2位につけた。
今年に入りアキノ候補と互角の戦いを演じた時期もあるマヌエル・ビリヤール上院議員の支持率は、7ポイント低下して19%となった。(中略)
先週行われたパルス・アジアの世論調査では、アキノ候補の支持率は39%、エストラダ候補とビリヤール候補は、ともに20%で2位だった。【5月7日 ロイター】
***********************

アキノ上院議員は、母親の故コラソン・アキノ元大統領(愛称コニー)の死亡によって、マルコス独裁政権と闘った母親コニーを慕う国民の気持ちに乗る形で、一躍選挙戦トップに躍り出ました。
その後、記事にもあるように、一代で財をなした富豪のビリヤール上院議員が支持率で2ポイント差まで追い上げましたが、汚職疑惑で国民から絶大な不人気のアロヨ現大統領が、後継候補のチョドロ氏支持を装いながら、自らの刑事訴追を避けるため、実際にはビリヤール氏を応援する「密約」が存在するとの疑惑が流れ、終盤で失速する展開となっています。

ビリヤール氏にとっては疫病神となったアロヨ現大統領は再選禁止で大統領選には出られませんが、一族郎党とともに下院議員選挙に立候補して権力維持を狙っているという話は、3月26日ブログ「フィリピン 5月10日大統領選挙 下院出馬で権力維持を狙う?アロヨ大統領 」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100326)でも書いたところです。

【政治の世襲化】
こうしたフィリピン選挙事情について、政治家一族が公職を「使い回し」しているとの批判が【朝日】にありました。

***政治家一族だらけの選挙戦 公職を「使い回し」*****
「私の父は殺された。あなたたちは私の母を支持してくれた。私たちがあなたたちを必要としたとき、あなたたちはそこにいてくれた…」  
黄色のシャツを着たベニグノ・アキノ(愛称ノイノイ)が語りかける。背後に、マニラ空港で暗殺された父の上院議員ベニグノ・アキノ(愛称ニノイ)や大群衆に向かって指で「ラバン(闘争)」の頭文字Lの形を示す母の元大統領コラソン・アキノ(愛称コリー)の在りし日の映像が流れる。大統領選向けのテレビCMだ。
マルコス独裁政権に立ち向かったニノイは国民的英雄。コリーは夫の遺志を継いで民主化を成し遂げたヒロイン。アキノの名を知らないフィリピン国民はいない。
アキノ家直系のノイノイも政界に進んだ。議員として特に実績はないが、昨年8月にコリーが没すると、「大統領に」との期待が高まった。両親のイメージを最大限に利用し、選挙レースのトップを走る。当選すれば、親子大統領の誕生だ。

だが、1946年の独立後の歴代10入の大統領で、親子は初めてではない。現大統領のアロヨは、第5代大統領マカパガルの娘だ。
アキノやアロヨのように、フィリピン政界は政治家一族だらけだ。新興政治家もいったん権力につけば、新しい政治家一族をつくりあげる。
世論調査で支持率2位につける上院議員ビリヤールは、不動産業で財をなした富豪だ。「貧困地区から身を起こした」のが売りだが、地方の有力政治家一族から妻を迎えて「一族入り」した。
映画ス夕ーから転身した前大統領工ストラダは妻と長男が上院議員。
前国防相テオドロはコリー・アキノの実家の出身で、ノイノイのはとこにあたる。 
まだある。ノイノイとコンビを組む副大統領候補ロハスは初代大統領の孫。マルコスの長男は上院選に出る。現大統領アロヨの長男は下院議員で、大統領退任と同時に下院選に出る母に選挙区を譲り、自分は比例区に。
夫から妻、父から息子、息子から母…公職が私物のように一族内で使い回される。

フィリピン調査報道センターによると、アキノ政権(86~92年)以降、下院議員の6割以上が政治家一族の出身だ。
「王朝」と呼ばれるこうした一族は、有力紙インクワイアラーによると、全国に少なくとも108ある。
「選挙で勝つには名前を知られなくてはならない。テレビやラジオで大衆に名前を売るには金がなくてはいけない。選挙に出られる人間は眼られる。民主的であるはずの選挙システムは初めから制限を受けている」。アテネオ・デ・マニラ大教授(政治学)のベニト・リムは語る。
大統領選出馬の届け出はだれでもできる。しかし、7千余の島からなる隨国で本格的な選挙運動を展開できる見込みのない者は中央選挙管理委員会の審査ではねられる。選挙戦は政策論争よりも名前の売り込みと中傷合戦に傾く。

一握りの支配層による自国の植民地化・・・フィリピンの国民的作家ショニール・ホセはそう指摘する。「新大統領が最初にやらなければならないことは伝統的なフィリピン人であることをやめることだ。自分が属する階級を裏切ることから始めなくてはならない」 
フィリピン大統領選挙は6月に投票される。9年に及んだアロヨ政権には汚職疑惑がつきまとい、国内の貧富格差は広がった。人びとは、どんなリーダーを選びとるのか。【5月5日 朝日】
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しかし、誰しも思うところでしょうが、政治の世襲はフィリピンだけの話ではなく、日本だって同じようなものです。鳩山、麻生、福田、安倍、小泉・・・歴代の首相を見ても一目瞭然です。フィリピンよりひどいかも。
その他の政治家を見ても、二世議員の多さには「民主主義とは一体何なのか?」という疑問もわきます。
更に言えば、民主主義の総本山アメリカでも、ケネディ王朝、ブッシュ親子、クリントン夫妻・・・と、似たような状況があります。
民主主義という政治システムが抱える世界共通の問題であり、ひとりフィリピンの問題ではありません。

ところで、下院銀選挙には先述のようにアロヨ現大統領のほか、マルコス大統領夫人のイメルダ夫人(80歳)も立候補しています。
イメルダ夫人は1986年の「ピープル・パワー革命」で国を追われた際には、「靴3千足」で有名になりましたが、ハワイから帰国後、下院議員を95年から3年務め、その後は政界から遠ざかっていました。
熱烈なマルコス信奉者が現在も多い元大統領の出身地、ルソン島北部北イロコス州から出馬し、優勢が伝えられるとも報じられています。【3月26日 読売より】

