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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  外国人誘拐事件が相次ぐケニアが侵攻 飢饉で住民支持を失うアルシャバブ

2011-10-21 23:16:40 | ソマリア

(2月 首都モガディシオのAU部隊 “flickr”より By AU/UN_IST http://www.flickr.com/photos/au_unistphotoarchive/6222535967/

【「軽蔑にしか値しないこういった連中はとても人間とは言えない」】
事実上の無政府状態が続くソマリアの隣国ケニアでは、ソマリア武装勢力によって外国人が拉致される事件が相次いでいます。
この1か月の間にも、英国人女性とフランス人女性が、それぞれ別のビーチリゾートで誘拐されており、ケニアの観光産業は大きな打撃を受けています。

また13日には、ケニアのダダーブ難民キャンプで、支援活動を行っていたスペイン人女性2人が銃で武装したグループに連れ去られています。ダダーブ難民キャンプは世界最大の難民キャンプで、主にソマリアからの難民45万人が生活しています。【10月17日 AFPより】

今月1日に拉致されたフランス人女性が武装勢力による拘束中に死亡しました。
****ソマリア武装勢力に誘拐された仏人女性が死亡、仏外務省****
フランス外務省は19日、ケニア東部ラム島近くのリゾート地・マンダ島でソマリア武装勢力に誘拐されていたフランス人女性が死亡したと発表した。
死亡したのはマリ・デデューさん(66)。今月1日、10人ほどの武装集団がデデューさんを拉致し、誘拐を阻止しようとしたケニア海軍と戦闘を繰り広げたのち、ボートでソマリアに連れ去った。

外務省によると、解放交渉の窓口役となった人物から死亡の知らせを受けたという。また、死亡の経緯は不明としながらも、デデューさんの健康悪化が一因との見方を示した。デデューさんは数年前の事故で車いす生活を余儀なくされている上、末期のがんを患っており、数時間ごとに薬を飲む必要に迫られていた。(後略)【10月20日 AFP】
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ソマリア武装勢力は、死亡したマリ・デデューさんの遺体と引き換えに身代金を要求してきたと報じられてましす。こうした武装勢力に対し、サルコジ仏大統領は「このような言語道断な行為を働く者は、野蛮人の集団以外の何者でもない」と怒りをあらわにしています。

****ソマリアの武装勢力、仏人女性の遺体と引き替えに身代金を要求****
フランス政府は20日、仏人女性マリ・デデューさん(66)をケニアからソマリアに連れ去って拘束中に死亡させたソマリアの武装勢力が遺体と引き替えに身代金を要求してきたとして、この武装勢力を「野蛮人」と呼んで強く非難した。

仏政府は19日、デデューさんは1日、ケニアで武装勢力によってソマリアに連れ去られ、拘束されている間に死亡したと発表していた。
デデューさんは、数年前の事故で車いす生活を余儀なくされていたうえ、がんを患っていた。死因は、武装グループがデデューさんに薬を与えなかったためだとみられる。

ジェラール・ロンゲ国防相は、ニュースネットワークi-TELEに、「病気を抱えた高齢女性を誘拐し、薬も与えず敗血症で死に至らせた。そのうえ、彼女の遺体を売りつけようとしている!軽蔑にしか値しないこういった連中はとても人間とは言えない」と語った。
仏西部の汚水処理場を訪問していたニコラ・サルコジ大統領も、「このような言語道断な行為を働く者は、野蛮人の集団以外の何者でもない」とAFPに語った。

その一方で、ロンゲ国防相は、誘拐集団はソマリアの名を汚す例外的な少数派のごく小規模なグループだとして、軍事攻撃を加える考えはないと語った。
仏政府は、無条件でデデューさんの遺体を即時返還するよう、武装グループに要求している。【10月21日 AFP】
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アメリカのトラウマ
“誘拐集団はソマリアの名を汚す例外的な少数派のごく小規模なグループ”というのは、フランスとして軍事攻撃は行わない弁解みたいな発言です。
ソマリアでは、イスラム過激派組織アルシャバブが、最近首都モガディシオからは撤退したものの、依然としてソマリア国土の多くを実効支配しています。また、一連の誘拐事件にはアルシャバブのほか、海賊グループの関与も指摘されています。

アルシャバブは国連や欧米系NGOの活動を「スパイ」と見なして活動を禁じており、干ばつと飢饉に苦しむソマリアへの国際援助の障害となっています。

ソマリアでは90年代前半に国連PKOが展開されていましたが、映画「ブラックホーク・ダウン」でも描かれているように、93年、民兵のロケット弾攻撃により米軍単独作戦中のヘリ2機が撃墜され、この乗員救出に向かった米軍は激しい市街戦で大きな犠牲を出しました。
事件後、米兵の遺体が裸にされ市内を引きずりまわされている映像はアメリカ国内に大きな衝撃を与え、厭世感を強めたアメリカはソマリアから撤退しました。95年には国連PKOも失敗し撤退しました。

このトラウマを抱えるアメリカは、ソマリアのその後の無政府状態にもかかわらず、これに直接介入することは避けています。
そのかわり、2006年には、ソマリア国境でソマリ族の分離独立運動を抱えるエチオピアが、アメリカの支援のもとでソマリアに侵攻し、全土を掌握しました。
しかし、ソアリア国内の反エチオピア感情が強いことがあって、エチオピアもアフリカ連合にあとを任せる形で09年初頭までに撤退しました。

【「アルシャバブのいるところならどこであれ攻撃を行う」】
今度は、一連の外国人誘拐の舞台となっている、やはりソマリアの隣国にあたるケニアが、ソマリアに軍事進攻しています。

****ケニア、誘拐頻発でソマリア進攻 過激派、報復テロ警告****
ソマリア国境に近いケニア東部で外国人の誘拐事件が相次いだためケニア軍がソマリア南部に進軍、同国を拠点とするイスラム過激派組織アッシャバーブとの間で緊張が高まっている。アッシャバーブは軍が撤退しなければ、ケニア国内でテロを行うと脅迫している。(中略)

ケニア政府は一連の誘拐事件をアッシャバーブの犯行と断定して領土保全と被害者保護を理由に16日に約400人の部隊と戦車などをソマリア南部に派遣した。難民流入を防ぐため国境警備を強化する狙いもあるとみられる。アッシャバーブは関与を否定しているが、ソマリア暫定政府はケニア軍と協力してアッシャバーブの拠点を攻撃する方針を表明している。

アッシャバーブは国際テロ組織アルカーイダとの連携を表明し、ソマリア中南部の多くを実効支配。今年8月、首都モガディシオから撤退したが、今月4日にはモガディシオで自爆テロを起こし80人以上を殺害した。モガディシオでは18日にも、車を使った自爆テロが起き、少なくとも6人が死亡。ケニアのハジ国防担当相らがソマリア暫定政府幹部らと会談するため訪れていたときで、アッシャバーブの犯行とみられる。

アッシャバーブは「ケニア軍が撤退しない場合はケニアを攻撃する」と脅している。ソマリアには1992年に米海兵隊が派遣されたが、死傷者が続出して撤退。2006年にはエチオピアが軍事介入したが、反エチオピア感情が高まり、撤退している。【10月20日 産経】
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世界の警察官を自任するアメリカも直接介入したがらない、アフリカ連合のPKO活動も十分に機能していないソマリアに、自国でのテロ激化のリスクを犯してまでケニアが単独介入する意図も、また、どこまで介入する気なのかもよくわかりません。

介入意図については、単に“外国人の誘拐事件が相次いだため”というだけではないでしょう。アメリカとの関係が強いケニアですから、アメリかの要請を受けたもののようにも思えます。
拉致被害にあっている欧州各国からの働きかけもあるのでしょうか。
規模については、ケニアとしてもあまり深入りはしない、限定的な侵攻作戦ではないでしょうか。

ただ、ケニアは、ソマリア難民49万8000人近くを抱えています。1日当たりの到着難民数は、従来の1500人から減少しているとはいえ1000〜1200人とも言われています。
ケニアはソマリア難民がこのままケニア国内に定着してしまうことを懸念しており、難民が帰国できる状況を早期に作り出したいのも事実でしょう。

“AP通信によると、ソマリアでは17日、ケニア軍部隊が戦車や装甲車でアル・シャバブの拠点に向けて移動しているが、大規模な武力衝突は起きていない模様だ。アル・シャバブが既に敗走したとの情報もある。”【10月17日 読売】
また、“ケニアのジョージ・サイトティ国内治安担当大臣は15日、アルシャバブを「敵」と呼び、「アルシャバブのいるところならどこであれ攻撃を行う」と述べていた。” 【10月17日 AFP】とのことです。

無政府状態が続くソマリア情勢に転機?】
一方、国際支援をアルシャバブが妨害し、深刻な食糧危機に見舞われているソマリアに、アルシャバブを支援する国際テロ組織アルカイダが支援物資を送っているそうです。
首都モガディシオを撤退する状況となっているアルシャバブについては、“内部抗争や資金の欠乏、大衆支持の低下などによって、本格的な戦闘を断念せざるをえなくなったのではないか”との指摘があります。

****アルカイダ、食糧危機のソマリアを支援 米分析機関****
米国のテロ情報分析機関インテルセンターは14日、国際テロ組織アルカイダが、深刻な食糧危機に見舞われているソマリアに支援物資を送っていることを明らかにした。
同国のイスラム過激派組織アルシャバブとの緊密な関係を誇示し、ソマリア国民の間に支持基盤を確立する目的とみられる。支援物資の配給にあたっては、華々しい式典が開かれたという。

各援助団体によると、治安が悪化したソマリアでは、食糧や医薬品は武装勢力に強奪されるうえ、援助団体の職員も誘拐される危険があるため、定期的な支援物資の配送はほとんど不可能な状況だという。

アルシャバブは首都モガディシオで4年間にわたって暫定政府軍との攻防を展開してきたが、8月に突如、モガディシオに持っていた拠点のほとんどを放棄した。だが、依然としてソマリア国土の多くは、アルシャバブが実効支配している。
ソマリア情勢のアナリストらは、政府転覆に失敗したアルシャバブは内部抗争や資金の欠乏、大衆支持の低下などによって、本格的な戦闘を断念せざるをえなくなったのではないかと分析している。【10月15日 AFP】
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「国民は家にこもって雨を待つのだ。外国人のやっている難民キャンプには行ってはならん」(アルシャバブ広報担当)という、アルシャバブの住民無視の姿勢は住民の反発を買っています。
“ソマリアの食糧危機が深刻化する中、国際社会の支援を拒否し続けたアルシャバブは急速に住民の支持を失っている模様で、約20年間にわたって無政府状態が続くソマリア情勢は転機を迎えている。”
ケニアのソマリア侵攻も、こうした情勢変化を睨んでのことでしょう。
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トルコ  和解の兆しがあったクルド人問題、夏以降対立激化

2011-10-20 22:39:54 | 中東情勢

(PKK女性兵士 “flickr”より By james_gordon_los_angeles http://www.flickr.com/photos/james_gordon_los_angeles/6172635906/ )

エルドアン首相とPKK党首の交渉
クルド人は、トルコ・イラク北部・イラン北西部等、中東の各国に広くまたがる形で分布し、人口は2500万~3000万人で、「独自の国家を持たない世界最大の民族集団」と言われています。

トルコでは、テロ組織指定を受けているクルド人系の反政府組織「クルド労働者党(クルディスタン労働者党)(PKK)」によるトルコ政府への抵抗運動が続いていましたが、約1年前の10年10月17日ブログ「クルド人問題、トルコでは和解交渉開始  イラン・イラク国境では密輸ビジネス」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101017)では、和解の兆しについて取り上げました。

****トルコのクルド人問題に解決の兆し*****
トルコでは、分離独立を求めるクルド人の武装組織と政府軍の抗争で36年間に4万人以上の命が失われた。この長い熾烈な戦いに、ようやく終結の兆しが見えてきた。エルドアン首相が先週、クルド労働者党(PKK)のアブドラ・オジヤラン党首(服役中)と交渉に入ったことを暗に認めたのだ。

つい最近まで、PKKとの交渉は軍の猛反発を招き、政権の命取りになりかねないものだった。だが9月の国民投票で、軍権限の制限を盛り込んだ憲法改正案が過半数の支持を獲得。政府は軍に遠慮せず、交渉できるようになった。

一方で、PKKの弱体化も目立つ。ここ3年余り、米軍の支援を受けたトルコ軍がイラク北部の山岳地帯にあるPKKの拠点を猛攻。トルコ国内のクルド人の間でも、PKK離れが進みつつある。
問題はクルド人の自治拡大要求をどこまで認めるかだが、これについても合意形成が期待できる。トルコ経済が急成長を遂げる今、大半のクルド人は独自の言語と伝統を守れるなら、完全に独立する必要はないと考えているからだ。

