孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  政権と軍部の対立激化 ちらつく軍事クーデターの影

2012-01-12 22:50:29 | アフガン・パキスタン

(完全に過去の人かと思っていましたが、その帰国が新たな火種となっているムシャラフ前大統領 写真は昨年10月 パキスタンはアメリカのアフガニスタンでの失敗の犠牲にされていると語る同氏 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6205857819/

【「祖国のために命をささげる」】
国政に関し軍部が強い影響力を有しているパキスタンにあって、現在の文民政権であるザルダリ政権はもともと軍部からの支持は弱かったのですが、ザルダリ大統領が「軍事クーデター阻止」のために米軍に介入を求めるメモを渡したとされる疑惑、いわゆる「メモゲート」以来、その関係は更に悪化しています。

そんななかで、かねてより政界復帰を希望していたムシャラフ前大統領が今月27日から30日の間に帰国すると表明、新たな火種となっています。
海外亡命中のムシャラフ前大統領に対しては、ブット元首相暗殺事件で安全対策を怠ったとして逮捕状が出ていますが、前陸軍参謀長のムシャラフ前大統領を帰国時に逮捕ということになると、軍部の反発が暴発しかねません。
一方、逮捕しないと、倒閣運動に火がつく恐れがあるということで、ザルダリ政権は難しい判断を迫られています。

****パキスタン:前大統領帰国で緊迫 逮捕なら軍反発も--今月下旬****
パキスタン情勢を巡り、英国などで事実上の亡命生活を送ってきたムシャラフ前大統領が今月27日から30日の間に帰国すると表明した。

昨年5月のウサマ・ビンラディン容疑者殺害以降、対米関係を巡って国内政治が混乱して政権崩壊の可能性が高まり、政界復帰への勝算があると踏んだようだ。だが、政敵だったブット元首相の暗殺事件(07年12月)で、その夫ザルダリ大統領が率いる現政権はムシャラフ氏に逮捕状を出している。逮捕されれば、国民や軍の反発などから内政が一気に流動化する可能性がある。

ムシャラフ氏は8日、パキスタン南部カラチで数千人を集めた支持者の集会に、滞在先の中東ドバイからライブ映像を結んで参加し、帰国を宣言した。だが、逮捕の可能性だけでなく、米国の「テロとの戦争」に協力した指導者として武装勢力に暗殺されかねない。
ムシャラフ氏はこうした危険性に触れ、「祖国のために命をささげる」と述べた。パキスタンに強い影響力を持つサウジアラビアや、米政権とも連絡を取り、ザルダリ政権が逮捕に動かないよう画策しているとの報道もある。

昨年5月、「今年の建国記念日(3月23日)に帰国する」と表明していたムシャラフ氏が前倒し帰国を宣言した背景には、ザルダリ政権の急速な弱体化がある。08年にムシャラフ氏を辞任に追い込んだ現政権は、その腐敗ぶりや経済失政から国民の支持を失った。
また、昨秋以降、ザルダリ大統領が「軍事クーデター阻止」のため米軍に介入を求めるメモを渡したとされる疑惑が浮上し、反米感情が強い国民の反発を招いた。

多くの国民が信頼するパキスタン軍のトップ、キヤニ陸軍参謀長は「メモ疑惑」の徹底調査を求め、民主政権側との対立も鮮明となった。
軍内部では、かつてのトップであるムシャラフ氏を支持する者が多いと言われる。このため、ムシャラフ氏が逮捕された場合、軍がどう反応するか予断を許さない情勢だ。

一方、逮捕されない場合、ムシャラフ氏は、反政府的な言動で人気急上昇中の野党指導者イムラン・カーン氏らと協力し、前倒し総選挙による政権交代を目指すとみられる。

ムシャラフ氏は陸軍参謀長だった99年10月、専制化を強めていたシャリフ政権を軍事クーデターで崩壊させ、01年6月に大統領に就任した。
しかし、07年の大統領選を巡る野党側の反発などから08年に辞任に追い込まれた。ブット元首相暗殺事件ではブット氏の安全対策を怠ったとして逮捕状が出ているが、ムシャラフ氏は否定している。【1月11日 毎日】
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“支持者の集会に、滞在先の中東ドバイからライブ映像を結んで参加”というのは、やはり事実上の亡命中のタイのタクシン元首相みたいです。最近の流行りのようです。

ムシャラフ前大統領は国民的人気は全くありませんし、最高裁長官など司法勢力とも過去のいきさつから関係は最悪です。
そんなムシャラフ前大統領が敢えて帰国するというのは、軍事クーデター、もしくはそれに近い形の騒乱を想定してのことではないでしょうか。

【「目に余る不品行と不法行為」】
実際、パキスタンの政情は、政権と軍部の対立で、極めて不安定化しています。
11日には、ギラニ首相が軍出身の国防次官を解任、一触即発の状況にもなっています。

****首相が国防次官解任=軍との対立激化も―パキスタン****
パキスタンのギラニ首相は11日、政府と軍との間に対立を生じさせたとして、軍出身のロディ国防次官を解任した。同国では昨秋以降、ザルダリ大統領、同首相が率いる文民政権と軍部の亀裂が拡大しており、今回の解任劇は軍の不信感を増幅させ、対立激化を招く恐れがある。