【依然続く反政府活動】
昨年末、フィリピン南部ミンダナオ島の紛争を巡る反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」と政府の和平交渉再開が伝えられましたが、もうひとつの反政府武装組織アブサヤフのテロ活動は依然続いています。
****比南部で爆弾爆発、12人死亡 イスラム過激派犯行か*****
フィリピン南部のバシラン島イザベラ市内の2カ所で13日、相次いで爆弾が爆発した。海兵隊が駆けつけたところ、武装集団の襲撃を受け、国軍によると市民や海兵隊員ら少なくとも12人が死亡した。国軍は同島を拠点とするイスラム過激派アブサヤフの犯行とみて調べている。
アブサヤフはバシラン島やホロ島を拠点に外国人の誘拐などを繰り返しており、国軍が掃討を進めている。【4月13日 朝日】
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アブサヤフは国際テロ組織アルカイダとのつながりを指摘されていますが、近年は外国人誘拐を繰り返す犯罪集団の性格が強いとの言われています。
そのほか、共産党軍事組織・新人民軍(NPA)も活動しており、3月6日には、中部ミンドロ島で、国軍兵士がNPAと戦闘になり、少なくとも国軍兵士11人が死亡したと発表されています。

貧富の格差是正、腐敗・汚職体質の一掃、治安回復・・・新たなリーダーに求められる課題は山積しています。

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ミャンマー  スー・チーさんのNLD解党 NLD新党の動きも

2010-05-06 21:12:00 | 国際情勢

(首都ネピドーにつくられた政府役人のための住宅  こんなものをつくるカネがあるなら・・・と思うのですが、そうは思わないのが軍事政権です。
“flickr”より By andrestgt
http://www.flickr.com/photos/26423168@N08/3641203943/)

GWの台湾(台南・嘉義)観光から帰国しました。
今朝帰宅後、職場へ直行するという強行スケジュールで、いささか頭は朦朧としています。
いろいろ整理しないといけないこともあるし・・・。

【「国民に対して謝罪する」】
そんななかで、目についたのはミャンマー・国民民主連盟(NLD)に関する記事。
民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが率いる最大野党ですが、軍事政権からスー・チーさんを排除して総選挙に参加するか、それとも解党するかを迫られていましたが、スー・チーさんの意向もあって、軍事政権を実質的に温存する非民主的な総選挙には参加することは軍事政権を認めることになるとして、解党の道を選択しました。

****ミャンマー:総選挙はNLD抜きに 7日午前0時で解党****
ミャンマーで今年20年ぶりに行われる総選挙に参加するための政党登録が6日締め切られた。民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(64)率いる最大野党「国民民主連盟」(NLD)は手続きを行わず、7日午前0時をもって解党となる。総選挙は、90年の前回総選挙で圧勝した同党抜きで行われることが確定した。
NLDは5日、最大都市ヤンゴンの党本部で解党前の最後の集会を開いた。解党処分は受け入れるが、今後も民主化闘争を続け、本部に掲げる看板や旗は残す方針という。

同国の軍事政権は3月、政党登録法など選挙関連法を制定。総選挙に参加する政党に5月6日までに選挙管理委員会への登録を求める一方で、過去に有罪判決を受けた人物を党員として登録することを禁じた。
スーチーさんの影響力を恐れる政権が露骨に「スーチー外し」を図ったもので、NLDはスーチーさんを排除して選挙に参加するか、政党登録せずに法の規定で解党処分となるかの選択を迫られた。結局、スーチーさん自身の意向もあって、NLDは3月末に選挙参加を断念した。
国際社会は総選挙について「自由、公正で誰もが参加する」形での実施を求めたが、NLDの不参加で国際社会が「正当に行われた」と認める可能性は極めて低くなった。

NLDは88年にスーチーさんらが中心となって創設。90年の前回総選挙では民主化勢力として全議席の8割以上を獲得する地滑り勝利を収めた。軍事政権は選挙結果を受け入れず政権に居座り、スーチーさんや幹部を繰り返し収監や自宅軟禁処分とするなど弾圧を続けてきた。【5月6日 毎日】
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この決定自体は3月29日のNLD中央委員会ですでに決定されていたものです。
“有力幹部が公然と「選挙に参加すべきだ」と語るなど、党内の意見は一本化されていなかった”【3月31日 毎日】という状況でしたが、スー・チーさんの「(軍事政権が制定した)選挙関連法は非民主的で、受け入れられない」「個人の利益に基づき党内を『組織化』しようとする動きは許されない」との声明が読み上げられ、“選挙には参加せず”との決定に至っています。

NLDは4月6日、「NLDの指導者や党員は、民主化実現のために身をささげてきた」とした上で、「国民に対して、国内の和解と民主化の達成、民主憲法の導入に失敗したことを謝罪する」と、国民への謝罪を発表しています。その上で、「NLDは決して後戻りしない」として、民主化目標の実現に向けて、今後も行動することを誓っています。【4月6日 読売】

私個人的には、どんな枠組みでも選挙に参加して、新体制での影響力を残す方が、ミャンマー民主化にとってベターなのでは・・・という思いもあります。
幹部の間で「選挙に参加すべきだ」との声があったのも、同じ思いからでしょう。
結局、NLDはスー・チーさんの看板なしには活動できない、個人政党だったのか・・・という思いもありました。

【民主化を望む国民の声の受け皿に】
ただ、産経がNLD新党の動きも伝えています。
****NLD新党へ 民主勢力結集 ミャンマー、総選挙にらみ****
ミャンマー最大野党の国民民主連盟(NLD)幹部は4日、年内に予定されている総選挙に向け、新たに「国民民主勢力(NFD)」を結成することを明らかにした。政党登録ができず選挙に参加できないNLDに代わり、民主化を望む国民の声の受け皿となるのが目的。7日にも正式発表し、政党登録を届け出る方針だ。民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが率いてきたNLDの後継政党となることから、軍政が今後、選挙運動を含め、NFDに圧力を強めるのは必至とみられる。
NLD書記長のスー・チーさんは、自宅軟禁中で新党参加や選挙運動はできないが、新党関係者は、スー・チーさんが釈放されれば、何らかのポストで処遇したいとしている。(中略)