トルコの一部タカ派はいまだに、クルド文化の独自性を認めれば国家の統合が脅かされると警戒する。だが、民族的多様性を受け入れることで流血沙汰が収まるなら、取るべき道は明らかだろう。【10年10月20日 Newsweek】
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クルド人勢力 総選挙で躍進
その後、今年6月12日に行われた総選挙(定数550)で少数民族クルド人の無所属が躍進し、改選前20議席を36議席(選挙後はクルド系政党・平和民主党(BDP)として活動)に増やしています。

****平和民主党の祝賀集会、「クルディスタンがわが祖国、首都はディヤルバクル」の歌****
5万人が参加した。平和民主党が支持し、ディヤルバクルで当選した無所属候補は、約5万人が参加する祝賀集会を催した。会場で演説した、シェラフェッティン・エルチ氏は、「リーダーたるアポ(オジャラン)も、山にいるゲリラの英雄たちも、顔をあげ、名誉ある形で我々のなかにもどってくる」とのべた。トルコとクルド人に感謝の言葉を述べたレイラ・ザナ氏は、クルド人は(トルコ共和国において)国家の一方の担い手となると述べた。

■無所属候補らは、クルド人・トルコ人に感謝を述べた
平和民主党の呼びかけで、バトゥケント交差点の広場に集まった約5万の人々は、6名の無所属候補の当選を祝った。会場やステージには、巨大なPKKの旗、アブドゥッラー・オジャランのポスター、北イラクのクルド地域で用いられているクルドの旗が掲げられた。

平和民主党のハミト・ゲイラーニー副党首、フィリズ・コチャリ副代表と、当選したレイラ・ザナ、シェラフェッティン・エルチ、エミネ・アイナ、ヌスレト・アイドアン、アルタン・タンの各氏が、大混雑の中ようやくの思いで上った壇上から、人々にVサインをし、挨拶をした。壇上では、「クルディスタンがわが祖国、ディヤルバクルがわが首都」という民謡風のうたと、PKKのマーチが演奏され、壇上にあがった顔にマスクをした若者たちが、PKKの旗をかかげた。しかし、この若者たちを、壇上にいた係員たちが下におろした。祝賀会で短い演説をした当選者たちは、民主的自治区の建設を必ずや実現するとのメッセージをのべ、クルドとトルコの人々が自分たちに示した支援に感謝の言葉を述べた。【6月14日 Milliyet紙】
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非合法テロ組織PKKと関係があるとされる平和民主党(BDP)ですが、選挙管理委員会はBDP議1名について、PKKの「宣伝活動を行った」との罪で有罪判決を受けたことを理由に当選取り消しを決めています。

総選挙でのクルド人勢力の議席増加を受けて、新国会におけるクルド人勢力の権利拡大要求を、新憲法の制定を課題とするエルドアン政権も無視できず、駆け引きが強まる可能性があると、エルドアン政権のクルド対策が注目されていました。

****トルコ総選挙、少数民族クルド人が躍進 権利拡大要求へ****
・・・(クルド系政党の)BDPのデミルタシュ党首は選挙結果について「満足している。人々の自由を求める声が強まった結果だ」と述べた。悲願とする公立学校でのクルド語教育の実施や、クルド人による自治要求を強める動きに出るのは間違いない。

2002年から単独で政権を担うエルドアン首相率いる親イスラムの公正発展党(AKP)は、欧州連合(EU)加盟に向けて少数民族の権利擁護を求められ、09年にはクルド語のテレビ放送を許可するなど権利拡大に動いた。

ただ、トルコ憲法は国の言語を「トルコ語」、国家と国土と国民は「分離が不可能な一体のもの」と規定。これらは政教分離をうたった条文とともに改正ができない。憲法の制約の中でBDPの主張をどう反映させるのか、難しい政治決断が迫られる。

AKPは、1982年につくられた現行憲法が「人権面などで時代にそぐわない」とし、新憲法の制定を目指す。ただ、AKPの獲得議席は326。新憲法の制定を単独で提案できる330に届かず、野党の協力は欠かせない。
AKPとBDPの合計議席は362で、新憲法案を国会で可決させたうえで国民投票にはかることが可能となる。今後BDPがキャスチングボートを握れば、エルドアン首相もクルド人の要求をある程度は認めざるを得ないとみられる。【6月19日 朝日】
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【「(PKKは)激しい報復を思い知るだろう」】
しかし、PKKとトルコ政府軍の争いは最近激化する方向にあります。
8月17日、トルコ軍の車列がPKKに攻撃され、兵士ら9人が死亡したことから、政府軍による報復が行われ、PKK側に多数の死傷者が出ています。

****トルコ軍、武装組織100人を殺害 兵士殺害の報復か****
トルコ軍は23日、武装組織・クルド労働者党(PKK)の拠点があるイラク北部に向けて17日から実施した越境攻撃で、90~100人のPKK戦闘員を殺害したと発表した。

軍によると、PKKの潜伏場所など132カ所を空爆。さらに地上からも砲撃を加えた。今回の攻撃は、トルコ南東部で17日、軍の車列がPKKに攻撃され、兵士ら9人が死亡したことへの報復とみられる。
PKKはクルド人による自治拡大をトルコに求めているが、同国や米国などはPKKをテロ組織に指定。トルコ軍は掃討作戦を続けている。【8月24日 朝日】
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更に、10月19日、イラク国境の警備を行っていた政府軍兵士がPKKに襲撃され24人が死亡しました。
軍は報復に出ています。

****トルコ:国境警備兵24人死亡 クルド人組織の襲撃で****
トルコ南東部で19日未明、イラク国境の警備に当たっていたトルコ兵が非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)に襲撃され、兵士24人が死亡、約20人が負傷した。AP通信などが伝えた。PKKの襲撃としては93年以来の最悪規模といい、トルコ軍部隊はPKKの潜伏拠点があるイラク北部に一時越境し、空爆にも乗り出した。

トルコのギュル大統領は19日、「(PKKは)激しい報復を思い知るだろう」と警告。エルドアン首相とダウトオール外相は外遊予定をそれぞれ中止し、緊急対応を始めた。

現地からの報道によると、襲撃には少なくとも100人のPKK戦闘員が参加し、トルコ軍詰め所など計8カ所をほぼ同時に襲った。軍は報復の一環で、イラク国境に近いトルコ領内で戦闘員15人を殺害した。
18日には南東部ビトリス県で路上爆弾が爆発し、2歳児を含む市民3人と警官5人が死亡する事件も起きていた。

PKKはトルコからの分離独立を主張し、84年以来、対トルコ武装闘争を継続。衝突による死者は4万人を超えている。双方は今夏から再び対立を深めており、トルコ軍はイラク北部への越境空爆を断続的に実施。トルコ兵や治安当局者の死者は7月以降、計70人以上に達している。【10月19日 毎日】
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オバマ米大統領も19日、今回事件を「非道なテロ攻撃」と非難する声明を発表し、攻撃を認める声明を出したクルド労働者党(PKK)の掃討を目指すトルコ政府に対し、米国は協力を続けると強調しています。

和解の兆しが期待されたトルコのクルド問題ですが、現実は逆に戦闘激化の方向にあります。
和解の兆しがあると、和解を好まない敵対勢力双方の強硬派が過激な行動に出て対立を激化させるという構図はよく見られるものです。
トルコ人にしてもクルド人にしても同じイスラム教徒ではありますが、民族的多様性を認め合うのは難しいようです。

これまでもしばしば取り上げているように、こうしたトルコ国内のクルド問題は、隣国イラクにおけるクルド自治政府を巡る動きにも強く影響されます。
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マラリアワクチンが実現間近  殺虫剤処理蚊帳は有功か?  夢の抗ウイルス薬は?

2011-10-19 21:53:51 | 疾病・保健衛生

(中央アフリカの病院で親戚に見まもれながら、マラリアによる死を待つ女性 7時間後には死亡 あとには8人の子供が残りました。 病院にはスタッフは2人しかおらず、薬剤は数カ月前に略奪にあっています。 “flickr”より By hdptcar  http://www.flickr.com/photos/hdptcar/1251274944/

【「マラリアワクチンの史上最大の治験」】
マラリアという病気は、日本を含め先進国社会ではあまり切実な感じはありません。せいぜいが、戦争中南方に派兵されていたときに感染した・・・といった話を聞く程度です。
しかし、熱帯から亜熱帯に広く分布する原虫感染症であるマラリアは、今も“全世界で年間3 ~5億人、累計で約8億人の患者が発生し、死者数は100 - 150万人に上ると報告されている”【ウィキペディア】大きな脅威です。

マラリア対策としてワクチンの開発が強く望まれていますが、主な医薬品需要国である先進国の関心が高くないこともあって、未だ成功していません。
これまでもワクチン開発のニュースをときおり目にはしますが、下記記事のグラクソ・スミスクライン社によるワクチン開発は、世界的大企業の開発で、治験もフェーズ3という最終段階を迎えているということですので、その実現が期待されます。

****世界初のマラリアワクチンまであと一歩、フェーズ3治験で有望な結果****
英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)が開発し、サハラ以南のアフリカ諸国でフェーズ3の治験が行われている、実用化されれば世界初となるマラリアワクチンについて、子供の感染リスクが半減したとする有望な初期結果が18日公表された。

蚊が媒介するマラリアの死者は、アフリカを中心に年間80万人にのぼっている。死者の大半は子供だ。
マラリアワクチン「RTS,S」は、熱帯熱マラリア原虫からの防御のために免疫系を発動させるもので、ベルギーにある同社の研究所で1987年に開発された。細菌やウイルスではなくマラリア原虫をターゲットにしたマラリアワクチンはRTS,Sが初めて。

治験は1992年に欧米で健康体の成人を対象に始まり、1998年からは西アフリカ・ガンビアを皮切りにサハラ以南の7か国(ブルキナファソ、ガボン、ガーナ、ケニア、マラウイ、モザンビーク、タンザニア)でも開始された。治験には乳幼児1万5460人が参加し、同社は「マラリアワクチンの史上最大の治験」だとしている。

その初期結果が同日、米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル」電子版に掲載され、米ワシントン州シアトルで慈善財団ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が主催したマラリアフォーラムでも発表された。

■2015年までに実用化の可能性
初期結果はRTS,Sを3回注射した後12か月の経過観察が行われた生後5~17か月の子供6000人のデータを分析したもので、マラリア発症リスクが56%、重症化リスクが47%、それぞれ低減されていた。
マラリアに特に感染しやすい乳幼児に対するRTS,Sの効果を正確に判断するには、生後6~12か月の詳細なデータが必要で、これらのデータは来年公表されるという。

専門家によると、発熱や注射した部位が腫れるなどの副作用があるが、これらは他の病気の予防接種を受けた子供にもよく見られるという。ワクチンの効果はどのくらいの期間続くのか、費用はどのくらいかかるのかといった問題は今後の課題として残っている。

貧困国の予防接種に資金提供しているGlobal Alliance for Vaccines and Immunizationのセス・バークリー氏は、マラリアは世界で最も貧しい人たちにとって非常に大きな問題なのでワクチンは待ち望まれていたと指摘し、完璧ではないまでも一定の成果を収めたことは非常に大きな出来事だと語った。

グラクソ・スミスクラインのアンドリュー・ウィッティ最高経営責任者(CEO)によると、RTS,Sの開発には既に3億ドル(約230億円)を費やしている。2015年までには、アフリカの子供たちにこのワクチンを安価に提供したいと語った。【10月19日 AFP】
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ワクチンが効果を示すのは約半数といったところのようですが、それでもその恩恵は計り知れないものがあります。
アフリカにおける医薬品治験については、ファイザー社による人体実験を疑わせるような問題『09年2月27日ブログ「ナイジェリア  新薬開発の実態 米ファイザー社、賠償金支払いで和解」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090227)』もありますので、慎重を期す必要もありますが、その期待の大きさを考えると、一刻も早く実用化にこぎつけてもらいたいところです。

開発コスト・製品価格と所得のギャップ
今回ワクチン開発にすでに10年近い年月と3億ドルを費やしているように、医薬品の開発には膨大な時間と費用がかかります。
私企業としては、そのコストは製品価格に反映せざるを得ませんが、医薬品を必要とする貧困層の所得との間にギャップが生じます。
医薬品需要者からすれば「我々の命を金儲けに使うのか!」といった批判にもなりますが、上記のような私企業の立場を無視すれば、今後の医薬品開発が不可能にもなります。

エイズ治療薬に関しても同様な問題があって、開発企業以外のメーカーによる安価ではあるが国際法的には不法なコピー医薬品製造が行われ、そうしたコピー医薬品を承認する貧困国と開発企業の間のトラブルも発生しています。