国営APP通信によれば、ロディ次官は昨年11月に就任後、軍部との橋渡し役を務めてきた。ギラニ首相は解任理由について「目に余る不品行と不法行為」が原因だと指摘。具体的内容には触れなかったが、同次官が最近、軍寄りの発言を行ったことが首相の怒りを買ったとみられる。【1月12日 時事】
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解任された国防次官が行った発言というのは、「軍の情報機関は文民政府の管理を受けない」という、政権よりも軍部を支持する発言でした。また、解任は「メモゲート」に対する軍部の対応への報復とも見られています。
ギラニ首相は先月、「選挙で選ばれた文民政府を倒そうとする陰謀が進行している」と述べ、軍部によるクーデター計画を示唆します。

【「重大な結末を招きかねない」】
一方、軍部側も政権批判を強めています。
国防次官解任に対し軍は声明を出し、最近の首相の対決姿勢が「重大な結末を招きかねない」と警告しています。

****パキスタン:深まる対立 軍が公然と首相批判****
パキスタンで、民政政権と軍の対立が危機的様相を深めている。

ギラニ首相は11日、ロディ国防次官(退役陸軍中将)を「職権乱用と違法行為」を理由に解任した。この直後、軍は声明を出し、最近の首相の対決姿勢が「重大な結末を招きかねない」と警告した。47年の建国以来、3度の軍事クーデターを繰り返したパキスタンだが、軍が現職首相を公然と批判するのは極めて異例で、現政権が発足した08年以降初めて。最高裁もギラニ首相の「適性」を疑問視する姿勢を強めており、現政権は追いつめられている。

軍は「重大な結末」の詳細を説明しなかったが、軍事クーデターをちらつかせることで政権側をけん制する狙いとみられる。ただし、国際的批判から、実力による政権転覆を軍側は望んでいないとの観測が強い。

軍・政権の対立は、ザルダリ大統領が「軍事クーデター阻止」のために米軍に介入を求めるメモを渡したとされる疑惑が浮上した昨秋以降、顕在化した。真偽については最高裁が調べており、軍トップのキヤニ陸軍参謀長と軍情報機関ISIのパシャ長官がそれぞれ「徹底調査」を求める弁明書を提出した。

しかし、ギラニ首相は、「事前に知らされなかった」として、軍側の弁明書提出を「違憲」と批判した。国防省内の軍側代表者である次官を解任したのは、その報復とみられる。ギラニ首相が今後、キヤニ参謀長らの解任に動けば、軍側の猛烈な反発は避けられない。99年のクーデターは、当時専制ぶりを強めたシャリフ首相によるムシャラフ陸軍参謀長(後に大統領)解任がきっかけだった。

一方、最高裁は10日、ザルダリ大統領らの腐敗問題の訴追再開を決めた最高裁決定(09年12月)に現政権が従っていないとして、ギラニ首相を「不適格」と認定する可能性に言及した。16日に腐敗問題の審理を開いた後、首相の「適性」について判断を下す可能性がある。突然の最高裁の動きについて、「ザルダリ政権を崩壊させるため、軍が最高裁を背後で動かしている可能性がある」(米シンクタンク「ヘリテージ財団」のリサ・カーティス上級研究員)との観測が出ている。

最高裁には首相解任権はないが、「不適格」の(烙印、らく、いん)を押されれば、ギラニ首相は辞任に追い込まれ、議会解散・総選挙になるのは必至だ。政権崩壊を望みながらも、クーデターを避けたい軍にとって理想的なシナリオとなる。ただし、亡命中のムシャラフ前大統領(前陸軍参謀長)が計画通りに今月27日以降に帰国すれば、ムシャラフ氏に逮捕状を出している現政権の対応によっては軍側が不測の行動に出る事態もある。【1月12日 毎日】
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タクシン元首相のタイでも“司法クーデター”的な政変がありましたが、パキスタンも司法の権威が強い国です。
最高裁による首相「不適格」の認定は大きな影響力があると思われます。
権威を有する司法と実権を有する軍部が手を結べば、支持基盤が弱く、国民的にも不人気なザルダリ政権は持ちこたえられないでしょう。

【「軍の情報機関は文民政府の管理を受けない」】
それにしても、解任された国防次官の「軍の情報機関は文民政府の管理を受けない」という発言は、戦前日本の統帥権干犯を連想させます。
タリバンやアルカイダとの関係が強い軍の情報機関(ISI)が文民政権の力の及ばないところで、いろいろ暗躍しているのも戦前日本のようです。
文民政権への国民の信頼が失墜していることも同様ですし、反米感情の高まりによるナショナリズムの高揚なども、戦前の欧米列強への対抗意識と似ています。
そうなると、予想される将来は、軍部の傀儡政権樹立、アフガニスタンでの米軍との協力体制見直し、宿敵インドとの対立激化・・・でしょうか。

アメリカ無人機攻撃再開
そのアメリカは、NATO軍のパキスタン軍検問所誤爆以来停止していた無人機攻撃を再開しています。
これもパキスタン軍部の神経を逆撫でするかも・・・。

****パキスタンで米無人機攻撃、武装勢力4人死亡****
パキスタン北西部の部族地域北ワジリスタン地区で10日夜、米国の無人偵察機によるミサイル攻撃が行われ、AP通信によると、民家に潜んでいた武装勢力のメンバーとみられる4人が死亡した。
北大西洋条約機構(NATO)軍が昨年11月下旬、パキスタン軍検問所を誤爆して以降、米国は約1か月半に渡って無人機攻撃を停止していた。攻撃再開で両国間の緊張が更に高まる恐れがある。【1月11日 読売】
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コメント
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