NLDでは、軍政主導の選挙に参加することは軍政の正当性を認めることになるとして参加に反対する声と、不参加では民主化勢力としての支持を失うばかりとして、参加を求める意見が対立していた。
既成政党登録の締め切りが6日に迫り、NLDが解党に直面するなか、「このままNLDがなくなれば、政治活動ができなくなる」(幹部)との意見が強まり、新党結成につながった。新党には、NLDのメンバーに加え、1988年の政権交代につながった学生デモを主導した旧全ビルマ学生連盟のメンバーも合流する。

一方、軍政側は4月末、テイン・セイン首相と27人の閣僚と副大臣が軍籍を離れ、連邦団結発展党(USDP)を登録した。軍政の翼賛組織で全国に多数の会員を持つ、連邦団結発展協会(USDA)の名称を一部変えただけで、現政権がそのまま総選挙後の新政権へ移行するための手段とみられる。【5月5日 産経】
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7日の正式発表で登録に政党登録にまにあうのか、この動きにスー・チーさんがどのように関与しているのか・・・よくわかりません。
先述のように、私個人的には、やはり選挙には参加すべきとの考えですので、民主化運動の受け皿となってもらえたらと期待しています。

【軍事政権側も着々と】
先月末時点で、国営紙によると25組織が政党登録申請を済ませています。
NLD以外では、ネ・ウィン将軍のクーデターで追放されたビルマ連邦の初代首相ウ・ヌ氏の娘のタン・タン・ヌさんや、バ・スエ元首相の娘のネ・イ・バ・スエさんらが党員に名を連ねている「民主党」も、反軍政の立場で選挙参加するとも報じられていましたが【4月1日 産経】、その後の動きはわかりません。

軍事政権側は、上記【5月5日 産経】にもあるように、テイン・セイン首相と27人の閣僚と副大臣が軍籍を離れ、選挙参加への準備を進めています。
なお、憲法規定で上下両院の4分の1の議席は自動的に軍人に割り当てられます

ミャンマーでは、総選挙のほか、少数民族と軍事政権の関係が悪化している問題もあります。
軍事政権にとっては、大枠の決まった総選挙より、こちらが懸案との指摘もあります。
“総選挙に向けて国情を安定させるために軍政が少数民族の武装組織に呼びかけている国境警備隊への編入交渉は、4月28日の期限を前に小規模な交戦が起きるなど緊迫の度合いが強まっている。
情報筋によると、政府軍は22、23の両日、同国北東部シャン州の中国国境地帯を拠点とする最大勢力のワ族を攻撃。ワ族が応戦して銃撃戦となった。南部モン州ではモン族の武装組織が編入に反発しており、政府軍との衝突を恐れた同族約300人以上が難民となってタイ国境へ逃げ出すなど混乱が始まっている”【4月27日 朝日】

首都ネピドーでは、各省の庁舎に加え、総選挙後に議員が招集される国会議事堂の建設が進んでいます。建物の外観はほぼでき上がり、7月には完成の予定です。
ヤンゴンや他の都市では日常茶飯事の停電(07年にマンダレーを旅行したときは、通電時間より停電時間のほうが長いような状況でした)も、ネピドーでは近くの発電所から電気を引いているため全く起きないとか。ネピドーに住むのは、軍人や役人に限られ、スーパーなどの従業員らは隣町のピンマナから通うとも。【4月1日 産経より】
首都ネピドーの壮麗な外観より、議会の中身が問われるのはもちろんです。
たとえ、軍の意向がまかり通る新体制であったとしても、反軍政の立場の声が少しでも議会内に残るのは、意味があることだと思います。

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タイ 反政府行動、“とりあえずの”収束へ  ギリシャ 国民に受け入れられない緊縮策

2010-05-05 18:14:42 | 国際情勢


【「衝突による犠牲者をこれ以上出さないため」】
GWの台南観光を終えて帰国の途上です。
そういった事情で、目に付いた記事の紹介だけ。

写真は、台南でも規模の大きい道教寺院「天壇」ですが、正門に掛けられた「一」の字が書かれた扁(写真中央)が有名で、台南の三大名扁のひとつとか。
意味は「千算万算、天の一算に如かず」とのこと。

そうは言っても、人間世界ではあれこれ千算万算せざるを得ませんが、そうしたなかで、なんとか道筋が見えてきたのがタイ・バンコクのタクシン元首相派による反政府抗議行動。

****タイ:首相の政治的解決策にタクシン派が受け入れ表明******
タイのアピシット首相は3日夜にテレビ演説し、タクシン元首相派組織「反独裁民主戦線」(UDD)によるバンコク都心部占拠の事態収拾に向けて、11月14日の総選挙実施など政治的解決策を示した。これに対し、UDDのウィーラ議長は4日、「衝突による犠牲者をこれ以上出さないため」として首相提案の受け入れを表明。流血の事態が懸念された再度の衝突は回避されることになった。
首相は、これまで示していた総選挙日程を約3カ月前倒しした。地元紙によるとタクシン元首相は4日、自派の国会議員に「(提案を)受け入れるべき時だ」と語った。

総選挙でタクシン派政権の復活を狙うUDDは、首相に総選挙の早期実施を約束させること自体が大きな成果だ。しかし、タクシン派が都心部占拠という強硬手段で政治的成果をもぎ取ることに、反タクシン派が反発を強めるのは確実だ。総選挙でどちらの勢力が政権を握ったとしても、対立が根本的に解消される見通しは立たない。

首相は演説で、王室を政治に巻き込まない▽死者27人、負傷者1000人近くを出した治安部隊とUDDの一連の衝突を調査する独立委員会を設置する▽憲法改正や恩赦実施などの政治改革を行う--など5項目の国民和解案を提示。すべての国民がこれを受け入れれば、11月14日に総選挙を行うと述べた。
これに対し、UDDは「下院解散日程が決まれば、5項目の協議に入る」とし、それまでは都心部占拠を解除しない方針を示した。だが情報筋によると、双方は水面下で解散日程についても合意しているという。