厄介な問題ですが、国家的な支援やビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団のような団体の支援を含めて、現実的な対応について資金と知恵を出してもらいたいものです。

非常にうがった見方をすれば、人口爆発が続くアフリカで、今後マラリアのような脅威がなくなると、更に人口増加に拍車がかかり、貧困などの諸問題や食糧・資源をめぐる国家間の緊張を高めるのでは・・・といったことも考えられますが、だからといって現存する脅威を放置してよい理由にはならず、その後の問題は別途対策を講じるべきものでしょう。

【「早々に結論付けることは望ましくない」】
蚊を媒介とするマラリアに関しては、医薬品のほか、蚊帳、特に殺虫剤を練り込んだ蚊帳が予防策として推奨されてきました。
日本の住友化学が、蚊帳の糸に殺虫剤を練り込んだ蚊帳「オリセット」を開発し、日本政府はその生産・普及にODAによる支援をおこなっています。

この殺虫剤処理蚊帳については、その効果への疑問や、蚊帳の中で過ごす裸の子どもたちが蚊帳の裾に体を巻きつけたり、中には裾を口に入れてしゃぶることが予想されるとして、発がん性や乳幼児の脳の発達を阻害する可能性などのリスクを危惧する声もあります。
下記記事は、殺虫剤処理蚊帳の効果に疑問があるとの指摘です。

****殺虫剤処理した蚊帳は逆効果?蚊に耐性か、セネガル研究****
世界保健機関(WHO)がアフリカでマラリア対策として配布している殺虫剤を練り込んだ蚊帳(かや)に、かえって局地的なマラリアの再流行をもたらす恐れがあるとの研究結果が18日、英医学誌ランセットの感染症専門誌「The Lancet Infectious Diseases」に発表された。

セネガルの首都ダカールにある仏研究機関「開発研究所(IRD)」の現地研究施設では、殺虫剤処理された蚊帳を2008年に導入した同国中部の村ディエルモ(Dielmo)で、蚊帳の効果を調査した。
IRDのジャンフランソワ・トラプ医師らの研究チームは、蚊帳導入の1年半前から4年間、村の住民500人以上に健康診断を実施してマラリアの罹患者数を調べると同時に、蚊の個体数を調査した。

すると罹患者数は、蚊帳を導入した08年8月~10年8月までは導入前の8%未満にまで劇的に減少したが、10年9月~12月の間に急増し、導入前の84%になったことが分かった。また、成人と10歳以上の子どもで、罹患者数の増加率が導入前よりも高くなった。

一方、マラリア原虫を媒介するハマダラ蚊の中で、蚊帳に使われている殺虫剤ピレスロイドへの耐性を持つタイプの占める割合が、07年の8%から10年末までに48%へと急激に増えていることが確認された。

さらに、蚊の個体数の減少によって住民の免疫力が低下しつつある可能性も浮上した。今回の研究報告では臨床的証拠が示されていないが、特に高齢者でマラリア原虫への免疫力が徐々に衰えていき、そのため蚊の数が再び増加した時に感染抵抗性がなくなった疑いがあるという。

だが、解説記事を寄せた米テュレーン大の専門家らは、調査期間が短すぎる上に1つの村だけを対象にした研究である点を指摘し、この研究結果だけをもって「殺虫剤処理された蚊帳には欠陥がある」「結果はアフリカ全体に当てはまる」などと早々に結論付けることは望ましくないと注意を促している。【8月18日 AFP】
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先述した“発がん性や乳幼児の脳の発達を阻害する可能性などのリスク”については、“科学的根拠に乏しい言いがかりだ”との反論もありますし、想定される危険性についても、使用によるメリットも合わせて論じられるべきものです。
また、上記セネガルでの調査についても、記事にもあるように性急な結論は危険とも指摘されています。
それ以上は素人には判断しようがありません。「WHOが認めているのだから、問題ないのだろう・・・」といったところでしょうか。

比較的冷静に効果・副作用、検討課題を論じたサイトとして、「ODAによるオリセットへの支援について」(08年8月12日 すぺーすアライズ http://www12.ocn.ne.jp/~allies/library/blog/081202.html)がありました。参考までに。

ウイルス感染の治療法に革命をもたらす・・・・?】
マラリアを離れて、最近目にした保健衛生関連記事でインパクトのあった記事が、下記の15種類のウイルスを殺せるという夢のような抗ウイルス薬に関するものです。

****複数のウイルスに効く新薬開発****
人間や動物の細胞に感染するさまざまなタイプのウイルスを探し出して殺してしまう新しい薬が発表された。11種の哺乳類の15種類のウイルスを殺せるという。冬の鼻風邪の原因ウイルスから命に関わる病気を引き起こすウイルスまで、1つの薬で幅広いウイルスに対する効果が示されたのは初めてのことだ。


研究論文の共著者で、マサチューセッツ工科大学(MIT)リンカーン研究所および同大学比較医学部門に所属するシニアスタッフ科学者であるトッド・ライダー(Todd Rider)氏は次のように話す。「数十年前の抗生物質の発見と製造は、細菌感染の治療法に革命をもたらした。今回の発見が、同じように、ウイルス感染の治療法に革命をもたらすことを期待している。この治療薬は、風邪やインフルエンザのウイルスから、HIV、肝炎ウイルスなどのより深刻な病原体、さらにはエボラや天然痘などもっと致死率の高いウイルスまで、すべてをカバーする」。(後略)【8月23日 National Geographic News】
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“風邪やインフルエンザのウイルスから、HIV、肝炎ウイルスなどのより深刻な病原体、さらにはエボラや天然痘などもっと致死率の高いウイルスまで、すべてをカバーする”ということで、あまりに凄過ぎて言葉もありません。俄かには信じ難い話です。

“現在ほかのウイルスを使ったマウスの実験が行われているが、さらに大型の動物で効果と安全性が確かめられたら、アメリカ食品医薬品局(FDA)が人間の臨床試験を承認するだろうとライダー氏は話す。それでも、「薬局でこの薬を買えるようになるまでには、少なくとも10年はかかる」という。”【同上】とのことですが、本当に実現したら、まさにペニシリン発見以来の画期的偉業です。
しかし、そんな薬が本当にできるのかね・・・・?

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メコン川流域「ゴールデン・トライアングル」で中国輸送船襲撃  今後深刻化する水資源争奪戦

2011-10-18 21:36:18 | 東南アジア

(「ゴールデン・トライアングル」のミャンマー領域に暮らす首長族 カレン族の一支族とされています。 タイ北部にいくつか観光用の“村”もつくられています。 チェンセーンのオピウム博物館展示写真より )

船内からは大量の麻薬
タイ、ミャンマー、ラオスの3国がメコン川で接する山岳地帯は、黄金の三角地帯(ゴールデン・トライアングル)とも呼ばれています。

現在は関係国の規制・取締によって減少しているようですが、かつては世界最大の麻薬・覚醒剤密造地帯で、麻薬王クンサが暗躍した地域でもあります。
また、中国の共産党革命後、国民党残党がこの地域に逃れ、台湾・蒋介石政権の後押しで、大陸反攻を目指して実効支配したという数奇な歴史もあります。国民党残党勢力もまた麻薬生産を資金源としていました。

もともと、そうした国民党残党勢力、麻薬組織、あるいは少数民族反政府勢力が活動する危険なエリアでしたが、今では少なくともタイ側は観光地化しており、危ないイメージは薄れてきました。

しかし、今月5日、このエリアで中国輸送船が襲撃され中国人船員13名が殺害されるという、かつてのゴールデン・トライアングルのイメージを彷彿させる事件が起きています。

****武装勢力が輸送船を襲撃=中国人船員11人死亡2人不明―タイ****
2011年10月9日、中国ネットテレビ局(CNTV)は、5日にメコン川タイ流域で中国人船員13人を載せた輸送船2隻が武装勢力に拿捕されたと報じた。

5日午前、メコン川タイ流域を航行中の輸送船3隻が突然、モーターボート2隻に分乗した武装勢力の襲撃を受けた。最後尾を航行していた1隻は難を逃れたが、残る2隻(1隻は中国籍、もう1隻はミャンマー籍)は武装勢力に乗り込まれ、拿捕された。

同流域には麻薬密輸組織の情報を得てタイ軍が出動していたが、5日午後、拿捕された船舶を発見。船上にいた武装勢力5人との間で銃撃戦が起きた。タイ軍の射撃により武装勢力1人が死亡、後に中国人ではないことが確認されている。残る4人は逃亡した。船内からは大量の麻薬が見つかっている。

事件後、タイ警察はメコン川で中国人船員の捜査を続けたが、すでに11人の遺体が川の中で見つかった。なお2人が行方不明。拿捕された輸送船のオーナー・郭志強(グゥオ・ジーチャン)氏は十数年以上、野菜や果物の輸出入を手がけてきた貿易商。「強盗や銃撃などの危険はあったが、船員全員が殺害されるような惨事は初めてだ」と肩を落とした。【10月10日 Record China】
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【「中国は兵を派遣し中国人を直接保護することができるはずだ」】
当然、被害にあった中国側は真相究明を要求していますが、タイ・ミャンマー両国は責任をなすりあいしているとの中国報道もあります。

****中国人船員襲撃事件、タイとミャンマーが責任のなすり合い―中国紙****
2011年10月13日、タイのメコン川流域で5日に発生した武装勢力による中国人船員襲撃事件で、中国紙・新京報はタイとミャンマーが互いに責任をなすりつけ合っていると報じた。

記事によると、まずはタイの警察当局が10日、武装勢力に襲われた2隻の中国船から大量の覚せい剤が見つかったことを受け、凶行に及んだのはこれを奪い取ろうとしたミャンマー東北部シャン州第4特区(コーカン)の麻薬密売グループだと発表。

だが、これに対し、同区の報道局は「事件とは全く関係ない」と反論する声明を出した。事件が起きた地域はもともと同区の人間の立ち入りが禁止されており、タイ警察の監視をくぐり抜け、中国船を襲って逃げるなど不可能というもの。

声明の中で同報道局は「タイ警察が船員5人を銃で撃ったほか、6人の遺体を川に投げ捨てた。その後すぐに現場を封鎖し、その場にいた人たちを追い払った」とする目撃情報を明かした。

その上で、同報道局は中国政府が調査団を現場に派遣することを歓迎すると表明。事故当時に現場で任務にあたっていたタイの警察官全員が中国側の調査を受けるべきだとし、「我々は何もやましいことはしていない。我々も堂々と中国側の調査を受ける」と潔白を主張した。【10月13日 Record China】
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苛立つ中国側では、環球時報が「現地の麻薬組織は中国人の生命と国家の力を蔑視している」と激しく非難、中国が国境を越えて兵を派遣し、直接中国人を保護する必要性を主張しています。

****自国民保護のためなら海外出兵を、タイの中国人船員殺害事件を受けて―中国メディア****
・・・2001年に中国とタイ、ミャンマー、ラオスの4カ国がメコン川航行協定を結んで以降、同河川での船舶の運航はいくぶん正常化したが、いわゆる「黄金の三角地帯」での中国の船舶と船員を狙った誘拐事件は後を絶たない。
今回の事件の詳細はまだわかっていないが、タイとミャンマーの警察が中国人船員の救出に熱心でなかったことは明らか。現地警察当局による事件の公表も、発生から数日たってのことだった。

中国人船員の遺体はメコン川で発見。ほとんどの遺体は目隠しをされ、両手に手錠をかけられたまま。現地の麻薬組織は極めて残忍で、人命軽視も甚だしい。
中国人が海外で犯罪に巻き込まれた場合、これまで中国政府は現地政府と協力し、その国の法律にのっとって保護してきた。ただし、今回のように政治的な理由でなく、偶発的でもない凶悪事件の場合、中国は兵を派遣し中国人を直接保護することができるはずだ。
中国はすべての中国人のための国家であり、国家が国民1人1人を真剣に守ろうとするほど国民の結束力は強まる。その結果、世界から尊重される国家になるのだ。【10月13日 Record China】
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兵の派遣はともかく、中国は武装警察が乗り組んだ公安巡視艇を初めて外国に派遣しています。
****公安巡視艇、初の外国派遣=商船襲撃のメコン川に―中国****
タイとミャンマー、ラオスの国境を流れるメコン川で今月5日、商船2隻が襲撃され、中国人船員12人が死亡、1人が行方不明となった事件後、タイ領内にとどまっていた他船の中国人船員ら164人が14日、26隻に分乗し帰国した。

