
(スコットランドの首都エディンバラのロイド銀行屋上に掲げられたユニオンジャックとスコットランド国旗 “flickr”より By lightroomphotos http://www.flickr.com/photos/lightroomphotos/5641664072/ )
【自治政府首相:住民投票を「2014年秋に行うべきだ」】
“スコットランド王国は、グレートブリテン島の北部、現在のイギリスのスコットランドに存在した王国。
843年にケネス1世により成立したとされ、1707年のイングランド王国との合同で消滅した。
ステュアート朝のジェームズ1世が1603年にイングランド王位を兼ねて以来、イングランドとは同君連合の関係にあったが、アン女王時代の1707年の連合法により、イングランド王国と合同してグレートブリテン王国となった”【ウィキペディア】ということで、スコットランドがイングランドと政治的に一体化したのは、“わずか”300年ほど前にすぎません。
文化的にみると、ゲルマン系のアングロ・サクソン人がイングランドを中心にブリテン島に進出する以前からこの地に住んでいたケルト系の民族の文化がイングランド以外の地域に残存しており、スコットランドもそのひとつです。
“イギリス”と言えば連想するキルトやバグパイプもスコットランドの伝統文化であり、イングランドと一体化した18世紀中盤には、この地域の言語であったゲール語とともに、キルトやバグパイプも禁止された歴史もあります。
イングランドとスコットランドの対抗意識は日本人にはなかなか分かりづらいものがありますが、今も“スコットランド独立論”が存在し、07年のスコットランド議会選挙ではスコットランドのイギリスからの独立を主張するスコットランド国民党(SNP)が労働党を抑えて第一党になり、スコットランド自治政府の首相にもSNP党首が就任しています。
こうした、スコットランド独立論については、07年12月17日ブログ「イギリス スコットランド独立って本当にあるのか・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071217)でも取り上げたことがありますが、昨年5月の選挙では、労働党を切り崩してSNPが単独過半数を獲得、スコットランド独立を問う住民投票の実施についての論議がイギリスで高まっています。
****14年に独立問う住民投票=自治政府首相が表明―スコットランド****
イングランド、ウェールズ、北アイルランドと共に英国を形成するスコットランドの独立をめぐり、スコットランド自治政府のサモンド首相が10日、住民投票を「2014年秋に行うべきだ」と表明した。英テレビに語った。
スコットランドでは昨年5月の議会選で、サモンド首相率いるスコットランド民族党(SNP)が初めて過半数を獲得した。300年前に失われたスコットランドの独立を取り戻すことは同党の悲願。いずれ住民投票を行うと約束していた。
ただ、AFP通信によれば、世論調査では必ずしも独立支持が半数を超えていない。このため、キャメロン首相はじめ英政府は、住民投票実施は容認する構えだが、独立に「賛成」か「反対」かの二者択一に設問を絞り、できるだけ早く実施するよう促している。
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【キャメロン首相:来年にも実施すべき】
前半だけ読めば、スコットランド独立を主張するサモンド自治政府首相率いるスコットランド民族党(SNP)が早期に住民投票を実施しようとしている・・・というようにも思えるのですが、後半にあるように、独立を阻止したい連邦政府が早期の投票、それも権限移譲拡大といった曖昧な選択肢を除いた、YesかNoかの選択を迫っているというのが実態です。
キャメロン首相としては、完全独立支持がそんなに多くないのを見越して、「やるんだったら、早いとこ白黒つけようじゃないか・・・」といったところです。
****スコットランド独立の是非の早期決定を=首相****
キャメロン首相は8日、BBCのテレビインタビューの中で、スコットランド独立の是非を問う住民投票を来年にも実施すべきとの見解を示した。スコットランドと英国の将来が不透明なままでは企業投資にも悪影響を与えるとの理由からで、首相スポークスマンも9日、国内経済への損害を避けるためにも国民投票の早期実施を呼びかけている。
スコットランドでは昨年5月の議会選挙で、独立に向けた住民投票の実施を公約に掲げたスコットランド国民党(SNP)が過半数を獲得する躍進を遂げた。SNPは2014年の投票実施を望んでいるものの、先月の世論調査では完全独立に賛成する人は38%と、反対の58%を大きく下回っている。
キャメロン首相はスコットランド自治政府のサモンド首相を、「有権者が心の底では完全独立を望んでいないことを知っているため投票を遅らせようとしている」と批判している。
これに対してスコットランドのスタージョン副首相は、住民投票の進め方や時期について影響力を行使しようとするものと反発。「スコットランドの民主主義に干渉しようとすれば、独立への支持は大きくなるだろう」と話している。
英政府はスコットランド議会に対し、法的拘束力のある投票実施を提案することを検討している。ただスコットランド自治政府への権限移譲拡大は問わず、完全独立か否かの単純な投票とし、18カ月以内の実施を考えているとされる。【1月11日 NNA.EU】
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【豊富な自然エネルギーで経済的自立の可能性】
住民投票の話はさておき、SNPが議会で過半を制したようにスコットランドで独立論が高まっているのは、単に歴史的・文化的な問題だけではなく、自然エネルギー活用によって独立してもやっていけるという思いがあるようです。
****〈カオスの深淵〉自然エネルギー武器に独立論****
イギリス 10月19日、ロンドン。
英下院で、キャメロン首相が保守党の同僚議員を懸命になだめていた。「欧州連合(EU)への不満はわかる。だが、国民投票で脱退を問おうという考えは支持できない」
もともと欧州統合への反感が強い保守党では、ユーロ危機を機にEU離脱論が噴き出していた。権限を国家に取り返す好機というわけだ。だが、その「国家」という土台そのものが揺らぎ始めている。
翌20日、スコットランド北部インバネス。
スコットランド自治政府のアレックス・サモンド首席大臣が自信に満ちた声で集会参加者に訴えた。「豊富なエネルギーこそが、『独立国家』スコットランドの未来に活力を与える」
英国からの独立を掲げるスコットランド民族党は、5月のスコットランド議会選で過半数を獲得した。勢いづく党首のサモンド氏は「2015年までに独立の是非を問う住民投票をする」とぶちあげたが、そのための切り札と期待するのが、自然エネルギーだ。
厳しい自然条件のスコットランドでは、風力発電に加え、潮流や波の力を使った発電が盛んだ。風力、潮力の潜在的な発電能力は欧州全体の4分の1に達するとの試算もある。
スコットランドでは1980年代、北海油田開発に伴い独立論が盛んになった。だが、油田枯渇がとりざたされ、99年に自治政府が発足すると、独立の機運は下火になった。近年、自然エネルギーが脚光を浴びるようになり、経済的な自立の可能性も膨らんだことで、スコットランド人は再び自信を深めている。
医療や教育、司法まで身近な権限を持つ自治政府が定着したことで、ロンドンは住民にとってすっかり遠い存在になっていた。9月の世論調査では、3年ぶりに独立支持が反対をわずかながら上回った。
スコットランドやベルギー北部だけでなく、スペインのカタルーニャやバスク、北イタリアも独立志向が強い。共通するのは、グローバル化の波にうまく乗り、経済的な自信を深めている点だ。かつて民族や宗教の違いによる反目で起きた分離独立運動が、今日の欧州では、競争力をつけた地域が、不振にあえぐ地域とたもとを分かつための運動へと変質している。【11年12月6日 朝日】
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経済的に自立できれば、生活に身近な分野は独立政府が行い、外交・安全保障などはEUに任せればいい・・・ということで、従来の“国家”の役割が希薄になってきているとも言えそうです。
それにしても、“一般の人々は、どこまで本気だろうか?”という感はありますが・・・。