タイでは下院解散後45~60日以内に総選挙が実施される規定で、解散は9月中旬から下旬となる。首相は3月末、「年内解散に応じる」との姿勢を示したが、UDDは即時解散を求め、話し合いは決裂していた。
政府は、これまで軍による占拠地域奪還を強く示唆してきたが、再度の強制排除で死傷者が出れば国内外の批判を浴びて厳しい立場に立たされる。首相はUDDに譲歩する以外に選択肢を失った形だ。一方のUDDも、1カ月以上続く都心部占拠で参加者が大幅に減るなど、占拠継続が困難になっていた。
連立与党各党や経済界も首相提案を受け入れる意向だ。08年にバンコク国際空港占拠事件を起こし、下院解散反対やUDDへの強硬対応を求める反タクシン派「民主市民連合」(PAD)は賛否を表明していない。【5月4日 毎日】
**********************************

【根本的解決はいまだなし】
“タクシン派には過激な行動を取るグループも存在することに加え、デモ隊の撤収や、刑事責任を問われている幹部の扱い、デモ隊が隠し持っているとされる武器の取り扱いなど難題も多い”【5月5日 産経】という指摘もあります。
特に、上記記事にもある“総選挙でどちらの勢力が政権を握ったとしても、対立が根本的に解消される見通しは立たない”というのが根幹的問題です。いつまでこんなことを繰り返すのか・・・。

とは言え、とりあえずの収拾がはかられることは喜ばしいことではあります。
タクシン元首相派も政府側も決め手にかき、いささか疲れてきた・・・というところでしょう。
なお、地元紙によるとタクシン元首相は4日、自派の国会議員に「(提案を)受け入れるべき時だ」と語ったそうです。
また、タクシン元首相は、今回の反政府行動にはいろんな集団が参加しており、自分も完全にはコントロールできないといった趣旨の発言もしています。
一部過激派グループによるとも言われている発砲・砲撃との無関係を強調したものでしょうか。

【「ヨーロッパの人々よ、立ち上がれ」】
なかなかとりあえずの収まりもつかないのがギリシャ。
EUとIMFからの協調融資は決まったものの、条件となる緊縮策への国民の合意が得られていません。

****ギリシャの公務員労組、48時間ストに突入 全土で混乱*****
財政危機に陥っているギリシャで4日、公務員労組「ギリシャ公務員連合」(組合員数約75万人)が公務員の昇給や賞与廃止などの政府の財政再建策に抗議し、48時間のストライキに突入した。テレビ局に乱入したり、古代遺跡パルテノン神殿で政府批判を繰り広げたりするなど、全土で混乱が広がりつつある。
公立学校の教師約20人が3日夜、アテネの国営テレビ局に乱入。教育相のインタビュー番組を中断させて「1万7千人の非常勤教師の解雇に抗議する」などと番組で訴えた後、自主的に退去した。
4日未明には、共産党系組合の約200人がパルテノン神殿に集まって「ヨーロッパの人々よ、立ち上がれ」と書かれた横断幕をアクロポリスの丘から垂らし、欧州連合(EU)とIMF(国際通貨基金)から総額1100億ユーロ(約14兆円)の協調融資を受ける条件として厳しい緊縮策を決定した政府への抵抗を呼びかけた。【5月4日 朝日】
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第三者的に言えば、「これまでの放漫財政のつけなんだから、仕方ないじゃない・・・。融資が受けられなくて債務不履行になったら、国民生活はもっとひどいことになるのだから・・・」といったところですが、解雇される当人にとってはなかなか・・・。

“ギリシャ危機の収束に時間とカネがかかるのは「危機対応は迅速性が不可欠」(IMF元幹部)にもかかわらず、昨年12月に危機が深刻化して以後も、抜本策が先送りされてきたためだ。ドイツのメルケル首相は、与党内に支援慎重論が根強い上、5月9日に地方選が迫っており、身動きの取れない状態が続いていた。ようやく重い腰を上げたのは、4月22日以降、ギリシャ売りが加速してから。IMF元幹部は「もし、昨年末にギリシャがIMFに支援要請していれば、支援額はもっと少なくて済んだ」と指摘する”【5月2日 毎日】
何事も迅速な対応が肝要です。みんなわかっていることではありますが・・・。

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台湾  野党、中国との対話へ  馬総統、「米国の参戦求めない」

2010-05-04 19:44:20 | 国際情勢

(台南“民生緑園” 左の建物は日本統治時代の旧台南州庁舎 右は旧錦町合同庁舎 真ん中の掲示板が本文で取り上げたものです)

【防空四要】
一昨日から台湾南部の台南を観光しています。
かつて鄭成功が拠点を築き、“古都”としての遺跡も多い街ですが、日本統治時代の名残も散見されます。
そんな台南市街の中心部に、孫文の銅像が立つ(日本統治時代は第4代台湾総督・児玉源太郎の像だったそうです)通称“民生緑園”と呼ばれる大きなロータリーがあります。

そのロータリーの緑地に“防空四要”と書かれた古びた掲示板がありました。
読む人もいないその掲示板には、“空襲時は、公私の地下道は一律に開放し、付近の市民はそこへ避難する”といったことが書かれています。
“空襲”というのは、中国共産党政権によるものでしょう。
車とバイクが溢れるロータリーには、立ち入る人影もなく、掲示板の文字もようやく判別できるぐらいにかすれているあたりが、現在の台湾の状況を示しているようにも思われました。

【民進党も中国対話へ】
“空襲”時の対応が真剣に語られる時代もあった台湾も、今や中台接近を進める国民党・馬英九政権です。
旅行中のここ数日だけでも、中台関係の緊密化を示すニュースをいくつか見ました。