15日付の中国紙・広州日報によると、中国政府は武装警察28人が乗り組んだ公安巡視艇を初めて外国に派遣し、タイの巡視艇とともに中国船団を護送した。
事件は「黄金の三角地帯」で起き、タイ警察は麻薬密輸組織が関与したとみているが、捜査は難航。中国政府は流域の3カ国に対し、真相究明と再発防止を要求している。【10月15日 時事】 
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【「水は血より濃い」】
長期的・大局的視点で見ると、メコン川流域で麻薬密輸組織や反政府組織以上に危険なのは、メコン川の水を巡る周辺国の争いでしょう。
人口増加・経済活動の活発化が進む世界では、今後、食糧や資源を巡る争奪戦が熾烈となっていくことが予想されます。もし、地球温暖化のような気候変動が影響すれば、なおさらのことでしょう。
なかでも、増産ができない限られた水資源の争奪は国家間の関係を大きく左右します。

メコン川の水資源利用についても、中国の積極的なダム建設に対し、他の流域各国が不満を持つという、南シナ海問題にも似た国際関係があります。
この問題については、
10年3月9日ブログ「メコン川異常渇水と中国のダム建設  今後問題化する水資源争奪戦」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100309
10年4月7日ブログ「メコン川異常渇水 流域国首脳会議は中国に“配慮”して沈黙」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100407
でも取り上げました。

流域各国の関係も、往々にして利害が対立します。
ラオスが計画するメコン川へのダム建設に、ラオスとの「戦闘的団結」を強調してきたベトナムが反対しています。そのラオスには中国の影響が強まっている・・・という、いつものアジアの構図があります。

***越とラオス「特別な関係」亀裂 メコン川ダムで対立、中国の影****
「特別な関係」で結ばれていたはずのベトナムとラオスに亀裂が走った。ラオスが計画するメコン川へのダム建設にベトナムが公然と反対したのだ。抗仏・抗米戦争をともにした「戦闘的団結」のほころびは南進の勢いを強める中国を利しかねない。「水は血より濃い」のか。

問題のダムはラオス北西部のサヤブリ県にラオス政府が計画している。メコン川本流のダムは、下流部分ではこれが最初となる。出力126万キロワットの水力発電所を建設し、電力の大部分を隣国のタイに輸出する計画だ。
内陸の小国ラオスは山が多く、水力資源に恵まれている。電力開発と売電は遅れた経済を発展させるための国家戦略の柱だ。サヤブリ・ダムは「東南アジアの電力基地」に国を改造する重要な一歩と位置づけられている。

しかし、メコン本流へのダム建設は環境や生態系に大きな影響を与えると域内外の環境団体は強く反対している。漁業や農業に深刻な被害がおよび、下流域の住民6千万人の生活が脅かされると専門家は警告する。
反対の輪にはベトナムも加わった。ダム建設は、ベトナム最大の穀倉地帯であるメコン・デルタへの影響がとくに大きいとベトナムは懸念する。今年に入って国内メディアには「上流からの土砂の流入が妨げられ、海水の浸入でデルタが大打撃を受ける」などという専門家の指摘が相次いで紹介された。

それまでのラオスに関する報道では「友好」や「協力」などの美辞麗句が躍るのが常だっただけに、公然たるラオス批判は異例中の異例だ。メコン下流ではサヤブリに続いて10カ所ほどのダム建設計画がある。ベトナムとしては、きれいごとを言っている場合ではないという判断のようだ。

メコン川開発の調整機関であるメコン川委員会(タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムで構成)は4月にサヤブリ・ダム建設の是非を協議したが、物別れに終わった。ベトナム代表は徹底した影響評価を行うため「最低10年間の延期」を求め、カンボジアとタイからも慎重論が出た。

強行突破は無理と見たラオスは先月、ベトナムとの首脳会談の場で計画凍結の方針を伝えた。影響を評価する調査をやり直すためとしており、計画を断念したわけではない。
中国はメコン川上流の自国内の部分で8つのダム建設を計画、すでに4つが完成している。メコン本流へのダム建設では、推進派の中国とラオス、反対派のベトナムという構図だ。

その中国はラオスに影を急速に伸ばしている。完成済みの高速道路に加え、大規模工業団地や鉄道など援助・投資案件はめじろ押しだ。サヤブリ・ダム計画でラオスが強気なのも中国への傾斜の表れと見る向きもある。
ベトナムにとってラオスとの「特別な関係」は安全保障上の絶対条件である。これまで物心両面で多大な支援をしてきたのはそのためだ。南シナ海での中越の対立が先鋭化する中、ラオスをめぐる中越の綱引きからも目を離せない。【6月23日 産経】
*******************************

ただ、中国の水資源戦略もすべて順調という訳ではなく、これまで関係強化を図ってきたミャンマーにおいては、民政移管したテイン・セイン大統領が、軍事政権と中国の電力会社が建設に合意したエーヤワディー川(イラワジ川)の水力発電用ダムの建設を中断する方針を示して話題になっています。

このダム建設には、かねてより環境破壊や強制移住させられる少数民族への人権侵害につながるとの批判があり、スー・チーさんも中止を求めていました。
この発表に、中国企業などが建設し、発電された電力の大半は中国に供給されることになっていたことから、中国側が強く反発しています。

そう言えば、日本にも「八ツ場ダム」問題がありましたが・・・・。
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ボスニア・ヘルツェゴビナ  パレスチナ国連加盟問題で難しい選択を迫られる

2011-10-17 23:06:55 | パレスチナ

(今年7月に行われた「スレブレニツァの虐殺」の16周年式典 新たに身元が判明した何百人もの遺体が埋葬されました。 「スレブレニツァの虐殺」やサラエボ包囲を指揮したとして、大虐殺や戦争犯罪、人道に対する罪で起訴されたセルビア人武装勢力の司令官ラトコ・ムラディッチ被告(69)が、今年5月にようやく拘束され、ひとつの節目を迎えましたが、遺族の悲しみを癒すにはまだ長い年月が必要と思われます。
“flickr”より By salihsarikaya http://www.flickr.com/photos/salihsarikaya/5946816230/ )

米拒否権はボスニア・ヘルツェゴビナの判断次第
パレスチナ自治政府・アッバス議長の国家承認を求める国連加盟申請が安保理で審議されています。
イスラエルの孤立化を防ぐため、アメリカは最終的には拒否権発動も辞さない構えですが、アラブ・イスラム社会からの反発を考えると、できることなら安保理15カ国のうち賛成が8カ国以下という形で、拒否権発動をせずに処理したいところです。
賛成・反対双方の陣営が多数派工作を行っていますが、まだ対応が決まっていないボスニア・ヘルツェゴビナの動向に注目が集まっています。

****割れる安保理、ボスニア注視 パレスチナ国連加盟****
パレスチナの国連加盟申請を巡る駆け引きが続く安全保障理事会で、バルカン半島の小国ボスニア・ヘルツェゴビナの動向に注目が集まっている。理事会メンバー15カ国の賛否が真っ二つで、同国が賛成に回ると、米国が拒否権を行使せざるを得なくなるからだ。

拒否権行使を回避したい米国と、パレスチナを支持する諸国の双方から外交攻勢を受けるボスニア・ヘルツェゴビナ。バルバリッチ国連大使は「国内にも様々な意見があって、態度を決められない。どう対応するかは今や国内問題だ」と険しい表情だ。

パレスチナが先月23日に国連に提出した加盟申請の承認には、安保理の15理事国中9カ国以上の賛成を得た上で、米英仏ロ中の常任理事国がそろって拒否権を行使しないことが条件だ。

イスラエルの立場を尊重する米国は、拒否権行使を明言しているが、実際には賛成を8カ国以下に抑え、拒否権は使わずに済ませたい。使えば、アラブ諸国の猛反発を招き「中東和平の仲介者」としての信頼も傷つくからだ。
一方、パレスチナ側は9カ国の賛成を確保し、あえて米国に拒否権を使わせ、米国とイスラエルを外交的な孤立に追い込む戦略だ。

複数の安保理外交筋によると、15理事国のうち、すでに中国、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカ、レバノンの6カ国は賛成を表明。さらに、国民の約半数がイスラム教徒のナイジェリアと、大統領がイスラム教徒のガボンの2カ国も、最終的には賛成にまわるとみられている。
一方、英、仏、独、ポルトガルと、親米政権のコロンビアの5カ国は「パレスチナとイスラエルの交渉再開を妨げる恐れがある」などと慎重姿勢で、棄権か反対にまわる見通しだ。
このため、ボスニア・ヘルツェゴビナの判断次第、という構図となった。

ボスニア・ヘルツェゴビナは90年代の民族紛争を経て、イスラム教徒、セルビア人、クロアチア人の融和が国家的課題だ。
外交も複雑な国内情勢を反映している。欧州連合(EU)への加盟を目標に掲げる一方で、イスラム諸国の連帯強化を目指すイスラム諸国会議機構(OIC)にもオブザーバー参加している。国内では、パレスチナをめぐる議論がイスラム教徒と他の国民との間に亀裂を生みかねないとの懸念も出ている。【10月16日 朝日】
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ボスニア・ヘルツェゴビナも厄介な立場にたたされたものです。

内戦からデイトン合意へ
ボスニア・ヘルツェゴビナは、バルカン半島西部に位置する旧ユーゴスラビア連邦を構成していた国の一つで、イスラム教徒ボシュニャク人(48%)、セルビア人(34%)、クロアチア人(15%)から構成されています。
この3者は旧ユーゴ崩壊が進む中で、約20万人が死亡する三つ巴の激しい内戦を繰り広げました。

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正教徒主体のボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人たちは、セルビアやモンテネグロとともにユーゴスラビア連邦に留まることを望んでいたが、イスラム教徒中心のボシュニャク人(旧ムスリム人)や、ローマ・カトリック教徒主体のクロアチア人はユーゴスラビアからの独立を望んだ(この3つの民族は互いに言語・文化の多くを同じくする一方、異なる宗教に属していた)。

1992年、ボスニア政府は、セルビア人がボイコットする中で国民投票を強行し、独立を決定した。3月に独立を宣言してユーゴスラビアから独立した。大統領アリヤ・イゼトベゴヴィッチなどの、数の上で最多となるボシュニャク人の指導者たちは、ボスニア・ヘルツェゴビナを統一的な国家とすることによって、自民族が実質的に国家を支配できると考えていた。

これに対して、セルビア人やクロアチア人は、ボシュニャク人による支配を嫌い、独自の民族ごとの共同体を作って対抗した。クロアチア人によるヘルツェグ=ボスナ・クロアチア人共同体や、セルビア人によるボスニア・ヘルツェゴビナ・セルビア人共同体は、それぞれ独自の議会を持ち、武装を進めた。

ボスニア・ヘルツェゴビナ・セルビア人共同体は、ラドヴァン・カラジッチを大統領とする「ボスニア・ヘルツェゴビナ・セルビア人共和国(スルプスカ共和国)」としてボスニア・ヘルツェゴビナからの分離を宣言した。1992年5月にユーゴスラビア人民軍が公式に撤退すると、その兵員や兵器の一部はそのままスルプスカ共和国軍となった。また、ヘルツェグ=ボスナ・クロアチア人共同体も、マテ・ボバンの指導のもと、「ヘルツェグ=ボスナ・クロアチア人共和国」の樹立を宣言し、同国の軍としてクロアチア防衛評議会を設立し、クロアチア人による統一的な軍事組織とした。

2つの民族ごとの分離主義国家、および事実上ボシュニャク人主導となったボスニア・ヘルツェゴビナ中央政府の3者による争いは、それぞれの支配地域の拡大を試みる「陣取り合戦」の様相を呈し、それぞれ自勢力から異民族を排除する目的で虐殺や見せしめ的な暴行による追放を行う民族浄化が繰り広げられた。【ウィキペディア】
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“民族浄化”はセルビア人勢力だけのものではありませんでしたが、一番著名な事件は95年、東部スレブレニツァで起きたセルビア人勢力による「スレブレニツァの虐殺」と呼ばれるものです。

当時、スレブレニツァには周辺地域から戦火を逃れてイスラム教徒ボシュニャク人が集まっていました。
国連はこの地域を安全地帯に指定し、200人の武装したオランダ軍の国際連合平和維持活動隊も駐留していました。
しかし、武力に勝るスレブレニツァを包囲したセルビア人勢力の圧力に屈する形で、ボシュニャク人男性8000人がセルビア人勢力に引き渡され、そのほとんどが組織的、計画的に、順次殺害されていったと言われています。

この紛争は95年の「デイトン合意」で一応終結しました。
「デイトン合意」では、ボスニア・ヘルツェゴビナはイスラム教徒(ボシュニャク人)とクロアチア系勢力で構成する「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」とセルビア人の「セルビア人共和国(スルプスカ共和国)」が並立する単一の主権国家とされ、国会や行政府は両勢力の共同運営で、議会議員も連邦と共和国の各議会から選出、内閣は連邦と共和国の3民族代表で構成する幹部会により指名される形になっています。
現実的には二つの「国家内国家」に分割され、今も中央政府の基盤強化は進んでいません。