****北京に台湾観光協会事務所=分断後初の出先機関相互開設*****
台湾の対中国旅行窓口機関「台湾海峡両岸観光旅遊協会(台旅会)」は4日、北京事務所をオープンした。中国側の「海峡両岸旅遊交流協会(海旅会)」も7日、台北事務所を開く予定で、1949年の中台分断後初めて、政府に準ずる機関の出先が相互に開設される。(後略)【5月4日 時事】
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****上海万博:台湾館が40年ぶり出展 双方が立場に配慮*****
・・・・万博には台湾が1970年の大阪万博以来、40年ぶりに出展。台湾で08年5月に馬英九政権が発足してからの中台関係改善を象徴するパビリオンは、随所に中台双方の配慮がみられ、今後、相互交流をさらに深める役割を担うことになりそうだ。
台湾館はアジアのパビリオンが並ぶAゾーンにあり、近くに巨大な中国館を望むが、高架の歩道をはさむ。台湾を自国の領土と主張する中国側が一定の配慮をしたとみられる。(中略)

一方、万博を機に中台の政治的な往来も活発化している。先月6日には韓正・上海市長が、直轄市の市長としては1949年の中台分断後初めて台湾を訪問。同29日には台湾の連戦・国民党名誉主席らが上海で胡錦濤国家主席と会談した。胡主席は「40年ぶりの台湾の出展は両岸(中台)関係改善の成果だ。上海万博は両岸の相互理解を促すだろう」と語った。【5月2日 毎日】
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中国との関係強化に動いているのは与党国民党・馬政権側だけではないようです。
****無条件での対中対話 台湾・民進党主席が提唱*****
台湾の最大野党、民主進歩党(民進党)の蔡英文主席は3日、日本人記者団との会見で、「中国との政治条件を付けない対話を排除しない」と語った。2012年の総統選に向け、民進党の対中政策を弾力化する狙いとみられるが、「一つの中国」原則の受け入れを台湾に迫る中国がどう出るかは未知数だ。
民進党は現在、蔡主席主導で今後10年の政治綱領作りに向けた討議を進めており、蔡主席は2日、台湾の対外戦略をめぐる公開討論会で、対中対話に応じる考えを表明していた。
蔡主席は対話に応じる理由として、「中国が中国国民党を通じて、台湾の民意や民進党を偏った形で理解している」ことを指摘、「高い透明性を保ち、中国に台湾人民の考えを正確に伝える」直接対話の重要性を強調した。
具体的な対話の進め方については、民進党系のシンクタンクや各種社会団体を通じて行い、政治・経済や環境、婦人、人権問題などについて討議する方針という。
政治家間の交流についても、県・市長や立法委員(国会議員)などから始めて、胡錦濤国家主席らとの首脳間対話を急がない考えを示した。

民進党は陳水扁前総統が04年の総統選時に、中国との原則をめぐる対立を棚上げする直接対話を提案したことがあった。しかし、中国に無視された。
中国共産党政権は台湾に対し、一貫して「一つの中国」原則のもとでの対話、交流を求めている。政治条件を付けない蔡主席の対話提案に中国が直ちに応じる可能性は高くない。
ただ、胡主席は08年末に発表した台湾への6項目提案でも民進党との関係を重視していただけに、対応が注目される。【5月4日 産経】
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この動きについて、“独立志向の陳水扁前政権時代に中国と対立を続けた民進党にとっては大きな方針転換で、2012年総統選での政権奪取に向け、現実路線にかじを切る構えだ。・・・今後、党内の独立派などの反発を抑え、党全体をまとめることができるかが焦点となる”【5月3日 共同】とも。
また、“ただ、民進党の呼びかけに中国がどう応えるかについては不透明な部分も多い。馬政権との交渉に中国が応じた背景には「お互いに『一つの中国』を認め、その内容はそれぞれが表現する」という「92年合意」が土台になっているからだ。民進党は党綱領に台湾独立を掲げ「92年合意」も認めていないだけに、対話の実現には曲折もありそうだ。”【5月3日 日経】と、今後の問題も指摘されています。

【“米国の参戦を求める考えはない”】
もうひとつのニュースには少し驚きました。
****中国との有事発生でも米国の参戦求めず 台湾総統が発言****
台湾の国民党政権を率いる馬英九(マー・インチウ)総統は4月30日、中国との有事が発生した場合、台湾支援で米国の参戦を求める考えはないとの立場を表明した。CNNとの会見で述べた。
馬氏は、中国との衝突のリスクを削ぐため米国からの武器調達は今後も続けるとしながらも、有事が起きても米国の参戦を促す考えはないと述べ、「この方針は極めて明瞭である」と強調した。また、自らこれまで進めてきた対中関係改善の成果で、中台紛争に米国が巻き込まれる危険性は過去60年間で最も少ないとし、台湾と中国との間の緊張の火種も大きく減じたとの見方も示した。
総統は会見で、航空路線、食糧、観光客招致や司法協力などの分野で中台は過去2年間で12件の協定に締結したとし、いずれの協定も台湾の主権や領土を犠牲にしたものではなく、台湾の繁栄と安定に寄与するものだと強調した。
しかし、米国からの武器調達については、台湾海峡の平和と安定の維持のために極めて重要との見解を表明。米国が武器輸出を現在の水準から縮小すれば、中台を含む地域情勢の信頼を低下させることになると述べた。
武器輸出を含む米台間の関係に中国は神経をとがらせており、今年1月には米国による台湾への地対空誘導弾パトリオット(PAC3)システムやヘリコプター「ブラックホーク」など総額60億米ドル以上の兵器売却決定に強く反発、撤回を要求している。ただ、米国は台湾側が求めていたF─16戦闘機の売却は見送っていた。
中国は、台湾は自国領土の一部と主張している。【5月1日 CNN】
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上記CNN記事では明示されていませんが、Record ChinaはこのCNNインタビューについて、馬総統が“米国が台湾のために戦争することを「永遠に求めない」と述べた”と報じています。
台湾の総統が「永遠に」という単語を用いてアメリカに対し、台湾海峡の緊張に際し出兵することを求めないことを、これほど明確に意思表示したのは今回が初めてとか。

台湾海峡が戦争状態に突入した場合、アメリカが台湾を防衛するために介入するかどうかについては、アメリカはこれまで中国との関係もあって、“ひとつの中国”という虚構の上にたって、あえて“曖昧”にする形で対処し、否定もしないことで中国への事実上の圧力をかけていました。
台湾サイドからは、アメリカの介入を明示するようにとの要望が以前はあったように理解していたのですが、今や、台湾有事でもアメリカ参戦を求めないと明言するまでになったようです。
“台湾有事”などありえない・・・という馬総統・国民党政権の意思表示でしょう。
でも、“米国からの武器調達については、台湾海峡の平和と安定の維持のために極めて重要”・・・ということで、微妙な問題への随分思い切った発言のようにも思えます。

普天間基地問題で日米軍事同盟にさざなみが立っていますが、台湾側から「参戦の必要はない」と明言されたら、アメリカの極東戦略には大いに影響するのではないでしょうか。

【台湾有事を起こさない知恵を】
台南の街を歩いていると、上空を戦闘機が轟音を響かせて飛ぶ姿が見られます。
****台湾空軍、即戦力の低さが議会で問題に*****
台湾空軍戦闘機の即戦力の低さが立法院(国会)で問題になっている。国防部の基準では、配備数の75%以上が常時、出撃可能な状態でなければならないが、主力戦闘機のF16(2人乗り)で70%、旧型のF5(同)では26%にとどまっている。補修部品の欠乏が主因のようだが、中国の軍備増強が急ピッチで進んでいるだけに、現状を憂慮する声が高まっている。(中略)
米国の民間研究機関「国際評価戦略センター」によると、中国はロシア製や国産の新鋭(第4世代)戦闘機を年内に400機ほどに増やすとされ、すでに中台空軍の戦力バランスは中国優勢に傾いている。台湾は財源難や馬英九政権の対中接近政策で、対策が後手に回っているようにもみえる。【4月30日 産経】
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中国空軍の“空襲”よりは、台湾空軍の整備不良の戦闘機が落ちてくる確率のほうが高いのかも。
“防空四要”の掲示板がこのまま忘れ去られていくように、台湾有事など起こらないように、中台の、更に日米を含めた理性的な対応・協議が望まれます。

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戦争を変える無人航空機の実像と問題

2010-05-03 18:35:22 | 世相

(24時間飛び回り監視・攻撃する「最も価値ある兵器」「瞬きしない目」とも呼ばれる無人航空機のひとつ、プレデター  “flickr”より By trinity2492
http://www.flickr.com/photos/21356749@N05/2076998738/)

【「最も価値ある兵器」】
アメリカ・オバマ政権は、アフガニスタン・パキスタンなどの戦闘で、プレデターなどの無人航空機を多用するようになっています。
米軍司令官は無人機を「最も価値ある兵器」と呼んでおり、無人航空機がもたらした「革命的状況」は、冷戦という新たな戦いを生んだ原爆の開発に例えられるほどとか。
アメリカだけでなく、無人機は現在、世界43カ国が導入。イスラエルやシンガポールは少数で高品質、中国は量を重視するなど、それぞれ戦略を立てつつあり、新たな軍事競争を始めているとも。【4月30日 毎日より】

その無人機による戦いの実態、その問題点について、上記【毎日】記事が詳しく報じています。
非常に興味深いものがありましたので、その論点とりまとめてみました。

【兵士は自宅から通勤】
最初に、驚かされたのは、無人機を操作する兵士は自宅で目覚め、普通の市民と同じように通勤し、アフガニスタンやイラクの「戦争」をしているという実態です。

****自宅から出勤「午前はアフガン、午後イラク」*****
米国本土の基地から衛星通信を使い、1万キロ以上離れた戦地で無人航空機を飛ばす。兵士は自宅で家族と朝を迎え、基地に出勤。モニター画面に映る「戦場」で戦い、再び家族の待つ家に帰る--。
「午前中3時間はアフガンで飛ばし、1時間休憩する。午後の3時間はイラクで飛ばす。米国にいながら、毎日二つの戦場で戦争をしていた」。イラク戦争が始まった03年、米西部ネバダ州ネリス基地で無人機のパイロットをしていたジェフリー・エガース大佐(48)が振り返る。
****************************

空軍は上記のように米本土から遠隔操作しますが、陸軍は「現場との連携を密にするため」現地で操作するとか。
操作する人間が現地事情を知ることの意味合いについては、元米陸軍兵のこんなエピソードも。
“03年、イラク戦争の開戦と同時に、無人偵察機のSO(無人航空機のカメラを操作し、映像を分析するセンサーオペレーター)として、現地に入った。移動が多く、初めて戦地を歩き回った。イラクの人々と話し、裸足の子供たちとサッカーをした。
「戦場を歩くことで、分かることがある。例えばイラクでは、人々が道の傍らに穴を掘り、かんがい用のポンプを埋める。だがそれを知らないSOなら、爆弾を仕掛けていると思い込み、攻撃を呼びかけるかもしれない」。カバレロさんは、戦場を知らない者の無人機操作には懐疑的だ。“

【犠牲のない戦争に歯止めは?】
オバマ米政権がアフガニスタンやイラクで、無人航空機を飛ばし武装勢力を掃討する「無人機戦争」を推し進めているのは、「米兵士が死なない」「低コスト」というメリットがあるからです。

「低コスト」については、“「瞬きしない目」。空軍は無人機をそう呼ぶ。24時間の連続飛行も可能。夜間は赤外線カメラが、武装勢力を探す。プレデターの機体価格は約450万ドル(約4億3000万円)でF22戦闘機の約85分の1だ。昨夏、空軍が作成した長期計画書によると、「2012年をめどに、一人で同時に4機の操縦を目指す。人件費56%の削減が可能」。最終的に目指すのは「無人機を操縦するロボット」の開発だ。”

「無人機を操縦するロボット」・・・ハリウッド映画的で、なんとも不気味な感じがあります。
その攻撃で、吹き飛ばされ、手足を失い、血にまみれ、命を失うのは生身の人間です。