このあたりの経緯・現状は。
10年10月6日ブログ「ボスニア・ヘルツェゴビナ  紛争から15年、分断か融和か?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101006
11年5月12日ブログ「ボスニア・ヘルツェゴビナ  セルビア人共和国で分離志向の住民投票実施の動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110512
で取り上げています。

【「どう対応するかは今や国内問題だ」】
なお、11年5月12日ブログで取り上げた、ボスニア和平の枠組み「デイトン合意」(95年)の是非を巡り、分離志向のセルビア系議会が住民投票の実施を承認した件については、その後セルビア人共和国のドディック大統領が議会に投票中止を要請すると発表して一応の収束をみたようです。

ボスニア和平の最高責任者インツコ上級代表は、住民投票を「デイトン合意への明らかな挑戦」とし、無条件の中止を求めていましたが、こうしたボスニアを管理する国際機関・上級代表事務所の猛反発を受け、EUの仲裁で矛を収めたというところのようです。
ただ、問題の本質はなんら改善しておらず、今も対立の構図はそのまま残っています。

多数のイスラム系住民を抱えるボスニア・ヘルツェゴビナですが、EU加盟を進めるにあたっては欧米の後押しを必要としています。
しかし、どのような選択をおこなっても、イスラム教徒、クロアチア人、セルビア人勢力の厳しい対立を更に悪化させる危険性をはらんでおり、難しい選択を迫られています。

「国内にも様々な意見があって、態度を決められない。どう対応するかは今や国内問題だ」というバルバリッチ国連大使の発言は、そうした本音でしょう。

パレスチナ問題は、ボスニア・ヘルツェゴビナに実に厄介な選択を迫る展開となっています。

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アメリカ  反格差デモ「ウォール街を占拠せよ」 世界中に拡大するも「終着点」見えず

2011-10-16 22:34:43 | アメリカ

(アメリカン・ドリームの国での「1%の金持ち、99%は貧乏」「富裕層に課税を! 貧困層に食べ物を!」といった格差批判はしっくりこないところもありますが、やはりアメリカですので、明るく健全な雰囲気も感じます。“まるでお祭り”といった批判もありますが。 “flickr”より By cxny http://www.flickr.com/photos/76393110@N00/6248148560/

欧州、アジア・太平洋の80カ国以上にまで拡大
9月17日にアメリカ・ニューヨークで始まった反格差デモ「ウォール街を占拠せよ」は、1か月近く経過して今も続いています。

ここまでの経緯については、
“抗議が始まったのは、テロ10年の記念日から間もない9月17日。参加者らによると、8月ごろからネット上で有志による呼びかけが始まり、初日は約1500人が集まった。だがその後は500人前後で推移していた。
潮目が変わったのは9月24日。デモ行進中に公務執行妨害などの容疑で80人が逮捕され、その模様が動画サイトに投稿されてからだ。若者の反発が広がり、参加者は千人規模に膨れた。10月1日にはブルックリン橋をデモ隊が占拠、約700人が逮捕される事態になった”【同上】という状況です。

きのう10月15日は、ニューヨークのデモ主催者らが「世界一斉行動日」と位置づけ、インターネットの交流サイト、フェイスブックなどを通じてデモ実施を呼びかけ、インターネットサイト「世界変革のための連帯」によると82カ国・地域の951カ所で抗議行動が行われました。
運動の発火点となったアメリカや欧州だけでなく、アジアや中東でもデモや集会が実施されています。

****反格差デモ:NYで5万人参加 70人逮捕****
米ニューヨークで始まった反格差デモ「ウォール街を占拠せよ」は15日、欧州、アジア・太平洋の80カ国以上にまで拡大し、一部で暴徒化した参加者が逮捕され、負傷者も出た。

ニューヨーク最大の繁華街、タイムズスクエアでは約5万人(提唱者発表)のデモ参加者があふれ、通行妨害などの容疑で市内で約70人が逮捕された。イタリアの首都ローマでは過激グループによる放火や商店の破壊があり、警察との衝突で70人以上が負傷、12人が逮捕された。

この日、ニューヨークでは正午ごろから市内各地でデモ行進が始まった。タイムズスクエアでの集会開始予定は午後5時だったが、30分前には人々の間で「ウォール街を占拠せよ」「我々は99%」の大合唱が始まった。午後6時ごろには大みそか並みに人であふれ、歩行も困難に。「ハッピー・ニューイヤー」と叫ぶ人々もいた。
掲げられたプラカードは「戦争をやめろ」「自由と正義を皆に」から、「沈黙をやめよう」「我々は幸福になる権利がある」までさまざまだ。

一方、金融危機が続く欧州ではイタリアのほか、スペイン、ポルトガルの各首都で数万人規模のデモ隊が街に繰り出した。(後略)【10月16日 毎日】
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イタリア・ローマでは、過去にも反サミットデモなどで破壊行為を行っている無政府主義者グループが暴徒化し、70人の負傷者が出る混乱となっています。

****ローマの反格差デモ、70人負傷 過激派紛れ警官と衝突****
ローマでも15日、若者らが大規模な反格差デモを実施した。そこに紛れ込んだ過激派が車両に火を付けるなどし、放水や催涙ガスで排除を試みる警官隊と衝突して市内は一時混乱。地元メディアによると、暴動を止めようとしたデモ参加者や警官ら70人が負傷し、12人が拘束された。

過激派は「ブラック・ブロック」と呼ばれる無政府主義者の集団で、過去にも反サミットデモなどで破壊行為を繰り返してきた。ベルルスコーニ首相は「暴力行為は罰せられなければならない」と強く非難した。
一方、イタリア中央銀行総裁で欧州中央銀行(ECB)総裁に就任予定のマリオ・ドラギ氏は「暴力は受け入れられない」とする一方で、デモ参加者に向けて「私たち大人も危機に苦しんでいる。20代、30代の人が金融機関をスケープゴートにしているのも理解できる。対立は残念だ」と話した。【10月16日 朝日】
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経済成長を支えてきた中間層の社会離反を示唆
世界に飛び火した抗議行動の中心は、経済格差や高い失業率に異議を唱える若者らで、「1%の金持ち、99%は貧乏」「富裕層に課税を! 貧困層に食べ物を!」といった主張を掲げています。
「どれだけ長い間、金持ちが貧困層から搾取してきたことか。いまの社会はおかしい。気づいていない人たちの目を覚ましたい」といった参加者の声もあります。【10月5日 朝日より】

****ウォール街デモ拡大の一途 就職難が火種 夢失った米中間層「SOS****
米ニューヨークで発生した反経済格差デモ「ウォール街を占拠せよ」が全米の大都市に広がり、米国の社会現象として定着し始めた。参加者の中心は白人男性の学生や失業者ら。デモの拡散と長期化は、これまで経済成長を支えてきた中間層の社会離反を示唆しており、保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」に対抗するリベラル運動にも発展しそうな勢いだ。(中略)

 ◆高学歴20~30代
発起人はカナダの反企業活動団体「アドバスターズ」。その後に米環境保護団体「タイムズアップ」、コンピューター・ハッカー集団の「アノニマス」などが加わり、先週からは米サービス従業員国際労組(SEIU)といった代表的な労働組合も協力し始めた。

参加者には、高等教育を受けた20~30代の白人男性が目立つ。本来なら米経済を支える中間層予備軍だが、デモに参加した理由を聞くと、就職難など将来の生活への不安を口にする。
「大学を出ても仕事がないし、学費が値上がりして学生ローンを返せるか分からない」と大学生のジョナサン・ヘルナンデスさん。「経済格差など米国は問題ばかり」と無職のマイルズ・ウォルシュさんも嘆く。

「ウォール街を占拠せよ」と並ぶスローガンは「99%」。国民の1%を占める超富裕層以外の一般市民を代弁する意味を込めた。1970~80年代初頭にかけて「99%」の一般市民は、米国の富の70%台後半を保有していたが、住宅価格低迷や高失業率で今や60%台前半に落ち込んでいる。財務面で見る限り、米国の中間層は崩壊が始まった。

 ◆大企業にも矛先
一方、富の3分の1を押さえる超富裕層が支払う税率は所得の31%程度で、国民の6割を占める中間層の25%前後とそう変わらない。しかも、一連の金融緩和による株高の恩恵を受けたのは、株式など金融証券の6割を保有する超富裕層だ。
11日には、企業の最高経営責任者(CEO)が住む高級住宅地で知られるパーク街で数百人規模のデモが繰り広げられた。CEOの所得が一般労働者の300倍を超え、納税回避のテクニックばかりが重宝される。そんな大企業の体質にも矛先が向いている。

「主義主張は完全符合するわけではないが、雪だるま式に参加者が増えている」とイスラエルからの移民男性は話す。デモは保守派に対抗した単なるリベラル運動ではなく、均等に与えられた機会と自らの努力によって成功と富をつかむというアメリカン・ドリームを見失った中間層とその予備軍の「SOS」なのだ。【10月14日 産経】
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背景には立ち直れないアメリカ経済、広がる経済格差、9.1%と高止まりしている失業率・・・という現状があります。
****2010年の貧困比率、93年以来最悪の15.1% 米国****
米国勢調査局は(9月)13日、2010年の米国の貧困比率が前年の14.3%から急激に伸びて15.1%となり、1993年以来最悪になったとする統計を発表した。08年の景気後退終了後も、経済の低迷が続いていることを強く示している。

貧困層人口は4年連続の増加で、1959年にデータを取り始めて以来最多の4620万人となった。ただし、貧困比率は59年より7.3%低くなっている。
貧困層は、2010年の年収が4人世帯で2万2314ドル(約170万円)以下、単身世帯で1万1139ドル(約86万円)以下と定義された。
統計は、貧困層以外でも家計が苦しくなっていることを示している。年間世帯収入の中央値は、前年から2.3%減の4万9445ドル(約380万円)だった。【9月14日 AFP】
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【「運動体」としての目標は不明瞭
しかし、よく比較される「アラブの春」では、長期政権を倒すという分かりやすい目標があったのに比べ、ニューヨークでは誰から何を勝ち取ろうとしているのか、はっきりした目標がありません。秩序だった組織や指揮命令系統もできていません。労組メンバーなどが参加して運動が広がることで、「運動体」としての目標がさらに不明瞭なものになっているとも言えます。
デモの参加者は統一した政治要求を掲げてはおらず、「終着点」が見えないのが実情といった指摘もあります。

フラストレーション解消の“お祭り騒ぎ”(中国人留学生)との批判もあります。
“冷ややかに見る目もある。米名門私立大に留学中の中国人女性(30)は「民主主義は非効率だ。中国なら5分で決まることが、米国では1時間以上かかる」。集まった若者にも容赦ない。「中国のデモは命がけだが、ここはまるでお祭り。あれして、これして、と要求ばかり。米国では選ばなければ仕事もあるし、自由もある。甘えすぎだ」”【10月16日 朝日】

“5分で決まる”ことが良いことかどうかは異論がありますが、確かに中国などでのデモとは質の違う“お祭り”のような雰囲気も感じます。

ロンドン暴動の閉塞感とも異質
今年8月、イギリスで若者達の暴動があり、これまでと異なる動機や目的が不明瞭な「大義なき暴動」として大きな社会問題になりました。
背景に若者達のフラストレーションがあり、「ツイッター」などのソーシャルメディアを通じて拡大した経緯は共通していますが、ロンドンでの暴動の中心になった低所得者向け団地の若者達の
「怒りだよ。腹が立つことだらけだ。とにかく見るものすべてに腹が立つ。怒りの頂点だ。」
「俺はいつもムカつきながら育った。悪いことばかりさ。ジャージーぐらいただでもらって何が悪い?」
「みんな劣悪な環境でおかしくなりかけていた。腹が立つんだよ、誰でもいいからやっちまえ。そんな感じ」
「ロンドンじゃ、俺たちは壁の割れ目に押し込まれていきているんだ」【10月5日号 Newsweek日本版より】
といった、行き場のない怒りと今回ニューヨークの若者達の声は異質です。
ニューヨークの方が明るく健全性があります。年齢層も高く、社会階層もどちらかと言えば中間層です。まだ、現実を改革することへの期待感があります。

****英国:若者たち、大義なき暴動****
警官による黒人男性射殺に端を発した英国の暴動は13日、発生から1週間が経過し、ひとまず沈静化した。ロンドンを中心に約1600人の若者らが逮捕され、過去数十年間で最悪の事態となった暴動は、英社会に深い傷痕を残した。若者らはなぜ略奪、放火に走り、警察はなぜ有効に対処できなかったのか。背景を探った。【ロンドン笠原敏彦】

◇人種、階層バラバラ 共通項は閉塞感
「異なる(背景の)若者らが同じ行動を取るという新たな難題に直面している」
キャメロン英首相は11日の臨時議会で、事態を「新たなタイプの暴動」と位置づけた。今回の暴動は、英国が過去に経験した政治的不満や人種差別などを背景にした暴動とは異なり、動機や目的が不明瞭な「大義なき暴動」とも呼ばれている。

暴動が沈静化し、英メディアは「どんな若者が暴徒だったのか」と自問している。逮捕されて裁判所に出廷した容疑者らは、裕福な女子大生やグラフィックデザイナー、小学校の補助教員、11歳の少年など人種も含めて一般化が難しいからだ。(中略)
暴動に火をつけたロンドン北部トットナム地区や東部ハックニー地区などは失業者や貧困層の多い地域だけに、先進国・英国の中の「途上国」の反乱とも言える。

英・社会正義研究所のプール所長は「彼らは希望を持てず、失うものは何もないと感じている」と指摘する。キャメロン首相らは暴徒を犯罪者と断罪するが、暴動を生んだ全体状況として、社会階層の上昇の機会から取り残された若者らの閉塞(へいそく)感、失業、経済格差の拡大などの問題があるのは間違いない。

問題の根深さを示すのは、一般社会から断絶した若者らの不満を背景に広がるギャング(暴力的犯罪集団)文化だ。ロンドン警視庁の07年調査では、市内に250を超えるギャング組織が存在するといい、今回の暴動拡大でもギャング組織が中核的な役割を果たしたとの指摘もある。
また「新たなタイプの暴動」で目を引くのは、事態の展開の速さだ。暴動は中部バーミンガムなど各地に野火のように広がったが、ほぼ4日間で収束。ネットを介した「非政治的な暴動」は熱しやすく、さめやすいようだ。【8月14日 毎日】
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民主党側:参加者の主張に理解を示しながら、一定の距離感を保つ
今回のデモ参加者・支持者が、保守系のティーパーティー(茶会)の対抗軸として次期大統領選挙に影響するのでは・・・との見方もあります。
共和党側は「ウォール街や大銀行を責めるな。職がなく金もないなら、自分を責めろ」(黒人実業家のケイン氏)、「(デモは)階級闘争のようなものであり、危険だ」(ロムニー前マサチューセッツ州知事)と批判が相次いでいますが【10月6日 毎日より】、ニューヨークのデモ参加者は、オバマ大統領を08年の大統領選で当選させたリベラル派に属する人々が大半ということもあって、オバマ大統領・民主党側の反応は微妙です。

***ウォール街デモ 米政権、一定の距離 次期大統領選へ、つかみ切れない影響力****
来年の大統領選を揺るがす政治運動へと変貌するのか-。全米に広がるデモの行方を注視する米政界はその影響力をつかみ切れず、オバマ政権も一定の距離を置く。保守系のティーパーティー(茶会)の対抗軸として選挙の追い風になるとの期待が民主党の一部にあるものの、政策的な統一性がなく、際立った指導者も不在なためで、間もなく運動は尻すぼみに終わるとの見方も少なくない。

デモ拡大後、民主党側は参加者の主張に理解を示しながら、一定の距離感を保つ発言を繰り返している。
オバマ大統領は記者会見で、デモは「国民が感じる不満の表れ」と述べたが、茶会のような広がりを得ると思うか-との問いには明確な回答を避けた。
ペロシ下院院内総務も、参加者が発する「メッセージを支持する」と共感を示すだけで、デモの支持には言及しなかった。

背景には、反戦や死刑廃止などを掲げるリベラル色の強い団体が加わり、一部で多数の逮捕者も出すなど、極端な主張や行動をとる活動を支持すれば、大統領選のカギを握る無党派層の支持を失いかねないとの懸念があるためだ。政策的な統一感に乏しく、政治的な動機も不透明な印象は否めない。(中略)

世論調査会社ラスムセンが12日に発表した調査によると、回答者の41%はデモを「好感しない」としており、「好感する」の36%を上回った。ただ、高失業率や不況への不満は共通しており、経済状況が好転しなければ、共感が広がる可能性もある。
ジョージ・ワシントン大のリオ・リバフォ教授は、茶会のような政治運動に発展するには、全国的にデモを連携させる「組織」立ち上げとカリスマ性を備えた「政治指導者」の獲得が不可欠と分析している。【10月14日 産経】
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ガザ地区公務員の日本での研修 インドネシアからの看護師研修参加者の帰国後の就職説明会

2011-10-15 20:54:31 | パレスチナ

(14日、インドネシア・ジャカルタの日本大使館で開かれた、日本から帰国した看護師候補らを対象にした就職説明会 【10月14ニコニコニュース】より http://news.nicovideo.jp/watch/np95206 )

太陽光発電に、国家独立の夢も託して
きょうはメインの国際ニュースを離れて、日本が関係している地道な国際的取り組みに関する話題2件。
最初の記事はパレスチナ・ガザ地区に関するものですが、ハマスが実効支配し、イスラエルの封鎖が続くガザ地区の公務員が日本で研修を受けている・・・というものです。

****ガザに太陽光発電を 電力不足、半日停電も パレスチナ公務員ら関西で研修****
混乱が続いた中東・パレスチナ自治区のガザ地区に自前の太陽光発電を導入したいと、自治政府エネルギー天然資源庁のナジャール・オサマさん(37)が、関西の企業や大学での約1カ月にわたる研修を終え、15日夜に帰国する。

パレスチナは国連に国家としての加盟を申請しているが、ガザの電力はイスラエル頼み。オサマさんは「自分たちのエネルギーが必要」と話し、外部に頼らない太陽光発電に、国家独立の夢も託している。
大阪市住吉区の大阪市立大学。オサマさんが、太陽光パネルにつながれた電力メーターをのぞき込んでいた。「小規模なシステムに興味を持っています。ガザでも使えそうですからね」

同庁再生可能エネルギー部長のオサマさんが参加したのは、太陽光発電導入計画を支援する国際協力機構(JICA)の研修。バングラデシュやヨルダンなど途上国12カ国の政府関係者17人と一緒だ。ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとヨルダン川西岸を統治するパレスチナ主流派ファタハが今年5月に和解、4年半ぶりにガザからの来日研修が実現した。
高い技術が集積する関西で、メガソーラーの関西電力堺太陽光発電所のほか、パネルや蓄電池の工場、住宅メーカーなども訪れ、大小さまざまな太陽光発電について知識を深めた。

パレスチナの中でも、イスラエルによる封鎖が続くガザの電力不足は深刻だ。唯一の火力発電所は14万キロワットの発電能力があるものの、燃料不足で4万キロワットが限界。イスラエルから送電される12万キロワットにエジプトからのわずかな供給を足しても必要量にはほど遠い。
1日12時間の停電は当たり前。自家発電機を備える家庭もあるが、エジプトから地下トンネル経由で入る密輸燃料を手に入れなければ動かない。

あらゆる物資が欠乏するガザだが、自然が恵む日射量だけは豊富だ。乾燥して晴れた日が多い地中海性気候で、屋根に置いた集熱器で水を温めてシャワーに利用する家庭は多い。平和な国では太陽光は温室効果ガスを出さないクリーンエネルギーとして注目されるが、オサマさんは「私たちにはサバイバルのエネルギーです」と話す。
太陽光発電を最優先で設置したいのは、中核の医療施設だという。自家発電装置は備えるが、手術や人工透析など電気を切らすことができない病院でも密輸燃料に依存している。自前の太陽光発電なら、送電網が寸断されても影響を受けることはない。

日本政府はイスラエルとの共存を支持し、さまざまなパレスチナ支援を行ってきた。初来日したオサマさんは「ガザにいる方が日本の国旗をよく見かけるほどです」と言う。
資金など克服すべき課題は多いが「独立のシンボル的な意味もある太陽光発電の導入をぜひ実現したい」と強調した。【10月15日 産経】
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一見、毎日紙面を賑わすパレスチナ情勢とは無縁のような、地味な公務員研修の話題ですが、これもハマスとファタハの関係改善という大きな流れがあって実現したものとのことのようです。
ハマスとファタハによる自治政府暫定内閣の組閣交渉は、首相を含め人選で難航が伝えられていましたが、最近ではあまり新しいニュースは目にしていません。
ガザ地区公務員のJICA公務員研修参加が可能となっているということは、それなりに交渉も継続しているということでしょうか。少なくとも決裂はしていないということでしょう。

それはともかく、ガザ地区のようなインフラが整っていないところでは、太陽光発電というのは良い試みではないでしょうか。仮に、イスラエルの封鎖が解けても、大規模発電施設に頼らないユーザーによる小規模発電システムは非常に有益かと思います。
ガザだけでなく、電力事情に恵まれない地域は世界中に存在しています。
国家プロジェクトによる発電所建設・送電網整備を待つよりは、援助団体などによる太陽光発電の普及は現実性がありそうです。

ジャカルタの日本大使館で就職説明会
もうひとつは、日本で看護師を目指したものの国家試験に合格できずに帰国したインドネシアの看護師候補に関する話題。インドネシア国内での身の振り方について、日本大使館で就職説明会が開かれたそうです。

****日本から帰国の看護師候補らに就職説明会 インドネシア****
日本で看護師を目指したものの国家試験に合格できずに帰国したインドネシアの看護師候補らを対象に、初めての就職説明会が14日、ジャカルタの日本大使館で開かれた。日本での経験や日本語力を生かして母国で就職できるよう、後押しするのが目的だ。

経済連携協定(EPA)に基づいて2008年に第一陣として訪日した104人のうち、約6割がすでに帰国。説明会にはこのうち数十人が参加した。日本語がある程度話せるうえ看護の知識もあるということで、インドネシアにある日系企業や診療所など28社の担当者が、雇用条件などを説明した。

参加者によると、日本の国家試験の勉強で一番難しかったのは「医療用語や専門的な日本語を漢字で読み書きすること」だったという。「日本に行くまで、日本語に漢字が何百もあるなんて知らなかった」「患者のお年寄りの話す言葉がわからなかった」という声もあった。【10月15日 朝日】
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看護師研修制度は限られた時間内での国家試験合格を条件にしており、その厳しいハードルがこれまでも話題になっていました。そうした研修制度の在り方については今後の検討の余地があるでしょう。

それはともかく、帰国を余儀なくされた者がどんな思いで日本を去るのか気になっていました。
本人のためだけでなく、せっかく日本で研修した参加者を“日本嫌い”にせず、今後の両国間の架け橋になってもらうという日本のためにも、大使館が就職の後押しに乗り出すのは非常によい試みに思われます。
単に“後押し”にとどまらず、日本政府としてのより積極的な斡旋活動があってしかるべきかと思います。

【「漢字が日本語をほろぼす」】
日本の国家試験の勉強で一番難しかったのは“漢字”だったとのことですが、これは容易に想像できることです。
たまたま、きょうTVで、「漢字が日本語をほろぼす」(角川SSC新書)の著者、田中克彦氏の話を聞きました。

漢字の存在は、日本語の表現を豊かににする“長所”とみなされることが多いかと思いますが、田中氏は「日本人には「ひらがな」というすばらしい発明品があるにもかかわらず、明治の開国期に多くの書生たちが西洋のことばを漢文で翻訳して輸入したため、せっかく江戸時代までに庶民によって培われてきたカナとかなを使った日本語の文章が、漢字ばかりの文章になってしまったのだ。
そして、世界中見回しても、漢字にしがみついているのは日本だけという事実を知るべきである。ヴェトナムも韓国も漢字を捨て、中国までも簡易体(略した漢字)を書くことが一般的なのだ。
日本語が21世紀のグローバル時代を生き抜くために、いまこそ漢字地獄から脱出して、漢字から日本語を解放しよう!!」【Amazonの内容紹介より】と主張しています。

漢字が難しいのは外国人にとってだけではなく、日本人にとっても同様です。
現実には、コンピュータによる文章作成の一般化によって、自分では書けない難しい漢字を使って文章を書くことが多くなっており、漢字の使用は増える傾向にあります。
読めるけど、ワープロソフトで変換はできるけど、自分では書けない・・・・そんな文字を使用するといううのも、確かに奇妙な現象です。漢字は、コンピュータ依存の文字という世界でも稀有の存在になりつつあります。

ある程度馴れてしまうと、漢字はビジュアルで意味が把握しやすく、文章スタイルとしても“格好がつく”ような感じ(錯覚?)もするため、なかなか手放し難いものがありますが、コンピュータに頼ったいたずらに難しい漢字使用は“品がない”と慎むべきでしょう。

12日にはジャカルタで、看護師・介護福祉士候補者としての来日を目指す200人の日本語研修の開講式も行われています。

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中国  女性どろぼうをさらし者にする人権無視 服を切り裂き半裸姿で歩かせる