「米兵士が死なない」ということについては説明も不要でしょう。
しかし、犠牲を伴わない戦争には世論の歯止めがかからなくなる恐れもあります。
“米兵の戦死という犠牲があるからこそ、国民も政治家も、戦争に慎重になる。多数が死傷すれば、派遣に賛成した議員は選挙で負ける。だがパキスタンでの空爆は(米兵が死なないので)米議会で審議されず、戦争とも認識されていない。”

また、遠隔操作に戦闘は、戦争を非現実化させます。
“戦争に関する調査で、「距離と対象の間化」が殺人を容易にするというデータがある。無人機による空爆は遠隔操作で、画面に浮かぶ対象は、人というより小さなモノに見える。”
ゲームの世界の感覚で、生身の人間が殺されていくことにもなりかねません。

【増加する民間人犠牲】
治安の悪化に歯止めがかからない状況の中、オバマ大統領は「米兵の死なない」「低コスト」の無人機への依存をさらに強めていますが、一方で、民間人の被害が深刻化、その手法を疑問視する声も噴出しています。

*****無人機爆撃、本土で操縦 民間人の被害拡大******
米陸軍士官学校のゲーリー・ソリス元教授は「軍服を着ない武装勢力と市民を映像だけで区別するのは難しいはず」と指摘する。国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、09年に戦闘に巻き込まれて死亡した市民は2412人。4人に1人は、米軍の無人機を含む空爆などの犠牲になっている。

毎日新聞が入手した空軍の集計値によると、オバマ政権が発足した09年、アフガンで無人機プレデターと新型の「リーパー(死に神)」が投下した爆弾は219個。08年(183個)の1・2倍で、07年(74個)の約3倍だった。今年1~3月末は計52個で、昨年と同ペースとなっている。

オバマ大統領は、パキスタンでの米中央情報局(CIA)による無人機空爆も拡大。米シンクタンクによると、04年から今年4月16日までに最大1314人が死亡し、うち3割(378人)は民間人で、民間人の約半数がオバマ政権下で犠牲になった。国連人権理事会のフィリップ・アルストン特別報告者は、民間人被害を重視。「国際人道法に違反する疑いがある」と話し、6月の同理事会で改善を求める方針だ。

世界各地の非合法殺害(処刑)について国連人権理事会に報告するフィリップ・アルストン特別報告者は、昨年6月と10月、米のパキスタンでの無人機攻撃が、市民と戦闘員を区別し過剰な民間人被害を回避するよう定めた国際人道法に「違反する疑いがある」と報告した。オバマ政権は前政権と同じ説明をするだけで、アルストン氏は「オバマ大統領には変化を期待したが、失望している」と話す。【4月30日 毎日】
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民間人の被害拡大がアメリカの戦略を不利にすることもあって、アメリカ側も対応はとっているようです。
CIAはパキスタンで、民間人の死傷者を最小にするために、より小さく、高度な監視技術を使用したバイオリン・サイズのミサイルの使用に変更したことが報じられています。

****巻き添え減らせ、CIAが対テロ新型ミサイル****
26日付の米紙ワシントン・ポストは、パキスタンで、無人武装偵察機を使った国際テロ組織アル・カーイダ幹部らの殺害作戦を展開している米中央情報局(CIA)が、新型の小型ミサイル「スコーピオン」の使用を始めたと報じた。
同ミサイルは長さ55センチ、重さ16キロ・グラム。これまで使われていたミサイル「ヘルファイア2」に比べ命中精度が高いことに加え、破壊する範囲が広くはなく、「精密攻撃」によって民間人の巻き添え死を少なくする効果があるという。
CIA当局者が同紙に語ったところでは、2009年1月以降、無人偵察機を使った攻撃は70回以上行われ、テロリストや武装勢力構成員計約400人を殺害した一方、民間人二十数人が犠牲になったとしている。また、同紙によると、CIAは、超小型の無人偵察機を使い、至近距離から標的を何日も監視するなど、テロリスト狩りにあらゆるハイテク兵器を使っていると紹介している。【4月27日 読売】
*********************

【操作は民間人、将来はロボットも】
こうした無人機の操作には、民間人も多く関わっているそうです。
“米陸軍によると、無人機操縦者の7人に1人は民間人。無人機の急増に、兵士の訓練が追いつかない状況だ。米軍交戦規則で民間人の戦闘行為は禁じられているため、ミサイルボタンを押す瞬間は「兵士と交代する」(陸軍)。一方、民間人SOの大半は、20代の若者。戦場を歩いた経験もない。映像から不審な動きを報告するSOの役割は大きく、攻撃態勢を一気にエスカレートさせることもある。
「現場から遠ざかるほど、人は現実感を失う」。(米軍用機製造企業から派遣された元米陸軍兵のSOである)カバレロさんは、そう感じている。”
“戦場を歩いた経験もないゲーム好きの民間人若者”、あるいは“ロボット”・・・どっちもどっちです。

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イエメンの早婚禁止法案をめぐる議論、ナイジェリアでは有力議員が13歳少女と結婚

2010-05-02 09:42:15 | 世相

(8歳で結婚させられ、離婚を勝ち取ったイエメンの少女ナジュード・ムハンマドさん 「大人になったら結婚したいか」と問われたナジュードさんは、首を横に強く振ったとか “flickr”より By rosewithoutathorn84
http://www.flickr.com/photos/7711591@N04/2555148918/
 
【13歳の少女が、挙式の5日後に性交渉が原因で死亡】
アラビア半島の貧困国イエメンは、イスラム教シーア派の一派であるザイド派と政府軍が北部で戦闘を続け、南部では分離独立派が動きを活発化させ、中部でも国際テロ組織アルカイダが勢力を拡大中・・・と、国中で紛争が生じている問題国でもあります。
イランの支援を受けるザイド派との紛争は、イエメン政府を支援する隣国スンニ派のサウジアラビアも巻き込んだ紛争となりましたが、2月12日に一応の停戦が成立しています。(その後の詳細はわかりませんが)

そんなイエメンで、8歳で強制結婚させられた少女が10歳で離婚を勝ち取ったこと、17歳未満の女性の結婚を禁止する法案に賛否の議論が巻き起こっていること、この法案に“反対”する女性たちの抗議行動が行われたことなどを、3月23日ブログ「イエメン 早婚を禁止する法改正に女性たちが抗議集会」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100323)で取り上げたことがあります。

そんななか、4月初めに13歳の少女が、性交時に裂傷した性器からの出血が原因で挙式の5日後に死亡する事件が起き、改めて早婚禁止法案の議論が注目を集めています。

****結婚最低年齢で論議=少女の悲劇の死で-イエメン*****
アラビア半島の貧困国イエメンで、17歳未満の女性の結婚を禁止する法案に賛否の議論が巻き起こっている。4月初めに13歳の少女が、挙式の5日後に性交渉が原因で悲劇の死を遂げ、人権団体は早期の対応を求めている。
イエメン北西部ハッジャ州の少女イルハム・アッシさんは、部族的な習慣に基づいて24歳の男性と意に反して結婚させられた。イルハムさんを失った母親は、男性側に非があるとして処罰を求めている。
イエメンでは昨年9月にも、12歳の少女が出産直後に死亡している。地元メディアによれば、サヌア大学の調査では、過去2年間の結婚では女性の52%前後が15歳以下で、中には年齢差が56歳に達するケースもあった。
低年齢での結婚が多い背景には、貧困や教育の欠如といった理由のほか、低年齢での結婚が宗教的な道から外れるのを防ぎ、女性を保護するとの考えもあるという。【4月30日 時事】
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少女の母親は「アッラーの法の実行を求める。処罰を求める」と語っています。少女の夫は地元警察に拘束されましたが、少女に性行為を拒まれたにもかかわらず無理やり性行為に及んだことを認めているとのことです。

イエメンでは、最低結婚年齢を女性17歳、男性18歳と規定した法律をめぐって激しい議論となっており、法律が議会を通過したにもかかわらず、保守派議員が改正を求めるなどの動きを見せ、実際にはまだ施行されていません。
保守派議員が反対するのは、イスラム教の預言者ムハンマドが8歳のアーイシャと結婚したとされることから、幼い少女との結婚は“アラーが許したこと”というイスラム的理解があるためのようです。
また、記事にもあるように、“低年齢での結婚が宗教的な道から外れるのを防ぎ、女性を保護する”という、女性の貞淑を守るという考えもあるようです。

【「預言者ムハンマドも少女と結婚した・・・」】
同じイスラム教の国ナイジェリアでは、49歳の有力上院議員がエジプト人の13歳少女と結婚したということで、議論になっています。
****49歳上院議員が13歳少女と結婚か、ナイジェリア*****
ナイジェリアでこのほど、49歳の有力上院議員がエジプト人の13歳少女と結婚したとの訴えが人権団体からあり、ナイジェリア上院は28日、事実関係の調査を命じた。
調査命令は、同国の人権監視団体など計11団体が上院の女性問題・青少年育成委員会委員長を通じて、調査を求める請願書を上院に提出したことを受けての措置。人権団体らは、議員の行為は国の名誉を傷つけるものだとして激しく非難しており、27日には複数の女性団体が議事堂前で、調査の必要性を訴え抗議活動を行っている。

メディア報道によると、問題となっている議員はAhmed Sani Yerima上院議員(49)で、13歳の少女(氏名不詳)に10万ドル(約940万円)の婚資を支払ったのち、首都アブジャのナショナルモスクで結婚式を挙げた。
AFPが入手した請願書のコピーによると、人権団体側はこの結婚について、18歳未満の結婚を禁じる2003年施行の子ども人権法に抵触していると指摘している。同法に違反した場合の罰則は50万ナイラ(約31万円)の罰金および(または)禁固5年と定められている。
請願書はまた、ナイジェリアがユニセフの子どもの権利条約締約国であることを強調している。
Yerima上院議員は、北西部のザンファラ州の知事を務めていた際、同国としては初めて州内にイスラム法を導入した人物として知られる。【4月29日 AFP】
*****************************

10万ドルというと日本でも大金ですが、ナイジェリアのような国では一般庶民とは縁のない金額でしょう。この件の事情はわかりませんが、娘を売り渡す親がいても不思議はない金額です。
この件に関して、在ナイジェリア・エジプト大使館は4月29日、少女は現在もエジプトの学校に通っていると発表しています。
エジプトの学校に通っているということは、少女側の家庭もそれなりに裕福な家庭なのでしょうか。

“問題となっているAhmed Sani Yerima上院議員(49)は英BBC放送のインタビューに対し、少女の年は13歳ではないと否定し、また10代の少女と結婚しても自分はイスラム教徒としていかなる法も犯していないと答えた。・・・「イスラムの観点からは何の規律も破っていないのだから、年齢の問題などまったく気にしない」と述べ、批判は中傷に過ぎないと反論した。「預言者ムハンマドも少女と結婚したことは歴史が示している。ゆえにわたしも何の法も犯していない。誤って言われているように、妻がたとえ13歳だとしてもだ」”【4月30日 AFP】

ただ、“同議員には少女たちを誘惑しては自分と結婚させているという悪評がついてまわっている。2006年にも15歳の少女を退学させ4回目の結婚をしたが、子どもをもうけた後に離婚した。妻は4人までと定められているため、13歳の少女と結婚するために4人目の妻と離婚したとみられる。”【同上】との指摘もあります。

ここでも、“預言者ムハンマドも・・・”です。
預言者ムハンマドにはいろんな事情もあったでしょうし、当時の社会事情もあったでしょうから、そのことをとやかく言うつもりはありません。
日本や欧米の現在の常識では、婚姻は本人の意思が大前提ですが、日本がかつてそうであったように、婚姻は家や親が決めるものという考えもあるのかも。
それでも、女性の健康上の問題、また、女性の早期婚姻が“カネで少女を売買する”ような事態を招きかねないことを考慮して、社会的に規制するのは至極妥当なことに思えます。
そこに“預言者ムハンマドも・・・”云々を持ち出すのは、自分たちに都合にいい世界を守ろうとしているようにしか思えません。

異なる価値観・世界観を持つ異文化とつきあっていくのは大変なことです。

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