2011-10-14 20:15:54 | 中国

(背中に直接マジックで「私は泥棒です」と書かれた女性 台湾・NOWnewsより http://www.nownews.com/2011/10/11/11490-2748280.htm

経済成長著しい中国ですが、日本的な感覚からすると容認できないような人権軽視の問題は多々あります。
中央政府レベルの民主化運動や少数民族問題に対する対応だけでなく、企業と癒着した地方政府による強権的な土地収用、地方有力者による特権的ふるまい、利益のためなら住民生活を顧みず廃棄物を垂れ流す企業、健康被害が出ることを承知で危険食品を売る企業、日頃の不満を集団暴力的行動で爆発させる住民・・・等々。

そうした話題をいちいち取り上げていたらきりがなく、嫌中ブログになってしまいますので、普段はあまり取り上げないようにしています。
ただ、下記の記事は、その写真のインパクトも併せて、見過ごすことができないものを感じました。

****女性どろぼうをさらし者にする人権無視=服を切り裂き半裸姿で歩かせる―浙江省台州市****
2011年10月11日、台湾・NOWnewsは、中国浙江省台州市で人権無視の「市中引き回し」が行われた可能性があると報じた。

先日、ネット掲示板で台州市の非人道的事件が報じられた。女性のどろぼうが捕まった後、警察に通報される前に暴力をふるわれた。しかもカミソリで服もブラジャーも切り裂かれた後、上半身は布1枚巻いただけの半裸姿でさらし者にされたという。

背中には直接マジックで「私は泥棒です」と大きく書かれていた。メディアの取材に答えた台州市警察は「初期的な調査を実施したが、噂されているような事実は確認されていない」とコメントしている。

ネット掲示板の書き込みは話題となり、中国本土メディアも取り上げる騒ぎとなっている。かつての中国では犯罪者を街頭でさらし者とすることが一般的だったが、現在では人権侵害との批判も高まり政府も禁止している。【10月12日 Record China】
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一体どんな“どろぼう”だったのかは、全くわかりません。
“警察に通報される前に暴力をふるわれた”とのことですので、盗難被害にあった関係者が“見せしめ”に行った行為と思われます。
関係者だけでなく、写真に写しだされた、集まった一般市民の興味津津の表情も怖いものがあります。

権力による暴行よりも、市民の間におけるリンチはおぞましく思われます。
例えば、終戦後のパリ市街で行われた、市民によるドイツ協力者への報復(若い女性の髪を切って坊主にするなど)の映像は、自分を含めた人間の心に潜む邪悪なものを見せつけられるようで正視に堪えません。

辛亥革命から100年。
中国は確かに経済的には目覚ましい成果をあげてはいますが、人々の意識には、革命前の前近代的なものがまだ残っているように思えます。
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ブータン  ネパール系難民の“影” 近代化で変わる意識・価値観 

2011-10-13 23:01:57 | 南アジア(インド)

(きょう13日に挙式されたワンチュク国王(31)とペマ王妃(21) 11月の来日時には、大きな話題になりそうなおふたりです。 “The Globe and Mail”より http://www.theglobeandmail.com/news/world/asia-pacific/bhutans-king-weds-commoner-bride-and-crowns-her-queen/article2199559/

ロイヤル・ウェディングに沸くブータン 国王夫妻、来月日本訪問
ブータンと言えば、伝統文化を重視し、物質的な豊かさを目指すのではなく、心の充実度を指標で示す「国民総幸福量」(GNH)を独自の国家目標として追求する国という、経済成長で多くのものを失った日本などからすれば、一種の理想郷的なイメージが強い国です。
そして、若くハンサムな国王は、自ら民主化を推進する英明な君主としても知られています。

そんなヒマラヤの山岳国ブータンでのロイヤル・ウェディングが話題になっています。

****人気の31歳国王が挙式=新婦は英留学の21歳―ブータン****
ヒマラヤの王国ブータンのジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王(31)が13日、首都ティンプー近郊の古都プナカで一般人のジェツン・ペマさん(21)と結婚式を挙げた。国民に絶大な人気がある国王は5月、英国の大学に留学中のペマさんとの婚約を発表していた。2人は14年前に知り合ったという。

式は国王の意向で簡素に行われ、外国の元首クラスは招かなかった。現地からの報道によると、17世紀創建の寺院で多くの僧が見守る中、国王がペマさんの頭上に冠を授けた。この日は祝日になり、国内各地に2人の写真が飾られた。
端正な容姿から「ハンサム国王」と呼ばれる国王は、英オックスフォード大留学を経て2006年に王位を継承した。

外交筋によると、国王夫妻は11月に国賓として日本を訪問、天皇陛下と会う。事実上の「新婚旅行」先は日本になりそうだ。国王の訪日は当初5月に予定されていたが、東日本大震災の影響で延期された。【10月13日 時事】 
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前国王と現国王は、王制への信頼が篤い国民を自ら説得して、立憲君主制・民主化への改革を推進してきました。
****ブータン総選挙、国王主導の民主化の総仕上げ****
・・・・ブータンでは王室の人気が高く、民政移行に消極的な国民も少なくない。こうした中、直前の週末には2006年に即位したジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王自ら、「何よりもまず投票を」と国民に呼びかけた。同国王は英オックスフォード大学で学んだ経験を持つ。

ブータンの民主化は、2001年にジグミ・シンゲ・ワンチュク前国王が自ら権限を議会に委譲し、プロセスを主導してきた。息子の現国王とともに国内を行脚し、ブータン国民67万人余に民主化の必要を説いて回ったワンチュク前国王は、国営クエンセル紙によると、「今日の国王は良き君主でも、もし悪しき君主が現れたらどうするのだ?」と人々を諭したという・・・・【08年3月24日 AFP】
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国王の「華美な祝いはしないように」という要請にもかかわらず、国民はそんな国王のロイヤル・ウェディングを喜び、祝賀ムードが溢れているようです。
****ブータン:「イケメン国王」結婚式控え祝賀ムード****
ヒマラヤの山岳国ブータンはジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王(31)の結婚式を13日に控え、祝賀ムードに包まれている。「イケメン国王」といわれる端正なマスク、気さくな性格で絶大な人気を誇る国王の結婚に、国民の喜びもひとしおのようだ。

ブータンは、物質的な豊かさを目指すのではなく、心の充実度を指標で示す「国民総幸福量」(GNH)を独自の国家目標として追求。国王も華美な祝いはしないよう政府や国民に要請している。

しかし、国営テレビがここ数日、国王とお相手の姿を繰り返し放映するなど、国民の期待は高まるばかり。首都ティンプーでは11日までに、官庁の入り口や道路脇など街のあちこちに2人の写真が飾られた。雑貨店や文房具店などでは、2人の写真やバッジ、カレンダーが飛ぶように売れている。【10月12日 毎日】
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難民過激派:国王が国民総苦痛(gross national sufferings)に関心もつように・・・
理想郷の英明な「イケメン国王」、美しい新王妃、喜びに溢れる国民・・・あまりに“素敵な話”を聞くと、卑しい私などはケチをつけたくもなります。

大体、ブータンは、バックパッカーのような貧乏旅行者は“入国お断り”の国です。
ビザをとるためには、旅行中のスケジュールを事前に申請せねばならず、滞在期間中は1日200ドル(来年からはハイシーズンは250ドルに上がります。また、ひとり旅行の場合は40ドルの追加料金が必要になります。)の滞在費を支払う必要があります。

この滞在費の何割かが国に納められ、残りで、宿泊、食事、ガイド・ドライバーの費用が賄われるシステムのようです。1泊1万円のホテルで旅行し、ちゃんとしたレストランで食事される方にとっては、むしろ安くあがるシステムかもしれません。

私はバックパッカーではありませんが、普段、1泊1000円とか、せいぜい2000円といった安宿を使い、街中の小さな食べ物屋で食事を済ませる・・・そんな旅行している身には、ブータンのシステムは費用もかかるし、何より、すべて管理されているような窮屈感があります。禁煙国家で、タバコの販売も禁止されています。(外国からの持ち込みは、税金を払えば可)
貧乏外国人の流入による伝統文化の汚染を防ぎ、併せて、国庫収入も潤うという仕組みでしょうか。

それはさておき、
08年3月5日ブログ「ブータン難民 “桃源郷”の光と影」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080305
08年3月25日ブログ「ブータン 初の国民議会選挙 民主化か民族浄化か?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080325
で取り上げたように、南部には定住歴の浅いネパール系住民が多く暮らしており、伝統文化を重視する前国王時代からの施策によって、こうしたネパール系住民が国外に追い出される形の“民族浄化”が進行するという“影”の面もあります。

****南部問題 ****
1958年の国籍法を下敷きにして、1985年に公民権法(国籍法)が制定されたが、その際、定住歴の浅い住民に対する国籍付与条件が厳しくなり、国籍を実質的に剥奪された住民が、特に、南部在住のネパール系住民の間に発生した。そもそも、ブータン政府は彼らを不法滞在者と認識しており、これはシッキムのような事態を避けたいと考えていたための措置だったといわれる。

その一方で、ブータンの国家的アイデンティティを模索していた政府は、1989年、「ブータン北部の伝統と文化に基づく国家統合政策」を施行し、チベット系の民族衣装着用の強制(ネパール系住民は免除)、ゾンカ語の国語化、伝統的礼儀作法(ディクラム・ナムザ)の順守などが実施された。

1988年以降、ネパール系ブータン人の多いブータン南部において上記「国家統合政策」に反対する大規模なデモが繰り広げられた。この件を政府に報告し、ネパール系住民への対応を進言した王立諮問委員会のテクナト・リザル(ネパール系)は反政府活動に関与していると看做され追放される。

この際に、デモを弾圧するためネパール系ブータン人への取り締まりが強化され、取り締まりに際し拷問など人権侵害行為があったと主張される一方、チベット系住民への暴力も報告されている。混乱から逃れるため、ネパール系ブータン人の国外脱出(難民の発生)が始まった。後に、拷問などの人権侵害は減ったとされる。

国王は国外への脱出を行わないように呼びかけ現地を訪問したが、難民の数は一向に減らなかった。この一連の事件を「南部問題」と呼ぶ。
後に、ネパール政府などの要請によりブータンからの難民問題を国連で取り扱うに至り、ブータンとネパールを含む難民の流出先国、国連(UNHCR)により話し合いが続けられていたが、2008年3月、難民がブータンへの帰国を拒んだため、欧米諸国が難民受け入れを表明し、逐次移住が始まる予定である。【ウィキペディア】
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今回のロイヤル・ウェディングに際しても、ネパール系難民の反政府組織による爆弾事件があったようです。
****ブータンの連続爆発で犯行声明、国王結婚式を前に****
国王の結婚式を控えたブータンで11日、反政府組織「ブータン統一革命戦線(URFB)」が前日の10日に起きた爆発事件の犯行声明を出した。

爆発は10日夜、インド国境沿いのプンツォリンで発生し、ブータンの警察当局によるとインド国籍の4人が負傷した。ネパールを拠点とする反政府組織URFBは、国王が「ブータンの人々の国民総苦痛(gross national sufferings)」に関心を持つよう、小規模の爆発を起こしたと述べた。

URFBの存在が浮上したのは4年前。民族的、政治的な迫害を受けたとして1990年代初頭にブータンを逃れてきたネパール系住民数万人が暮らすネパール東部の難民キャンプで結成された。URFBはブータン初の総選挙を前にした2008年1月にブータン南部で発生した連続爆発についても犯行声明を出していた。

前国王が導入した政策を批判
ブータンのジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王(31)と学生のジェツン・ペマさんの結婚式は13日に始まる。
URFBは、国王の結婚を祝福する一方で、「暴力的な手段に訴えることをわれわれに強いた」前国王の政策から現国王が距離を置くことを望むと述べ、「われわれの今後の活動を決めるボールはいま、国王陛下側のコート内にある」と述べた。

URFBなど複数のグループは、ブータンで導入された民族衣装の義務化やネパール語の禁止などの政策の責任が、2006年に現国王に譲位した前国王にあると批判。一連の政策導入で、ネパール系住民は国外避難を余儀なくされたと述べている。
一方、ブータン政府は、難民たちは不法移民だったと述べている。

難民キャンプでは、他にもブータン共産党やブータンの虎などの武装組織が結成されている。【10月11日 AFP】
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【「都市の住民は、西洋において適切とされるイメージのほうに、はるかに影響を受けている。」】
こうした過激派難民の反政府活動よりも現実的な“社会変化”につながりそうなのが、近代化が進むなかでの国民の意識の変化です。

****近代化するブータン、男根像に「羞恥心」感じ始めた市民たち****
ヒマラヤの奥深くに位置する王国ブータンでは、悪霊を退散させるシンボルとして太古から、家の壁面に男根が描かれてきた。しかし、近代化が進む同国の首都ティンプーでは、この男根画をめったに見かけなくなってきている。
今でも地方部ならば全国に存在するこの伝統的な絵柄が首都から消えつつあることは、外部の影響から独自の文化をひたすら守り続けてきたブータンの水面下で、大きな変化が起きていることを示唆している。

インドと中国の間の地政学的に脆弱(ぜいじゃく)な位置にありながらも、一度も植民地化されたことのないブータンでは、西洋的な価値観の影響を恐れ、1974年まで外国人観光客が訪問したことはなく、1999年までテレビ放送は禁止されていた。(中略)

■「少し恥ずかしさを感じるようになったようだ
だが、マンションやショッピングセンターの建設ラッシュにより、都市を抱く急勾配の谷間の景色が変ぼうを遂げているティンプーでは、人びとの態度が変わってきた。

「ここの人びとは少し、恥ずかしさを感じるようになったようだ」と、シンクタンク「ブータン研究センター」の研究員ダショー・カルマ・ウラ氏は語る。「都市の住民は、西洋において適切とされるイメージのほうに、はるかに影響を受けている。こういったもの(男根絵)は他では見かけないですから」

国の発展を測る際、国民総生産(Gross National Product)を尺度とする経済的な発展ではなく「国民総幸福量(Gross National Happiness)」を目標に掲げていることで有名なブータンでは、自国文化の保護は開発の四本柱の1つだ。

政府庁舎では伝統衣装の着用が国民に義務付けられており、公立学校では瞑想が行われ、宗教的な祭りは広く支持を得ている。また観光は、環境と社会への影響を抑えるために制限されている。外国人訪問者は、1日最低200ドル(約1万5000円)以上を支払うことが義務付けられ、ブータン人ガイドを同行させなければならない。

都市の若者世代に西洋化の波
政策の策定・提議を行っている国の機関、国民総幸福量委員会のカルマ・ツェテーム次官は「私の世代と子どもたちの世代の間に変化があるのは気づいている」と語る。「変化が特に目立つのはティンプーなどの都市部だ」。より大きな車を買うことが何よりも大事といった消費文化的な態度が忍び寄ってきていると言う。

ツェテーム氏が最も懸念しているのは、12年前までブータンが水際ではねのけてきたものだ。「テレビを通じた影響が最も大きい。10ドル以下で40~50チャンネルを見ることができる。ホームコメディやそういった類いの番組に付随する価値観(が問題)だ」

首都の路上では伝統衣装を着た人びとが、見るからに新品のトレーナーに野球帽姿の若者たちと入り交じり、ブータンの国技である弓術の矢を売る店の隣には、コーラを飲みながら携帯電話でフェイスブックを見る若者があふれるゲームセンターが並んでいる。(中略)

ブータンでは、今も国民の7割がヒマラヤ山脈の谷間にある山村で暮らしている。多くの地域は現在でも徒歩でしか近寄ることができない。ウラ氏によればこれらの地域では、木製の男根像が今も「好色で風刺的な」地元の祭で使われたり、野原に置かれて動物を守ったりしている。「人はたいてい、何かを失うまでそれに気づかない。失ってから始めて気づくのだ。仏教の価値観の影響下にあるブータン文化は、保存されるべき価値の非常に高いものだ」(ウラ研究員)・・・・【9月7日 AFP】
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イスラエルとハマス イスラエル兵士1人とパレスチナ囚人1027人の交換で合意

2011-10-12 22:30:23 | パレスチナ

(昨年7月5日 ギラド・シャリト曹長の解放を求めるイスラエルでの大規模デモ 前列中央の男性がギラド・シャリト曹長の父親ではないでしょうか  “flickr”より By saundersnp http://www.flickr.com/photos/7971992@N02/4763662364/

パレスチナ国連正式加盟に先立つユネスコ加盟問題
パレスチナ自治政府・アッバス議長はイスラエルとの和平交渉が進展しないなかで、1967年の境界を国境としてパレスチナ国家を独立させ、国連への正式加盟を求めるという、国際社会の支持を取り付ける「切り札」とも言えるカードを切りました。

次期大統領選を控えて、国内ユダヤ人社会への配慮が目立つアメリカ・オバマ大統領は安保理での拒否権を使っても認めない方針ですが、できればアラブ・イスラム社会を敵に回すようなことは避けたいところで、国連の場での綱引きが続いています。

この国連正式加盟に先立って、ユネスコ執行委員会は、現在オブザーバー資格のパレスチナを正式加盟させる勧告案を賛成多数で可決しています。
ユネスコでは安保理のような拒否権はなく、今月25日からの総会で3分の2が賛成すれば、パレスチナの正式加盟が決まります。国連正式加盟問題の前哨戦といったところでしょうか。

****ユネスコ執行委:パレスチナ正式加盟を勧告*****
国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部パリ)は5日の執行委員会(58カ国)で、現在オブザーバー資格のパレスチナを正式加盟させる勧告案を採決にかけ、賛成多数で可決した。40カ国が賛成した。

勧告案は今月25日から始まるユネスコ総会(193カ国)に諮られ、採決で3分の2が賛成すれば、パレスチナの正式加盟が決まる。ただ、ユネスコ予算中最大の22%を拠出する米国が反対しており、総会は紛糾する可能性もある。

勧告案は、アラブ諸国が主導して提出。採決では、米国など4カ国が反対、日本、フランス、スペインなど14カ国は棄権した。ユネスコ執行委に拒否権は存在しない。
外交筋によると、ユネスコ憲章の第2条は、加盟資格についてユネスコ執行委の勧告に基づき、総会の3分の2の賛成票を得れば「加盟国」になれると定めており、パレスチナ側は国連機関への正式加盟と国家としての地位確認を同時に狙っているとみられる。

フランス公共ラジオによると、ユネスコの米政府代表部は5日、「加盟は時期尚早だ」とあらためて反対を表明する声明を発表。「国連安全保障理事会がパレスチナの(国連)加盟申請を検討している最中に(パレスチナが)別の国連機関への加盟を申請するのは不適当」と訴えている。
パレスチナは9月、国家としての国連加盟を申請したが、イスラエルとの和平が実現しない段階での加盟に米国が反対。安保理は審議を加盟審査委員会に委ねた。【10月6日 毎日】
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1人対1027人で交換
こうした状況で和平交渉は停止していますが、イスラエルのかねてよりの懸案事項であった、ガザ地区を実効支配するハマスに捕虜として拘束されている「ギラド・シャリト曹長」の解放が、イスラエルとハマスの交換(1人対1027人)という形で合意したことが報じられています。

****ハマス:イスラエル兵解放へ パレスチナ囚人と「交換****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは11日、5年以上ガザに監禁してきたイスラエル兵1人を解放することでイスラエルと合意した。双方が発表した。ハマスによると、イスラエルはパレスチナ人囚人1027人を釈放する。中断中の中東和平交渉に直接的な影響はないが、再開に向けた環境整備につながる見通し。

兵士は06年6月にイスラエル南部のガザ境界近くでハマスなどに拉致されたギラド・シャリト曹長(25)。曹長は戦闘で行方不明になった兵士のうち唯一生存が確実視されてきた。一方、イスラエルは「テロ容疑」などでパレスチナ武装勢力メンバーら約6000人を拘束している。
イスラエルのネタニヤフ首相はテレビ出演し「(曹長は)数日のうちに戻る」と述べた。国民皆兵のイスラエルでは、捕虜を取り返すことは重大な内政問題。今夏は経済問題でデモが続き、首相に重圧がかかっていた。

ハマス指導者のメシャル氏もテレビ演説し、1027人が2カ月以内に釈放されると発表。ハマスは、曹長の拉致で強まったイスラエルの軍事行動やガザ封鎖による困窮で住民の支持が落ち、アッバス自治政府議長の先月の国連演説でも影が薄まった。ハマス以外にファタハのメンバーらも釈放される見通しで、両者の協力態勢が強まる可能性が高い。【10月12日 毎日】
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イスラエル軍のギラド・シャリト曹長(当時は伍長)が06年6月25日、同国南部のガザ境界近くで、ハマスの軍事組織などとの戦闘の末に拉致されました。イスラエル軍は救出のため同月28日にガザに侵攻、11月の停戦までに民間人を含むパレスチナ人400人以上とイスラエル兵5人が戦闘で死亡しました、曹長は救出できませんでした。【10年7月2日 毎日より】

以来、イスラエル側はガザ地区を封鎖しており、住民の生活は困窮を極めています。
08年12月末には、イスラエル軍による大規模なガザ侵攻作戦も実施され、大きな犠牲を出しています。

なお、06年7月には、レバノンのイスラム過激派ヒズボラによってもイスラエル兵士2名が拉致されており、イスラエル側はこれを契機に34日間にわたるレバノン侵攻を行い、レバノン側に1200人、イスラエル側に160人を越える死者が出ています。
このヒズボラによる拉致兵士は死亡が確認されましたが、08年6月末、イスラエル政府は、イスラエル兵2人の“遺体”との交換で、収監中のレバノン人戦闘員5人とパレスチナ人数名を釈放することを決定しています。
また、イスラエル側は、兵士2人の遺体と引き換えに、掘り起こしたパレスチナ人やヒズボラ戦闘員ら199人の遺体を引き渡すとも報じられていました。

イスラエルとハマスは、エジプトの仲介で、水面下で交渉を行ってきましたが、ハマスが拉致から5年以上たった現段階で解放に応じた背景には、ガザ地区住民の困窮、国連加盟に乗り出したファタハ・アッバス議長への支持拡大をうけてハマスへの支持が低下するなかで、受刑者らの釈放を実現することでパレスチナ市民の支持回復を図る狙いがあるとみられています。

イスラエルにとっては、捕虜となった自国兵士を取り戻すことは重大な内政問題であり、昨年6月にも解放を求める1万人規模のデモがイスラエル国内で行われ、ネタニヤフ首相への大きな圧力になっていました。
このときも、ネタニヤフ首相はレビ演説で「(ギラド・シャリト曹長の)家族と痛みを分かち合いたい」と話し、パレスチナ囚人1000人との交換に応じる意思を表明しました。

しかし、“ハマス側の要求には、イスラエル側が「第一級のテロリスト」と呼ぶ一部パレスチナ組織幹部らの釈放が含まれ、これは拒絶する構え。特にパレスチナ解放機構(PLO)の「次期指導者」と期待され、パレスチナ人の間で人気が高いマルワン・バルグーティ氏の釈放については応じないとみられる。演説でも「殺人者を釈放すれば、(新たな)犠牲者を生む可能性がある」と語り、世論を見極めようとしている”【10年7月2日 毎日】ということで、その後は進展がありませんでした。

なお、今回の交換で、「次期PLO指導者」とも目されているマルワン・バルグーティ氏の扱いがどうなっているのかは知りません。ファタハの組織再建にハマスが手を貸すのでしょうか?

命の重さの現実的格差か
いずれにしても、交換の合意が成立したことは喜ばしいことです。
ただ、“1人と1027人の交換”というのが、どう理解したらいいのか、釈然としないところもあります。
これまでも、人数に大差がある条件でもしばしば交換が行われてきました。
パレスチナ側にとって、なるべく大勢が帰ってくる方がいいのは間違いないでしょうが・・・。

命の重さは“数”ではないと言えばそれまでですが、この交換条件は、イスラエルとパレスチナにおける“命の重さ”の現実的な格差を表しているようにも思えます。

今回の交換の話だけでなく、捕虜1人を救出するためにガザ地区に侵攻し、パレスチナ人側の犠牲者が400人に上っていることもあります。
その後のガザ封鎖による住民の困窮・犠牲も膨大なものがあります。
また、イスラエルによって、「テロ容疑」などでパレスチナ武装勢力メンバーら約6000人が拘束されています。

捕虜になった兵士を解放したいというイスラエル側の長年の努力は、人命尊重として評価されるべきものでしょうが、そのために失われたパレスチナ側の多大な犠牲をどのように考えたらいいのでしょうか。
パレスチナ人の命の重さは、イスラエル人の1千分の1しかない・・・というのは、ひねくれた理解でしょうか。
あるいは、パレスチナにとっては、イスラエルに抗するには自らの多くの命を持ってするしか道がない・・・ということでしょうか。
イスラエルとパレスチナの和平交渉と言っても、その置かれている立場には大きな格差が存在しています。

なお、イスラエル側にも、これまでの捕虜交換について、代償が大きすぎるとの批判もあるようです。(ヒズボラとの交換では、“遺体”との交換で、イスラエル人3人を殺害したことで著名なレバノン人が解放されました。)
また、捕虜兵士家族は交換・解放を政府に強く迫っていますが、パレスチナ側のテロで死亡した犠牲者の家族は、交換でテロリストが解放されることに反対しています。

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